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国内発売直前!! 「DOOM 3」開発者インタビュー
「史上最高のシングルプレイFPSを作りたかった」

8月5日収録

 '93年12月に発売され、PCゲーム界に文字通り革命を起こした「DOOM」。今日にいたるFPS系ゲームの基礎となるゲーム内容と、そしてマルチプレイという対戦様式をPCゲームに普及させた、言わずと知れたid softwareのアクションシューティングだ。

 その続編「DOOM 2」は当時のPCゲームの売上本数としては破格の200万本以上のセールスを記録したが、特にコピーガードなどの対策も施していなかったために違法コピーはセールスの10倍にも達すると推測され、「世界中のPCにもっともインストールされているソフトウェアは、MS-DOSと『DOOM 2』だ」とまで言われたものだ。

 さらに「DOOM」登場後、同種のゲームが雨後の竹の子のごとく登場する粗製乱造の時代を迎えた。それらのゲームは今で言う「FPS」なのだが、その呼称が定着するまでは一人称視点のシューティングゲームがすべて「DOOMクローン」と呼ばれたほど。「DOOM」がいかに今日にいたるFPS系ゲームのすべての源泉といっていいほどの影響力を示したゲームであったかをよく伝えてくれるエピソードといえる。PCゲームに古くから親しんでいた方には、ハマりにハマって「DOOM」に人生を変えられた人も多かろう。筆者もその1人である。

 そして今回、10年の長きにわたる沈黙をやぶって「DOOM 3」が発売される。常にPCゲーム界の新しい地平を切り開いてきたid softwareによるこの最新作、グラフィックチップの新機能はid softwareの人間が決めるといわれるほどの影響力を持つだけに、その映像的なクオリティはこれまでの多数のゲームとは一線を画すレベルなのが、スクリーンショットからも推測できる。米国では既に8月3日より店頭販売が始まり、海外サイトを巡るとゲーム内容への多くの感想や、早速MOD制作に乗り出した人々の様子を確認することができる。

 日本国内では並行輸入品に続き、8月12日にサイバーフロントより日本語マニュアル版が発売される。「DOOM」ファンの中には「DOOM 3」がビッグネームを冠するに足るゲームか否かをじっくり吟味する向きも居られることかと思う。

 今回、来日中の id software CEO、Todd Hollenshead氏、および「DOOM 3」リードデザイナーのTim Willits氏に直接お話をうかがう機会を得た。両名をご存じない方のために捕捉しておくと、Todd Hollenshead氏はid softwareの経営者ながら、初代「DOOM」の頃からゲーム制作に深く関わってきた中心人物。Tim Willits氏は初代「DOOM」のユーザーマップ制作を通じて才能を見出されid Softwareに入社。レベルデザイナーとしての経歴を経て「DOOM 3」では根本のコンセプトデザインから関わっている。

 今回は、これからプレイしようと考えている方々には気になるだろうあれこれや、長年のid softwareのゲームファンにとっては気になる秘話などをインタビュー。Todd、Tim両氏とも難しい質問にも気さくに答えてくれた。

id software CEO、Todd Hollenshead氏(左)と「DOOM 3」リードデザイナーのTim Willits氏(右)。Todd氏はその外見から想像できるとおり非常に精力的かつ活動的な印象を受け、インタビューにも率先して答えてくれた。その言葉ひとつひとつに、id Softwareというハイレベルなゲームクリエイター集団を統率する、氏の自負のようなものを感じられた。いっぽうで、Tim氏は物静かな印象でこちらの質問を的確な言葉を選んで答えてくれた


■ 歴史的ゲームの開発者に一ファンの視点から直撃

- 「DOOM 3」もやっと発売にこぎ着けました。この記念すべきタイトルの発売にあたっての感想をお聞かせください。

Tim 今はとても良い気分です。4年に及ぶ長い長い制作期間は、子供の養育にも似ており、今やっと羽ばたいてくれたと言った感じです。セールスが確定するまでまだ不安感もありますが、今までのフィードバックはすべて好意的なものばかりで大分安心できました。

- 「DOOM」といえばマルチプレーヤーゲームの先駆けというイメージがありますが、「DOOM 3」でシングルプレーヤーゲームに重点を置いた今回のコンセプトはどのようなものなのでしょう?

Todd 初代の「DOOM」は人によっては受け止め方が大分違うゲームでした。ある人はマルチプレイを連想したり、ある人はシングルプレイでインプ(敵モンスターの一種)をチェインガンで蜂の巣にすることを連想したり、ただ怖いというイメージがあるだけの場合もあります。

 私達がゲーム開発を始めた時、どこに重点を置くかを先ず決めなければなりませんでした。id Softwareでは、「DOOM 3」の開発に取り組む前は3年間の歳月をかけて「Quake III Arena」や「Team Arena」というマルチプレイを前面に押し出したゲームに力を注いでおり、「Quake 2」以来シングルプレイにまったく手をかけていない状態が続いていたのです。

 そのため、開発チーム全体にマルチプレイ中心の開発に対する飽きと、id softwareの歴史上最高のクオリティを持ったシングルプレイのゲームを作りたいというムードが高まっていました。そのため、今回の「DOOM 3」はシングルプレイに重点を置くことになりました。「DOOM 3」のシングルプレイは“恐怖”というコンセプトを重視して作っています。

- マルチプレイは?

Todd シングルプレイだけでなくマルチプレイも重要であることには気づいていました。そこで、シングルプレイほど重点は置いていなかったものの、シンプルでわかりやすい中に、楽しさや「DOOM」的なユニークさを追求したゲームプレイができることを目指しました。したがって、「DOOM 3」のマルチプレイは他のマルチプレーヤーゲームに対する「DOOM 3」の特異点を強調した作りになっています。

 たとえばリアルタイム光源処理ができるという点を生かして、電気のスイッチを切ったり電灯を破壊して暗闇に身を隠したりできます。またper polygon hit detection(ポリゴン単位で被弾位置を計算する技術)による非常にリアルな着弾計算をすることができます。「Quake III Arena」ではキャラクタに対してボックス状の当たり判定しか持つことができませんでした。

 しかし、「DOOM 3」ではヘッドショットといったヒット部位の判定はもちろんのこと、脇の下や股の間を通った弾は当たったことにはならない、というあたり判定を持たせることに成功しています。また、物理エンジンをマルチプレーヤーにも適応することによってバリケードを組んで攻撃を避けたり、爆発物を物陰に隠して罠を仕掛けたり、武器を持った相手に素手で殴りかかって武器を落とさせたりすることも可能です。

 しかし、これほど大きなプロジェクトとなるとシングルプレイとマルチプレイの両方に重点を置くことは難しく、結果的にシングルプレイ重視という方向に落ち着きました。しかしながら、マルチプレイもとても面白いものに仕上がっていると思います。是非試してみてください。


■ 旧作の要素も余すところ無く再現

- ストーリーは前作の続きという形になったのでしょうか? それとも、前作のテーマを引き継いだ新作?

Todd 前作はフォボスとダイモスという火星の衛星が舞台でしたが、今回は完全新作という形になっています。世界観は同じですが、「DOOM1、2」の事件は無かったことなっており、パラレルワールドにおいて起こった「DOOM1、2」でのでき事を衛星上ではなく、火星本土にて再び起こしたというストーリになっています。そもそも衛星を舞台にしたのはフォボスとダイモスという名前が気に入ったからというだけでした。

 今回は舞台を火星に移し、時は2145年に設定されています。以前の「DOOM」シリーズと同じく、貴方は宇宙海兵隊に所属する一兵士で、UAC(Union Aerospace Corporation=DOOMの世界で富を独占する軍産複合型の大企業)の火星調査研究基地に派遣されますが、今回のストーリーは敵の侵略の前からスタートします。任務で火星の別地点に派遣されている間に、基地が何者かに占拠されてしまい、貴方は人類最後の希望としてベースを取り戻さねばなりません。なぜなら、敵はUACが発見した技術を応用し、地球への侵略と人類の滅亡を企んでいるからです。

- 過去のシリーズでは主人公はずっと「DOOMGUY」と呼ばれてきましたが、今回も名前はないのでしょうか?

Tim 主人公に名前はありません。火星基地に転属されたただの海兵隊員です。しかし、ゲーム開始時にPDAを渡され、貴方の名前を登録できるようになっています。要するに主人公は貴方というわけです。

- モンスターや武器、ステージなど多くのものが前作から引き継がれているようですが、そのほかのものもやはり前作を踏襲しているのでしょうか?

Tim 数々のステージの中には、前作と同様の作りになっている場所もあります。旧「DOOM」シリーズをやったことがある人はかなり懐かしく思ってくれるはずです。引き継いだものは視覚的な要素だけではありません。たとえば、大きな部屋の真ん中に強い武器が置いてある……、旧シリーズの経験者はこの武器を取りに行けばたちまち無数の敵に囲まれることを想像するでしょう。こういった「DOOM」的なレベルデザインは、今作でも健在です。つまり外見のみならず、ゲームを進めて行く上で感じるものを旧作からちゃんと受け継ぐ作りになっているのです。

- サイバーデーモンやスパイダーマスターマインドといった魅力的なモンスター達はまた出てきますか?

Tim その2つのうちどちらかは「そのまま」再現されています。しかし、それ以上はぜひ自分の目で確かめてください。

- 「DOOM」、「Quake」とid softwareのゲームは常にPCゲーム界の新しい技術的境地を切り開いてきたと思います。今回も驚くべきグラフィックスが随所に見られますが、特にユニークな点は?

Todd 今回のレンダリングエンジンはJohn(John Carmack=id softwareの筆頭技術者)により完全にゼロから作成されていますので、すべての要素がまったく新しいものに仕上がっています。初代「Quake」から「Quake III」までのエンジン改良の流れは、より多くのポリゴンや、より多くの色を一度に描写させることができるアップグレードを毎回施してきましたが、今回は根本的に新しい試みがなされています。

 実は「DOOM 3」エンジンが描画するポリゴンの数は「Quake III」とさして変わりません。その代わりに、キャラクタを含むオブジェクトの表面すべてにピクセルシェーダを用いたバンプマッピングやリアルタイムの陰影処理を行なうことにより、総合的な映像品質の向上を試みています。これにより私達はリアルタイムFPSゲーム内にプリレンダされたムービー同様の映像クオリティを持ち込むことに成功したのです。


■ 「今までidがリリースしたゲームの中で最も容易にMOD作成ができるゲーム」と断言

- 今回もMODの作成は可能ですよね。どのような形でMOD開発環境が提供されるのでしょうか?

Tim 「DOOM 3」は今までid software がリリースしたゲームの中で最も容易にMOD作成ができるゲームであると断言できるでしょう。その理由はまず、我々がゲーム開発を行なった際に実際に使用したツール類がすべてゲームに付属しているという点です。更に、最も大きな理由としてはゲーム中に使用されたマップのソースデータがすべてゲームに付属している(つまり、ゲーム本体の実行ファイル以外のゲームデータはすべて編集可能ということ)という点にあります。これはゲーム業界に置いては前代未聞であり、これからもこのようなことをやるゲームは無いでしょう。

- 今後CTFのようなオフィシャルMODや、拡張パックの予定はありますか?

Tim 今のところは技術デモンストレーションや、Xbox版の開発、Linux用サーバープログラムの開発に加え、他会社と共同でMAC OS X版等の準備をしており、現時点ではオフィシャルMODの予定はありません。しかし、既にコミュニティではユーザーが作成したMODが出回っています。開発ツールを同梱したことによって、ユーザーがどんなMODをこれから開発するのか私も楽しみにしています。

- 「Quake」、特に「Quake III Arena」は今日のプロゲーマー文化のきっかけとなりました。「DOOM 3」にも同様の競技的な広がりを期待していますか?

todd もちろん。それはいくつかの要因が揃えば可能だと考えます。まず、どれだけのユーザーが「DOOM 3」をプレイしてくれるかが最も重要な点でしょう。このゲームは皆が待ち望んだ10年ぶりの「DOOM」ですのでとても流行するとは思いますし、シングルプレイ目当てで購入した人もマルチプレイをやってみてハマってしまうケースも多いと考えています。そうなればきっとこのゲームを種目として扱うトーナメント等も増えるでしょう。

 id software としてもこういった流れは応援したいと考えており、1週間後に開催される「QuakeCon 2004」(8月12日から15日にかけて開催予定のプレーヤー主催のゲームイベント。id softwareが後援している)において賞金5万ドルの世界初の「DOOM 3」トーナメント開催を予定しています。


■ ディープなファンが気になる「DOOM 3」裏話アレコレ

Todd、Timmの両氏は、我々がid Softwareの熱心なファンと言うことで、ハードスケジュールの最後のインタビューにもかかわらず長時間にわたって話をしてくれた
- これで「Quake」も「DOOM」も3作目が制作されたわけですが、「id softwareは2作までしか作らない」という以前からあるid神話はどこにいったのでしょう?

Tim 確かにシリーズ3作目を出すということはJohn(Carmack)のゲーム哲学に反してはいました。けれど人の考えというものは時とともに移り変わるものです。「Quake III Arena」の開発が終わり、彼がそのためのテクノロジーを生み出した時、それが雰囲気に富んだ怖い環境を生み出せることに気づいたのです。

 そこで彼が考えたのはこのテクノロジーを「DOOM」に舞い戻って利用しようということでした。ですから、このゲームは元々単なる「DOOM」と呼ばれていたんですよ。けれど旧作と同じ名前では売る側にも買う側にも混乱が発生するということで、結局「DOOM 3」というタイトルに落ち着いたわけです。

- 「Quake」がリリースされる前、id softwareの長期プランとして「DOOMエンジン」「Quakeエンジン」、そしてその先に「Trinityエンジン」という3Dエンジンの3部作構想があったという話は、「DOOM」ファンには有名な話ですが、「DOOM 3」に使われている3DエンジンはTrinityではないようです。Trinityは一体どうなったんでしょう?

Todd Trinityエンジンというものはそもそも存在しておらず、John(Carmack)の頭の中のレンダリングテクノロジーのイメージとして存在していたものです。しかし、実際のテクノロジーの進歩は彼の想像とは異なるもので、そのイメージはとっくに破棄されているでしょうね。ただ、彼がTrinityエンジン用に考えておいたアイディアがいくつか「Quake III」や「DOOM 3」の中に生きているかもしれません。

 ちなみに、彼(John Carmack)がTrinityという名前を選んだ理由は、Intelが次世代テクノロジーに河川の名前を付けることに起因します。実は、我々が働いているテキサス州のダラスに川が一つしかなく、その名前がTrinityなのです。キリスト教の三位一体という意味のThe Holy Trinityのように、ご大層な意味があるわけではありません。大体、乾いた気候のDallasにあるあの川は、干上がっている部分も多く水があっても酷い悪臭がするドブ川ですしね(一同爆笑)。

- 今日は、ありがとうございました


 インタビュー後、室内に設置されたPCで「DOOM 3」のプレイを薦められ、実際にさわってみることができた。PCはPentium 4の3.2GHz、GeForce 6800GTという組み合わせだったが、1,280×960ドットの高解像度で非常に滑らかに動作していた。また、導入部のフィールド内には10年前のDOOMのようなグラフィックで七面鳥を殴りまくるゲーム内ゲーム機が設置されており、クリックするたびに「DOOM」とまったく同じパンチが繰り出される画面を見て一同笑いころげてしまった。

 20分ほどのプレイ時間だったが、最後にTodd氏自らレベルデザインの紹介を交えつつプレイを披露してもらえるなど、このゲームに対する氏らの熱意のほどをうかがい知ることができた。氏がプレイしてみせてくれたのはゲームの終盤近くに登場するという「地獄」というレベル。おどろおどろしい悪魔的な造形にどこかサイバーなイメージがある雰囲気は、まさに「DOOM」といった印象をうけた。

 壁を突き破って現れるヘルナイトとの戦闘、室内に配置されたアイテムを取りにくと、突如周囲にインプやロストソウルなどの往年の「DOOM」モンスターが現われ、激しい戦闘が展開される「アイテムトラップ」の流れなど、往年の「DOOM」シリーズをプレイしてきた筆者にとっては既視感の強いレベルデザインを確認することができた。

 氏によれば、こういった「DOOM」的なデザインが随所に取り入れられているという。こういったお墨付きはファンにとってはたまらない、粋な計らいだろう。ちなみに「地獄」レベル途中の石の床を飛び移っていくところで、Todd氏が足を踏み外して落ちたのはご愛敬といったところだろう。


(C) 2004 Id Software, Inc. All rights reserved. Distributed by Activision Publishing, Inc. under license. DOOM and ID are registered trademarks of Id Software, Inc. in the U.S. Patent and Trademark Office and/or some other countries.

□id Softwareのホームページ
http://www.idsoftware.com/
□「DOOM 3」のページ
http://www.DOOM 3.com/
□関連情報
【8月4日】サイバーフロント、「DOOM 3 日本語マニュアル版」
発売日を8月12日に前倒し
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040804/doom3.htm

(2004年8月6日)

[Reported by kaf@ukeru.net]


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ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

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