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ある物語において人気を集めた脇役が、別のエピソードで主役として活躍することは世に多い。しかし、それが国民的な人気シリーズとくれば、プレッシャーも並ではないだろう。そんなプレッシャーを、弾力のあるつやつやボディで跳ね返して、彼は見事にヒットを飛ばしてみせた。 シリーズ第1作の発売から数えれば、苦節17年。つねにレギュラーとして愛されながらも、弱いモンスターの代名詞だった“スライム”が、ついにかわいい主役として登場。それが、「ドラゴンクエスト」シリーズとしては初のアクションゲームとなる今作である。
物語は、スライムたちが住む「スーランの町」からスタート。平和に暮らしていた彼らのもとに、『しっぽ団』と名乗る謎のモンスターが現われ、一夜にして住人を連れ去ってしまう。間一髪で脱出した若き主人公は、家族や仲間たちを助けるために冒険に出るのだ。
■ スライムらしさ満点の操作性 というわけで、イントロの町では、友達と遊びながらスライムとしての身のこなしを練習する。ここでさっそく実感できるのは、スライムらしさが身に付く操作性のよさだ。体当たり、ジャンプ、投げ、会話などの基本操作を使っているうちに、まさにスライムになったような気にさせてくれる。
まずは、「スラ・ストライク」という体当たり攻撃。これは、Aボタンと十字ボタンで体を細長く伸ばし、その反動を使ってぶつけるというもの。まずスライムをAボタンで押さえ、それを十字ボタンで伸ばす。ゴム鉄砲を打つときのような、いかにも弾力のある操作感覚がうれしい。「ムニュッ」といった音が出てきそうな感じがする。 「スラ・ストライク」には、さらに上級技の「スラ・バズーカ」もある。体を伸ばしてから長時間ためていることで、勢いを強くできるというもの。体当たりは、通常は攻撃にしか使わないのだが、木や壁を叩いたり、ボタンを押すといった行動にも応用できる。
体当たりしたものを背負い、Bボタンで投げることもできる。仲間のスライムはもちろん、岩のような大きな物や、敵のモンスターまで背負って運べる。タイミングをつかむのにちょっと時間がかかるが、コツがのみこめれば何にでも体当たりをしてみたくなってくる。ぶつかったときの動き方が物体によって違うので、キャッチのタイミングが違うのもよい。さらに、背負った物は敵にぶつければダメージになるので、武器としても使える。
体当たりして、背負って、投げる。それを繰り返しながら冒険を続け、主人公はスライムたちを少しずつ町に返していく。
■ 広がりのある町のイベント もう1つの大きな特徴が、ホームタウンになる「スーランの町」。ストーリー本編とは別に、この町の変化も大きな魅力になっている。
『しっぽ団』に荒らされて廃墟同然だった町も、スライムたちが帰ってくるにつれて、元の姿を取り戻していく。ホイミスライムの神父さまを助ければ教会でセーブが可能になるし、道具屋の主人を助ければ店が開くようになり、アイテムの売り買いができるようになる。
最初は、『しっぽ団』の置いていった障害物のために、1丁目しか歩くことができない。しかしスライムが増えれば、彼らが障害物をどけてくれるので、他の場所にも行けるようになる。もちろん新しい場所にも施設やイベントがあり、箱庭を作る面白さを味わえるのだ。
なにしろ、さらわれたスライムは100匹もいるので、相当な数のイベントが用意されている。「このスライムが町に帰ると、次はどんなことが起こるだろう?」と想像するのも楽しい。町の変化にともなって、スライムたちの居場所も変わる。たとえば酒場ができると、主人公の父スライムが、家からいなくなったりする。居場所にあわせてメッセージも違うので、何度も話しかけたくなる。
敵である『しっぽ団』のモンスターも、町に運べる。その場合は彼らも住人として暮らすのだ。
■ おなじみのモンスターが多数登場。そして衝撃の新事実
「スーランの町」のスライムたちは、バリエーションが豊富。これまでシリーズを遊んできたプレーヤーは、彼らを見るだけで思い出深い。敵となる『しっぽ団』のモンスターも、ザコからボスまで行動パターンがきちんとわかれているので、背負いがいもあるというものだ。最初に遭遇したときは戦い方がわからないようなモンスターでも、ちゃんとどこかで攻略ヒントが出るので楽だろう。ただし、負けるとゴールドが半分にされるルールは健在なので、気は抜けない。
また、敵モンスターというわけではないが、一番驚いたのは、スライムナイトについてだ。 皆さんは、スライムナイトという存在は、スライムの上にナイトが乗っているものだと思っているだろうか? それとも、体の一部だと思っているだろうか? これは、シリーズにおける大きな謎であり、『小説ドラゴンクエスト』や、『ドラゴンクエストモンスターズ』などでいくつかの設定が披露されている。しかし、このゲームで明かされたのは、それらとも少し違う驚くべきものだった。不明を恥じねばならない。 ナイトとの出会いは、唐突に起こった。主人公が洞窟を進んでいると、動かないナイトが座っていた(墜ちていた?)。ためしに、背負ってみると、なんとBボタンでナイトの剣攻撃ができるようになる。つまり、スライム自身が、背中のナイトをあやつるということである。
いわゆる“ゾウアザラシの法則”にしたがうなら、命名的にはナイトが主で、スライムが従であるはず。「スライムに乗るナイト」というわけである。しかし、実はスライムが主である「スライム用ナイト」だったのだ。あるスライムからは、「スライムナイトを使いこなす」というようなセリフが出てきたり、子供のスライムの遊び道具としてナイトをプレゼントできることからも明らかだろう。道具屋に行けば、売ることもできてしまう。これは、スライムの体からナイトが生えてくる『小説ドラゴンクエスト』とも異なる新設定だと思うのだが……いずれにせよ、筆者にとっては、スライム観が変わる新鮮な体験だった。「衝撃のスライムナイト」という副題をつけたい気分である。
■ 何度も楽しめるミニゲーム。特に「スッカー」が熱い! 町が大きくなると、その中でミニゲームができるようになる。これが3つめの特徴といえる。それぞれにランキングやトーナメントが用意されているので、上達するためのモチベーションも自然に高まる。これらのゲームで高成績を出すと手に入るものもあるので、ついやりこんでしまう。
その中でも、特に熱くなれるものとして、「スッカー」をすすめたい。 「スッカー」の簡単な攻略ポイントを書いておくと、いわゆる「S字攻撃」の練習をすすめたい。これは、「左上・右上・左上」の順に「スラ・ストライク」で動いて相手をかわし、シュートするという作戦で、これだけで11点がゲットできる。早すぎるとキーパーに当たるので、タイミングをつかむ必要はあるが、これを覚えるだけでトーナメントで優勝することができるほどだ。とはいえ、さらに難しいステージになると、このテクニックだけでは通用しないので、さらに練習をしなければならない。 ストーリーの本筋を1度クリアしてからというもの、しばらくは、自宅でも移動中でもこのスッカー漬けになっていた。電車の中でプレイしていてミスをしたときなど、思わずエキサイトしそうになったのも1度や2度ではない……いや正直に言うと、1度くらいは、つい声を上げたような気もする。 そのうえ、どうもゲームの展開が表情に出るらしく、近くにいた小学生から、「いい歳してあのオッサン、なにやってんだろうな」という視線を浴びたりもした。だが、こっちはそれどころではないのだから仕方ない。これまであまりミニゲームに熱中した経験はないのだが、どこでも遊べるのが幸いしてか、見事にはまってしまった。
「スッカー」をミニゲームとして終わらせるのは、もったいない。このアイデアを膨らませれば、単体で成立するのではないだろうか? 少なくとも筆者は、もし「スッカー」のソフトがリリースされれば、思わず手をのばしてしまうだろう。
■ あえて注文をつけるとすれば? ゲームの難易度については、まったく問題ない。アクションが苦手でも、何度か挑戦すればクリアできるバランスになっている。クリアを目指すだけなら、13~15時間もあれば十分だ。「スッカー」のところでも書いたが、電車の中で揺られながらでもプレイできてしまう。アクションゲームになれたプレーヤーには物足りなく感じるかもしれないが、ゲームボーイアドバンスというハードを考えれば納得できるのではないだろうか。
欲張りな注文をしてしまえば、「まもの堂」で作れる乗り物の数々について。イベントに関係のないものがあるのが、少しもったいない気がする。これを使って何かミニゲームがしたくなってしまうと考えるのは筆者だけであろうか。それと、通信対戦をしなければコンプリートできない物があるのも、ちょっと寂しい。もっとも、これはゲームの仕様うんぬんというよりも遊ぶ側の環境からきているわけなのだが……。
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□スクウェア・エニックスのホームページ (2004年3月31日) [Reported by 富永民紀 (冒険企画局)]
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