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【Game Developers Conference 2004】レポート

パックマンの生みの親であるナムコの岩谷徹氏
ゲーム開発における心構えや取り組む姿勢について語る

3月25日(現地時間) 開催

 パックマンを開発したことで有名なナムコの岩谷徹氏が、GDC 2004でゲーム開発における心構えについてのカンファレンスセッションを行なった。ゲーム開発者なら知らない者はいない岩谷氏のセッションとあって、会場には非常に多くの開発者達が詰めかけ、岩谷氏の話に聞き入っていた。



■ 女性がゲームセンターに来てもらいたいと考えパックマンを開発

ナムコの岩谷徹氏。パックマンを開発したことはあまりにも有名だ
 岩谷氏はまず、ゲームの歴史を紹介しつつ、パックマンを制作した過程についての説明を行なった。

 コンピュータゲームの起源は、'58年にアメリカのBrookhaven研究所のWilly Higinbotham博士が、5インチオシロスコープを利用して作ったテニスゲームだと言われている。これは、ゲームを作ろうと思ったのではなく、コンピュータを一般に認知させるための手段として作ったものである。

 その後、'62年にマサチューセッツ工科大学の学生、Stephen Russell氏が「SPACE WAR」というゲームを、'71年にはビデオゲームの父と呼ばれているNolan Bushnell氏が、コインを投入して遊ぶ初めてのアーケード型ゲームマシン「COMPUTER SPACE」を開発。直後にリリースされた「PONG」などとともに“コンピュータゲーム”という存在が世界的に認知されはじめ、それ以降、多数のゲームが登場することになった。

 その頃岩谷氏は、ピンボールを作りたくてナムコに入社した。ただ、ナムコはピンボールを作っていなかったため、アーケードゲームの開発に従事。そして、'80年に、空前の大ヒットを記録した「パックマン」を世に送り出すことになる。

 パックマンの開発コンセプトは、「女性にゲームセンターに来てもらいたい」というものだったそうだ。当時のゲームセンターには男性しかおらず、女性がまったくいなかった。そこで、女性向けのゲームを作って、女性にゲームセンターに来てもらおうと、新しいゲームの開発を始めたそうだ。

 そこでまず、ファッションや食事など、とにかく女性に関することを観察したそうだ。そのなかから“食べる”というところに着目し、いろいろと観察していたところ、昼食で頼んだピザを食べたときに、その形を見てパックマンの形を思い浮かび、「これだ!」と思ったわけだ。このエピソードは非常に有名なので、ご存じの読者も多いことだろう。あとは、ゲームアイデアがどんどん浮かび、あっという間にパックマンのゲームコンセプトが完成したそうだ。

 ただ、パックマン開発中に、社長からかなり厳しい注文があったそうだ。それは、「モンスターの色を赤で統一しろ」というものだ。女性をターゲットとしたゲームのため、カラフルなデザインで制作したのだが、社長には、どれが敵かわからなくなるから色を統一した方がいいと感じたらしい。ただ、岩谷氏は自分の考えを変更するつもりはなかったため、色を統一した方がいいかどうか社内アンケートを行なったそうだ。すると、ほぼ100%の割合で、カラフルな色のほうがいいという結果となった。岩谷氏はそれを持って社長を説得し、4色のモンスターが決定したのだそうだ。

 また、パックマンのプログラマーは、ゲームに関係のないプログラムはやりたくないと、ステージクリア後のアニメーションシーンのプログラムを拒否したそうだ。ただ、アニメーションが入ることによって、キャラクター展開ができる、パックマンの商業化になくてはならないものだと、岩谷氏はプログラマーを説得したそうだ。

 このように、初期のコンセプトを変えることなく、意に沿わない要求には屈せず相手を説得するという姿勢は、ゲーム開発には非常に重要なことと言っていいだろう。

'58年に作られた、オシロスコープを利用したテニスゲームがコンピューターゲームの起源と言われている マサチューセッツ工科大学の学生だったStephen Russell氏が作った「SPACE WAR」は、このようなコンピュータで動作していた ビデオゲームの父Nolan Bushnell氏が作った「COMPUTER SPACE」。操作が難しかったため、商業的にはあまり成功しなかった
'72年に登場したATARIの「PONG」が大ヒットしたことで、コンピュータゲームが世界的に認知された パックマンは女性をターゲットとし、カラフルな色使いのゲームとなっている パックマンの基本コンセプト。“食べる”ことをイメージし、ピザからパックマンが生まれた。また、絶妙なモンスターの動作アルゴリズムもヒットの要因のひとつだ




■ よく観察し仮説を立てることがゲームデザイナーにとって最も重要

ゲームデザインを行なう場合、とにかく観察することが重要。観察し考察すれば、様々なアイデアが浮かび上がってくる
 家庭用ゲーム機は、アメリカのMAGNAVOXというメーカーが'72年に発売した「ODYSSEY」からはじまり、ATARIの「Video Computer System」、任天堂の「ファミリーコンピュータ」、ソニーの「プレイステーション」など、年を追うごとに機能面、性能面ともどんどん進歩してきた。ハードウェアが進歩したことによって、それまでできなかったことがどんどん実現できるようになり、リアルなグラフィックなども含め、すばらしいゲームが数多く登場するようになってきた。ただ、それに伴い、ゲームシステムやルールが複雑になり、簡単にプレイできるゲームが減ってきたと岩谷氏は指摘する。

 ゲームルールが難しくなると、ゲームのマニア層には喜ばれるかもしれないが、一般のユーザーにはそのゲームが楽しめなくなってしまう。つまり、ルールの難しいゲームは楽しむものであるという本質を欠いている。ゲームは楽しくなければ意味がないわけで、そのことを優先して考えてゲームを作る必要がある。人間は、どういったものを楽しいと感じるのか。また、どういったものをおもしろいと感じるのか。それを知るには、人間をよく観察し研究しなければならない。人間の心のメカニズムを研究することが、ゲーム開発には重要なことである。そのために、とにかく何でもいいのでよく観察することが大事だ、と岩谷氏は指摘した。

 例えば日常生活の中でも、車や電車に乗っているとき、テレビを見ているときなど、何でもいいので、とにかくよく観察する。よく観察すれば、何らかの疑問が見えてくる。疑問が見えれば、それについて考察することで、ある仮説が立てられる。これこそがゲームデザインの基本となる。仮説ができれば、それに従ってゲームをデザインし、構築していけばゲームができあがる。とにかく、よく観察し仮説を立てることこそが、ゲームデザイナーにとって非常に重要なことだと岩谷氏は語った。

 そしてここで、岩谷氏からいくつかの問題が出された。まず示されたのはエスカレーターの映像だ。岩谷氏は、エスカレーターは非常に優れたシステムであると思ったそうだが、何が優れているのか考えてください、というものだ。セッションに集まった開発者からは、「乗るだけで自動的に違う階に運んでくれる」、「エスカレーターは、一目で上り下りが判断できる」といった答えが出た。それに対し、岩谷氏が思ったことは、「エスカレーターは、システムダウンしても階段として上り下りできる機能が残る完璧なシステムである」というものだ。

 また、川岸にアリが描かれた画像を示し、そのアリが川の対岸に行くにはどうすればいいでしょう、という問題も出された。会場の答えは、「横にある葉っぱをボート代わりにして渡る」とか、「落ちている枝を使って棒高跳びのように川を飛び越す」といったものが出された。これは、アリのそばに落ちている枝や葉っぱを見て、それらを利用するという考えのもとに導き出された答えだ。

 それに対し岩谷氏は、「アリなので、対岸まで川の底に穴を掘って渡る」という答えを出した。これは、アリの特性を観察していなければ、なかなか導き出せない答えといえる。アリのそばに描かれた枝と葉っぱは、回答者の考えを紛らわせるためのダミーだったのだ。これが、観察が重要だという岩谷氏の考えのひとつの答えと言っていいだろう。

 とはいえ、これらの問題に正確な解答は用意されていない。岩谷氏の解答が唯一の正解というわけではなく、ひとつのアイデアに過ぎない。とにかく、よく観察すれば、見えなかったアイデアが見えてくる。これこそが岩谷氏が会場のゲーム開発者に伝えたかったことなのである。

家庭用ゲーム機の元祖といえる、MAGNAVOXの「ODYSSEY」 ATARIの「Video Computer System」。初めてカセットを交換して複数のゲームを楽しめるようになった画期的なゲーム機だった ゲームは楽しくなければ意味がない。これが岩谷氏の考えるゲーム開発の基本だ
エスカレーターを観察すれば、システムダウンしても階段として利用できる完璧なシステムだということが見えてくる こういった状況でアリが対岸に渡るにはどうすればいいか アリがどういった性質か観察していれば、枝や葉っぱを使わずに穴を掘って渡ればいいというアイデアが浮かぶ




■ 勇気と使命感、エネルギーがゲーム開発に必要

勇気と使命感、エネルギーを備え、“必ず成功する”と信じて取り組めば、いつか必ず成功する。岩谷氏のゲーム開発に対する心構えの答えだ
 最後に岩谷氏は、ゲーム開発においてどういった心構えで望むべきなのか、という点について語った。

 ゲームを開発する場合、まず重要なのが勇気を持って望むということ。ボスに考えと違うことを強要されたとしても、自分の意見をボスに説明し説得するという勇気が非常に大事だ。また、使命感を持つことも大事だ。自分は、ゲームで人を楽しませるために生まれてきたんだ、という考えを持って仕事に臨みたい。そして、気力がないとハードルは越えられないので、ある程度のエネルギー。これら3つの要素が揃っているならば、あとはゲーム開発に成功する、と信じることが大事だ。

 実際に岩谷氏も、パックマンを制作するまでは、失敗の連続だったそうだ。それでも、成功をあきらめずに続けたことで、パックマンができたわけだ。数度の失敗に落ち込むことなく、成功すると信じて仕事を続けていれば、いずれ必ず成功をつかめる。現在第一線で活躍しているゲーム開発者への、期待と激励を込めた岩谷氏の言葉でセッションは締めくくられた。

□「Game Developers Conference 2004」のホームページ
http://www.gdconf.com/
□ナムコのホームページ
http://www.namco.co.jp/

(2004年3月26日)

[Reported by 平澤寿康]

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