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【特別インタビュー】
「ラチェット&クランク2 ~ガガガ! 銀河のコマンドーっす~」 |
Ted Price氏。前作「ラチェット&クランク」では、総合プロデューサー、Mark氏と共にゲームのマクロデザイン、そしてアートスーパーバイザーを担当。会社の経営や事務処理に追われるかたわらで、ゲーム全体のアートディレクション、そしてワイヤーフレームモデルの制作も行なう |
Mark Cerny氏:通常のゲームタイトルは発売直後に爆発的に売り上げを達成し、そのまま売り上げは下降線をたどるように推移するのが普通です。しかし前作もそうでしたが、「ラチェット&クランク2」はロングセールスを目指しているので、今トップ5にいる必要はないんです(笑)。
GM:今回、あらためておうかがいしますが、「ラチェット&クランク」の主人公キャラクタ達が生まれたきっかけを教えてください。
Ted氏:「ラチェット&クランク」以前は、「Spyro the Dragon(スパイロ・ザ・ドラゴン)」の3部作を制作しました(編集部注:第3作になる「Spyro:Year of the Dragon」は日本未発売)。私たちは“プラットホームアクション”と呼んでいますが(日本ではキャラクタアクションゲームと呼ぶことが多い)というこのカテゴリーそのものに、頭打ちの感覚を抱いていたのです。ちょうどその時PS2が登場し、ハードウェアの性能も一新されたということで始めたのが「ラチェット&クランク」のプロジェクトです。
Mark氏:キャラクタはTedのパートナーである副社長のBrian Hasting(ブライアン・ヘイスティング)のアイディアです。かわいいキャラクタが凄い武器やガジェットを持って、サイエンスフィクションの冒険をするというのが基本コンセプトでした。
GM:キャラクタデザインは、自社のスタッフで行なったのでしょうか?
Ted氏:私たちは「スパイロ」に続くキャラクタを作らなければなりませんでした。Markの言うような基本コンセプトができてからは、およそ2週間ほどで「ラチェット&クランク」の初期キャラクタができあがりましたが、その後もパブリッシャーであるSCE側からもキャラクタへの意見があって、約3カ月ほどかけて手直しをつづけました。
長谷川亮一氏。SCEJインターナショナルソフトウェア部にて海外タイトルのローカライズ作業全般を担当。セガ時代のメガドライブ版「エコー・ザ・ドルフィン」から始まり、 「クラッシュ・バンディクー」シリーズや「スパイロ・ザ・ドラゴン」シリーズ、「ジャック×ダクスター」、「Formula One 2001/2002」、「怪盗スライ・クーパー」など今までに手がけたタイトルは40以上という |
しかし、我々は企画立ち上げの時点から参加するのです。(開発会社を中心に)日本(SCEJ)からだけでなく、ソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカ(SCEA)、ソニー・コンピュータエンタテインメントヨーロッパ(SCEE)という3つのエリアのディレクターが彼らのところに集い、そこで打ち合わせを何回も繰り返すわけですね。2カ月に一度は集まって進捗管理ミーティングを行ないます。そこで、例えば日本市場に受け入れられにくいものにならないようにキャラクタのビジュアルや難易度などゲーム全体のバランス取りをしているわけです。
基本のキャラクタデザインについては、Markの言うようにすぐに固まりました。そのあとで、日本とヨーロッパのデザイナーがアドバイスを加えて、何度も検討するわけです。実は(ラチェットは)最初は眉毛も模様もないキャラクタだったんです。ただ、そのままでは日本人に親しみが持てそうにはなかったので、強さを象徴するような意味で体に縞模様をいれたり、眉毛をこれでもかというぐらいに太くしてみました。
左から「ラチェット&クランク2」の欧州向けパッケージと日本向けパッケージ。イラストが変更され、イメージがかなり異なる |
GM:SCEJサイドからゲーム面で要望を取り入れてもらったところはありますか?
長谷川氏:ナビゲーション形式の見やすいマップの導入ですね。これは「Spyro」の頃から検討している課題でもあったので、Insomniac側でも十分に理解をしていて、非常に検索性の高いマップを付けてもらうことができました。
■ 「この世界観を使って、もっとおもしろいことをやっていこう」
GM:Cernyさんは「ジャック×ダクスター 旧世界の遺産」の制作でNaughty Dogとコラボレーションした際は、物理シミュレーションや光源計算など主にエンジン部分を担当されたと記憶していますが、今回はどのような役割を受け持ったのでしょう?
ここにいるTed(氏)とBrian(氏)と一緒にゲーム全体を構築し、ゲームのRPG的要素の基礎となる数値的な部分の管理を行ないました。たとえば、プレーヤーがどのくらいのスピードで強さを増していくのか、またプレーヤーが得ることになるお金と(アイテムなどを買って)出ていくお金のバランスをとったりしています。
GM:そのRPG的な要素について詳しく教えてもらえますか?
Ted氏:いわゆるプラットホームアクションが、次のステップに進むための要素が必要だったわけです。例えば、ゲームによってはあるステージがとても難しいアクションゲームがあったとします。このステージが(プレーヤースキルの不足などで)超えられなかった場合、その人はそこから先のゲームが楽しめなくなってしまいます。
しかし「ラチェット&クランク」ではクリアできない難しいステージがあっても、いったん他のステージへと戻って、お金を貯めて強い武器を買ったり、経験値を得て自分自身の体力を増やすことによって、ひっかかりを解消しゲームを最後まで続けることができるようになるわけです。
Mark氏:ステージとパワーのバランスは重要です。自分が強くなっていても、相手も同じように強くなっていては、実は強くなったことに気がつきません。でも、それではつまらないでしょう。練習して上手になるところもあれば、お金をゲットして強くする方法もある。例えば、「スニベラック」というステージは強い敵だらけです。最初にいったらまるで「出直してこい」って言うほどに……(笑)。でも、マキシゲーム(後述)などをやってお金を稼ぎ、強い武器を買って戻ってくる。すると一度は強いと思った敵も、今度は倒せるようになるうれしさがあるわけです。これなら、みんなに最後までやってもらうことができるでしょう。
GM:続編となる「ラチェット&クランク2」を開発するきっかけはなんだったんでしょうか?
Brian Allgeier氏。「ラチェット&クランク2」でチーフプランナーを担当。Ted氏やMark氏と一緒にゲーム全体を構築する重要な役割を担っている |
例えば今作の小惑星ステージ、「ホバーバイクレース」、「バトルアリーナ」、またステージとステージの間に入る3Dシューティングなどなど。いわゆるミニゲーム的なものですが、前述のようにお金を稼いだり、経験値を得たり……。これを私たちはミニゲームではなくマキシゲームと呼んでいます。これらをストーリーのなかで浮くことなく、ゲームへときちんと収めていくために、ある程度のボリュームも必要になる。それが“2”につながるわけです。
Ted氏:前作の「ラチェット&クランク」で、特徴的な武器の多彩さや、ラチェットを軸とした世界観がきちんとできあがりました。「これをもう少し育てていこう」、「この世界観を使って、もっとおもしろいことをやっていこう」ということですね。
GM:今作でも数多くのガラメカやアイテムが出て来ますが、制作者としてのお薦めはなんですか?
Ted氏:そうですね、あくまで“今日の気分で”ですが(笑)、バトルアリーナにおけるオススメを紹介します。シンセノイド(近くの敵を自動攻撃する4体のオプションロボット)、シールドチャージャー(自分にさわった敵にダメージを与える)、そして周囲にホーダイングラブ(フィールドに固定砲台を設置)を置き、そして中心でグレートバズーカーを持っているという状態です。もともと、バトルアリーナは敵がわらわらと沸いてくるステージなわけですが、これだけ守りを固めておくともうダメージを受けようがない(笑)。「どうだ、かかってこい」という感じが楽しめますよ。
Mark氏:ホーダイングラブは僕も好きだね。
GM:それは、普通のプレーヤーも使いこなせる装備ですか?
Ted氏:2つめのバトルアリーナに行く頃には、もうシールド以外は揃えていくことができますよ。それに、また戻っていけば(お金を貯めて)シールドも買えるわけですから、十分に可能ですね。
Brian氏:僕のお薦めはボットロングラブ(遠隔操作できるスパイダーロボットを撃ち出す)です。視界がラチェットではなくロボットの視点になります。これをアップグレードしていくと蜘蛛ロボットから武器も発射できるし、自爆ボタンも付きます。ボットロングラブシリーズはお薦めですね。後はリモコナイザーでしょうか。敵を催眠術で操ります。敵を操って敵に敵を攻撃させるものですね。
GM:「ラチェット&クランク2」のストーリーとしての見所はいかがでしょうか?
Ted氏:前作ではストーリーのなかで、実はラチェットとクランクというコンビ間で齟齬があったりするわけです。途中でけんかしたりしますね。でも、最後は厚い友情で結ばれて大団円を迎えています。そこで「2」がスタートする訳ですから、ふたりの信頼関係に揺るぎはありません。代わりに、他のキャラクタに見所が増えます。仲間だと思っていた、敵だと思っていたのに実はそうではなかったり……。たくさんの伏線と、どんでん返しが待っています。プレーヤーは何度も驚くことになると思いますよ(笑)。
■ 「全年齢層ありとあらゆるユーザーに楽しんでもらいたい」
Ted氏:「ラチェット&クランク」は前作のときから、RPG的要素を入れています。いわゆる、どんづまりの状態を回避できたことで、どの地域でも通用する難易度の調整ができていると思います。
Mark氏:1人でも多くのプレーヤーに楽しんでもらえることが私たちの目標です。どのマーケットにも(アクションゲームが)上手い人はいるしそうでは無い人もいます。考えてプレイする人もいれば、がむしゃらに戦いたいだけの人もいるわけで、そこには違いがありません。上手な人なら15分でクリアできるステージを、そうでは無い人は途中でやられたりしながらクリアするのに1時間かかってしまうかもしれません。ですが、その分経験値(による体力増加)とお金が増えているので、高い武器も買えるし、より強い状態で次のステージに行けます。
Ted氏:Markの言うとおりですので、特定の地域という考えはしていません。
長谷川氏:最初に述べたとおり、開発初期からSCEA、SCEE、SCEJのディレクターが参加していますので、開発会社のひとりよがりだったり、どこかのエリアの要求のみではなく、非常に高い次元でバランスのとれた内容になっているかと思います。
Ted氏:会社の目標としては、全年齢層ありとあらゆるユーザーに楽しんでもらいたいと思っています。それは最初から思っていることですが、振り返ってみれば「スパイロ」3部作のころは到達できていなかったかも知れない。でも5~6年の経験を経て、まだ完全ではないけれど、かなりいいところまできたと自負しています。
長谷川氏:「スパイロ」をやっていた頃は、欧米版ではない道案内となる看板をステージ上に追加で設置するなど、日本向けだからやらなければならないことは確かにありました。しかし今は、ここまで達成できている。もうありませんね。
GM:おっしゃるように、企画段階から各エリアのディレクターが参加してタイトルのワールドワイド化を進めていけるような環境は、今後は他の制作会社も作っていく必要があるかと思います。現状はかなりめぐまれた環境と言えるのではないでしょうか?
Mark氏:(他の制作会社には)長谷川さんのような人がほとんどいないでしょう?(笑)
Ted氏:すべての制作会社がこうした仕組みを導入していくのは確かに難しいですね。たいていは外部のパブリッシャーが来てローカライズのアドバイスをします。通常はテキスト部分の日本語化のプロデューサーというのがまだまだ一般的です。(Insomniac Gamesのような制作環境は)なかなか実現しないことですので、幸運だと思います。
GM:現実のInsomniacのオフィス環境も他社では見られないユニークなものがあると聞いていますが?
Ted氏:(米国のオフィスでは)一般的な、ひとりひとりのブース形式ではなく、4~8人ごとの大きなパーテーションで分けられています。そのパーテーションも、低めに、そしてオーガニックな曲線で作られています。ですから、ちょっと頭をあげればお互いにコミュニケーションがとれるようになっています。
実はゲームのなかでも、インソムニアックミュージアムとして登場します。これは隠し要素なんですが、私たちのオフィスをそのままモデリングしています。ラチェットでオフィスの中を駆け回ることができるので、是非、見に行ってください(笑)。
GM:ありがとうございました。
Created and developed by Insomniac Games,Inc. (C)Sony Computer Entertainment America Inc.
□プレイステーションのホームページ
http://www.playstation.jp/scej/
□製品情報
http://www.playstation.jp/scej/title/ratchet2/
(2003年12月16日)
[Reported by 矢作晃 Photo by 佐伯憲司]
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