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CEDEC 2003 セッション講師インタビュー
電気通信大学 電気通信学部 知能機械工学科 講師
稲見昌彦氏

    稲見昌彦氏
      電気通信大学 電気通信学部 知能機械工学科 講師
      1999年東京大学工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。2003年4月より電気通信大学知能機械工学科 講師となり現在に至る。IEEE Computer Society、ヒューマンインタフェース学会、日本バーチャルリアリティ学会、日本ロボット学会等会員


Q:今回、CEDECで講演を行なうことになった経緯を教えていただけますか?

稲見氏: 今年の1月にエンターテインメントコンピューティングという、エンターテインメントのためにコンピュータを使用するためにはどのような方法があるんだろうか? といったことを論じる研究会が大阪で開かれまして、その会合の席上でCEDECさんの事務局の方を紹介いただき、今回お話しさせていただくことになりました。

Q:セッションのテーマが「ゲームインターフェイスの将来を探る」となっていますが、この点に着目されたのはなぜですか?

稲見氏: 私の専門はバーチャルリアリティですが、バーチャルリアリティ自体は究極のインターフェイスの方向性を示すもののひとつであるということは確かなんです。というのも、基本的にバーチャルリアリティとは現実の世界と同じ様なものを自分の周りに作ってしまいその中で作業していこうという考え方になります。その時に何を使って操作を行なうかというと、現実世界で作業を行なうときと同様に、つまり手や足などの身体を使ってコンピュータの世界の中でも行なっていこうということですね。それが、バーチャルリアリティのインターフェイスとしての側面になってくるんです。

 でも、最近のバーチャルリアリティの研究の方向性として、ヘッドマウントディスプレイなどをつけて、完璧に人の周りに世界を構築する従来の手法ではなく、現実世界の中にコンピュータの情報を混ぜ合わせるといった手法で、現実世界をより豊かにしながら、なおかつコンピュータの情報を扱いやすくしていくといったミクストリアリティと呼ばれる研究が盛んに行なわれています。そういう意味で、現実世界とコンピュータの中の世界を混ぜ合わせるというバーチャルリアリティの現在の研究動向を、ゲームの世界でも手法として使うことができるのではないかと思うんです。

 もうひとつは、ゲーム自体がバーチャルリアリティの技術的背景と近いところがあると感じているんです。たとえばCGの研究と関わり合いのある産業としては映画産業がありますよね。バーチャルリアリティでは、人が操作してそれに対してリアルタイムにコンピュータの情報が帰ってこないと人はリアルに感じないんですよ。そういった意味でバーチャルリアリティは、ゲームのやっていることと大変近いことをやっていると感じていたんですが、これまでバーチャルリアリティとゲーム産業は接点があまりなかったと思うんです。そういう意味でも今回のセッションがひとつのきっかけになればと思うんです。

Q:具体的にはどのようなセッション内容を考えておいでなのでしょうか?

稲見氏: 直接ゲームに使える話題ではないかもしれないのですが、まず最初に現時点でインターフェイスの研究としてバーチャルリアリティではどのようなことが行なわれているかということを説明したいと思います。というのも、日本におけるバーチャルリアリティの中のインターフェイスの研究は世界的にみても非常に進んでいるんです。その日本が得意としている分野を、これまた日本が得意にしているゲームと結びつけることができたらと思うんです。ですから、まずそういった事例を紹介したいと思います。こういった技術が使えるならば、こういったゲームが作れるのではといったことも出てくると思うんです。

 おそらく今のゲームというのは、現在のゲーム機やコントローラを前提として、様々な設計やゲーム自体の構想が練られていると思うのですが、その点で、もう少しコントローラの部分やディスプレイの部分を自由に考えていただいてより新しいゲームの方向性を考えて欲しいなと。マウスやキーボードにかわるようなインターフェイス、従来のゲームコントローラだけではないインターフェイスを考えたときに、今までにない新しい枠組みが出てきてもいいかもしれないということですね。

 インターフェイスの研究というと一般的にみると「難しそう」と思われている部分があるのですが、ゲームを作ることと同じで、面白いアイディアさえあれば、インターフェイスを作っていくことに関してはツボさえつかんでいれば、可能だと思うんです。インターフェイスも含めて新しいゲームができていけばと思います。

 いま、両極端だと思うんです。コントロールパッドのような汎用コントローラを使うか専用のコントローラを使うのかと。ですけど、もしバーチャルリアリティ的な考えを生かしていけば、もしかしたらその中間的なインターフェイスも作れることができるかもしれない。ある程度汎用性がありながらも専用コントローラとしての性格付けもあるというバランスですね。

 というのも、バーチャルリアリティというのは考え方でして、インターフェイスを設計するときに、人間の生理的なパラメータをもとに作り替えていくだけで、格段に操作性が上がったりすることがわかってきたんです。
 例えばヘッドマウントディスプレイというインターフェイスがありますが、制作当初は頭にそういったディスプレイをつけると気持ち悪くなると言われていたんですが、それは“人が見ている視野の広さ”と“コンピュータで定義している視野の広さ”を適当に合わせて出力していたんですが、人間の視野と同じようにコンピュータの視野をきちんと調節して提示するように合わせると、空間のゆがみや物の大きさにおける違和感がほとんど感じなくなるんです。
 これはアカデミックな分野での話ですが、こういったところで得られてることが、実際に商品化されるゲームという分野とうまく結びついて、もっと利用してもらえればと思うんです。

Q:産学官での結びつきですね

稲見氏: バーチャルリアリティを作っていく上での究極はそれこそ映画「マトリックス」のような世界と思われているのですが、それは実現するのが難しいのです。また、人の生理的な指標に適合するようにすべてを厳格に設計し、システムを作り上げると、それこそシステム自体が巨大になって、値段もそれこそ数億円もかかってしまい、現実問題として不可能です。
 アカデミックな方向からのアプローチはどうしても究極の実装例を目指してしまうのですが、目指して行く過程で得られたエッセンスをお伝えできれば、アイディアが生まれるきっかけになるのではないかと思うんです。バーチャルリアリティのエッセンスをお伝えすることで、今のものを改良できるということがひとつと、バーチャルリアリティ的な発想でゲームを考えることで、全く新しいアイディアのゲームやコンピュータを使ったエンタテインメントが出てくる可能性があると思っています。

 これまでのバーチャルリアリティが周りの世界すべてをCGなどで作り上げる考え方だったのですが、最近注目を集めているミクストリアリティなどは、先ほど申しましたように、現実の世界にコンピュータの世界を混ぜることによってより利便性を高めていこうという考え方なんです。完璧なコンピュータの世界の中に自分が埋没するのではなく、現実世界にコンピュータの世界を持って来ることにより、より生活を豊かにしようと言うことなんです。たとえばそういう意味で言うと、今ある多くのテレビゲームは昔ながらのヴァーチャルリアリティ的なものと言うことができるかもしれません。そこで、ミクストリアリティと言った技術を使ったインターフェイスを取り入れることによって、現実世界……たとえば部屋の中や廊下といった空間もゲーム空間に変えられるようなインパクトがあると思います。

 たとえば、よく「ゲームばっかりしていないで外で遊びなさい」なんて言われるときがありますが、サッカーをIT化するというか、デバイスなどを装着して(ゲームに)情報を提供することで、遙かにおもしろいゲームを作り上げることもできると思うんです。いまは手に持っている携帯ゲーム機をウェアラブルにしたものも、すでに技術的には発売できると思うんですよ。ゲームをミクストリアリティを使って、現実をゲーム化していくことによって可能なことかもしれないんです。

 昔、体感ゲームが次々にリリースされた時期がありますよね。私はそれまでテーブル筐体型のゲームはプレイしていなかったんですが、この体感ゲームには夢中になりました。それまでのジョイスティックなどとも違う、これはまさに新しいインターフェイスであったわけです。もしかしたらこの体験が、こういったヴァーチャルリアリティの研究をするきっかけの一端になったのかもしれないですね。

ありがとうございました。

□CEDECのホームページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□受講申込みページ
http://cedec.cesa.or.jp/regist/

(2003年8月19日)

[Reported by 船津稔]


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