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Electronic Entertainment Expo 2003現地レポート番外編
3Dゲームファンのための「Half-Life 2」エンジン講座(後編) |
会場:Los Angeles Convention Center
後編では、前編で紹介した数々の最新テクノロジーが、実際のゲーム中のシーンでどのように活用されているのかを見ていくことにしよう。今回も映像の解説がメインになっているので、ムービーを見ながら解説文を読み進めていっていただきたい。
■ 水面上と水面下のリアリティ
水の中にプレーヤーが落ちてしまったところ。水面上の景色が揺らぐ |
電柱に電線があるが、これが風に揺れているのにも気づいただろうか。死体を漁っているカラスはこちらに動いて飛び立つわけだが、ちゃんと床に影が落ちている。基本装備「鉤爪付きバール」は今作にも登場する。
これでエイリアンを殴ると水面に落ちるわけだが、これまでのゲームだと水底に沈んで消えてしまうのが普通だったが、「Half-Life 2」では死体は水しぶきを上げて落ち、少し沈んだ後、プカっと半身を水没させた状態で浮く。
この後、背後からエイリアンに攻撃されてプレーヤーは水没してしまうのだが、水面の屈折によって歪められた外界の景色が見えている。これは「おおっ」と思わせてくれるリアリティだが、処理的にはこれまで水面下扱いだったものを水面上の扱いにして、水面下扱いだった物を水面上の扱いに交換してレンダリングしているだけのようだ。
「Half-Life 2」Promotion Movie シーン5 |
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MPEG1形式(LZHでアーカイブしてあります)・49秒 [13.3MB] |
水面表現のリアリティはかなりのもの |
頭を支配された人間はゾンビと化す |
■ ゲームシーンとシネマティックシーンがシームレスに進行する
人間味溢れる人物キャラクタ達。リアルタイムグラフィクスで描かれる人物もこのレベルにまで来たのだ |
これまでのゲームの歴史の中で、体のモーションがリアルなものはあったが、目と表情の動きがここまでリアルなリアルタイム映像は見たことがないと思う。口元の動きも前編で紹介したリップシンク技術によって制御されているので自然だ。
途中、博士がキーボードを叩くが、その指元が拡大鏡で拡大されているのが面白い。これは前編の方で紹介したテレビカメラのマルチパスレンダリングのテクニックと同種の技術で実現されている。
実験用の巨大タンクの中の液体の動きもリアルで、また、CRTディスプレイ装置はよく見るとノングレア加工されていない安物という設定なのか、かなりざらついた映り込みが見て取れる。芸が細かい。
窓の外は昼の太陽光が注ぎ込んでいるという設定なのだろう。外光を注ぎ込んでいる窓は白飛びをしているような「グレア効果」が現れいる。これは映像を撮影したビデオカメラの影響ではない。こうしたサチュレーションを起こしたような表現は最近流行となってきているハイ・ダイナミック・レンジ(HDR:High Dynamic Range)レンダリングを擬似的に再現したものだ。
これは電灯などの光源オブジェクトをはじめとして、非常に明るくなるのがわかり切っている部分に対しては、基本的な色情報以外に、追加の明るさ強度のような属性を仕込んでおき、最終的なシーンのレンダリング後に、プログラマブルシェーダで光が回り込んでいるような効果を付加していく。ちなみにディズニーの「TRON2.0」、UBISOFTの「SplinterCell」、NVIDIAのGeForce FX5900用デモ「VULCAN」なども同種のテクニックを利用しているので興味がある人は見てみよう。
「Half-Life 2」Promotion Movie シーン6 |
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MPEG1形式(LZHでアーカイブしてあります)・1分23秒 [14.2MB] |
「そんなに見つめないで……」。ゴードンに見つめられるAlyxはまんざらではないようだが | ブラックメサ研究所の研究員の生き残りは限られた設備の中で新兵器を開発中 |
拡大鏡とディスプレイに外界が映り込んでしまっているところに注目 | 窓の明かりは、最近のゲームグラフィックスには必ず見かけるHDR表現であるグレア(Glare)効果 |
■ 物理とAIが奏でる恐怖のコンチェルト
前作から登場のヘッドクラブ(Head Crab)は人間をゾンビ化させる。低脳な連中だが、こちらを追いつめようとしたり、物を投げつけてきたり…といった最低限の知性はある |
反重力射出装置とでもいうのだろうか。ゲーム中もっとも活躍しそうな武器。箱を引きつけたら上に載っているペンキ缶がずり落ちてしまった瞬間 |
プレーヤーは手近な箱をこの反重力武器で引きつけるが、この箱の上に載っていた物は突然箱が動いたことでバラバラと落ちる。あまりにも自然で、もはや驚く事すら忘れてしまいそうだが、今までのゲームでは再現されたことのなかった芸の細かいインタラクティブ性だ。
屋外から小さな部屋に入るプレーヤー。外からくるエイリアンを侵入させないために、ドアを机で塞ぐ。アドベンチャーゲームではありがちなシチュエーションだ。ここでの見どころは「Half-Life 2」の敵キャラのAIだ。「Half-Life 2」エンジンにおけるキャラクタのAIは敵にしろ味方にしろ、決まった行動だけをプログラムされたスクリプトベースだけでなく、「状況判断ができる」特性を持たせてあるという。
自分の本能的な行動はプログラムされているが、その行動を実現するために、自分を取り囲んでいる環境を理解しながら、自分の持てる行動バリエーションを選択していくというのだ。簡単にいえば、自律行動型のロボットAIのようなものが、ゲームに適合する形で実装されていると理解しやすいかもしれない。
映像では、敵エイリアンはドアに重しがしてあることを理解するとドアからはいるのを中断する。「Half-Life 2」エンジンではゲーム世界内のオブジェクトに対して物理法則が働いているため、ドアは、机とその上に載っている物の重みで簡単には開かなくなっているためだ。
そして窓ガラスを撃ち抜いて窓から入ろうとする。これもダメだとわかると、今度はドアに体当たりをかます。運動エネルギーが衝突エネルギーに変換されて、ドアは打ち破られ、重しだった机は吹っ飛ぶ。
カプコンの「バイオハザード」のようなびっくり箱的な怖さも怖いが、「Half-Life 2」では「敵の本能に恐怖する」という、これまでのゲームにはなかった怖さを体験することができるのだ。
この後、外からの銃撃で窓ガラスが割れ、銃弾の当たったブラインドが跳ねるというシーンがある。これも自然すぎて見逃してしまうところだが、ブラインドに銃弾が当たるという判定があり、この衝撃がブラインドの運動エネルギーに伝搬、ブラインドは動きたいが、ブラインドの片側は固定されているので、ここを回転軸として回転運動的に跳ねているわけだ。このように「Half-Life 2」エンジンの物理へのこだわりは鬼気迫るものがある。
この他、このシーンの見どころとしては、壊れた自動販売機から転がり出る缶ジュース、そして自重でたわんでいるマットレスなど。最後のクレーンに結ばれている重量物の支えを破壊し、振り子のようにスイングさせて、複数の敵を一挙に秒殺するシーンも、「Half-Life 2」エンジンの物理エンジンが無ければ実現できなかった演出だろう。
「Half-Life 2」Promotion Movie シーン7 |
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MPEG1形式(LZHでアーカイブしてあります)・2分5秒 [22.3MB] |
机でドアを塞ぐも、体当たりされてドアは開き、机は吹っ飛ぶ |
ブラインドが銃弾を浴びて跳ね踊る | 自販機が壊れてジュースが流れ落ちる。缶の転がり方はまさに物理シミュレーションの領域 |
■ プレーヤーはNPCと時間を共有する
上から飛び降りてきてAlyxを驚かせた敵兵は液状のエイリアンの触手に撃ち抜かれる。ここまでのシーケンスの全てがちゃんと水たまりにも映っているところも見て欲しい。水たまりの映り込みは固定環境マップのフェイクではなく、マルチパスレンダリングによる本物の映り込みだ |
シーン内のオブジェクトが静止しているのは、ただ座標管理上物がそこに位置しているためではなく、物理エネルギー的にバランスが取れているためにそこに静止しているのだ。 その後、人間の兵士との戦闘シーンがある。炎のエフェクトの方に目を奪われがちだが、ここは落下するときの落ち方のほうに着目して欲しい。
真下のパイプに脚がひっかかってから落下したのが見えただろうか。さらにその下のフェンスに手足がひっかかり落下速度が減衰して軽くバウンドして落下している。続いてプレーヤーの銃撃に倒される右の敵は、フェンスごと落下するのだが、このフェンスもパイプに当たって軌道を変えつつ回転しながら落下する。
前編でも紹介したが、フェンスのような堅い物はRigidBody物理、人体の落下はRagdoll物理がきっちりとゲーム中にも作用しているのがわかる。その後、Alyxと再会し、しばしの会話のあと、彼女が一点を見て驚きの表情をあげる。
今までのゲームならば、カットシーンで自由を奪われた状態で会話をし、会話が終わったら操作がプレーヤーに返ってきて再びゲーム再開、という流れになっていたわけだが、「Half-Life 2」では、全てのシーケンスがシームレスに進行する。
このシーンでは、Alyxの表情の変化がプレーヤーに事態の変化を気づかせ、彼女の視線の先を見たくなるようにしむける演出がなされている。「Half-Life 2」では常にプレーヤーに操作の自由が与えられており、カットシーンで流れを分断していないため、常にNPC達と同じ時間を共有している感覚を与えてくれている。これはゲームデザインというか、エンターテインメントとしてみても新鮮な印象だ。
「Half-Life 2」Promotion Movie シーン8 |
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MPEG1形式(LZHでアーカイブしてあります)・1分48秒 [18MB] |
空中浮遊エイリアンをバールで打ち返すプレーヤー。吹っ飛ばされたエイリアンはシーン内の小道具、大道具に衝突する。その小道具/大道具オブジェクトは相互に干渉しながら地面へとぶちまけられる | 炎に包まれて落下していく敵兵。落下中にパイプにぶち当たるのがなんとも痛そう |
Alyxが驚きの表情で向こうを見る。その先には? | 敵兵がいたと思ったら、さらにその後ろにはエイリアンが! |
■ 恐怖という感情を持つ味方NPC
元ブラックメサ研究所の警備員の一団との共同戦線 |
車に隠れながらの銃撃戦 |
相変わらずリアルな表情を見せるNPCとの短い会話のあと、プレーヤーはこのNPCの一団と共同作戦を開始することになる。まずプレーヤーが飛び出し、ひっくり返った車の陰に隠れながら炎の近くの敵を手榴弾で一掃。敵は吹っ飛びこちらに飛んでくる。ここでもRagdollエンジンの働きの一端を見ることができる。
この状況を確認すると味方NPC達は安全を把握、この車の影に走り寄ってくる。ここから味方NPCが、レーザーバリケードを張る敵陣営に対して銃撃を行ない、敵の注意を引きつけてくれるため、この間プレーヤーは安全に進軍することができる。
直後、味方NPCの1人がプレーヤーに続こうとするが、車の影に設置された侵入者センサー付きの自動小銃にやられてしまう。ここでもプレーヤーは手榴弾を使ってこれを破壊、なんとか味方NPCの進路を確保することに成功する。
またまた、安全を確認すると味方NPCの一団はプレーヤーの元にやってきて、制服の男は「Cover me! Gordon」と話しかけてくる。今度はこの味方NPCが道を挟んで反対岸の車の陰へ移動するのを援護してやらなくてはならないのだ。もちろん、そうした要請を無視して突っ込むこともできるのだろうが。
ところで、「Half-Life」でも味方は要所要所で登場していたが、神風的な自殺行動を行なう傾向にあり、すぐに突っ込んでは敵に殺されてしまっていた。「Half-Life 2」の敵AIは「自分が置かれている状況を把握することができる」と説明したが、味方NPCにおいても同様で、危険が迫っている場合には、身を守るのに専念し自殺行為は極力行なわないようになっている。映像中、攻撃の際も、常に自分の身を守るようにして戦っているところに注目して欲しい。
こちらに走り寄ってくるときは身を潜めているし、一面が壁の場所では壁に背中をもたれて向こうを伺う動作をする。物陰に隠れての攻撃では、時々身を乗り出して銃撃しては、頭をさっとかがめて身を潜める動作をする。ここで見せている映像はすべてシングルプレイモードなのだが、味方NPCの行動を見ていると、なんだかオンラインゲームで人間が操作しているのではないかと思えてくる。
「Half-Life 2」Promotion Movie シーン9 |
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MPEG1形式(LZHでアーカイブしてあります)・2分9秒 [21MB] |
安全とわかるとプレーヤーが隠れている場所へ移動してくるNPC達 | 彼らが援護してくれるというので、プレーヤーはさらに前進 |
あとを付いてきたNPCがセンサー付きの自動小銃の餌食に | NPC達は全員自分の命を大切にする。身をかがめながらゆっくりと進む。AIの動きとは思えない |
最終的にはレーザーバリケードを回避して敵陣の裏を取って敵を攻撃することになるわけだが、その後、異形の飛行物体が登場する。生物なのか? 機械なのか? | この飛行物体が降りるシーンでは、ローターの回転が巻上げる土煙と、その風圧でゴムひものように翻弄される電線の動きに注目して欲しい |
■ 昆虫の習性を活かした新感覚バトル
アント・ライオンの使い方が「Half-Life 2」というアクションゲームに独特のパズルチックなゲーム性をもたらしている |
このシーンでは、アント・ライオン(Ant Lion:アリジゴク)と名付けられた昆虫型のエイリアンが多数登場する。しかしプレーヤーは、そのオーデコロンを身につけているのでアント・ライオン達から敵対生物と見なされないのだ。
そして、このアント・ライオンには、地球のアリジゴクやハチのようにフェロモンをかぎ分け、その匂いから行動を決定する習性があることが判明。プレーヤーはアント・ライオンの体内からフェロモン胞を採取し、これでアント・ライオン達を誘導する術を知る。プレーヤーはこのフェロモン胞を敵陣側で破裂させることでアント・ライオン達に敵を襲わせることができるようになったのだ。
この映像では、アント・ライオン達を使ったパズルチックな戦闘シーンを見ることができる。奥に侵入者センサー付き自動小銃が向けられた回廊。とても1人では突破できそうにないが、フェロモン胞を破裂させてアント・ライオン達を小銃の方向に誘導。小銃がアント・ライオン達を撃つのに精一杯のところを見透かして、さらに奥へ進むといったことをこの映像の最後で行なっている。
単なる見た目のリアルさの追求だけでなく、ゲームとしての、あるいはエンターテインメントとしての作り込みも「Half-Life 2」が一級品であることを感じさせるシーンだと思う。
「Half-Life 2」Promotion Movie シーン10 |
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MPEG1形式(LZHでアーカイブしてあります)・2分11秒 [21MB] |
アント・ライオンの死体のそばに散らばるフェロモン胞 | 投げて潰すとアント・ライオン達が巣穴からわらわらと出てくる |
厄介なセンサー付き自動小銃もアント・ライオン達を先行させればなんてことはない | 奥にいる敵兵の方にフェロモン胞を投げつければ、アント・ライオン達は敵兵を襲ってくれる |
■ ハイクオリティの自動車物理エンジンも実装
砂地の起伏はただの一枚画のテクスチャではなく、ちゃんとバンプマッピングが適用されており、砂地の微妙な起伏感がうまく出ている |
プレーヤーは四輪バギーに乗り込むわけだが、その車両物理のリアリティにまず驚かされる。四輪全てのサスペンションがパラレルに振動している感じがよく出ているし、コーナリングの際には荷重移動により前輪のサスペンションが沈み込む感覚が非常にリアルだ。「Half-Life 2」エンジンには自動車物理エンジンも実装されているのだ。
敵飛行物体との1対1での対決のラストシーン。完全に破損した自動車が敵の銃撃でずり動くシーンが圧巻だ。迫力もそうだが、ここでも物理エンジンのすごさが見て取れる。 まず、赤い車がずり動くシーンをよく見てみよう。車のボディと前輪車軸/ディスクブレーキ部が独立した動きでずれているのに気づいただろうか。これは車のボディと車軸が別々のオブジェクトであり、それぞれに独立した物理パラメータが与えられていることの証である。
そして、オレンジの車と水色の車が重なって置いてあるところに、敵飛行物体の銃撃がやってくるシーン。まず、2台の車がちゃんとそれぞれの形状を考慮した形で重なり合っている点に注目。これも2台の車が座標管理上そうなっているのではなくて、ゲーム内物理エンジンの制御の下、実際にオレンジの車に対して水色の車が自重を持って載っかっているのだ。
その証拠に、敵飛行物体からの銃撃でずり動いていき、バランスが崩れた時点でオレンジ色の車のボディ上からずり落ちてしまう。ここで見逃していけないのが、水色の車のボンネットが下向きに開いてしまう瞬間だ。それまでオレンジ色の車のボディにのっかていたため閉まっていた水色の車のボンネットが、その支えを失って開いてしまったというわけだ。これはつまり、ボンネットも独立した物理パラメータを持った独立した一部品として、この車のボディにくくりつけられていた証である。
「Half-Life 2」Promotion Movie シーン11 |
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MPEG1形式(LZHでアーカイブしてあります)・2分50秒 [21MB] |
水面上のもやは飛行物体のローターの風圧が巻き上げている水しぶき | また出た謎の飛行物体 |
お約束の轢き殺し(車の左舷)。Ragdoll物理はここでも大活躍 | ボディと車軸が明らかに別の運動をする。多分ゲーム中は見ている暇はないはずなので今回のムービーで「Half-Life 2」エンジンのポテンシャルの高さを堪能して欲しい |
■ 圧倒的なスケール感で迫り来る市街戦
冒頭で摩天楼を見上げるところがあるが、頂上の方はやはり空が明るいと言うことでグレア効果がかかっており、光にビルが飲み込まれているような映像になっている。これもHDRレンダリング的な映像になっており実にフォトリアリスティックだ。
このあと、ストライダー(大股に歩く者の意)と呼ばれる長身のエイリアンが出現する。この時、味方NPC達が「Strider!」の叫び声とともに逃げまどうが、それぞれが身をかがめつつ、自分の身を潜められそうな場所を探しながら移動しているのが興味深い。そしてそのストライダーが自分の隠れている場所に接近してくると、そこから逃げ出し新たな隠れる場所を探し始る。こうした人間ぽい行動も「Half-Life 2」エンジンが誇る賢いAIによってマネジメントされているのだろう。
ストライダーは道を挟んで建つ建物を結ぶアーチを破壊してこちらに歩み寄ってくるが、ここでは2つの見どころがある。まず、このアーチの破片の飛び散りだ。アーチを飾っていたも地盤が吹っ飛び地面に落ち、煉瓦の壁も粉々になるが、一般のゲームのように破片はゲーム世界から消失せずに、道路上にバラバラと散らばりそこにのこり続けるのだ。
おそらく、「破壊されていない」と「破壊された」というトリガーは二値的な管理なのだろうが、「破壊された」際に、その破壊シーケンスをただ再生するのではなく、その建物を構成していたパーツをバラバラにして、その後の挙動はゲーム世界物理に任せる…といったものになっているのだと思う。
このストライダーというエイリアンに限らないのだが、「Half-Life 2」に登場する全キャラクタは敵、味方問わず、双方向のキネマティックスに対応しているという。キネマティックスとは前編でも少し触れたが、「運動学」のことで、最近では特にロボット工学の分野で研究が盛んな学問だ。
まず、順方向キネマティックスとは、脚部に話を限定すれば、股関節や膝をどう曲げたときに足がどの位置になるか、というものを求めるものだ。これは、最近のゲームエンジンであれば比較的多くのものが実装している処理系である。一方、逆方向キネマティックスは、より高度なもので、足を右斜め10センチ前に進めるためには、股関節をどう開き、膝はどう曲げるべきか、を逆算するものである。
ストライダーは空中回廊を破壊するも、やはりそのまま前進して通れないことを把握すると、足を折れ曲げさせ、体勢を低くしてこれをくぐってくる。VALVE側の説明によれば、やはりこれも敵AIが周囲の状況を理解し、自分の姿勢を逆方向キネマティックスで制御しているのだという。もちろんこうした姿勢制御はエイリアンに限らず、敵や味方のNPCキャラクタ達のアクション決定の際にも行なわれているのだそうだ。
そして2つ目の見どころ。この時よく見て欲しいのが、この破壊された空中回廊にぶら下がっている垂れ幕の動き。フラフラと空気抵抗を受けながらブラブラとはためきながら揺れているが、この動きはいわゆる「クロス(布)シミュレーション」物理によって駆動されているものだ。
さらに、目を離さずに見ていて欲しいのが、ストライダーが屈んで回廊をくぐる際に脚をこの垂れ幕に引っかけてしまう瞬間。この垂れ幕もちゃんと衝突判定を持ち続けており、引っかかった脚から運動エネルギーを貰い、今度は振り子のように強く揺れ出すのだ。
「やりすぎだ!」という声もあるかもしれない。が、我々が現実の世界の中で感じているリアリティとはこうした細々とした事象の同時多発から来ているわけで、「リアルなゲーム世界を構築する」という目的の下ではむしろ決して「やりすぎ」ではないのだと思う。
続いて2匹目のストライダーが登場する。斜面を降りてくる足取りはどことなくたどたどしい。どうもストライダーの胴体にも「Half-Life 2」エンジンの物理パラメータは設定されているようで、重心の高いストライダーの胴体はどうも安定していない感じになっている。実際に自分の高い重心を考慮しつつ、バランス崩さないようにして足を踏み出しているためにこのような挙動になっているのだろうか。だとしたら本当の意味でのキネマティクスをやっているわけで、それはかなり凄いことなのだ。
「Half-Life 2」Promotion Movie シーン12 |
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MPEG1形式(LZHでアーカイブしてあります)・2分35秒 [25.9MB] |
建物を繋ぐ空中回廊を丸ごと破壊するストライダー。大きな破片が辺り一面にまき散らされる |
右の建物のドーム形状の屋根のあたりが白っぽくなっているのもやはり空のまぶしさがオーバーブルームしてグレア効果を引き起こしている。ほとんど実写のような映像だ |
2匹目のストライダー出現。重心が高いのでどことなくフラフラした足取り。そこがまたリアル | ブスっと串刺し。惨い……。巨大なストライダーの影もちゃんと建物に投射されているところもしっかり見ておくように |
(2003年5月26日)
[Reported by トライゼット 西川善司]
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