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Electronic Entertainment Expo 2003現地レポート

リチャード ギャリオット氏の提示する次世代のオンラインゲームと、
NCSOFTの模索する世界を舞台としたMMORPGベンダーとは

会期:5月14日~16日(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center

 リチャード・ギャリオット氏は「ロード・ブリテッシュ」としてウルティマシリーズを手がけ、日本でもファンの多い人物だ。
 彼は数年前から「Tabula Rasa(タビュラー ラッサー)」と呼ばれるMMORPGを制作している。今回のE3では、彼が所属しているNCsoftのブースを訪れるということで、このゲームについて語ってもらった。「Ultima Online」を制作し、MMORPGの基礎を確立したとも言える彼が、次に手がける作品に何を託し、我々に提示してくれるのだろうか。

  実は筆者は、長年UOをプレイしており、彼と「現実」にあえるということでかなり緊張してしまっていた。
 ギャリオット氏は非常に特徴的な服装で現れた。袖のふくらんだ、中世の服を思わせるシルエットながら、黒い皮鎧のような印象もある。袖や首元には細かい刺繍が施してあり、さらにペンダントを初めとした銀のアクセサリーが光沢を放つ。インタビューでわかったことなのだが、この服装も、彼の「世界観」のこだわりなのである。「今回が初おひろめなんだよ」とにこやかに語った。

 今回、通訳の方にお手伝いいただいたのだが、ゆっくりと、身振り手振りを交えて語ってくれたギャリオット氏からは、私たちにメッセージをきちんと伝えたい、という熱意と心遣いが感じられた。また、こまめにポイントを絞って語ることで通訳の作業が効率的にするように話をしてくれるなど、「さすがはロードブリティッシュだ」と、ちょっと感激であった。以下は、ギャリオット氏の言葉をまとめた形での掲載にしていきたいと思う。

●ソロプレイとマルチプレイに新しいアプローチを行なう「Tabula Rasa」

リチャード・ギャリオット氏
「Tabula Rasa」はまだメディアやユーザーには見せることができない。次のE3ではユーザーに公開できると思う。
 このゲームはソロプレイとマルチプレイの利点を融合して作るようにデザインしていく。ソロプレイではプレーヤーは世界を救える唯一の人物として活躍し、マルチプレイでは友人たちとさまざまなシナリオを楽しむことができるようになるだろう。

 マルチプレイのシナリオにはさまざまなものを用意する予定だ。友人以外の他のプレーヤーから邪魔をされないようなプライベートな冒険が楽しめるものから、いくつかのパーティーで競い合うもの、PKなどが可能なものというように、可能性はいくらでもある。また、多くのプレーヤーと参加するオープンフィールドを舞台としたシナリオも登場するだろう。
 シナリオには確固たるストーリーラインを持たせ、プレーヤーが世界に対して役割を果たしているのを自覚するようなものを作るのが理想であり、目標だ。現在はそういったシナリオを生み出すためにも歴史や哲学といった「世界観」の構築に多くの時間を割いている。

 このゲームの世界観は、中世ファンタジー世界ではなくSFだ。しかし、別に宇宙船が出てくるといったものではなく、「『MYST』のような世界」というのが近い。独自の法則や、科学、独特の美意識など「異世界」を作っていこうと思っている。
(余談だが、ギャリオット氏は『MYST』が好きというのは、有名な話。一時期は「MYST」のオンライン化をNCsoftのパブリッシングで行なうことを真剣に検討したこともあったという。ちなみに最近のお気に入りは「Toon town」だそうだ)

 「Tabula Rasa」では、プレーヤーはまずプライベートな「家」を持つこととなる。ここには冒険で得た宝物を飾ることができるほか、さまざまなことができる。この家は「セントラル」という世界とつながっていて、プレーヤーはセントラルで他のプレーヤーと出会ったり、交流を行なう。そして、さまざまなシナリオの世界に旅立っていくこととなるのだ。セントラルは大陸というほど広くなく、UOでの首都ブリテインほどの大きさにしていくつもりだ。プレーヤーは仲間に会うために一時間も移動に時間を費やすことがなく、スムースに冒険に赴くことができるようになるだろう。
 プレーヤーは小さなストーリー・冒険に参加していくことで、やがて大きな流れの中にいることとなる。そういった感触を体験させるようなゲームにしていきたい。

 米国のみならず、日本でも私の作品を待ってくれているファンがいてくれるのは大変心強い。「新しいメーカー」として、「新しいゲーム」でみなさんたちに出会うことを楽しみにしている。

 UOや他のRPGからの反省点やアプローチ、そしてなによりもギャリオット氏のこだわりを感じさせるコメントであった。とはいえ、残念ながら現状ではどのようなゲームになるかはまだ見えてこないというのも正直な感覚だ。

 他にも多くの街があるUOのブリテインでさえ、人が多く、特に銀行周辺では待ち合わせや会話がしにくい場合がある。現在の「水準」とされるグラフィックではさらに描画やラグの問題も生じかねない。そこをあえてすべてのプレーヤーが集う場所にするというのは、技術的にも難しい問題だろう。
 しかしながら、すべてのプレーヤーが通る場所というのは、商売やパフォーマンスにも最適な場所であり、効率的である。UOで生まれた独特の「賑わい」を にはまた、独特の楽しさと出会いがあった。冒険とは別にこのフィールドも非常に興味をそそられるところだ。

 また、プレーヤーが「家を持てる」というポイントは、未だ「UO」が最高峰であり、ギャリオット氏が提示し、他の追随を許さないシステムのひとつだ。また、特に日本のUOプレーヤーを今でも強く魅了している要素でもある。 
  「Tabula Rasa」でも冒険で得たものを飾ったりするほか、生産によって家具を作成したりすることも可能になるようだ。そこからさらに彼がどんなアプローチをしてくれるか、そのシステムによっては、日本のユーザーにとって注目されるタイトルかもしれない。

 「ウルティマ」シリーズでソロプレイを模索し続け、UOで革新的なマルチプレイを提示したロードブリティッシュ。生み出した彼だからこそ、MMOならではの「制作者が予想しなかったことに対しての驚きと、対応」に対して、誰よりも蓄積があるのだろう。
 そんな彼が次世代のMMORPGにどんな考え、理想を持ち、そしてどのようにプレーヤーに提示してくるのか、できることなら、一日でも早く目にしてみたい。



 またこのE3では、NCSOFTの代表取締役であるT.Jキム氏のコメントをお聞きすることもできた。E3に大きなブースを設置、5本ものMMORPGと、1本のXboxソフトを展示したNCSOFT。Blizzard Entertainmentの元スタッフが興した開発会社Arena Netの手がけるタイトルをラインナップに加えるなど、韓国のメーカーでありながら、積極的に「世界市場」を意識した戦略を進めている。

 今回のNCSOFTの出展形式は非常に特徴的だ。すべてのタイトルがプレイアブルで、さらに多人数参加をフォローするソフトすべてが会場内での協力プレイが楽しめる。しかも、サポートスタッフだけではなく、積極的にプレイを提示する司会なども用意をした形でのアピールである。こういった、ある程度のクオリティーを持った楽しめるゲームを取りそろえ、かつ来場者に注目してもらえるように気を遣ったメーカーはE3の出展企業の中でもそれほど多くなかったのではないだろうか? もちろん「初挑戦」ならではの「気合い」とでもいうべきものかもしれないが、自社のタイトルを強く印象づけようとするその「努力」が伝わってきて、非常に感心させられた。

 今回のインタビューでは、キム氏が、そしてNCSOFTというメーカーがどのようなビジョンを持っているのかを中心に語っていただいた。

●ユーザーのニーズを満たす多数のラインナップを

T.Jキム氏
 今回、出展にあたっては自社タイトルをどのようにユーザーのみなさんに認知していただくかを考えていました。米国ではやはり「華麗なアクション」というのがユーザーの興味の対象になりやすいので、「NCSOFTのMMORPGというのは、どういうものか?」ということを直感的に知ってもらえるように、ブースの雰囲気にも気を遣ったつもりです。

 NCSOFTは「リネージュ」によって、世界のプレーヤーを相手にしたゲームを意識し始めました。そこでわかったことが、国ごとにユーザーの「重視する価値観」が違った傾向になるということです。たとえば、MMORPGというひとつのジャンルに限っても、日本では「ユーザー同士の経験」に価値観をおくプレーヤーが多く、米国では詳細かつ重厚なワールドとストーリーを受け取ることに価値を見いだすプレーヤーが多いという感覚です。

 今回、MMORPGというユーザーが「多くのタイトルを同時にプレイしずらい」ジャンルでありながら数を取りそろえたのは、NCSOFTの戦略のひとつです。プレイスタイルや価値観のことなる多くのプレーヤーに対して、彼らが自分にぴったり合うと思ってくれるようなゲームを「選択」してもらうメーカーになろうと。多チャンネルのケーブルテレビの様に、NCSOFTにはインターネットを楽しむためのツールが多数用意されている、という印象を持ってもらえるようなメーカーを目指していきたいと思います。

 NCSOFTはアメリカにも多くの制作スタッフを抱え、世界を目指したゲームを生み出すために、こまめに韓国、米国、日本など各国のスタッフが集まり「オンラインゲーム」の可能性について話し合っています。そういった体制で生み出すものは各国のニーズに応えようとするあまりに主体性を失った「色のないゲーム」ではなく、それぞれの国に向けてのタイトルであり、製品のターゲットを国ごとに変えていくような感覚です。

 また、「リネージュ II」は特にそうなのですが、さまざまな国のスタッフが参加することで「フュージョン」された独特の感触を持つゲームになっていく予定であり、かつ「課題」でもあります。また、この作品では今後追加パックのようなものを発売し、どんどん進化させていく予定であり、それを見越したシステムを作っています。
 ユーザーに受け入れられるためには「まずコンテンツである」と思っています。オンライン専門の会社として、今後も積極的にインタラクティブなコンテンツを開発していきたいと思っています。
 

 今回、筆者が感じたものはNCSOFTをはじめとしたアジアのメーカーには「独特の感触」を持ったゲームが生まれつつあるといった感覚である。「リネージュ II」には骨太な世界観と、細やかな配慮という、アメリカと日本の血を受け継ぎながらも、独自の「さじ加減」を持ったソフトであるという感想を持った。それはどこか強い独自性を感じさせるものである。

 他のアジアのメーカーもさまざまな答えを模索しており、各国のメーカーが多く出展を行なったKentiaホールでは、高い技術力を持った上でのユニークなゲームも出展されていた。そういったアジアの流れにありながら、さらに積極的に他の国のスタッフを取り入れるNCSOFTは、またそこからも違う答えを見せてくれそうだ。


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□NC Softのホームページ
http://www.ncsoft.net/

(2003年5月19日)

[Reported by 勝田哲也]


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