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Game Developers Conference 2003レポート鶴見六百氏と長谷川亮一氏、日本におけるゲーム成功の秘訣を解説
会場:San Jose McEnery Convention Cente
■日本のゲームはマンガ・アニメがその根底にある 「現在の日本のゲーム市場は、折からの不況の影響もあり、完全に縮小傾向にあります。そういった状況にあるためか、続編ものやリメイクもの、キャラクタものといったゲームに開発リソースが費やされて、いわゆる”新しい”ゲームが生まれにくくなっています。しかし、そういった状況だからこそ、海外ゲームメーカーが”新しいゲーム”を持って日本市場に斬り込む、大きなチャンスなのです」セッションの冒頭で鶴見六百氏はこのように指摘し、クラッシュバンディクーシリーズなどでの実例を紹介しつつ、日本のゲーム市場の傾向や、日本でゲームを成功させるための秘訣を解説した。 日本のゲーム市場は、RPGや恋愛シミュレーションなどが高い地位を確立しているのに対し、1人称アクションシューティング(FPS)やバイオレンスゲームといった製品はほとんど売れていない。逆に、海外(特に北米)ではFPSやバイオレンスゲームの人気が高い。つまり、日本と海外とで、好まれているゲームのジャンルが大きく異なっていることが、海外ゲームが日本で好まれない大きな理由の一つといえる。しかし鶴見氏は、それ以外にもっと重要な問題点がある、と指摘する。それは、「アートデザインとキャラクタ」だ。 鶴見氏が日本でクラッシュバンディクーシリーズなどを手がけていたときに必ず言われていたことは、「絵が洋ゲーっぽい」ということだったそうだ。「日本人は、キャラクタやアートスタイルに対して非常に狭量な部分がある。日本は感情移入の対象となるスタイルが非常に狭くなっている。しかし、それ以上に大きな影響を与えているのが、マンガやアニメの存在である」と鶴見氏は指摘する。 日本では、週刊誌や月刊誌などのマンガ雑誌が、それこそ山のように売られており、購読年齢層も非常に高い。電車の中でスーツ姿のビジネスマンがマンガ雑誌を読んでいるといったシーンは、外国人には想像もできないだろう。そして、マンガやアニメで育った人間が、ゲームのプレーヤーであり、ゲームの開発者でもある。だからこそ、日本ではマンガやアニメのキャラクタやアートスタイルがゲームの判断基準となっている。 「ドラゴンクエスト」シリーズが日本で最も売れたRPGにもかかわらず、海外で全く成功していない、というのが非常にいい例といえる。ドラゴンクエストは、キャラクタデザインが鳥山明氏、シナリオが堀井雄二氏というように、マンガの世界で活躍している人が起用され制作された。もちろん、ゲーム内にもマンガの方法論が多数取り入れられ、発売前のプロモーションもマンガ雑誌で行なわれた。つまり、マンガの文化が染みついている日本では成功すべくして成功した(逆に海外では成功しなかった)わけだ。
だからといって、海外ゲームのキャラクタやアートデザインをマンガっぽくすればいいかと言えば、そうではない。日本のマンガやアニメに登場する外国人のキャラクタは、基本的に全て日本人のキャラクタをベースに、肌や髪の色を変えたり、しゃべり方を変えるといった、シンボルを変化させることで作られていることが多いが、海外のマンガやアニメ、ゲームのキャラクタなどは、骨格の違いからリアルに作られていることが多い。そのため、海外ゲームでキャラクタデザインをマンガやアニメに似せたとしても、それは日本市場では“洋ゲー”っぽいと言われることが多くなる。日本市場で成功するには、この点をしっかり頭に入れる必要がある、と鶴見氏は強調した。
■日本側のスタッフと密にコミュニケーションをとりつつ
鶴見氏がローカライズを手がけた「クラッシュバンディクー」では、キャラクタデザインを変更したり、オリジナルソングやクラッシュのダンスなどを新たに作ってCM展開を行なうといったローカライズを行なうことによって認知度が上がり、予想以上の成功を収めた。しかも、そのローカライズによる変更点を以降のシリーズにも継続的にフィードバックさせることで、シリーズを通して大きな成功を収めている。 また、「スパイロ・ザ・ドラゴン」では、3D酔いに対する対応が行なわれている。オリジナルでは、スパイロがジャンプしたりダッシュした場合に、そのスパイロの動きに合わせてカメラも激しく動いていたために、日本でテストを行なった場合に3D酔いが頻発したそうだ。そこで日本版では、スパイロがジャンプした場合でもカメラが上下動しなかったり、ダッシュした場合でもカメラがあとからゆっくり追いかける、といったようにカメラの動きが大きく変更されている。また、日本人は3Dフィールドの探索に弱い、という点に対応させるために、サインボード(いわゆる道しるべ)といったシステムが加えられている。しかも、このシステムによって、アクションゲームにRPG的要素も取り入れられたことになり、ゲーム性も日本人に受け入れられやすくなっている。 これ以外にも、「ジャック×ダクスター」でダクスターの声に女性の声優を起用したり、「ラチェット&クランク」では、ムービーシーンなどでより多くのセリフをしゃべらせるようにする、といった変更が加えられた。また、長谷川亮一氏がローカライズを手かげている「怪盗スライ・クーパー」では、ムービーシーンをアニメ調に変更したり、テーマソングを東京スカパラダイスオーケストラを起用して新たに制作する、などといった変更が加えられたそうだ。
最後に長谷川氏は、ローカライズに関して、制作の非常に早い段階から日本側のメンバーとしっかりとしたディスカッションを行なうことによって、マンガやアニメをベースとしたアートスタイルを取り入れたり、3Dゲームに対するケア(3D酔い防止やガイダンスの追加など)をしっかりと行なう、オリジナルのアイデンティティはしっかりと保った上で大胆な修正を行なう、といったことが重要であると改めて強調した。密にコミュニケーションをとることによって、双方に深い信頼と尊敬の念が生まれる。それこそが、日本市場で成功する最大の秘訣であると長谷川氏が指摘して、セッションは締めくくられた。 □「Game Developers Conference 2003」のホームページ http://www.gdconf.com/ □関連情報 【3月5日】Game Developers Conference開幕 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030305/gdc03.htm 【3月8日】「Game Developers Choice Awards」授賞式開催 特別功労賞に故横井軍平氏。大賞はメトロイドプライム http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030308/gdc2.htm (2003年3月8日) [Reported by 平澤寿康]
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