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ナムコ「インタラクティブ3次元映像システム」を体験
アミューズメント施設に登場するのはいつ?

12月4日 取材

 株式会社ナムコは11月28日に「インタラクティブ3次元映像システム」を開発したと発表した。このシステムはいわゆる立体視ディスプレイのことで、3Dグラフィックのことではない。つまり、グラフィックが浮かび上がって見えるといった効果を実現するシステムだ。
 これまでにも立体視ディスプレイはあったが、価格面や視認性での折り合いが付きにくく、アミューズメント分野での実用化はあまりなかった。ところがナムコの開発したシステムでは、量産効果で通常のLCDの1.2倍程度と低コストを実現することができるという。また、3Dと2Dの切換が可能となり2D画面も美しく表示することが可能だ。

 こういったシステムが次世代のアミューズメント施設に登場するかどうかといったお話を、開発を行なっているナムコの宮沢篤氏、花田雅亮氏、石井源久氏に伺ってきた。


■ 開発の経緯~はじめは断わられ続けていた立体視ディスプレイ

「インタラクティブ3次元映像システム」の開発に日夜(早朝は除く……)邁進中のナムコの宮沢篤氏 (中央)、花田雅亮氏 (右)、石井源久氏 (左)
 立体視ディスプレイに関してナムコは、以前から開発を続けていたという。「3-DサンダーセプターII」もそうだが、たとえば21眼視立体視装置を導入し、同社のアーケードシステム「システム23」を改造することで「タイムクライシス2」が立体視で遊べるという試作機があったという。しかし諸般の事情から量産化できなくなり、立体視の夢は断たれていた。

 そんななか、ヘッドマウントディスプレイやメガネ型の変更フィルターといった補助装置を使用しない「レンチキュラ・パノラマグラム方式」を採用することに変更。「レンチキュラ・パノラマグラム方式」は、ディスプレイ上にかまぼこ状のレンズ“レンチキュラ”を通すことで光の屈折によって立体視を実現する。
 しかし、実用化に向けて各種方面への働きかけも行なっていたが、実際のところ芳しくない反応だったという。問題点として指摘されたのは価格、そして2Dコンテンツ表示時の画質が低下するといった点だったという。

 そういった状況の中、同社では、さらにレンチキュラとディスプレイの距離を可変させることで、3Dだけでなく2Dも美しく表示させることを可能とする技術の開発に成功する。
 実際に見た感覚では、3Dはこれまでのグラフィックに比べ奥行きを感じ、より空間の広がりを感じるものに仕上がっていた。3D表示の状態で、2Dグラフィックを表示してもらうと少しギラついた感じになってしまい、お世辞にも美しいとはいえない。しかし、2D表示へ切り替えるとギラつき感が瞬間的になくなり、通常の2Dを美しく表示した。2Dへの切換は瞬間的に行なうことが可能。
 ちなみに、文字に関しては3Dでは読みづらく感じたが、2D表示に切り替えると、これまで通り、くっきりと表示された。3D表示ではさすがに長文を読むことは難しいが、視認性を高めるといった点で短文であれば十分見せることも可能だろう。

 これまで新システムで、パチンコ業界やカーナビ業界に向けてプレゼンテーションを行なったが、概ね好評だったとか。アーケードゲーム機に比べ、パチンコやスロットは出荷される台数が多いこともあって、1台あたりのコストに関してはシビアなのだという。そういった意味からも3Dも2Dも表示でき、さらにコスト的にも1.2倍程度であれば十分実用範囲内になるというわけだ。
 また、カーナビについては今回デモにおいても見せてもらったのだが、最近流行のバードビュー表示などをそのまま3D表示にするのではなく、2Dグラフィックの上に標識などを表示するとき、ドライバーへの注意を喚起させるのに浮かび上がらせて表示することが可能で、この表現方法が好意的に受け止められているという。

 ちなみに、今回見せてもらったデモにおいてまず最初に「少し上から見るとより効果的に3Dを体感できます」と説明を受けた。確かに真正面から見るより効果的だ。だがここでふと、パチンコのことを考えてみた。パチンコはむしろ若干下から見ることの方が多いのではないだろうか? このことを聞いてみると「今回、デモで使用している液晶はカーナビ用のディスプレイなので、(液晶自体が) 少し上から見ると一番見えやすくなるよう設計されている」のだという。

 つまり、このシステムは液晶を用途によって切り替えることで、それぞれの場で最適の表示を得ることができるという。つまりパチンコであれば、パチンコ用の液晶を使用すればパチンコホールで最も見やすい表示が実現できるわけだ。


■ ゲームに使用することは可能なのか?

 ゲーム機において使用することは可能なのだろうか? 基本的にはなんの問題もない。今回、いくつかのゲーム的なデモも体験させてもらった。例えば地図の上を戦車で走りオブジェクトを破壊していくデモ用ゲーム。3Dで立体感があり、ジャンプするとより遠くまで見渡せ、3Dであることが実感できる (ちなみに、左右を同時に押すと戦車が転がります。さすがナムコ、「アサルト」ですね)。

 しかし何より3Dであることが実感できたデモは「3D-15パズル」だ。ふつう、4×4のマスの中にある15のピースを、ひとつだけ空いた欄を使い移動させていき、ひとつの絵を完成させるゲームだが、これが立体になっているのだ。さすがに15ピースもあるといつ終わるかわからないので、2×2で手前と奥の2面を使い7ピースでグラフィックを完成させることになる。このデモの面白いところは手前にあるピースを奥に持っていったり手前に持ってくることで、3Dをうまく体感できるようになっている。

 ただし、立体空間でゲームをプレイしているということがこれまでにないことから、とまどいを覚えることも事実。システムがうまく理解できず、どう遊べ外ばいいか、はじめはわからなかった。これは他の人にも見られがちなことだったという。立体空間でゲームできるという新しい試みは、いかにわかりやすくシステムをおとしこむかがキーポイントなのかもしれない。

 ちなみに、このゲームデモの絵柄の中にゼビウスが用意されていた。このグラフィックを見た人はみな「立体視でゼビウスができればなぁ」と呟くという。たしかに迫力はあるし、立体感溢れるグラフィックは魅力的だ。筆者の知人の中にも生涯の夢のひとつとして「ナスカの地上絵を見ながら『ゼビウス』をプレイする」ことをあげる人がいる。さすがに実際の風景にかなうべくもないが、その迫力にいくらかは近づくし、また新しい気持ちで「ゼビウス」に取り組むことができるだろう。

試作機を正面から見たところ。残念ながら2Dの写真で3D感をお伝えすることは無理。数字がクルクル遠くから手前に向かって回っているデモ。十分、立体感が表現されていた こちらは、試作機の背面3Dと2Dを切り替えるためのメカニカルな部分については液晶とこの基板の間にセットされているため、背面は比較的すっきりしている



■ いつごろアーケードゲームに登場するのか? 今後の展望

 やはりGAME Watchとしてはいつアーケードゲームに登場するかに注目したいところ。現状の問題点としては、レンチキュラの精度の問題。大きなレンチキュラを制作し量産を考えるとガラスで作ることは不可能だという。しかし逆に、プラスチックで表面加工を施したものでこれだけの大きさのものはあまり例がなく、制作は困難なのだという。

 ちなみに現在、液晶を使った立体視ディスプレイとなっているが、液晶以外のディスプレイ上で立体視は可能なのだろうか。基本的に、レンチキュラ (レンズ) の位置と画素の位置がピッタリと合わなければならないのだという。同社によれば、「CRTだと、同期信号に合わせ毎回横方向にビームを振るのに合わせて信号出してるだけなので、ドットが毎回必ずそこにあるのかというと精度が保証できないので厳しいんです。プロジェクタについては、中身は液晶ですので、電機メーカーさんはプロジェクタなら精度が出るよと仰るんですが、途中で光学系が入るため本当にそれに合わせてレンズが作れるかどうかは技術的な課題が残っています」という。

 その点、有機ELやプラズマディスプレイは大丈夫で、最近はプラズマディスプレイが安くなってきたので、大きなレンズを制作しプラズマを使ってシステムを作るのもは技術的には可能なのだとか。唯一問題があるとすれば、それはコストの問題だろう。

 ゲームのソフトに関しては現状スプライトハードとなっている。つまり一世代前のアーキテクチャとなるわけだ。これには理由がある。水平5眼のレンチキュラ・パノラマグラム方式では、5つの異なるビューを同時に作成/表示し、レンズの屈折を利用して浮かび上がるように見せるシステムだ。このため単純に5画面分の画像をバラバラに作成すると描画回路が5つ必要と言うことになり、これまでの5倍の計算能力が必要だということになる。
 それではマシンパワーなどの問題があるので、ひとつの描画回路で5つの画像を一気に描いてしまうという工夫を行なったという。同社では「ラインごとの描画で済ませると大変楽だなと考え、ライン描画で済ませるにはスプライトハードがライン描画でいける。ポリゴンハードだとライン描画するには計算量が少し増えてしまうし、フレームバッファで描画すると描画回路が5つ必要になってしまうので、現状スプライトハードになっています」と説明してくれた。

 現状においてもコストを無視し、描画回路を5つ使った贅沢なハードであればポリゴンハードでも問題はない。ただ前述のとおり、過去の資産……「ゼビウス」、「motos」、「バーニングフォース」など3D化することでまた違った体験が可能になるゲームも存在する。もちろんスプライトハードが終着点ではない。その先には同社の工夫の果てにポリゴンを表示するマシンも搭載可能となる日が来るだろう。

 このほかにも、3Dと2Dに画面を切り替えるとき、試作機では“シャー”といったモーターのギアの音がかなりする。開発当初はレンチキュラのレンズを移動させる仕組みは精度が重要で、始めは社内で作ったが満足を得られず、最終的にカメラメーカーに制作を依頼。精度などの技術上の問題点はクリアしたので、今後のブラッシュアップにおいて、モーターのギアの音は軽減されていくという。

 こういった技術改良を通し、ゆくゆくは25インチから50インチのディスプレイを使ってアーケードでも三次元立体視ディスプレイが登場する日が来ると思われる。ぜひとも3Dならではの楽しさを詰め込んだ新しいゲームの登場を期待したい。

3Dと2Dを切り替えるメカニカルな部分の一部をアップで撮影。試作機なため、精度を最重要視して制作されているためか、2Dと3Dを切り替えるときは“シャー”といったメカニカルなノイズが発生していた。もちろん今後、静穏化も行なわれていくという ディスプレイの下の土台の部分には電源類がセットされている


(C)NAMCO

□ナムコのホームページ
http://www.namco.co.jp/
□ニュースリリース (PDF形式)
http://www.namco.co.jp/home/pr/48/48-033.pdf
□関連情報
【11月29日】ナムコ、低コストで3次元映像を実現
「インタラクティブ3次元映像システム」を開発
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20021129/namco.htm

(2002年12月16日)

[Reported by 船津稔]


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