★PS2ゲームレビュー★

歴史のうねりの中で、運命に直面する人々
「幻想水滸伝III」

■3人の異なる視点が織りなすストーリー
美麗なオープニングムービー。ゲームを進めるごとにどの場面を描いたものかがわかるようになっている。


 広い平原とわずかな森林で形成されたグラスランド。ここには種族の異なる氏族(クラン)で形成された「シックスクラン」と、平原の西に存在し、石の都ビネ・デル・ゼクセを中心にした「ゼクセン」の人々が微妙な力の対立の上に生活を営んでいた。そして密かに平原を狙う北の強国「ハルモニア神聖国」。コナミの発売した「幻想水滸伝III」は、この3つの勢力の対立という大きな歴史のうねりの中で生きる人々を描いたRPGだ。

 今作の最大の特徴は3人の主人公を通じて物語が展開する“トリニティサイトシステム”にある。グラスランドの「シックスクラン」のひとつ、“カラヤクラン”の族長の息子“ヒューゴ”。先の戦いで英雄となったゼクセンの美しき女騎士“クリス”。ハルモニアの傭兵チームのリーダーで、グラスランドで偵察活動を行なう“ゲド”。この3人の主人公が平原で巻き起こる事件を核に、さまざまなドラマを描き出す。ゲームの進行は各主人公に3章分のストーリーがあり、すべての主人公のストーリーを進めた時点で、共通となる4章のストーリーを体験できるようになっている。

 特にヒューゴと、クリスのストーリーは密接に関係しているのが面白い。ストーリー序盤でヒューゴと冒険を共にしていた親友“ルル”のイベントはとても衝撃的だ。ゲームは1章ずつ主人公を変えて進めることも、ひとりの主人公で3章分進めてしまうことも可能だが、ヒューゴ編をプレイしているとき、クリスの行動はとても不可解で、理不尽に見える。もちろんクリス側でプレイをすることで、彼女の「理由」は理解できるのだが、あえて「縦割り」でプレイすることで、よりキャラクタに感情移入してプレイをするのも楽しいだろう。

【3人の主人公】
カラヤクラン族長の息子“ヒューゴ”。大きな戦いの中、自分のするべき道を探し、炎の英雄姿を求めるようになる。 ゼクセンの英雄“クリス”。英雄としての名の重さに悩みながらも、この戦いを企む大きな陰謀を暴くべく戦う。 多くの秘密を持つハルモニアの傭兵“ゲド”。彼を慕う仲間と共に、真の紋章を巡る戦いに関わっていく。

 ストーリーは複雑で、奥が深い。シックスクランとゼクセンは、和平を結ぼうとしたその瞬間に不可解な交渉決裂をおこし、全面衝突へと発展してしまう。時を同じくしてハルモニアのシックスクラン襲撃。鍵を握るのはかってハルモニアと戦い、グラスランドの独立を勝ち取った「炎の英雄」だ。彼は不老を得る“27の真の紋章”のひとつ真の火の紋章を持ち、仲間である「炎の運び手」とともに戦い50年前の大きな戦いを最後に姿を消した。

 しかし、この3つの勢力が平原を舞台に戦いを始める今、再び人々の間で囁かれるようになってきたのだ。3人の主人公は、それぞれ別の立場、手がかりからやがて炎の英雄の姿を探し求めるようになっていく。そして真の敵の姿を見つけだすようになる。中心となるのは、こういったシリアスなストーリーだ。

 とはいえ、ただ深刻なだけではなく、個性的な仲間と共に異世界を冒険していく楽しさが、この作品にはある。トカゲ人間や、擬人化したアヒルのようなダッククランの人々が住むシーンが非常に細部まで描かれており、神経の行き渡った「息吹」が感じられる世界観が実感できる。そして練られた戦闘システムや、成長システムがゲームとしても、物語としても楽しい体験をさせてくれる。

 キャラクタの魅力も本作の大きなセールスポイントのひとつだ。ダック族で、一見ただのギャグメーカーに見られがちだが、「大人」としてヒューゴを導く姿が非常にカッコいい“ジョー軍曹”。クリスを思いやり、色々とサポートするゼクセンの6騎士。おしゃべりなエースを始め、個性的で渋い傭兵たち。仲間の会話ひとつひとつにキャラクタへの深いこだわりが感じられる。

 もちろん、旅先で出会うちょっとした会話にもそのこだわりは健在で、村人の会話ひとつとってもその種族や街ならではの考え方や、風習が反映されている。そういったキャラクタ、世界に囲まれた中で、主人公が己に問い、やがて進むべき道を決めていく。そこにプレーヤーが感情移入できるのである。ストーリー、世界観共に非常によく作り込まれた良作のRPGであると言えるだろう。


【スクリーンショット】
クリスのカラヤクラン襲撃と衝撃的な事件。ヒューゴ、そしてクリス共にこの事件が“始まり”となる。 リザードクランによるイクセの村への襲撃。シックスクランとゼクセンの対立は激化。報復を繰り返す凄惨なものへ。 ハルモニアのグラスランドへの侵攻。囁かれる炎の英雄の名。両方に深い因縁を持つゲドは、行動を開始する。
戦いとは何か、自問するヒューゴを、時には厳しく導いていくジョー軍曹。この外見さえもすごくかっこよく見えてくる。 シックスクランのひとつであるアルマ・キナンの巫女“ユン”。彼女の言葉と行動が、クリスの心に深い影響をもたらす。 4章では衝撃の事実が明らかになり、プレーヤーは重大な決断を迫られる。炎の英雄は、何を望むのか?


■108人の仲間と共に、「城」を造る楽しさ

 この「幻想水滸伝」シリーズにはその“水滸伝”の名の通り、108人の仲間が登場。ストーリーに絡むキャラクタ以外でも、さまざまな場所でプレーヤーを待っている。そしてその108人の仲間と共に、梁山泊よろしく自分たちの「本拠地」を作ることが可能なのだ。今作では、ストーリーが進むと選択可能になる第4の主人公・トーマスが城主をつとめる「ビュッデヒュッケ城」に仲間が集結する。彼らは冒険で心強いパーティーになってくれる。非常に個性的かつユニークなキャラクタが多く、効率だけではなく、自分の思い入れで自由にパーティーを編成できる。

 仲間はただのパーティー要員だけではない。本拠地でもその個性的な技能を活かしてくれるのだ。彼らを城に迎えるごとに、店が増え、機能的になり一大拠点へと成長していく。ぼろぼろの何もない城が、立派になっていく姿にはちょっとした充実感が味わえる。

 彼らを仲間にするイベントは非常に楽しいものが多い。突然「ダッククラン殺人事件」に巻き込まれたり、腹話術人形との口論が目の前で展開したりと、暴走するキャラクタを主人公がちょっと引いて見ているイベントは特に楽しい。

 ただ、ひとつ不満があるとすれば逆に仲間の多さから、攻略本や雑誌の情報をプレーヤーが求めてしまいがちなところだろうか。しかし、だからこそファン同士の情報交換などの交流が活発になっているという側面もある。またスタッフのこだわりによって、特定のタイミング以外では仲間にならないといったキャラクタは存在せず、ゲーム終盤までいつでも仲間が探せるようになっているようだ。

 今作はダンジョン、フィールド、キャラクタをすべて3Dで表現している。フィールドを歩いている臨場感は高いが、その分移動に時間がかかるなど、2Dと比べ賛否が出る問題である。ドラマ部分も同様で、ちょっと頭身を低めに設定したポリゴンキャラクタはまるくてかわいらしく、「アニメで表現してほしい」という声もあがるだろう。ただ、今作のドラマ部分で私が感心したのは「間」の使い方である。キャラクタが顔を見合わせて沈黙したり、小さく首を傾けたり、「人形」風のポリゴンモデルならではの演出が秀逸で、アニメーションにはない独特の劇空間を作り上げているのだ。こういった点には、感心させられた。

 また、本拠地が立派になっていく姿や、ダッククランや虫使いの村“ルビーク”など建物の個性化は、ポリゴンモデルならではの実在感を持ち、説得力を生んでいる。また、こういったPS2の能力を高い次元で要求するゲームにあっても、戦闘前での読み込みをあまり感じさせない、視点での不自由さが比較的少ないなど、コナミの非常に高い技術レベルを感じさせる。

【スクリーンショット】
本拠地となるビネ・デル・ゼクセ。仲間が増えるごとに枯れていた噴水が吹き上がり、建物が増えてきて立派な街となる。 仲間のキャラクタとの出会いはコミカルなモノが多い。キッドのイベントでは突然殺人事件に巻き込まれ、助手に任命されてしまう。 虫使いの村“ルビーク”。各街の建物や民族衣装は非常に特徴的だ。その地方ならではの生活や風習など、ちゃんと考察されているのがわかる。
キャラクタのドラマも演出やせりふが非常にていねいだ。筆者は特にセシルの“健気さ”がツボにはまった。 戦闘はパーティーでのバトルの他に、一騎打ちや集団戦闘がある。相手のセリフから行動を読むという一騎打ちのシステムはユニークだ。 外伝の主人公“ナッシュ”はクリス編で非常に大事な役割を担う。シリーズを通してプレイした人は、より一層楽しめる演出が随所にある。


 残念ながら、私は幻想水滸伝シリーズにプレイしたのは今作が初めてであった。出てくるキャラクタや背景に触れるのも今作が最初となる。そのため、50年前の事件がシリーズで描かれたのかどうかや、出会うキャラクタが前作との関係があるかもわずかしか分からない。

 それでも私の感性にとってこのゲームは非常にしっくりときて、楽しめるゲームであったし、私と同じように初めて触れる人も楽しめると思う。シリーズを通してプレイすることで思い入れの深いプレイができるが、ボリュームもたっぷりで、世界観、キャラクタ、ストーリーともに強い思い入れと、高い技術力をつぎ込んだ本作は、RPGが好きなプレーヤーにはオススメできる作品である。



(C)1995 2002 Konami Computer Entertainment Tokyo

□コナミのホームページ
http://www.konami.co.jp/
□「幻想水滸伝」公式ページ
http://www.konamityo.com/genso/

(2002年10月22日)

[Reported by 勝田哲也]

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