TGSフォーラムでSCEIの久夛良木健社長が基調講演 |
TGSフォーラムの基調講演で、ブロードバンドサービスや、注目の“Cell”プロセッサについて語る久夛良木健SCEI社長 |
会場:幕張メッセ
東京ゲームショウ開催にあわせて、ビジネスデーにあたる20日に幕張メッセに併設される国際会議場でTGSフォーラムが開かれた。エンターテイメントビジネスに携わる人々を対象にしたこのフォーラムは、ビジネストラック、ブロードバンドトラック、コンテンツトラックのみっつに分かれ、それぞれ複数のセッションが用意されていた。これらに先だって行なわれた基調講演には、ソニー・コンピュータエンタテインメントの代表取締役社長兼CEOの久夛良木健氏が登場。約1時間にわたり、これからのエンターテイメントビジネスを総括した。
「Revolving World of Computer Entertainment」と題された久夛良木社長の講演は、成長率の鈍化がささやかれるエンターテイメント業界の展望から始まった。日本市場では不況という言葉から抜けきれないこの業界も、同社におけるプレイステーション 2対応ソフトの売り上げのデータ推移を示しながら、世界的に見ればいまだ元気な産業のひとつであることを強調。さらに、半導体ビジネスやネットワーク関連産業など、エレクトロニクス全体をも牽引しうる存在と続けた。
現在、プレイステーションのソフトは世界118ヵ国で出荷されている。地図を示しながら、まだ正式には出荷されてない地域(例えば中国など)もあるが、こうした国々でもさまざまなルートで実際には手にされている。10年前までは男の子向けに、そして先進国だけの極めて限られた市場だったものが、様々な年齢層や地域に受け入れられるようになり、映画産業、音楽産業と比肩しうるものに成長したと認識しているという。今後さらに、日本やアメリカ、そしてヨーロッパ地域の特定国に限らず、あらゆる地域をマーケットとして意識する必要があると呼びかけた。
これまでパッケージメディアを取り扱ってきたという点では、ゲームも映画や音楽と同じレベルにある。新しいコンテンツ作りはこうしたパッケージメディアの融合から始まり、ゲームが映画になるほか、その逆のケース、あるいは音楽とのコラボレーションなどが産まれている。しかし、ブロードバンドを中心としたネットワークビジネスは、ゲーム業界にとってすらもパッケージに変わる新しいメディアである。そのため(商業的な)使い途がわからなかったりビジネスモデルがないのが現状で、確実に牽引していきたいと決意を述べた。
さらに同氏は、PlayStation BB Navigatorのブラウザ画面を示しながら、ゲームや音楽、映画などさまざまなエンターテイメントが、テレビのチャンネルを変えるのと同じ感覚で、それがどこから(DVDなどのパッケージメディアか、ネットワーク上の情報か)読み込まれているのかすら意識させずにシームレスに切り替えられるのがマンマシンインターフェイスの行き着く先になると展望を語った。このPlayStation BBは、常時接続環境にあるゲーム機が持つ可能性を求めていくことになるという。さらに近い将来に接続が期待される機器としてHDDビデオレコーダを挙げ、ゲーム機へのテレビチューナ機能搭載による急激な普及も予見している。
オンラインゲームでは、ゲーム内容によって様々なサーバー構成が必要な現状を具体的な例を挙げて解説。例えば米国でサービスされている「Twisted Metal Black」は、サービス側がロビーサーバー、マッチングサーバーを用意するが、実際のプレイはクライアントのひとつがサーバーとして機能する。また「NFL GameDay 2003」では、マッチングサーバーのみが必要で、プレイ自体はピア・ツー・ピアの運用だ。いっぽう「FF XI」のような多人数同時プレイになるゲームでは、サービス側でマッシブサーバーの設置が必要になる。こうしたサーバー構成を単純にモデル化するのは難しく、投資回収の状況をみながら数年間は検討を続ける必要があるとした。
開発費用など初期投資が回収されればそれ以降の売り上げがそのまま粗利になり、大ヒットをすれば加速度的に収入が入る。これが映画、音楽、そしてゲームのパッケージによる従来のビジネスモデルである。これに対し、接続会員数が増えれば会費収入は継続、増大するが、会員増に伴うサーバーやコールセンターの増強、さらにソフトの更新やキャラクタ、シナリオの追加など二次的な開発費用も発生するのが、ネットワークのビジネスモデルになることをグラフで示し、利益の幅が莫大には広がらないことを構造として理解すべきと説明した。同時に、ユーザの目からみれば魅力があることは否定しがたく、経営者からみれば期間収益を確保しながら、将来的な展望を確立していかねばならないと説明した。
次世代プレイステーション向けのプロセッサという噂の絶えない“Cell(セル)”について久夛良木氏は「皆さんが次のゲーム機じゃないかと誤解されている。IBMや東芝と共同開発している“Cell”は、ネットワークプロセッサとして開発している」と、巷に流れる“Cell" = PS3の図式を改めて否定した。一言でいうなら「Cellは、世界がどれだけのブロードバンドで結ばれるかという研究」ということになるらしい。
同氏によれば、“Cell”ひとつの持つ演算能力は1Gflop(ギガフロップ)程度。数年前に人間のチェスチャンピオンを破ったIBMのディープブルーのレベルに等しいという。それが何年か先には指先に乗る程度の大きさのチップになると説明。ボードへの搭載、さらにラックへの搭載と集積していくことで、途方もない演算能力を示すというものだ。ムーアの法則を目指してチップのクロックをあげていくと、いずれチップは溶鉱炉や原子炉のような温度に達する。こうした演算能力を得るためにひとつのチップでやるにはどうしても無理があると“Cell”の開発を説明した。
ラックを超えた先にある“Cell”の接続は、光ファイバーなど高速なバンド幅による接続だ。10Pflops(ペタフロップ)の演算能力を得れば、人間に等しい思考や知能に達し、映画「2001年宇宙の旅」に登場する思考するコンピュータ、“HAL9000”の域になるのは2005年~2010年頃とスライドを示しながら同氏は説明する。IBMの資料によれば、無数に並列でつながることによって得られる演算力は、自己最適化や自己形成をする知能のあるコンピューティングシステムを空想の世界から現実へと導くという。
この“Cell”に必要となるOSの概念も図示された。複数の“Cell”が集まることで、さまざまな機能を具現化していくことを人間としてとらえると、器官ごとに進化を遂げるような仕組みが必要になる。例えばいくつかの“Cell”が集まることで条件反射を司り、また他の“Cell”の集合は目の役割を果たす。こうした無数の“Cell”を統合的に扱うOSを考える必要があると久夛良木氏は説明した。ヒトの細胞(Cell)に例えるあたりなかなか凝っている。
映画、音楽など数十年から数百年の歴史をもった産業と、ここ十数年のコンピュータエンターテイメント産業が、等価値かそれ以上のものとして、これからのコンピュータエンターテイメントはとんでもない演算能力が必要になると同氏は予見する。PS2でもそうだが、ゲームがきっかけで専用のチップを設計するまでに至った。そのチップが数十年使ってきたアーキテクチャ自体を変えるまでになるかも知れず、これはエンターテイメントを超えた命題にもなる。同氏はふたたび、コンピュータエンターテイメント産業とゲーム機は、懐と可能性を広げ、どんどん新しい遊び方、表現方法を生み出す強い牽引力を持っている産業と定義して講演は締めくくられた。
(2002年9月21日)
[Reported by 矢作晃]
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