Will Wright氏インタビュー
「シム」シリーズの作者は今何を思うか

3月1日 収録(現地時間)



 Will Wright氏の手がけたゲームは、発売後かなりの時間が経過してもトップクラスの売り上げを維持しているモンスタータイトルが多い。「シムピープル」や「シムシティ」シリーズは今やEAの屋台骨を支えているビッグシリーズといえるだろう。完成間近な「Sims Online」も大ヒットが期待されている。


ネットワーク世界で繰り広げられる「Sims Online」

編集部:今、一番時間を大きく携わっているプロジェクトは?

Will Wright(WW): いくつかのタイトルが同時進行で開発されているが、もっとも密接に関わっているのはやはり「Sims Online」ということになる。非常に大きなプロジェクトで、しかも急がされているから大変なのだ(笑)。

編集部:「Sims Online」の魅力とは?

WW: MMORPGに代表されるオンラインゲームは殺伐としているとは思わないか(笑)。何しろ常に殺し合いだから(笑)。これに対して「Sims Online」は創造的かつ人と人とのつながりを重視したコンセプトになっている。これはちょうど、Webサイト(ホームページ)にも似たコンセプトだと思う。

編集部:自由度の高いゲームだと聞いているが?

WW: そう。プレーヤーは「Sims Online」の世界に来てビジネスを始めることができるが、別にこれは強要はされていない。ただ単に見知らぬ人との会話を楽しむだけのプレイスタイルでもいい。

編集部:ビジネスを始めるとは?

WW: 主に他人を楽しませるビジネスが始められる。お店やクラブを経営したりとか。ゲームの目的というか、「Sims Online」におけるスコア的なものをあえて言うとしたら「何人の人々を楽しませたか」ということになるだろう。このあたりがWebサイトにも似ているといっているわけだ。

編集部:すると現実世界の再現のようなことをコンピュータ上でやろうとしていると?

WW: まあ、ある側面から見ればそういうことにもなるかもしれない。現実世界の人生とは違った人生を「Sims Online」の仮想世界で楽しめるようにしたい……これが基本コンセプトなのだ。

編集部:うーん。「Sims Online」のゲームの目的というのがはっきりと見えてこないのだが

WW: 「Sims Online」はプレーヤー1人1人が自分の好きな目的を持ってプレイすることができる。ある人にとってはビジネスに成功してお金儲けをすること、ある人にとっては多くの友達を作ることだったりいろいろだ。テレビスターのように「Sims Online」の世界で有名になることを目指してもいい。そういったゲームの目的というか、楽しみ方のようなものは、オンラインゲームなのであとからどんどんアドオンみたいな形で追加できるような仕組みを考えている。

編集部:シミュレーションゲームの将来性についてはどう展開していくと考えているか

WW: シミュレーションゲームに限らないが、最近考えているアイディアがある。それはプレーヤーが何を好んでいるかということをゲームシステム側が判断してプレーヤーを取り巻く環境がインタラクティヴに変化していくようなシステムだ。たとえば「Sims Online」でプレーヤーがSF好きだったら、それに関係したコミュニティを紹介したり、それに関係したゲーム内ビジネスモデルを提供したりとかができるようになるし、そうなれば常に「Sims Online」がそのプレーヤーにとってやりがいがあるものとして存在し続けられる。次世代のオンラインゲームはそうなると思う。

編集部:ゲーム制作において一番時間をかけている部分は?

WW: リサーチだ。もっとも時間をかけているし、私が大好きなプロセスだ。

編集部:試作品を作るといったところか

WW: それよりも前のいわば“Pre”-preproductionとでも言おうか(笑)。本を読んだりしてアイディアをため込むわけだが、このときが一番楽しい。そして次に時間をかけるのがゲームモデルの作成のところだ。

編集部:ゲームモデルの作成とはルールを作ったりするということか?

WW: シミュレーションゲームにおいては、「事象の簡略化プロセス」ということができる。つまり複雑な現象の要点だけを抜き出して、これがどうゲーム要素として成り立つかを考えたりするわけだ。そのあとは見た目にはひどいものにはなるが、少数の開発スタッフでプロトタイプを作ってみる。シムシリーズの成功のおかげもあって最近はゆっくりとプロトタイプがつれるようになったのがうれしい(笑)。

編集部:オンラインゲームの将来性についてはどう考えている?

WW: マーケティング面においては一般のカジュアルゲームプレーヤーの引き込みこそが今後のオンラインゲームの成功につながるだろう。「Sims Online」もそれを狙ったものだ。

編集部:オンラインゲームはゲームデザインの面では今後どうなるべき?

WW: オンラインゲームはシングルプレーヤーゲームとは違い、その世界に終わりがないことがウリなわけだが、実際には自然に飽きてしまうことも多い。たとえば「Ever Quest」は非常におもしろいゲームだが、レベル30を超えるとやはり飽きが来てしまう。そうならないように常にプレーヤーを楽しませる工夫が必要になるだろう。ただ、オンラインゲームはプロトタイプを作ってテストプレイをして……という開発スタイルができないから難しい。自分も「Sims Online」の制作に当たってはこの壁にぶつかった。


シムピープル、シムシティの続編の可能性について

「オハヨウゴザイマス、ニホンゴ・スコシハナシマス」と挨拶してくれたWill Wright氏。娘さん共々かなりの親日家のようだ
編集部:「シムピープル」の成功の秘訣はなんだったと思うか

WW: プレーヤーは人間だから、それぞれ結婚とか失職といった経験があるわけで(笑)、予備知識なしでシムピープルに接することができた。つまり、みんなが持っている普段の経験や知識がそのまま活かせる形でプレイに望めた……というのがウケた一番の理由だと思う。みんながみんな剣や魔法を使った経験があるわけではないし(笑)。

編集部:「シムピープル2」の可能性は?

WW: もちろんある。「シムピープル」の拡張パックとは別の形でね。まだ開発初期段階でいつリリースするかも決めていない。確実にいえることは「Sims Online」のあとになるということだ。

編集部:「シムシティ」の続編の可能性は?

WW: 数年前、「シムシティシリーズで自分がやることはもうないかなぁ」と宣言してしまったが(笑)、「シムシティ」の続編もある。自分は今「Sims Online」の方に集中している関係で、自分とは離れたところで開発が進められているのだが。


ウィル・ライトはゲーム好きでおもちゃ好き

編集部:個人的に「シムアント」の大ファンなのだが、Microidsの「EMPIRE OF THE ANTS」はプレイしたことがある?

WW: プレイしたことは無いが、知っている。あのタイトルについては非常に興味がある。

編集部:コンセプトが非常に似ているのだが「シムアント」との関係は?

WW: 無い。あれはフランスのBernard Werberの本が元になっている。私もこれは読んだことがある。

編集部:個人的には、また昆虫のゲームを作ってほしいのだが

WW: 将来はあるかもね(笑)

編集部:ところで、あなたは大変なおもちゃ好きと聞いているが、今夢中になっているおもちゃは何か?

WW: いい質問だ(笑)。最近手に入れておもしろかったのは「ROBOSCOUT」という、ラジコンロボットだ。CCDカメラ搭載でリモコンにその映像は出るし、リモコンにはマイクが仕掛けてあってそこに向かってしゃべると自分の声がロボットから出る。値段は900ドル前後だったと思う。

編集部:知っている。ショッピングモールで見かけた。まさかあれを買っていたとは(笑)……。最近熱中しているゲームは?

WW: 「Grand Theft Auto3」だ。あれは最近までよくプレイした。「グランツーリスモ 3」も好きだ。あれは今までのレーシングゲームで一番よかった。最近では「MEDAL OF HONOR」も気に入っている。あれはプレーヤーを取り巻く環境の表現がすばらしくサウンドもすごい。

編集部:Xboxは買った?

WW: ゲーム機というゲーム機はすべて持っている。ドリームキャストやゲームキューブもね(笑)。ゲームキューブは「ピクミン」が素晴らしい。あの腰を落ち着けてのんびりプレイできる感覚がいい。ドリームキャストは「エコー・ザ・ドルフィン」がお気に入りだ。

編集部:ゲーム好きですね

WW: 娘もね。彼女は「Ever Quest」をよくプレイしている(笑)。

編集部:日本にはあなたのゲームファンがたくさんいる。日本に来て講演したりすればいいのに。

WW: 機会があれば是非やりたいと思う。そういえば日本には数年前行ったきりだ。最近だと娘の方が日本に行っている。というのも娘は日本のアニメファンで(笑)、彼女はもう2回ほど日本を訪れている。そういえば、最近私は日本の建築物に非常に興味を持っているのだ。

編集部:昔の古い建造物?

WW: いや、お寺とかそういうのではなくて、近代の建築物の方だ。非常に独創的なデザインが多くてゲーム制作の際にもひらめきを与えてくれる。


「Sim Ville」キャンセルの謎、新プロジェクト「Spore」とは?

編集部:「Sim Ville」のプロジェクトが中止したのはなぜ?

WW: 今思い返すとちょっと風変わりなプロジェクトだったと思う。まず基本コンセプトは「シムシティ」のカジュアルバージョンという位置づけだった。しかし「シムピープル」がヒットし、その拡張パックまでリリースされてシムピープルの世界が広がったときにふと気づいたのは、「Sim Ville」のコンセプトと被っている、ということだった。

編集部:コンセプトが被っている程度ならば出してもよかったのでは?

WW: これからも「シムピープル」は拡張パック等で派生していくことになる予定で、そのうちの一つの方向性がまさに「Sim Ville」でやろうとしていたことだったのだ。

編集部:であればマーケティング面でブランド力のある「シムピープル」でやればいいことになると?

WW: その通り。

編集部:なるほど。ところで、「Spore」という新プロジェクトの存在を耳にしたのだが?

WW: まだプロトタイプ制作段階でコンセプトも決まっていない。リリース時期等も皆目見当が付かない段階だ。今は「Sims Online」に集中しているので。

編集部:「Spore」はゲームジャンル的にはシミュレーションに分類される?

WW: うーん(しばらく考えて)、かなり変わった方向性を持っているが、そういえなくもない(笑)。

編集部:オンラインゲームか?

WW: 違う。今のところはシングルプレーヤーゲームとして開発を進めている。しかし、将来的にどうなるかはわからない。「Spore」については、今はまるで宇宙をさまよっているような感じで、岩を目の前にした彫刻家のような気分なのだ(笑)。

(2002年3月2日)

[Reported by トライゼット 西川善司]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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