「World Cyber Games」レポート FPS編
ヨーロッパやアメリカの選手が実力を発揮

会期:12月5~9日

会場:COEX Seoul

 韓国ソウルでPCゲームの世界選手権「1st World Cyber Games」が開かれているのは昨日お伝えしたとおりだが、本稿ではCounter-Strike、UnrealTournament、QuakeIIIといったFPSの動向を日本人選手団の感想を交えてお伝えしよう。


■ 世界のトッププレイヤーたちのレベルは桁違いに高い!

これはメインステージで行われたCSの決勝風景。メインステージは数百人が一度に見れる環境が整っており、世界大会としてはなかなかのもの。とはいうものの、せっかくプロジェクターが2画面あるのに同じ映像を流していた。せっかくだから、双方のチームの様子を流してほしかった
CSのゴールドメダリスト[:LnD:]_caの面々。ステージ上でも常に声を掛け合ってプレイしていた。ちなみに、プロフィールを見るとほとんどの人が20歳以下! 20台も半ばの筆者はすでにロートルなのかも知れない
 正直な話、見ていてレベルがまったく違っていた。戦術、射撃能力、移動ルートの選択などすべての点で世界のトッププレイヤーたちの技術は高かった。特に「QuakeIII ARENA」のシングルマッチ決勝Zero4(アメリカ)vs Lexer(ロシア)。大国同士の代表が戦うということで、試合前から緊張感がピリピリ漂っていた。1on1マッチでは、一旦ポイントリードすると、安全策をとってそのリードを守って勝利することが多く、なかなか逆転することは難しい。そのためか両者ともに自分の国の代表がフラグを取るたびに歓声を上げていた(筆者の後ろがロシア応援団で、Lexer氏がフラグを取られると「チッ!」「オー……」、フラグをとると「イェー!」「ヒュー!!」と非常にわかりやすい反応をしていた)。

 試合自体はZero4が常にマップ上部の有利なポイントに位置し、Lexerを上から狙い続けるという展開に。こういったFPSの1on1ゲームにおいて、有利なポジションを取り続けるのは基本。よって、互いにそのポジションを取ろうとすることが多く、有利なポジション=激戦地の構図が成り立つ。決してLexerも弱いわけではないのだが、Zero4が実力を十二分に発揮し、有利なポジションを保持するという基本を忠実に守って勝利に結びつけたといえる。

 そして、ポジショニングのうまさに加えて注目したいのが両者の射撃能力。試合中、針の穴を通すような、必殺のレイルガンの応酬があったかと思えば、相手の動きを先読みしてロケットランチャーを近距離で連続でヒットさせてフラグを奪ったりといった決定力が日本選手に比べて数段上で、Zero4がロケットランチャーを使ってLexerを宙に浮かし、即座にレイルガンに持ち替えこれを撃墜するなど、特に空中での挙動が凄かった。

 通常、FPSでは横の動きが多いため、水平方向に移動していると被弾しやすい。そのため垂直方向、縦の動きを多く取り入れることで被弾率を下げるのだが、その分自分の弾も当てにくくなるというデメリットもある。しかし、決勝に残った二人は上下に移動する標的に対しても確実に弾を当ててくる。Zero4が行なっていた試合前の練習では、弾速の遅いロケットランチャーを使って相手を空中でお手玉するから驚きだ。これはゲーム空間内の距離感覚、弾の移動速度の感覚、自分がどのように動いているかというのを頭ではなく、体で理解して偏差射撃(移動目標に対する射撃テクニックの一種で、移動方向の少し先に弾を撃つことで正確に当てることを目的とする。)を行なっていることの現われだろう。

 もちろん一方のLexer氏もやられっぱなしなわけでなく、後ろからロケットランチャーを食らって空中に浮かされた瞬間、こちらもレイルガンにもちかえて反転、下から狙うZero4を逆狙撃するなど見せ場も作った。

 そして、射撃能力に加えて相手の動きを先読みする能力にもZero4は長けていた。有利な場所のポジションをとった後、敵が来る確率の高い位置に確実に銃口を向ける。といったことを徹底しているように見受けられた。それも、ずっと同じ方向を見ているのではなく、確率が高い方向を優先して360度すべての方向に対して警戒を怠っていなかった。

 こういう細かいことの積み重ねが、世界レベルでトッププレイヤーとなることに必要なのだろう。FPSがここまで人を熱くさせることができるのかと改めて思い知らされた試合だった。


■ 日本と世界のトッププレイヤーたちの実力差はいまだ大きい

「UnrealTournament」の優勝者、shuukGitzZz氏。UTは販売元からメインステージで大々的に決勝を行なうことを拒否されたので、急遽予選スペースにて決勝を行う羽目に
 結果から言ってしまえば、WCGにおける日本人FPSプレイヤーの結果は惨敗だった。総合的な敗因は後ほど語るとして、FPS3タイトル(「QuakeIII Arena」「Unreal Tournament」「Counter-Strike」)の決勝戦を通じて気づいたことをいくつか挙げてみたい。

 まず共通して上げられるのは、とにかくピリピリとした雰囲気の中で行なわれる試合経験の絶対量が少なかったのが痛い。UTの日本代表であるCrize[KOS]は、日本選手の経験不足を感じた具体例をいくつか上げてくれた。「マップのどの位置でどの武器を使うか?」という点がまず一つ。遠距離を見渡せる位置では即着弾系の大ダメージを与えられるライフルを、敵が飛び出しそうな位置ではASMDのコンボ(エネルギー弾をうち、それをレーザーで打ち抜くと大爆発が起こって大ダメージを与えられる)を、中近距離で対峙する開けた場所では連続してダメージを与えられるパルスガン(レーザーが連続して照射され、ダメージを与え続ける)を使用する、といった具合に「セオリー」とでもいうものがあった、とのことだ。こうしたセオリーの練りこみが日本人には足りないということだろう。

 加えて、もう一つはプレイスタイルの違い。韓国や日本、アメリカといった国は超ストロングスタイルで、積極的に前にでて、敵を追いつめてフラグポイントを稼ぐタイプだ。しかし、一方で優勝したshuukGitzZz(ドイツ)選手などのヨーロッパ勢のプレイスタイルとして、ある程度リードしたら安全な場所に陣取って敵を迎え撃つ、という用心深いプレイスタイルをとっていた。そのためか、遠距離での狙撃能力はヨーロッパ勢のほうが高く、接近戦を得意とするストロングスタイルの選手たちは、近づく前に次々とやられてしまうという展開がよく見られた。日本ではチキンな戦法として忌み嫌われる消極策だが、「勝利する」という一点のみに目標を絞り、練りこんだ戦術をヨーロッパ勢は選択して勝利につなげたということだろう。と、Crizeは語ってくれた。

「QuakeIII ARENA」で決勝を戦ったZero4(左)とLexer(右)
なかなかのナイスガイで、カメラを向けるとガッツポーズをとってくれた
 また、「Counter-Strike」に限っていえば、もっとLANで練習をつまなければならないことを強く感じた。上位のチームと日本チームの差を考えると、戦術レベルではけっして負けてはいない。しかし、上位のチームは、チームとしての連携レベルが桁違いに高かった。CSは5人一組でゲームを行うため、5人が息を合わせて連携をすることが勝利の鍵となる。トップクラスの選手たちは常日頃からPC房のようなところで顔をあわせて練習をしているためか、チームメイトの動きを肌で感じ、最適なポジションを的確に選択していた。チーム全体が一個の有機体のように連携可能なレベルにまで動きを引き上げる練習量を想像すると、その勝利への執念には恐れ入るばかりだ。

 一方で、日本チームの意思疎通の主要手段だった、メッセージチャットや文字バインドが土壇場のルール変更で禁止されてしまったために、連携がボロボロだったことが敗因として大きい。もっとも、射撃能力自体に大きな差があったのも事実。様子を見ようと頭一つ覗き込んだ瞬間に打たれる事が多かった。また、会敵した際、素早くしゃがんで射線のブレを少なくしてから射撃するのが日本での鉄則だ。しかし、トッププレイヤーたちにかかっては、しゃがんで動きの鈍った日本チームは逆にいい的だったようだ。

 また、上位のチームのリプレイを見るとわかるが「決して無理はしない」といったことが徹底されているように感じた。イケル! と思った瞬間のみ全員で突入し、それ以外の時はジワリジワリとラインを上げていくという傾向が強かったように感じる。


■ 来年日本人プレイヤーたちが勝利するためには……

最後に成田空港で集合写真をパチリ。とりあえず入賞するという目標は達成された。来年はもっともっと多くのゲームで成績を残せることを期待したい
 大会の全日程を終了した後、日本人選手たちと話していての感想だが、「世界と張り合うためには、基本的なプレイスタイルからもう一度見直さないとだめだ」というのが、共通認識としてあがっていた。日本の一般PCゲームプレイヤーを見ていると、ある一つのゲームをそこそこのレベルにまでやりこんだ後「このゲーム、飽きた」と、次のゲームに移ってしまうことが多い。メインとなるゲームをコロコロ移ってしまうから、強さのレベルがある一定以上にまであがらないのだ。これと決めたゲームを死ぬほどやりこんで、射撃能力や反射神経の純度を限りなく上げていくといったことが必要だろう。

 そのためには、日本に根強い「しょせんはゲーム」という意識を払拭しなければならない。「ゲームにどっぷりつかる」ことを歓迎しない日本の社会状況では、選手たちが腕を上げたいと思っても周囲の協力が得られない。そのような状況では、選手のやる気だけで実力を上げていくのは難しいからだ。ゲームがうまいことが、世間的評価の対象となるようにゲームをスポーツとして浸透させていくのも必要だろう。

 また、先ほども軽く触れたが「LAN環境で顔を突き合わせながら、練習を重ねていく」というのが非常に重要だ。日本のネットワーク環境もだんだんと高速化してきて、LANと変わらない環境に近づいてきたとはいえ、やはり同じ空気を共有して練習することで得られるものは多いのだろう。こういった練習を積み重ねていけば、日本選手の実力はもっともっと伸びることだろう。今回の対戦で得られたことを教訓に1年間研鑽を積み、来年のWCGでの日本選手たちが健闘してくれることを期待したい。

 次回は来年2002年の10月位に韓国釜山辺りで行われるということだ。そして、第3回大会からはアメリカや日本といった世界各国を舞台として、World Cyber Gamesは開催されていくとの事。日本でもネットワークゲーム市場や、プレイヤーの意識を十二分に盛り上げて世界大会に臨みたいものだ。最後に日本代表選手の皆さん「お疲れさまでした」。

□World Cyber Games(英文)のホームページ
http://www.worldcybergames.org/
□World Cyber Games(日本語)のホームページ
http://jp.worldcybergames.org/

(2001年12月11日)

[Reported by Tyokuta]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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