★ PCゲームパーツレビュー ★
8月、クリエイティヴはこれまで「Sound Blaster Live!」シリーズに登載されていた「EMU10K1」に変わる新しいサウンドプロセッサ「Audigy」を発表した。前モデルとなるLive!に採用されていたサウンドチップEMU10K1プロセッサが発表されたのが'98年8月なので、3年ぶりのフルモデルチェンジと言うことになる。モデルチェンジサイクルが極めて早いこの世界としては、Live!/EMU10K1プロセッサは異例の超寿命製品だったといえよう。 振り返れば、Live!シリーズの最有力の対抗馬としてユーザー数を増やしてきたAurel製、VORTEXサウンドプロセッサシリーズも、2000年4月にAurealの倒産で戦線を途中で脱落。終わってみればサウンドデバイスのISAからPCIへの移行においては最も出足の遅かったクリエイティヴが、結局は生き残っているという状況だ。今回は、PCゲームサウンドプラットフォームの最右翼と見られる本製品を、ゲームユーザーの立場から見た詳細レポートをお届けする。 ■ PCサウンドの新基準~「Sound Blaster Audigy」とは
●Sound Blaster Audigy Platinum eX~38,800円
●Sound Blaster Audigy Platinum~29,800
●Sound Blaster Audigy Digital Audio~18,800円 ただし、Audigyプロセッサのコアエンジンは32ビットのマルチエフェクトエンジンを内蔵した新設計のものとなり、最大4つのエフェクトを同時に処理できるポテンシャルを獲得するに至った。クリエイティヴ側の表現を借りるならば「AudigyプロセッサはEMU10K1の約4倍相当のパフォーマンスを発揮する」とのことで、Live!のEMU10K1プロセッサよりもさらに高度な3D音響効果の処理が実現可能になったようだ。 そして、現時点において、Audigy向けのEAXといっても良い「EAX ADVANCED HD」は、このAudigyプロセッサの新機能を活かすためのテクノロジーと見なしていいだろう。なお、従来のEAXに対し、以下のような新エフェクトが追加されていることが明らかになっている。
●エンバイロメント・モーフィング これまでにEAX規格はEAX1、EAX2と進化してきたわけだが、これらの機能の違いについては表1にまとめて見たので参考にして欲しい。ここで、表にEAX3がないことに疑問を抱く読者もいるかもしれない。実はEAX3はLive!時代に一度、大々的に発表されているのだが、未だLive!用には提供されておらず、クリエイティヴにEAX3について聞くと途端にトーンダウンしてしまう。EAX3をEAX ADVANCED HDと改名し、Audigyに提供された……というのが実際のところのようだ。
■ セットアップのコツ、インストールの際の注意
少々接続が複雑で、まず、Audigyカードとサブカードとは付属の専用フラットケーブル、専用IEEE1394ケーブルで、内部接続を行なう。そしてさらにAudigyドライブは専用の接続ケーブルでサブカードと接続する。 サブカードはPCIスロット等は占有しないが、ブラケットスペースは占有してしまうのでそのマザーボードの1スロットは占有することになる。言ってしまえば、「Sound Blaster Audigy Platinum」系に付属するAudigyドライブは、ユーザーの近くへSound Blaster Audigyの接続端子を持ってくるだけの、いわば延長機能的な役割でしかない。Platinum系のAudigyも、Digital Audio印のAudigyも基本機能は同一で、接続端子の提供の仕方が違うだけなのだ。もし、
・機器類の接続の際に、PC背面にまわるのが億劫でない というのであれば、Audigyドライブは必要ない。総合的に考えると、PCをゲームメインで利用しているユーザーであれば「Digital Audio」モデルで必要十分だと思う。 さて、今回、「Sound Blaster Audigy Platinum eX」を
CPU:Intel Pentium III 1GHz という構成のマシンにセットアップしてみたが、GA-6OXEのオンボードサウンドとの競合を起こし、動作不能となった。そこでGA-6OXEのBIOS設定メニューで「AC97 AUDIO」を「DISABLED」に設定したところ、正常動作が行なえるようになった。Sound Blaster Audigyはマザーボードのオンボードを初めとしたその他のサウンドデバイスとの併用は難しいと考えた方が良さそうだ。
対応OSはWindows 98SE/Me/2000となっているが、今回、Windows XP(製品版)にもインストールを試みてみたところ、Windows 2000用ドライバをインストールすることで正常の動作を確認できた。付属する各種ユーティリティも今回試した限りではひととおりまともに動作しているようだ。 ■ 既存のEAX対応ゲーム、4CHサラウンドサウンド対応ゲームの動作対応状況は?
繰り返しとなるが、Audigyは、これまでSound Blaster Live!シリーズ用に登場した全てのEAX1、EAX2対応ゲームに対して互換性があるとしている。EAX対応タイトルは、米Creativeが公開しているリストに示されているとおりだが、はたしてこれらが本当にAudigyでもEAXサウンドとして楽しめるのだろうか。 さすがにすべてのゲーム検証することは出来ないので
Populous:The Beginning
ところで最近の3Dゲームは、EAXに対応していないタイトルであっても、DirectSound 3Dの3Dポジショナル出力には対応したものも多い。こうしたタイトルは、サウンドカード側が4スピーカー出力に対応していれば立体的な音像定位が楽しめる。
これについては「MAX PAYNE」にて確認してみたが、Audigyでも正しく再生できていた。聴感も殆どLive!の時と変わらない。AudigyはEAXサウンドカードとしてだけではなく、最も単純な4スピーカー出力対応のサウンドカードとしても、問題なく使えるとみなしていいだろう。
■ EAX ADVANCED HDを体験する
そんなことはない。実は、Audigyの付属CD-ROMには、現時点で唯一のEAX ADVANCED HD対応デモソフト「GOLD MINE」が付属しており、これを実行させることで、前述の4つの新しい音響表現のうち3つを実際に映像付きで体験することが出来るのだ。以下では、具体的にどのような聴感が得られるかを述べると共に、将来的にどんなゲームシーンに適応できるかを考えてみることにする。 これまでのサウンドチップにおける残響効果処理(いわゆるリバーブ)は、ある一点で採取したインパルス応答データを元に残響効果を作り出していた。このインパルス応答データを「どのくらいの深度で畳み込み演算を行なうか」の処理しかしていなかったため、極端なことを言えば残響の「多い-少ない」しか表現していなかったのだ。 EAX ADVANCED HDのエンパイロメント・リフレクションズの場合は、音源とその音を反射させる物体の位置関係を相対的に考慮した上で、立体的な残響効果を演算する。そのため、二次以上の反射音の聞こえ方が、音源が移動するたびにリアルタイムに変化していくのである。
デモでは、山をバックに、カラスが鳴きながら聴者の周りを飛び回るだけだが、山からの反射音が、カラスの位置によってリアルタイムに変化していく様が聞き取れるはずだ。そう、どの方向に遮蔽物があるかが、聴覚的に判別できるのだ。これはFPS系、コンバットシム系で使えばかなり高い臨場感を出せることだろう。 簡単に言えば、これまで、音場プログラムの切り替えは「ぶつ切り」状態だったが、これを滑らかに切り換えることが可能になったということ。
デモではトンネルを入ったり出たりを繰り返し、トンネル内の深い残響効果からトンネル外の残響無しまでを滑らかに変化させる表現を聞くことが出来る。これはレースゲームのトンネルの通過シーンはもちろん、RPGやアドベンチャーゲームなどで、石床の玄関から絨毯敷きの部屋へ移動……のような音場表現などにも使えることだろう。 これまでの音響効果処理は聴者を取り巻く環境のみを考慮した再現を行なっていた。しかし、現実世界で音はそれを聞く者の都合に関係なく、周囲の環境に影響される。これをある程度マジメに再現しようというのがこの効果だ。
デモでは、洞窟の外にいる聴者に向かって、洞窟の中からコウモリが飛び出してくるシーンを見せてくれる。一瞬で終わるので何のことか分からない人もいるかもしれない。
これまでのサウンドチップの場合、洞窟の中でコウモリが飛んでいようが、聴者は洞窟の外にいるので、その飛来音に対しては残響プログラムは適用されなかった。多くの場合、その飛来音の生音を、小音量にしたものを鳴らしていただけだった。EAX ADVANCED HDでは、コウモリは洞窟の中を飛んでいて、その洞窟の奥から聞こえてきた音を聴者が聞いている、として現実世界に即した音響処理が行なわれるのだ。これは非常に臨場感を高めるので3Dゲームならばあらゆるタイプのゲームで効果を発揮することだろう。 ■ Audigyプロセッサの処理能力をテスト EAX ADVANCED HD対応アプリケーションが付属デモソフトしかない現時点では、Audigyを、既存のEAX対応ゲームや4chサラウンドに対応したゲームをプレイすることでしか活用できない。それでは、現時点ではAudigyプロセッサの高い処理能力というのはユーザーに何のメリットももたらさないのだろうか。 これを探るべく、DirectSoundおよびDirectSound 3Dにおいて複数同時発音を行なったときに、前モデルのLive!と比べてどの程度CPU負荷が少なくなったのかを、Ziff-DavisのAudio WinBench99を用いて調べてみた。結果を下表に示す。 ほとんどのテストにおいて、Audigyの方が「CPU負荷が少ない」という結果となっている事がわかる。44.1kHz/16bit、StaticVoice/StreamingVoiceの32声においては結果が他と逆転しているが、これは測定誤差の範疇だろう。ただ、「両者に明確な差がない」ということは、「44.1kHz、16bit時には発音数が増えてくると負荷率はLive!と変わらなくなる」ということを意味していることにもなる。Audigyを搭載したPCでも、CPU性能がそれほど高くない場合には再生サウンドのクオリティを闇雲に上げるのは避けた方がいいかもしれない。 一方、22kHz、8bit時は発音数の数によらず、Audigyの方がLive!よりもだいぶ負荷率が低い。ゲームなどにおける射撃音、爆発音、環境効果音などは、この程度のクオリティで再生しているゲームも多い。怒濤のごとくそうした効果音が鳴りまくるFPS系ゲームなどでは、「Audigyの方がゲームが快適に動作する」といった事もありえそうだ。
■ 結論! Audigyは「買い!」のサウンドカードではあるのだが…… AudigyはDVDビデオ再生時の5.1chサラウンドのパススルー出力にも対応しているため、PCにおけるDVD再生環境を構築するためのサウンドカードとしても利用できる。そのため、ISAバスサウンドカードを我慢して使い続けてきた人、かつて出所不明の安価なPCIサウンドカードを購入してしまい、来るべきWindows XPで対応ドライバのリリースが望めない人など、サウンドカードの買い替えを考えていた人ならば、次期主流サウンドカードとなることがほぼ間違いないAudigyは一番のお勧め品となると思う。 逆にゲームユーザーの視点から見て1つだけ残念なのは、Audigyは5.1chのリアルタイムエンコード機能を実装していない点だ。AudigyではDVDビデオのサウンド出力はS/PDIF出力できるのだが、PCゲームの4chサラウンド出力はアナログでしか外部出力できないのである。XboxやNVIDIAのnForceチップセットでは3D定位したゲームサウンドをリアルタイムに5.1chエンコードしてS/PDIF出力できる機能を持っているのだが、Audigyにはこの機能がない。4倍の性能強化がなされたというAudigyだが、この点についてはLive!から進歩がないのだ。
なお、AudigyプロセッサはプログラマブルなDSPであるため、ドライバソフトであるCreativeWareのバージョンアップで機能強化が見込めるという。もし、リアルタイム5.1chエンコードが、このドライバのバージョンアップで可能なのであれば早期対応を望みたいところだ。 □クリエイティブのホームページ http://japan.creative.com/ □「Sound Blaster Audigy」の公式ページ http://japan.creative.com/soundblaster/audigy/welcome.html (2001年10月23日)
[Reported by トライゼット西川善司] |
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