★ PCゲームレビュー ★

肥薩線に実地検証に行って来ました!
鉄道ファンに贈るスペシャルレビュー

Microsoft Train Simulator

  • ジャンル:鉄道シミュレータ
  • 発売元:マイクロソフト
  • 価格:オープンプライス
  • 対応OS:Windows 95/98/Me/2000
  • 発売日:8月24日発売


 マイクロソフトのFlight Simulatorは、今やPCシミュレーションゲームの定番とも言えるタイトル。美しいグラフィックスはもちろんのこと、PCの計算能力を活かしたリアルな動きが世界中の航空機ファンの心を捉えてきた。その、マイクロソフトが新たに発売するシミュレーションゲームが鉄道の運転を題材とした「Train Simulator」(MSTS)だ。


■ 鉄道運転シミュレーションの定番となるのか?

製品パッケージとその内容。クイックリファレンスの表面にはキーボードショートカットが。裏面は各路線の信号および標識一覧が掲載されており、すこぶる有用性が高い
 日本でもこれまで、音楽館の「トレインシミュレータ」やアンバランス(タイトー)の「電車でGO!」シリーズなど、鉄道運転を題材にしたPCゲームは存在した。しかし、トレインシミュレータは実写ムービーの再生を、電車でGO!がゲーム性を重視した作りになっており、その自由度の低さにもの足りなさを感じていた人もいるはずだ。MSTSは、海外で企画・開発されたタイトルながら前述2タイトルをずいぶんと研究したようで、より自由に鉄道の運転を楽しめるようなタイトルとして作られている。

 そのひとつは、Flight Simulatorなどと同様に3Dグラフィックスエンジンを用いた点。鉄道の車両はもちろん、駅舎やまわりの風景など、あらゆるオブジェクトが3Dで描かれ、運転席や客席、外部視点など6つの視点に切り換えられる。とくに外部視点はズーミングが可能で、近寄って迫力のある走行シーンを眺めたり、遠ざかって風景に溶け込んだ列車の様子を眺めたりできる。この3Dグラフィックスエンジンの導入により、データしだいで容易に別の路線を走ることが可能になっている。標準では「PCゲームファーストインプレッション」でお届けしたように、日本2路線、海外4路線のみなのだが、すでにトワイライトエクスプレスからは「JR中央線 東京-高尾」、エアロシムからは「国鉄485系・583系特急(仮称)」というアドオンタイトルがアナウンスされ、MSTSの世界の広がりに期待が持てる。

これが路線の紹介メニュー。各路線の基本的な情報が表示されるほか、その路線で走行可能な列車の情報も見ることができる
 もうひとつは運行アクティビティという、鉄道を運行する目的が設定されている点。この運行アクティビティは、自由走行にして車両や季節、出発駅やその時刻を好きなものに設定することもできるが、あらかじめ用意されたアクティビティ(シナリオ)が各路線に8本程度収録され、単調になりがちなゲームの進行を助けてくれる。たとえば、バーリントン ノーザン サンタフェ鉄道(BNSF)では、列車の解放や連結、オリエント急行では殺人事件の捜査に協力するため停車する時刻が決められているなどだ。

 そしてこのMSTSの優れている点は、路線や運行アクティビティをカスタマイズできるツールが標準で付属してくること。地形を作り路線を引くことが可能な「路線エディタ」、列車の発射時刻など各種条件を設定できる「運行アクティビティエディタ」、列車の運転席をデザインする「運転室エディタ」、世界地図上で路線を設定する「路線地形作成ツール」の4本がすべて標準で同梱されている。

Train Simulatorのゲーム条件を設定するのがこの運行アクティビティエディタだ。路線エディタより操作性はよいものの、用意されている運行アクティビティの変更が精一杯
 いずれもフルカスタマイズが可能なほど高機能なのだが、それゆえにおいそれとは使いこなすことはできない。実際にヘルプを読みながらツールを操作してみたのだが、あらかじめ収録してある路線データを少し変更するのが精一杯で、一からデータを作り出すためには、よほどの根性を入れて取り組まないと難しいかもしれない。とはいえ、これらのツールがあることで、アドインタイトルの開発が楽になるのは事実で、ソフトハウス以外にもパワーユーザーからデータの公開が相次ぐことも考えられる。個人的には、列車データそのものをエディットできる「列車エディタ」のようなものがあれば、カラーリングを変えて遊べたり、列車データを少し変更して別の系統の列車にしたりなど、より容易に楽しめたのではと思う。

 さて、ゲームの概要については、前述の「PCゲームファーストインプレッション」を参照してもらうとして、以下では収録されている6路線のなかから、一番の目玉とも言えるJR九州の肥薩線をクローズアップしてお届けする。

【ツール類】
路線や地形の配置を自由に変更可能な路線エディタ。ただ自由に配置できるといってもその使いこなしは超難クラス。使いこなすのは難しいだろう 運転室エディタでは、各車両の計器の配置などを設定できる。各計器ごとにオブジェクト化されており、細かい調整も自由自在 4本のツールのなかで、一番使う機会の少ないツールが、この路線地形作成ツールだろう。地球上のどの位置に路線が存在するのか、電化されているのか否かなど路線の基本的な情報を設定できる


■ そもそも肥薩線とは

これが肥薩線の主役、キハ31だ。前後両方向に運転台を持ち単行(1両での運行)運転も可能なローカル線向けディーゼルカー。本当はかつて肥薩線を走っていたD51も用意してほしかったところ
 JR九州の肥薩線は、九州の小倉-博多-熊本-鹿児島を結ぶ鹿児島本線の一部として明治42年に開通した路線だ。現在の鹿児島本線は八代(やつしろ)-鹿児島間で海側を走っているが、昭和2年に海側の路線が全通するまで文字どおり九州の大動脈として機能していた。とくに人吉(ひとよし)-吉松(よしまつ)間は、熊本、宮崎、鹿児島3県にまたがっており、これらの県の山々を縫うようにして路線が引かれている。その最大勾配は33.3パーミル(千分率、1,000m進むと33.3m上る)。つまり、山道などで見かける%表記に直せば3%ということになる。

 鉄道はもともと鉄の車輪と鉄のレールの摩擦を利用して進むため、ゴムタイヤとアスファルトで進むクルマに比べ粘着力が小さい。一定速度で進むときの効率は高いのだが、急勾配には弱いという特性を持っている。クルマで走る山道などでは10%という急勾配も珍しくはないのだが、鉄道にとってはとんでもない勾配なのだ(急勾配で有名な、旧信越本線の横川-軽井沢間で66.7パーミル、山陽本線の瀬野-八本松間で22.5パーミル。日本最急勾配が箱根登山鉄道の80パーミル)。

肥薩線の路線地図。肥薩線の起点である八代から徐々に標高が増し、人吉から急角度で高くなっているのがわかるだろう。最高地点は矢岳(やたけ)駅の536.9m
 そのため、線路を引くときに勾配が大きくならないよう、山をぐるりと1周しながら上るループ線や、進行方向を入れ換えながら進むスイッチバック線という工夫が考え出された。もちろんそれらの工夫は肥薩線でも取り入れられており、当時の蒸気機関車で上れる最大勾配を実現するために、2つのスイッチバック線と1つのループ線を持つ。というより、これらの特徴を持つために、全国的に有名な路線であり、MSTSにも収録されているのだろう。

 長々と肥薩線について書いてきたが、MSTSのようなシミュレーションゲームの場合、実際の路線について予備知識があるのとないのとではおもしろさが大きく違ってくる。 東京近郊に住んでいる方なら一度小田急線に乗ってからMSTSの小田急線をプレイするとその楽しさは倍増するし、オリエント急行をプレイする前にアガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」を読んでおけばより楽しめるはずだ。一通り肥薩線の特色を頭に入れたところで、MSTSの肥薩線をプレイしてみよう。

【肥薩線の四季】
降りしきる春雨の中を進む肥薩線のキハ31。雨粒の表現、そしてどんよりと曇った空のグラフィックス表現に注目してほしい こちらは夏。人吉駅を出てからすぐの場所にある一般道との並走シーン。やや上り坂になっているので、気を抜くとクルマに抜かされてしまう

真幸駅を出て、矢岳駅方面に向かう。個人的には、この秋のシーンが肥薩線にはよく似合う。線路際の木々が色づく程度だが、十分に秋を感じさせてくれる 九州でもこんなに大雪が降ることがあるのだろうか。右に見えるのが球磨川、そこにかかる鉄橋は鹿児島本線のものだ。つまり八代駅を出て間もない箇所ということになる


■ MSTS版肥薩線の概略を掴む

MSTSには各種の運転補助モニタが用意されている。これはマウスで計器をクリックすると説明を表示してくれる「計器類の説明モニタ」。右下のブレーキレバーの説明を表示しているところ
 まず、最初にメニューから「路線の紹介」をクリックしてみよう。左上に収録されている各路線が表示されている。肥薩線を選び、「地図」ボタンをクリックすると肥薩線の路線図と高度チャートが表示される。この路線図をよく見ると人吉-大畑(おこば)間で路線がくるりと輪を描いているのがわかるはずだ。実際にはループ線の中に大畑駅があり、列車が大畑駅を出た後一度スイッチバック線に入り、人吉方面に半径300mの輪を描きながら進んで行くためにこのような図になっている(スイッチバック線とループ線が同時にあるのは全国でもここだけ)。また、もうひとつのスイッチバック線は真幸(まさき)駅に設置されている。ちなみにゲームとは関係ない話だが、この真幸駅の入場券は真に幸せになるという意味からか近年人気があるようだ。

 地図を確認したら次は路線の紹介から「詳細説明」ボタンを押すと肥薩線の主力列車であるキハ31の運転席が目の前に広がる。運転席は2Dで描かれているものの、ちょっと汚れた感じや、各種計器パネルの再現性もバッチリ。このモードでは列車が自動で運行され、視点も自動で切り換わるので(マニュアル操作もOK)肥薩線の景色を存分に楽しむことが可能だ。本来ならここでメニューに戻り、チュートリアルを行なってキハ31の操作を習得するべきなのだろうが、チュートリアルに用意されているのは「電気機関車」、「ディーゼル機関車」、「蒸気機関車」の3つの車両のみで、ディーゼルカーや電車が用意されていない。

 まあ、ディーゼルカーや電車は、マスコン(マスターコントローラ)ハンドルとブレーキの操作さえわかれば何とかなるので省略されているのだろう。製品にはキーボード操作と信号の見方が書いてあるクイックリファレンスカードが付属するので、これを手元に置いておけば操作に迷うことはないはずだ。マスコンの動かし方とブレーキ操作、そしてキハ31の場合ギアや逆転器の切り換え方法を頭に叩き込んだら、メニューから「列車の運転」を選び運転開始だ。

【運転補助モニタ】
運行アクティビティでの条件設定を表示するのがこの「運転操作ノート」だ。細かな作業指示や運行表を表示できるので、忘れがちな運行アクティビティの確認に便利 「列車の操作」では、各車両の連結・解放作業が行なえる。肥薩線ではとくに必要とされないが、海外の路線の運行アクティビティによっては、重要な作業となる

列車を時刻どおり走らせるためには、「次の駅の情報」を表示しておく必要があるだろう。個人的にはデザインされた横型ではなく、実車同様の縦型表示にしてほしかったところ 横平トンネルを抜け、間もなく大畑駅だ。左側にはスイッチバック線があり、この「ポイント切り替え」の画面を見ながら、ポイントを操作する。あわてず操作しよう


■ スイッチバックとループを実感してみよう!!

人吉駅から無事大畑駅に到着。一旦停車し、Enterキーで乗客を降ろしたら逆転器で進行方向を切り換える。スイッチバックの始まりだ
 肥薩線に用意されている運行アクティビティは、以下の8つ。

 ・自由走行

 ・地震で損傷した路線

 ・旅客列車の短距離運行

 ・旅客列車の運行アクティビティのチュートリアル

 ・いさぶろう号

 ・しんぺい号

 ・燃料不足

 ・春の夜の川線

大畑駅を出てスイッチバック線に向かうキハ31。左奥が人吉駅、手前が大畑駅、右奥がスイッチバック線、右手前が矢岳駅に向かうループ線となる
 個々の詳しい説明は省くが、それぞれなんとなく想像がつくのではないだろうか。ちなみにいさぶろう号・しんぺい号は人吉-吉松間に走る観光列車で、SLが展示されている矢岳駅での長時間停車、ループ線から上ってきた線路が見える場所での一時停車、日本三大車窓と言われる矢岳第一トンネル付近での一時停車などを行なってくれる観光列車のことだ。人吉から吉松に向かうのがいさぶろう号、その逆がしんぺい号と名付けられている。

 最初はチュートリアルを選びたいところだが、肥薩線の白眉は人吉-矢岳間のループ線とスイッチバック線なので、この区間を好みの設定で走行できる自由走行を選ぶのがベスト。時刻や季節、天候は自由に選べるので、その日の気分にあった設定にしたらスタートだ。

スイッチバック線に入り、信号が青に変わったら矢岳駅に向かおう。左のカーブがループ線、右奥が大畑駅だ。駅舎の屋根が少し見えているのがわかるかな?
 路線の紹介と同じくキハ31の運転席が表示され、窓の向こうにはこれから進むべき鉄路がまっすぐ伸びている。ディーゼルカーであるキハ31の運転席には、4つのレバーが並んでおり、左から列車の進行方向を変える逆転器、列車を加速させるマスコン、ギアを変える変速機、列車の減速を行なうブレーキだ。それぞれを独立して操作することもできるが、最初はオプションメニューの「一般の設定」にある「操作を簡略にする」をチェックしておけば運転をアシストしてくれ、加速はDキーで、減速はAキーでと簡単な操作で列車を走らせることができる。また、マウスでの操作も可能だが、迅速な操作ができないのでキーボードショートカットを覚えておこう。

 いざ、信号が青に変わったら発車だ。Aキーを押してマスコンを奥に入れると、列車は徐々に加速していく。矢岳駅までは上っていくので、スピードが出過ぎることもなく、マスコンの位置にそれほど気を使わず運転できるだろう。ファンクションキーを使って運転補助モニタを表示させてもよいし、1~7のキーを使って視点を切り換え線路沿いの景色を眺めるのも楽しい。キハ31の「ジジジジジッ-」という実車からサンプリングされた走行音をBGMに、九州の自然を満喫したい。「俺が列車を動かしているぜ」という気分を一番味わえる時間だ。

もう一つのスイッチバックポイントがこの真幸駅。左奥が矢岳駅、手前がスイッチバック線、右に見える駅が真幸駅だ。ぜひ路線図を頭に叩き込んで、スイッチバックを攻略しよう
 人吉駅から5つ目の横平トンネルを抜けると大畑駅が見えてくる。実はこの横平トンネルの上には線路があり、横平トンネルがループ線の始点になっている。大畑駅に着いたら一旦停車。逆転器を後進にセットし、後方のポイントを変更してバックしつつスイッチバック線に入線していく。この部分がMSTSの肥薩線で一番おもしろい部分だが、実際の肥薩線と一番異なっている部分でもある。

 蒸気機関車時代はバックしてスイッチバック線に入線したのだろうが、前後両方に運転台のあるキハ31の場合、運転手自身が後方の運転台に歩いていき、その運転台を使ってバック(前進)する。この点だけは、製品発売後でも構わないのでアップデートしていただきたい部分だ。スイッチバック線に入線し終えたら、逆転器を前進にして、ポイントをループ線に切り換える。後は通常の運転と同様にマスコンのノッチを上げ加速していけばOK。これから先は自分自身でTrain Simulatorを手に入れ楽しんでほしい。そして、できれば実際の肥薩線も訪れてみよう。Train Simulatorの素晴らしさ、鉄道の素晴らしさを間違いなく実感できるはずだ。

【MSTSの再現性は?】
人吉駅を出て大畑方面へ向かうと、球磨川第三橋梁が見えてくる。鉄橋を渡るときに、きちんと列車の通過音が変化するのはお見事。この鉄橋を越えるといよいよ上り坂だ

キハ31の車内は、ペアシートとシングルシートが配置されている。実際のいさぶろう号・しんぺい号には、ペアシートに畳張りの板が置かれ、ごろ寝で車窓からの風景を満喫できる

大畑駅から人吉方向を見たところ。手前が大畑駅、左奥が人吉駅だ。スイッチバックの複雑な路線状況も、よく再現されている

ここがループ線のほぼ頂上になる。窓から覗き込むと大畑のスイッチバック線が見えているのが分かるだろうか。MSTSでは覗き込むことができず、見ることができない風景

肥薩線の最高地点となる矢岳駅。海抜は536.9mだ。この矢岳駅の脇にはSL展示館があり、D51 170号機が保存されている。MSTSの画面では、駅舎の左奥にある建物がそれだ

(C) 2001 Microsoft Corporation. All rights reserved.


【動作環境】
  • CPU:Pentium II 300MHz以上
  • メモリ:64MB以上(Windows 98/Me)、98MB以上(Windows 2000)
  • HDD:1.2GB以上(2.5GB以上を推奨)
  • CD-ROMドライブ:4倍速以上 (起動時必須)
  • 解像度:800×600~1,280×1,024ドット


□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/games/
□「Microsoft Train Simulator」のホームページ
http://www.microsoft.com/japan/games/trainsim/
□関連記事
【6月6日】PCゲームファーストインプレッション「Microsoft Train Simulator」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010606/trainsim.htm

(2001年8月24日)

[Reported by 谷川 潔]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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