ドロドロした政治世界を最新のテクノロジで描く
独裁者シミュレーション「REPUBLIC:THE REVOLUTION」

 現在、ユニークかつ過激な政治的テーマを持ったリアルタイム・シミュレーションゲームが英国で開発中だ。その名は「REPUBLIC:THE REVOLUTION」。

 あの「Populous」や「Black&White」の制作者として知られるPeter Molyneux氏の愛弟子Demis Hassabis氏が独立して起業したゲーム制作会社Elixir Studiosにて現在、2002年春の発売に向けて開発が進められている。
 Demis Hassabis氏は12歳でチェスマスター、そしてマインド・スポーツ・オリンピアドのワールドチャンピオンという肩書きまで持ち、さらにはケンブリッジ大学首席卒業という根っからの天才肌の23歳だ。

■ 真の意味の「シミュレーション」「ゲーム」とは?

 コンピュータ・シミュレーションというのは、自然現象や社会現象をコンピュータ上で再現し、外的な影響を与えたときのその現象の移り変わりを確認するものだ。そして「シミュレーション」「ゲーム」というキーワードが合体すると、シミュレーションに「ゲーム性」というエンターテインメントの要素を与えたものになる。
 多くの場合、この「ゲーム化」に当たり、シミュレーション対象となる現象にはデフォルメが適用される。例えば戦術シミュレーションであれば、兵隊はコマとして扱われるし、戦場はヘックス画面となる。

 「REPUBLIC:THE REVOLUTION」(以下REPUBLIC)は、この「ゲーム化におけるデフォルメ」部分を極力排除した上で、政治現象と社会現象という、近年あまりクローズアップされていなかったテーマをシミュレーション、そしてゲーム化している。
 ゲームである以上、例えばRPGなら伝説の戦士、アドベンチャーゲームならば名探偵といった感じで、普段の生活では体験できない夢やエンターテインメントを我々に与えてくれなければならないわけだが、REPUBLICでは、プレーヤーに「一国の独裁者(!)となるまでの道のり」を体験させてくれる。

町の交通機関もちゃんと機能している 要人を迎えに来たヘリコプター。乗り降りの際には暗殺に注意したい 住民はファッションセンスもさまざま。買い物だってします
遠くに見える山々も1枚画ではなく,ちゃんとレンダリングされた風景。描画境界点はTOTALITYエンジンには存在しないのだ 政治生命が危険にさらされたときには,暗殺もあり……なのか 暗殺は失敗しても成功してものちに及ぼす影響は大きい


■ コンピュータの中に人口100万の仮想都市を完全再現

 我々の社会にはそれぞれ違った思想、能力、外見を持った人間が混在して住んでいるが、その各個人に影響を与えるリーダーシップやカリスマを持った人間というものは確かに存在する。こうした「目立つ人間」は人々の心を捉え、民衆の意志というものを作り上げていく。
 REPUBLICにおいて、プレーヤーは、この「目立つ人」となり、政治、社会活動を続けながら、社会全体に影響を及ぼす一国のリーダーとなることを目指すことになる。

 実際の政治現象、社会現象をシミュレートする以上は、コンピュータ内に、その舞台となる「人間社会」を作り出す必要がある。先ほどREPUBLICでは「デフォルメを排除」していると表現したが、このゲームではコンピュータ内に人口100万の都市を極力現実世界に近い形で再現することに成功したというのだ。100万人いる人間ひとりひとりが、個別の顔を持ち、性別、年齢も異なり、さらに職業も違い、住んでいる場所も、生活の裕福度も微妙な差異が設定されている。町の施設も様々なものが設定されており、産業地帯には工場があるし、駅の近くにはオフィスビルやお店が建ち並んでいる。道路にはバスや車が走り、地下鉄などの鉄道施設もある。

 もちろん、生活スタイルも100万人ひとりひとりがその性格や職業によって異なっているが、REPUBLICの世界でも、朝昼夜、一週間といった時間サイクルが現実世界と同じように訪れるので、ビジネスマンは朝、地下鉄で出勤し、母親は子供を学校に送り出し、昼には買い物、休日になれば家族で公園に散歩に出かけたり、教会のミサに参加したりもする。裕福な人間は豪華な一軒家に住むが、中堅クラスの人間は集合住宅で暮らしている。
 そして人々にはひとりひとりに高度なAIが設定されており、自分なりの日々の生活を送りつつも、社会への関心を持っている。これも現実世界の人間と同じだ。テレビやラジオ、そして人々同士の会話等から情報を取り入れ、自分の中で処理し、それが意志に組み込まれていく。もし、その情報か影響力の大きいものであればその個人の行動にも影響を及ぼすこともある。

 こんな感じで、REPUBLICでは、映画「マトリックス」に登場したバーチャルワールドのような、かなり現実世界に近い人工の人間社会がコンピュータ上に構築されているのだ。

暗殺失敗。SP達があわただしく狙撃犯を追跡 政党批判を行っていた宗教家にリンチをくわえているところ 穏便に賄賂を手渡して黙ってもらうという作戦もある
重要人物を守るSP達 思い思いに暮らす人々 日が暮れると自動的に町には街灯がともる


■ 驚異のREPUBLIC用3Dグラフィックエンジン「TOTALITY」

 REPUBLICはゲームコンセプトも斬新だが、そのグラフィックエンジンも自社新開発の超強力なものが使われている。その名は「TOTALAITY」といい、TOTALAITY(全体性)の名に恥じない、エピックスケール表現が可能な3Dエンジンとなっている。

 ゲーム世界は完全な3D化がなされており、100万人いる人間も全てが3Dキャラクタとなっており、ベランダにおいてある植木鉢の草花までもが3Dキャラクタだ。朝には日が昇り、夕方には日が暮れ、夜になると街灯が光り出す。自然現象や気象現象も再現しており、驚いたことに雨がふれば水たまりができるし、雪が降れば町に積もるという。

 このTOTALITYエンジンがこれまでのゲーム向け3Dエンジンと最も異なっているのは、シーンごとの最大ポリゴン数が実質的に「無限」となっているところだという。つまり、数百万ポリゴンの3Dキャラクタ達が複数同時に混在しても問題がないというのだ。
 これまでの3DエンジンではLOD(Level of Detail)テクノロジーで、視点とオブジェクトの距離に応じてディテールの異なる3Dモデルを切り換えることで1シーンにおけるポリゴン数の増大を抑制していた。TOTALITYでは、このテクノロジーの進化形を実装しており、いわば「無段階LOD」を実現している。すなわち、視点からの距離に応じて動的に3Dキャラクタのポリゴンを間引き、シーンごとの総ポリゴン数を制御していくわけだ。

 このテクノロジーのおかげで、視点はゲーム世界のあらゆるところに設定が可能になっており、その都度、最高レベルのクオリティのキャラクタを元に、その状況やそのPCシステムに最適なシーンが描かれる。近くに寄れば、その3Dキャラクタのディテールに迫ることができ、遠く離れれば世界全体を見渡すことができるわけだ。

 実際にHassabis氏は、集合住宅のベランダの植木鉢の花のクローズアップから、NOVISTRANA国全体を見渡せる衛星写真級の超長ディスタントビューまでを、画面切り換えなし、ディスクアクセスなしでシームレスに視点移動する様を見せてくれた。そのズームイン、ズームアウトの自然な感じは筆舌に尽くしがたい。多くの3Dゲームにありがちな描画境界点も存在しないため、遙か遠方の風景もちゃんとレンダリングされているのが印象的だった。
 ゲームファンならばこれに近い3Dエンジンを見たことがあるかも知れない。そう、「Black&White」(以下B&W)の3Dエンジンだ。B&Wでも同様なことができるが、何を隠そう、B&WのグラフィックエンジンもHassabis氏が制作したものなのである。
 Hassabis氏に「B&Wエンジンはあなたの手によるものだが、TOTALITYはあれをより発展させたものなのか」という質問をぶつけてみたが「B&Wエンジンとは全く別のものだ。TOTAILITYはゼロから作り直している。だからB&WエンジンのプログラムコードがTOTALITYにあることはあり得ないよ(笑)」との返答だった。

 B&Wエンジンと比べると確かに無段階LODについては、その品質は各段に向上しているのがわかる。例えばB&Wでは地形における山などの突起物の頂点が、視点からの距離が広がると間引かれて「山地が平地に見える」といった現象があったが、TOTALITYにはそれがない。Hassabis氏の返答をまっとうに受け取らず、仮にB&W同系エンジンだとしても「世代は新しくなっている」と言っていい。

 さて、2000年のE3ではこのエピックスケール・3Dエンジンのみのデモンストレーションだったわけだが、今回はさらに人顔自動生成と物理エンジンの作り込みが行なわれたという。100万人の民衆キャラクターにはそれぞれが異なった顔が設定されている。個々の顔はモーフィング技術を使って自動生成しているのだそうだ。具体的には元となる顔モデルをいくつか用意し、その複数の顔モデル間でモーフィングを行なったり、頂点座標を変形させたりブレンディングを行って多種多様な顔を生成しているらしい。

 一方、物理エンジン部では、ゲーム中にテロ活動や暴動といった事象が発生したとき、地形や建物オブジェクトにその影響が動的に表れるようになったという。例えば、車が爆発したとすると、その爆風で周辺の建物のガラスが破損したり、車が傷ついたり、さらには地形にゆがみなどが生じるらしい。

都心は夜になっても人の往来は多い 夜道を1人で歩く美しいOLさん タバコを吸う門番。この人間味ある顔が自動生成というのだから驚きだ


■ REPUBLICとはどんなゲームなのか

 ゲームの舞台となるのは共和国時代のソ連をモチーフとしたNOVISTRANAという名前の架空の国家。プレーヤーはこの国のひとりの愛国者となる。政党を結成して党首となり、最終的にはこの国の現・大統領を追放し、自らが独裁者となる革命を起こすのがゲームの目的だ。

 敵は大統領だけではない。政党はプレーヤーのもの以外にも最大15党派があり、100万人の民衆の支持を合計最大16党派で争うことになる。プレーヤーは党首だが、実際に制御できるキャラクタは、その政党に属する(協力する)政治家(POLITICIANS)、ビジネスマン(BUSINESSMEN)、犯罪組織(CRIMINALS)、宗教家(RELIGIOUS LEADERS)、 軍司令官(GENERALS)の5種類。ゲーム中にこれらのキャラクターを切り換えていき、それぞれの能力を活かして政党の影響力拡大するための行動を行なわなければならない。

 Hassabis氏がデモンストレーションで見せてくれたのはこんなシーンだった。休日の人々が集まる公園で、ある宗教家がプレーヤーの党派を批判する演説を展開する。そして彼の周りにその話を聞くために集まる人々の姿が……。「ここで、キャラクター達を使って温厚に振る舞うも、無慈悲な行動を取るのも自由。ただし、その行動の結果は絶対に何らかの形で帰ってくるから注意が必要だ。」とHassabis氏。
 デモンストレーションではこの宗教家を人目のつかない街の一角に呼び出して賄賂を渡すシーンと、マフィアの人脈を使ってこの宗教家にリンチをくわえるシーンを見せてくれた。
 賄賂程度では彼の政党批判行為を抑制するには効果が低いかも知れない。一方リンチは即効性はあるかも知れないが、彼の政党批判の意志を強めることになってしまうかも知れない。
 「この他、より過激にスナイパーを雇って暗殺してしまうこともできる。しかし、その場合は金もかかるし、あの政党は危険だという噂が広まる危険性も高くなる。ただ、その人物が絶対的に自分の政党にとって危険な人物であれば暗殺も悪い選択肢ではない」
 ハイリスク・ハイリターンを狙うのか、それともローリスク・ローリターンを貫くのか……このあたりがREPUBLICの基本的なゲーム性と戦略性ということになる。

 この他、人脈を利用して有名なテレビタレントを起用して別政党批判のCMを打ち、マスメディアの面から相手政党を牽制したり、敵政党に関わる重要人物を拉致して洗脳したり、といったことも可能だという。もちろん、プレーヤーのとった様々な行動が敵政党にスキャンダルとしてスクープされて報道されたり、逆に敵勢力からプレーヤーのとった過去の行為を「ネタ」に「ゆすり」を受けたりすることもある。

 100万人の民衆は、水面下で行なわれているこうした「汚い」政党間の政治的駆け引きの結果の一部だけを見て、自らの意志判断を行なうわけであるが、そう、これはまさに我々が住む現実社会を鏡に映したものといっていい。

 REPUBLICはドロドロとした政治世界をリアルになおかつ辛辣に描きったゲームなわけだが、そうしたタブーに近いテーマをゲームとして、エンターテインメントとして楽しんでしまおうという発想は「英国的ユーモア」ならではのものだろう。
 発売は2002年の春になるとのこと。日本語化の予定はまだ未定。ゲーム内容や世界観が日本のゲーマーに受け入れられるかが微妙なところだが、ゲームアイディア的にもテクノロジー的にも斬新で、注目度は高い。期待して待っていよう。


□Republicのホームページ
http://www.elixir-studios.co.uk/

(2001年6月12日)

[Reported by トライゼット 西川善司]

I
【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】


ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.