ララ・クロフトにはもう逢えないのか……
「トゥームレイダー」シリーズの制作会社CORE DESIGN社長に聞く

 日本では発売後まもない「トゥームレイダー5:クロニクル」。そのポスターには衝撃的なコピーが書かれている。本当にララと逢えるのは最後となるのか? その世界的人気作「トゥームレイダー」のプロデューサであるCORE DESIGNのAdrian E. Smith氏への単独インタビューに成功した。

 CORE DESIGNの今後についてはもちろん、トゥームレイダーファンにとって気になる続編の可能性といったかなり突っ込んだ質問をぶつけてみた。

■ トゥームレイダーの続編の可能性はあり!!

 まず、日本はもちろん世界中のファンが最も気にしていることから。トゥームレイダーはシリーズ最新作(「トゥームレイダー5:クロニクル」)で終わりなのか。

Smith氏 そう。クロニクルで従来のトゥームレイダーのシリーズは完結と言うことにした。

 ということは主人公ララ・クロフトの冒険は2度とゲーム化されない?

Smith氏 キャラクタとしてのララは生き続ける予定だ。実は全く新しいスタイルのララの冒険を考えている。もちろん主人公はララ・クロフト、トゥームレイダーの主人公である彼女だ。しかし、ゲームスタイルは全く異なるものになる可能性はある。PROJECT EDEN(後述)のようなザッピングシステムを採用した物になるかも知れないし、詳しいことはまだなにも言えない。

 トゥームレイダーは1から5まであるわけだが、これらの作品を振り返ってどう思うか。

Smith氏 トゥームレイダーの1作目は我ながら傑作だったと思う。2作目はちょっと調子に乗りすぎてアクション要素のゲーム性を難しくしすぎてしまった。そして3作目は「一連作の続編」という宿命から、前作を上回ることに気を配りすぎてマップを広くしすぎてしまったという反省点がある。4作目は、会社の財政上なにかを作らなければならないといった問題があったり……(笑)。5作目は映画との連動企画という意味合いもあった。(映画版トゥームレイダーは日本でも近日公開予定)

 トゥームレイダーの続編ではなく、「PROJECT EDEN」の開発に至ったのはどうしてか?

Smith氏 「PROJECT EDEN」は自分がかねてより暖めていたアイディアによって生まれたものだ。実際、もっとも作りたかったゲームといってもいい。

 トゥームレイダーという人気ブランドを抑えても?

Smith氏 そうだ。我々はブランドのことよりも、やはり多くのクリエイターと同じように、常に自分の作りたい物を作っていきたいと考えている。PROJECT EDENの完成度には自分でも満足している。

 PROJECT EDENの特徴について教えて欲しい

Smith氏 複数キャラクタをザッピングシステムで切り換えながら、ゲームを進めていくというのが最大の特長だ。それぞれのキャラクタにはユニークな特殊能力があり、これを適材適所で使い分けていくことで、ゲーム上に仕掛けられた様々な障害をクリアしていくことができるようになっている。プレーヤーが操作していないキャラクタは自分で身を守ったりする。またプレーヤーキャラのあとを付いてくるように指示することも可能だ。トゥームレイダーシリーズではないが、爽快なアクションや、シーンごとに仕掛けられた謎を解いていくパズル的な要素は、通ずるものがある。ぜひともトゥームレイダーファンにもプレイして欲しいと思う。


■ CORE DESIGNの今後の展望~オンライン版トゥームレイダーの可能性も!?

 CORE DESIGNは今後どのようなゲームを制作していくのか?

Smith氏 3つのプロジェクト・アイディアが現在固まりつつある。

 1つは先ほども言ったような、ララを主人公にしたいうなれば次世代型トゥームレイダーだ。
 2つめは全く新しいアイディアが導入された奇抜なゲーム。たとえば我々がPS2用に開発したHerdy Gerdyはこのプロジェクト・アイディアに含まれる。もちろん「PROJECT EDEN」もだ。
 そして3つ目、最後はこれまでCORE DESIGNでは手がけたことのないアーケード・スタイルのゲームだ。たとえば、会社での勤務中に気軽に遊べるものなんかがいだろう。こうしたゲームもニーズは多いのでいずれ挑戦したいと考えている。

 CORE DESIGNはトゥームレイダーによって世界に名だたるゲームベンダとなったわけだが、新作を制作するたびに「失敗は許されない」というプレッシャーはあるか。

Smith氏 悩まされている(笑)。ゲーム市場が求めているゲームというのは常に変化していると考えている。これに対応していくことに我々は全力を尽くしている。たとえば、昔からいるオリジナルスタッフのグループに対して新鮮な考えを持つ新たな人材を入れるような工夫をしている。

 日本を初めとした世界中のゲームファンが知りたがっていることがある。それはCORE DESIGNのオリジナル・オンラインゲームだ。これについての展望は?

Smith氏 聞かれると思った(笑)。常にそのことについては考えていた。その意味で、「PROJECT EDEN」はマルチプレーヤーへ対応させている。まだ、具体的なことはいえないがたとえば次世代トゥームレイダーにこうしたオンラインゲームの要素を詰め込んだ物も考えてはいる。ただ、完全オンライン専用のゲームはまだ解決すべき問題が多いと思っている。まず第一にネットワークの問題だ。ネットワークのタイムラグなどがゲーム性に与える影響はすさまじいものがある。

 最後に、ご自身でプレイした他社製ゲームで好きなものがあれば教えて欲しい。

Smith氏 いろいろあるが、あえてあげるならば「Hired Guns」だ。ちょっと古いので知らない人も多いだろうが、ぜひ一度プレイしてみることをお勧めする。


■ Adrian E. Smith氏がかねてより作りたかったゲーム「PROJECT EDEN」とは?

 近未来、人類は、増えすぎてしまったその人口を、居住区の異常なまでの高層化によって対応していた。これにより新鮮な日光と空気は裕福な人たちだけの物となり、文字通りの社会の縦構造ができてしまう。下階層は犯罪が渦巻くスラムと化し、建造物の機能的な定期的メンテナンス以外に上層の人間が近づくことはなくなった。

 ある日、RealMeat社の下層工場地区が故障を起こす。RealMeat社これを修理するためのエンジニアを送ったが、戻ってくるものは誰1人いなかった。事態を重く見た当局はUrban Protection Agency(UPA)のトップチームに調査を依頼する。……と、このような独特な世界観を持った近未来SFのストーリーラインで始まるのがこの「PROJECT EDEN」だ。

 主人公であるUPAチームはそれぞれが特殊能力を持った4人のスペシャリストからなり、プレーヤーはこの4人を操作してゲームを進めていくことになる。プレーヤーは基本的には一度に1人のキャラクタしか動かすことができない。プレーヤーが動かしていないキャラクタは、その場に立ち止まるが、その際、賢いAIプログラムにより、自分達の身はそれぞれが自分で守るようになっている。ゲーム中、様々なトラブルに巻き込まれるUPAチームだが、その障害を、プレーヤーキャラを切り換えて(ザッピングして)、チームメンバーそれぞれの特殊能力を活用して乗り越えていく……というのが基本的なゲーム展開だ。

 電子制御されたゲートが開かない……この開閉を司るコントロールルームも鍵かかかっている…ただし小さな隙間がある。ここでメカに強いキャラクタを選択、ラジコン小型ロボをその隙間から入れ、部屋の中からドアを開ける。続いて、爆破のプロにザッピング、コントロールルーム内部の制御パネルを爆破……ゲートが開く……。デモンストレーションで見せてくれたのはこんなシーンだった。「適した局面で適した人材を使う」……PROJECT EDENのコンセプトはここにある。

 もちろん、仲間に自分の後ろを追いかけてくるような命令を出すことも可能。だったらいつもそうすればいいのでは? という疑問を持つかも知れない。だが、状況によってはこれはまずい場合もある。PROJECT EDENではReGenポイントという独自のエネルギーシステムがあり、これはチーム全体で共有している。チーム全体のヒットポイントと考えるとわかりやすいかもしれない。
 4人のうち誰かが死亡してしまってもReGenポイントがあれば、復活ができるのだ。逆にReGenを消費してしまった状態で全員が死亡するとゲームオーバーとなってしまう。つまり、いつも全員を引き連れていると一気に全滅してしまう可能性があるわけだ。
 たとえば、こんな局面が考えられるだろう。1人、2人の犠牲を引き替えにトラップを解除……だがそれによって残りのメンバーが助かる。のちに残りのメンバーがReGenポイントを稼ぎ、死亡していたメンバーも復活する……。こんな感じだ。
 PROJECT EDENでは「誰をどこで活用するか」……というゲーム性が「誰をどこで死亡せさてもいいのか……」という二極構造のゲーム性を生みだしているのである。ここがこれまでにもあったザッピングシステムを採用したゲーム達と異なっている部分だといえる。

敵が射程内にいればプレーヤーキャラ以外も全員攻撃してくれる プロテクターの光沢表現に注目。環境マッピングだ 2-2のチームに分かれて行動すべき局面もある


■ トゥームレイダーエンジンからの決別、新エンジンで表現力大幅アップ!!

 トゥームレイダーのグラフィックエンジンは、もともと3dfx製の初代Voodoo用、そしてプレイステーションで動作する物を前提に開発されていた。そのために、2,3,4,5とトゥームレイダーの新作が出るたびに改良が施されたものの、基本設計の古さから、その表現の限界をプレーヤーにも気づかせる結果となってしまった。それでも、トゥームレイダーが人気を誇っていたのは、「ララ・クロフトというキャラクタの魅力」と、「見た目だけでないゲームそのものの面白さ」があったからだろう。

 新作となる「PROJECT EDEN」ではブランド力が適用できないために、トゥームレイダーのエンジンを流用したのではビジュアル面で評価が厳しくなることは目に見えている。そこで、「PROJECT EDEN」の開発に当たっては全く新しいグラフィックエンジンを開発したという。
 この「PROJECT EDEN」エンジンはボーン・スキニング、リアルタイム・モーフィングといった新フィーチャーに対応しているという。ちなみにボーン・スキニングとは、生物キャラクタの表現には必須の概念で、ボーン(骨)を埋め込んだキャラクタに対し、ボーンの動きに合わせスキン(表面)の動きを自然に自動変形させてしまうジオメトリ・ブレンディング処理の一種である(DirectX 7からあったものだが、DirectX 8ではプログラマブル頂点シェーダの導入とともに、さらに仕様が拡張されている)。

 トゥームレイダーでは腕や脚の折り曲げの表現が前世代的だったが、新エンジン搭載の「PROJECT EDEN」では非常にリアルに表現できていた。登場キャラクタ達のプロテクターなどは環境マッピングが施されており、オブジェクト1つ1つの質感もトゥームレイダーよりも大幅に向上している。

 また、公開されているスクリーンショットを見てもわかるが、シャドウイング(影の処理)も「マジメ」にやっており、ちゃんとオブジェクトの形状に忠実な影が地面に落ちるようになった。これで、いままで丸状の簡易影でごまかしていたトゥームレイダーの時よりもグッと画面全体のリアリティ度が向上している。

人体表現のクオリティもトゥームレイダーと比べて各段に向上 アクションだけでなく謎解きも重要な要素。トゥームレイダー制作チームが作っている以上は当然のこと


■ マルチプレイにも対応、プレイステーション 2版も発売

 「PROJECT EDEN」は待望のマルチプレーヤーにも対応する(PC版のみ。プレイステーション 2版は未定)。  現時点では4人のキャラクタをネットワークを経由して1人1人が操る「協力プレイ」の存在をCORE DESIGNは明らかにしている。プレーヤー同士が殺し合うデスマッチモードについては「検討中で、今のところ未定」とのこと。トゥームレイダー同様にシングルプレイにメインフォーカスした作品だけに、デスマッチモード搭載の可能性は高いとはいえない。

 さて、下の画面写真を見ると、よくある屋内型1人称視点のシューティング (FPS) の雰囲気を持っていると感じるかも知れない。しかしトゥームレイダーの開発チームが制作しているだけあり、当然のごとく後方カメラからの3人称視点モードも用意されている。トゥームレイダーファンも一安心といったところだろう。なお、この両視点モードへの行ったり来たりは随時可能で、「ゲームの局面に応じて視点を切り換えていくとプレイしやすい」とのこと。

 発売は2001年9月。PC版とプレイステーション 2版がほぼ同時に発売される予定となっている。日本語版の発売の予定はあるようだが、その時期は未定なのが残念だ。

激しくも美しい戦闘シーンも本作の見所 床に落ちる影に注目。シャドウイングもバッチリ
こういう画面を見るとただのFPSのようだが、実は違う 電子ロックを解除するミノコ。適材適所…これがPROJECT EDENの合い言葉

□CORE DESIGNのホームページ
http://www.core-design.com/
□EIDOS INTERACTIVEのホームページ
http://www.eidos.com/
□「PROJECT EDEN」のホームページ
http://www.eidosinteractive.com/games/info.html?gmid=84

(2001年6月4日)

[Reported by トライゼット 西川善司]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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