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会場:台北世界貿易中心
入場料:大人150台湾ドル(約450円) 今回はこの資策会の紹介で、CGアニメーションムービーを中心とした、各種デジタルコンテンツを制作するDigimax、そして様々なプラットフォームにゲームを制作/提供するYECK EntertainmentとAgun & Milkという3つのメーカーを取材することができた。今回取り上げる3つのメーカーはフルCGでのコンテンツ制作、独立系ゲームデベロッパーという台湾では比較的珍しい存在である。 彼らはどんな未来を指向し、コンテンツを作り、台湾のデジタルコンテンツ業界でどんな役割を果たしていくのだろうか。本稿ではこの3つのメーカーと共に台湾最大手のゲームコミュニティサイトサイトBAHAMUTのレポートをお届けしたい。
■ ハリウッドスタイルのCGムービーで故宮の宝物を動かすなど、ユニークなチャレンジを続けるDigimax
Digimaxは1990年に映像編集や録音をするスタジオとしてサービスを開始、その後デジタル技術に移行し、1999年に開発部門を設立し独自コンテンツの制作を開始した。現在は3DCGムービーの制作を主な業務としており、さらに立体視CGムービーの制作など新しい技術に積極的に取り組んでいる。 これまでのオリジナルコンテンツの実績はショートムービーでの評価が中心だ。「Paradise」というショートフィルムを2004年の東京国際アニメフェアに出展するなど短編CGアニメを制作、2008年には「Heavy Duty」という作品でSIGGRAHで高い評価を受けている。ただ、これまで収益を上げるオリジナルコンテンツはなく、現在は編集業務での収入が中心となっているという。 現在進行中のプロジェクトが「Quantam Quest」だ。この作品はアメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)によって共同開発され、1997年に打ち上げられた探査衛星「Cassini(カッシーニ)」を題材に、光と闇の勢力が戦うストーリーが展開する。Cassiniは金星、木星を通過し、2004年に土星軌道に到達、土星の衛星タイタンにホイヘンス探査機を放出し、地球に探査データを送った。近年の惑星探査において最大規模の人工衛星を使ったプロジェクトだ。 「Quantam Quest」では「スタートレック」のカーク船長役で知られるウィリアム シャトナーや、「スターウォーズ」シリーズに出演したマーク ハミル、ヘイデン・クリステンセンといったハリウッドスターが声優として出演するという、SFファンを強く意識したキャスティングになっている。米Dreamworksの元スタッフなどが制作に参加しており、2009年の夏から秋に公開を予定している。 ストーリーとしては太陽の中にすむ“光子生命体”と、トカゲのような姿をした悪の宇宙人が戦うというものだが、Cassiniの形や役割、科学的考証にNASAが深く関わり、娯楽要素を盛り込みながらも科学を啓蒙する作品となる。立体映画としても楽しむことができ、北米の博物館や3Dシアターなどでの公開を予定している。 もう1つが、「国宝総動員」という作品だ。これは中国の歴史資料を所蔵・展示している台湾の“故宮博物院”を舞台としたCGアニメーション作品で、現在は故宮博物院で公開されている。故宮博物院での展示物が見学者がいなくなった夜に動き出すというコンセプトでコミカルなドラマが展開する。 故宮博物院に収蔵されている歴史的資料は中国の歴史を象徴する貴重なもので、世界的知名度も高い。Digimaxはそれらの資料の質感を生かした形で表情豊かに動かすというユニークなチャレンジを行なっている。水墨画に描かれていた人物が動き出したり、翡翠や陶器、石で作られた動物の置物が、素材の質感を持ったまま命を得て動き出す。 その質感はDigimaxの高い技術力を感じさせ、歴史的宝物がコミカルに動き回る姿は独特の幻想的な雰囲気をもたらしている。Digimaxは短編を皮切りにテレビシリーズ、さらに劇場映画を企画している。描かれるストーリーは台湾の歴史的故事や、語り継がれる民話がベースになる。中国への展開も考えているという。 今回話を聞いたDigimax董事長の黄賽雲氏は「アニメーション制作には『制作』。『クリエイティブ』、『マーケティング』という3つのパートが必要です。これまで私たちはまず制作部門を充実させ、ハリウッドに劣らない製品を作り上げるように技術を磨いています。同時にマーケティングでも台湾にありながらハリウッド映画の受託ができる環境を作り上げてきました。現在は、クリエイティブを課題としています」と語る。 このためDigimaxでは社内で積極的にストーリー、アイデア、そしてグラフィックスデザインを募り、検討を繰り返している。会社としても全力でバックアップしている。同時にプロデュースをすることができるクリエイターや、クリエイターチームと協力することで、制作ノウハウを学んでいきたいという。 黄氏は最後に「日本のユーザーさんたちには、私たちの作品を是非見ていただき楽しんでもらえればと思います。同時に、日本のゲーム業界や、アニメ業界の皆さんとは協力をしてアジアマーケットへ展開できればいいなと思っています。クリエイティブな部分、アイデアの部分で一緒に出し合って面白いものを作り上げていきましょう」と語った。
今回、Digimaxの作品を見て、人工衛星や歴史的資料の“質感”に特に驚かされた。そういったリアルなオブジェクトが動く表現力、実写では不可能な宇宙の表現や、現実では動かない歴史遺物が躍動する楽しさには強い魅力を感じた。一方で展開するストーリーは、いささか類型的で、技術デモンストレーションの側面が強く感じた。今後、ストーリーと演出、そして技術をどこまで高い水準まで上げていくことができるか、その時どんな作品が生まれるか、注目していきたい。
■ 同じオフィスとスタッフで2つのブランドのコンテンツを作り出すYECK EntertainmentとAgun & Milk
YECK EntertainmentとAgun & Milkは実際には同じオフィス、24人の開発スタッフを共有しており、PCオンラインとコンシューマーゲームの場合はYECK Entertainmentのブランド、Agun & Milkはモバイルゲームの開発パートナーという位置づけだ。今回はYECK Entertainment CEOの黄鶴樓氏とAgun & Milk CEOの蔡光程氏に話を聞いた。 YECK Entertainmentは現在「Legend of Glory」というMMORPGを開発している。MMO+MOのゲーム性を持っていて、プレーヤーは最大5人のパーティーを組んでダンジョンに挑む。醜く巨大なモンスターにいかに戦うか、派手なアクションと華麗なエフェクトが特徴だ。 クリック型のゲームシステムではなく、コンシューマタイプのモンスターの攻撃をかわしたり、スキルの有効範囲を活用したりとアクション性の高さを指向している。開発スタッフには以前、台湾初のPS3タイトル「Railfan台灣高鐵」を手がけた開発者もおり、現在もEAやTHQの下請けビジネスを受託しているという。 コンシューマゲーム開発のノウハウを活かして「Legend of Glory」開発を進めていくという。本作は以前、わずか3カ月という開発期間で、プロトタイプを開発し、東京ゲームショウに出展して注目を集めた。2010年7月のクローズドβテスト開始を目指して開発を進めている。ターゲットとしては中国を目指しているという。 Agun & Milkはモバイルゲーム、特にiPhoneのゲーム開発ですでに実績を重ねている。現在、世界の様々な生物、歴史的建造物など幅広いジャンルを映像で紹介する「ナショナルジオグラフィック」をテーマにしたパズルゲームを開発中だ。この他、かわいらしいデザインの童話の主人公たちが雀士として登場するユニークな麻雀ゲームを制作している。 「Santa Snow Ball」はクリスマスシーズンに発売したシューティングゲーム。iPhoneを傾けることでサンタを操作し、画面奥から敵が撃ってくる雪玉をかわし、タッチパネルで的に雪玉をぶつける。ステージ制となっており、ラストには巨大ボスが待っている。無料の体験版の他、ステージを追加した2.99ドルの有料版を発売しており、好評を得たという。 「CubeeCubee」はデザインとコンセプトがユニークなパズルゲームだ。様々な色に塗られたブロックが画面いっぱいに積み上げられており、3つ以上つながったブロックをタッチすることで消すことができる。iPhoneの機能を活かしてiPhoneを回転させると下方向にブロックが落ちる。iPhoneをぐるぐる回しながらブロックを消していく。ブロックが下方向に落ちるときはぷるぷると震え、それぞれの表情が変わるところなど「ぷよぷよ」に似たところもあるが、iPhoneを回しながらプレイするという感触が楽しい。 蔡氏と黄氏はともに台湾政府主導によるゲーム開発者を育成する「デジタルコンテンツ学院」でゲーム開発のノウハウを学んだ。スタッフの多くもデジタルコンテンツ学院出身だという。今回資策会からの紹介も両氏の経歴からである。台湾ではゲーム制作者は大手メーカーの開発スタジオに所属している場合が多く、独立系デベロッパーはまだまだ珍しい存在だ。
蔡氏と黄氏はユーザーへのメッセージとして「日本ユーザーの方にも台湾のゲームにふれていただき、日本国内開発とは違う感覚を楽しんでほしい」と語った。ゲームを作り提案していくという環境はより自由で多彩なゲームを生み出す可能性を秘めている。今後台湾でも独立系デベロッパーが増えてほしいと感じた。
■ ユーザー間の情報交換BBSから、台湾No1のゲームコミュニティサイトへ成長したBAHAMUT
BAHAMUTはExecutive Managerの陳健弘(Sega Chen)氏と、Vice Directorの陳健仁(Carson Chen)氏が学生時代に2人で立ち上げたBBSサイトからスタートしている。台湾の方の英語名は“あだ名”といった意味合いが強く、自分で決めたりすることも多い。Sega氏は「学生時代メガドライブが大好きだったから」という理由で、現在もSegaと名乗り、社内や知り合いからも“Segaさん”と呼ばれている。 会社名であり、サイト名であるBAHAMUTは「ファイナルファンタジー」シリーズの代表的な召喚獣から取ったという。BAHAMUTは台湾で日本のゲーム情報を交換する掲示板としてスタートし、現在はオンラインゲーム、コンシューマゲーム、アニメなど様々な情報を交換する台湾一のゲームコミュニティサイトとなった。現在はオンラインゲームの情報交換がコンシューマゲームのものと比べてページビューでおよそ10倍となっている。台湾ゲーム業界そのものが、オンラインゲーム中心であることを物語っている。 1,600万ページビューの内、1,400万がBBSでの利用者だ。BAHAMUTは現在アルバイトを含め32人のスタッフでサイトを運用している。ゲームニュースの発信も行なっており、メディアとしての役割を担っているが、あくまでBBSサイトとしての業務が中心だ。ニュースは4人のスタッフでゲームの他、アニメの情報も発信しており、メーカーのリリースや海外のゲームの公式サイトなどから収集しているという。 BBSはユニークな方式で運営されている。たとえば「Warld of Warcraft」を扱うコーナーを立ち上げる場合、1人の利用者が「マネージャー」として名乗り出て、BAHAMUT運用スタッフの承認を得た上で、管理を行なう。話題が多いゲームなどはマネージャーがサブマネージャーを指定し、数人で管理を行なう。 BBSでは誹謗中傷など“荒れる”ことが多々ある。マネージャーは利用者からの連絡を受け、発言内容の削除や、海賊版の情報、著作権問題に抵触するような問題に対処している。マネージャー、サブマネージャーは無報酬で管理を行なっている。 BAHAMUTはコミュニティサイト内のポイントを設定しており、良い管理、良い発言などを行なっているユーザーに他のユーザーが「グッドポイント」を提供できるというユーザー間の評価システムがある。このポイントは通常掲示板を利用しているだけでも溜まっていくが、評価を受けることで大きな財産となる。優秀な管理者や、常連達はよりよい場を作ろうというユーザーのモチベーションを上げてくれるシステムだ。 BAHAMUTのBBSにはテキストのみで議論を行なう硬派なものと、様々な機能を追加し、ソーシャルネットワークのようにユーザー間のコミュニケーションを楽しめるものが用意されている。コミュニティ掲示板の方ではユーザーは自分用のマイページが設定可能で、アバターを持つこともできる。BAHAMUTではこのアバタービジネスも展開しているが、ユニークなのはBAHAMUTは管理運営を行なうが、アバターのパーツは読者が作り、アップロードしているところだ。 ユーザーはエディタを使って様々なアバター向けアイテムを作ることができる。このアイテムの購入は、掲示板でのユーザーポイントを消費するか、現金で行なう。自作したアバターアイテムをどう売るかは、アバターを制作したユーザー本人が設定できる。価格に関してはユーザーの“貢献度”で決まる。現金ポイントの場合、ほとんどのユーザーのアバター価格は3ポイント(約9円)だった。リアルマネーポイントを使った場合は、販売価格の内3割がアバターをアップロードしたユーザーの収入となる。 アバターのデザインは種類が多いが、日本のキャラクタを模倣したものが多いのが気になった。日本の流行を敏感に取り入れていれており、ユーザーの熱意とキャラクターへの興味を感じられるが、著作権的にはグレーかな、とも感じた。BAHAMUT内の「キャラクター人気投票」といった企画も公式のイラストをそのまま使っていたりと、権利関係に関しては多分に「同人誌的」な“ノリ”のあるサイトだと感じた。 取材する前、筆者はBAHAMUTを台湾のゲーム情報におけるWEBメディアの最大手という印象で捉えていたのだが、取材をして話を聞くと、ユーザー間のBBSからスタートし、ユーザーの興味でサービスが追加されたサイトだと言うことがよくわかった。弊誌のような出版社が運営するメディアとは出発点も目指すところも全く違う。ゲームメディアは、ゲーム情報を直接ユーザーに伝えるのが目的だが、BAHAMUTはユーザー間でゲーム情報を共有するのが目的なのだ。
コミュニティサイトからユーザーが集まり、機能が追加され様々なサービスが集まり、そこにメーカーが広告を載せることで企業として運営され、結果として台湾最大手のゲームコミュニティサイト、ゲームメディアとなった。同人的コミュニティから進化していく、台湾ならではの特異の進化を遂げたサイトであることがわかった。サイトの中心はオンラインゲームコミュニティでも、様々なところで日本のコンテンツへの熱烈なラブコールが感じられ、その純粋な“好意”には驚かされる。一日本人としてうれしい気持ちも感じる。今後、このユニークなサイトがどのように進化していくのか、興味がひかれるところだ。
□Taipei Game Showのホームページ (2009年2月18日) [Reported by 勝田哲也 / 中村聖司]
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