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会場:ベルサール神田
コテコテだからといって、ターゲットが狭いわけではない。おしゃれは多くの女性にとって共通の関心であって、会員数は2009年1月末時点で約27万人、月間総ページビューは約3億にも達する。ほかのインターネットサービスと比べたとき、ページビューの高さが際立っているが、これは他ユーザーのアバターやアップロード写真を、じっくり見て回るためのSNSサービスだからだ。
OGC 2009では、この「プーペガール」のサービスについて、株式会社プーペガール 代表取締役 森永佳未氏がここまでの歩みと現状を語った。女性向けかつファッション分野と、極めてターゲットが明確なサービスだが、OGC 2009にふさわしくコミュニティ論一般にも通じる講演の模様をお伝えしよう。
■ 一女性向けサイトの成功と片付けるなかれ
さて、「プーペガール」に集まった女性達は、ほかのユーザーがアップロードした服や靴、小物の写真を見て回る。そのなかで気に入った物があったときには「ステキボタン」をクリックすることで「褒め合う」コミュニケーションが可能となっている。「ステキボタン」の1日当たりクリック数総計は30万件ほどになるそうだ。写真にはコメントを寄せることもでき、こちらは1日に20万件ほど、ネガティブなコメントは実際「それほど」なく、「買った服について友達と話す、日常のワイワイ感の再現」を目指しているという。こうしたリアクションの仕掛けが、写真投稿の励み、動機付けになっているのは言うまでもない。 そうして投稿された写真を、ブランドごとに検索し、整理された形で参照できる仕組みがあるのも、既存のSNSと違うファッションサイトならではだ。「オシャレじてん」なるページからは約4,000のブランド、総計1,000万枚の写真が参照可能というから、画像データベースとしてもなかなかの規模である。「まだ日本の公式サイトに掲載されていないブランドアイテムをハワイで買ってきて、載せてくれるといったユーザーもいる」とのことであるから、鮮度の高さが求められるファッションの世界に、ふさわしい情報集めの工夫といえよう。
もちろん、元来アバター付きSNSサービスであるから、自分と気が合いそうな人と「プペ友」になる、着飾ったアバターをみんなに見せるといった機能も備えている。
■ 隠された欲求を表に出せる条件とは?
それを打開するためのヒントになったのが、米国で大ヒットしていた人形「アメリカンガール」だった。肌や髪、瞳の色の組み合わせがさまざまに用意されたこの人形は、さまざまな人種の人が自分の分身を見つけられることがヒットの秘密で、これはまさにアバターである。 そうしたわけで、自身の分身たるアバターを着飾らせるためのサイト内通貨を、写真投稿で得るという動機付けの回路が編み出された。またこの回路の働きとして深く納得したのが「自分の服を見せびらかしていると思われたら普通嫌だ。でも、アイテムをもらうためという理由付け、言い訳が用意されたら」という説明だ。
この回路を駆動させるための必須条件は、まずアバターが可愛く、それをより可愛くしたいと思えることだ。「サービス立ち上げ当初、一番力を入れていたのは、アバターがきちんと若い女性に“刺さる”こと、それだけの世界観を作れるか」だったというのは、適切な認識といえよう。かくして2007年2月28日に「プーペガール」は産声を上げる。
■ 現実の助けになるアバターサービス
「プーペガール」の収益は、アバターアイテム用サイト内通貨の販売と、バナー広告、タイアップ広告の3つで確保される。スタイリッシュなサイトデザインゆえ、バナー広告のメニューは2種類しかないそうだが、特筆すべきはタイアップ広告である。 講演ではルイ・ヴィトン、COACH、KOSE、LANCOME、サンリオなどさまざまなブランドとのタイアップ事例が紹介されたが、話として面白かったのはアパレル業界の「横並び体質」についてだ。性格には、横並びというよりも等級意識と表現すべきかもしれない。アパレル系クライアントは、自身が対等以下と見なしている企業しか入っていない広告枠に、断じて投資しようとしない。それゆえ、初手で最高峰たるルイ・ヴィトンを攻略することなしに未来はないという認識で事に当たったそうで、このあたりは広告代理店であるサイバーエージェントを母胎に持つ会社らしい、明瞭な戦略だ。
2D描画のサイトでルイ・ヴィトンのブランドイメージにふさわしい雰囲気の仮想ブティックを構築し、デザインワーク陣の力量をタイアップに十分とアピール、かつルイ・ヴィトンアイテム着用必須というアバターのファッションショーを開くといった真剣勝負は、聞き応え十分なビジネスゲームの話題だった。
「プーペガール」におけるファッションブランドとのタイアップで面白いのは、それがそのまま現実のファッションとつながっている点だ。ルイ・ヴィトンの例に基づけば、(タイアップ品目について)「よく知ることができましたか?」という質問と、「現実のコーディネートの参考になりましたか?」という質問に対し、7,000人以上のアンケートサンプルのうちどちらも半数以上が「できた」、「なった」と回答しているという。そして(そのブランドのアイテムが)「欲しくなったかどうか」という質問では、やはり半数ほどが欲しくなったと答え、4%は買ったと回答したらしい。広告の効果判定はたいへん難しい分野なので、気軽に論評できないが、少なくともアバターの装いを自身の装いの参考にするという提案は、大きな可能性を持つ発想に思える。 世界を代表するファッションコミュニティを目指すと標榜する「プーペガール」は、英語版のWebブラウザでアクセスすれば、ほとんどの文字情報が英語で表示されるようになっている。そして、最大の関心事であるファッションの情報については、写真でありデザインであって、基本的に文字情報の障壁が高くない。それらを反映してか、登録ユーザーの10%は英語圏、7%は中国語圏、4%はスペイン語圏に属し、アゼルバイジャンからのアクセスもあるのだという。
さらなるインターフェイスの改良や、同じブランドに興味を持つユーザーをピックアップする仕組みの導入など、データベースとしての機能をさらにブラッシュアップする課題を抱えているとのことだが、まだまだ快進撃は続きそうな雰囲気だ。
■ 仮想現実=現実生活を豊かにするもの
バーチャルワールドとは何かという問いに対し、Virtual World Expo 2008は「MMOGのことではない」と述べ、「コミュニケーションを主体とした現実の延長」こそがバーチャルワールドであって、ゲームは1つのツールに過ぎないと位置付ける。そしてそれはSNSの延長線上にあって、現実生活を豊かにすることが大きなテーマだとする。いやまあ、なんというか、「プーペガール」のコンセプトからすると、願ってもない概念規定となるわけだ。
そして講演ではバーチャルワールドならではの広告効果として、「Engagement」(エンゲージメント。もともと、接続、社会参加など多様な意味合いを持つ)なる概念が挙げられ、対象物に関してどの程度のコミュニケーションが取られているかを、例えば滞在時間やワールド内でのアクション数などで測ってみるという考え方が紹介された。これも、「プーペガール」の価値を考えるうえで、確かに有益な視点であろう。
それでも「プーペガール」の事例は、現存するゲームを含めたバーチャルワールドの可能性を考えるときにヒントになり得る有益なものだと、講演を聴いて感じられた。小難しい形式議論はさておいて、現実への興味関心がゲームサービスやバーチャルワールドサービスにとって活用できる資源だと、教えてくれているように思えるのだ。 バーチャルワールドと聞くと、我々は「Second Life」のようなものを念頭に、いきなりメタバース(meta-verse)としての広大な仮想空間を想像してしまいがちだ。しかし、用途や関心対象を限定しても、そこにアバターやUGC手法を活用する余地は十分にある。そして、とりあえずそちらのほうが収益モデルも立てやすそうではないだろうか? もともとメタバースとは、全世界を意味するユニバース(universe)をuniとverseに分解したうえで、使い方を拡張した造語である。さかのぼってそう考えたとき、大きな統一された仮想世界だけが目標でなくても、別によいのではなかろうか? 仮想現実の活用は各論から入ってもいい。そのことを「プーペガール」の快進撃は教えてくれている気がする。
また、ファッションとは女性にとってたいへんメジャーなアディクション(嗜癖)の1つであるというだけで、ほかのアディクションに可能性がないというわけではない。現実が持つ魅力をうまいこと拝借して本気で愛好者層をオーバーラップさせるという、ある意味でニッチ指向の努力こそ、ひたすらマスを追うことにやや疲弊気味の(失礼)ゲーム業界にとって、参考になる部分も多いのではないだろうか? 仮想現実に、現実の魅力を教えられたという意味で、たいへん刺激的な講演だった。
(2009年2月6日) [Reported by Guevarista]
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