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会場:ベルサール神田
本稿ではOGC2009から、“ネットコミュニティ”をテーマに、ソーシャルネットワークサービスの「mixi」、YOMIURI ONLINEの女性向けコーナー“大手小町”内の掲示板サイト「発言小町」、ソーシャルブックマークサービス「はてなブックマーク2」をテーマにした講演を取り上げたい。 会員数1,630万人を数える「mixi」、月間1億ページビューの「発言小町」、ユーザーのブックマークをコミュニティーサービスに繋げる「はてなブックマーク2」。本誌の読者も名前を聞いているだけでなく、実際に利用しているユーザーも多いと思う。講演では、各サービスの現状と未来、そして運営理念からのユーザーへのアプローチが語られた。
■ 紹介制から登録制へ、日記から発展する広告モデルなど2009年からの「mixi」の施策
今回の講演ではミクシィ mixi事業本部長の原田明典氏による、mixiのこれまでの展開と、今後の戦略が語られた。原田氏は、最初にmixiユーザーの傾向を紹介。「mixi」は、現在携帯電話(モバイル)とPCで閲覧可能で、月間PV(ページビュー)がPCで41.7億、モバイルでは101.3億を数える。意外にもモバイルでの利用のほうが圧倒的に多く、会員としては女性比率が半分以上で、20~24歳のユーザーが多い。 地域別だと、首都圏が全体の43%と圧倒的で、近畿地方では人口が多い大阪より京都のユーザーが多い。原田氏はこの傾向を「mixiユーザーの中心は大学生の女性中心で広がっているからだ」と語る。「mixi」のメインコンテンツは友人に公開する日記コンテンツだ。知人に自分の思っていることを打ち明けたいと考えるユーザーの繋がりが「mixi」の中核で、そこから広がってきたのだという。 「mixi」は2004年にスタートしてから、会員を増やしつつ、他のSNSと競争してきた。2005年からは会員によるプレミア制を持たせながら、2006年にモバイルでの閲覧にチャレンジした。他のSNSの多くは招待制から登録制に切り替え会員数を増やそうと試みる時期に、「mixi」はモバイル向けのサービスを優先させることで、20歳前後の若い女性というボリュームゾーンのユーザーにマッチした施策をでき、彼女たちのコミュニケーションツールとして他のSNS以上にユーザーを確保することができた。 そして2009年から、「mixi」は登録制にシフトし、さらなる施策を打っていくことでより広いユーザー確保を目指していく。新しいアプリケーションや、望んだユーザーは検索サイトでも掲載されるようにインターネットへの公開など、ユーザーが選択できるサービスを提供していく。登録制ユーザーにより間口を広げる一方、「友人達だけのコミュニティを保ちたい」というユーザーへのサービスなど、多様化するユーザーへ対応していくという。 よりセキュアな状況を目指し、啓蒙をしながら、参加ユーザーの幅を広げていく。「mixi」は2008年11月に18歳までだった年齢制限を15歳に引き下げた。以前も年齢を詐称して低年齢ユーザーが使用し、問題になったケースもある。低年齢ユーザーに関しては例えば同学年や、友人と低年齢の場合のみ使えるサービスを用意することで、詐称を防ぐなど様々なプランを企画している。「mixi」のアカウントを使うことで、住所を知らない友人に年賀状が送れる「ミクシィ年賀状」など、今後は会員ならではのサービスも拡大していく。 一方で、収益モデルに関しては様々なサービス、アプリケーションによる課金プランの他、広告も考えている。アプリケーションとしては、友人と共有できるスケジュール表など、広告はユーザーが商品を紹介する日記を書いたとき、その日記に関連した広告が展開できるなど、アフィリエイト的広告モデルも考えているという。またコミュニティの性格に合わせた広告モデルなど「mixi」ならではの広告モデルを検討しているとのことだ。 講演の最後には「登録ユーザーだと友人が一人もいない状態からスタートするが、どうするのか」、「海外への展開は考えているのか」といった質問が出た。原田氏は「登録制にすることで、以前誘われたがそのときに断ってしまった、最近『mixi』が話題になって気になっているといった、機会が少なかった、逃してしまったユーザーを取り込めるし、また、1,600万のユーザーから知り合いを捜すということも可能だ」と答えた。 海外の展開に関してはに原田氏は「まずは国内、1,600万は、20歳代の女性が中心でできた数字ですから、これからは登録ユーザー、年齢層の異なるユーザーを取り込んでいけるはずです。国内の需要はまだある」と語る。海外に関しては、株式会社ミクシィとして試験的に中国でSNSを展開したが、日本国内とは違い、女性中心の日記コミュニティ、という形では展開できていないという。また、ユーザー紹介型のコンテンツは北米ではライバルが多いのが現状で、まずは日本国内のユーザー、そこから漢字圏のユーザーを視野に入れていると答えた。
今回のOGC2009では「mixi」以外にもネットコミュニティ、オンラインサービスの現状と課題が語られたが、その中で「mixi」の原田氏は特に明確なプランと戦略性を語ったと感じた。登録ユーザーの登場は「mixi」内で多少混乱は呼びそうだが、アプリケーションや対応で新し繋がりやアプローチが見えることには注目したいし、ネットビジネスとしては広告展開も気になる。今後の展開に期待したいところだ。
■ YOMIURI ONLINEでニュースよりも高い注目を集める、月間1億PVの掲示板サービス「発言小町」
「発言小町」のページビュー(PV)は月間1億以上、YOMIURI ONLINE全体で3億ほどということで女性向けコーナーの、掲示板サービスが全体のPVの1/3というところからも人気のほどがうかがえる。この掲示板はユーザーが自由に書き込めるのではなく、編集スタッフのチェックを受けてから掲載されている。投稿は1日に2,500~3,000通ありそれを1人の専任編集者と、数人の派遣スタッフでチェックしている。 今回、「発言小町」の現状と課題を語ったのは読売新聞東京本社メディア戦略局編集部次長の神崎公一氏。YOMIURI ONLINE全体を監督していて、「発言小町」でも監督であり、責任者という形で関わっている。以前は“編集長のおすすめ”というコーナーも担当しており、「発言小町」からの発言の紹介も担当していた。「発言小町」の爆発的な人気のため、YOMIURI ONLINEの“編集長のおすすめの”トピックの1つは必ず「発言小町」のものが出されるようになっているという。 「発言小町」のトピックは、女性の様々な悩みだ。育児、近所づきあい、海外での生活の悩み、親子関係など様々で、ユーザーの年齢も多岐にわたるが、特に30~50代の女性が多い。多くのネットコンテンツよりも年齢層が高めなのは、読売新聞の読者が利用者と重なっているのではないかと神崎氏は考えている。年齢層が高めなためか、自主的に「品位を保つ」という意識の投稿が多く、悩みへの回答もまじめで真剣なものが多い。 その一方で面白いのは、海外生活や、「父がお金持ちでプレゼントばかりしすぎて困っています」といった、“贅沢な悩み”は批判的な意見が集中して、“荒れる”という。以前神崎氏は、「夫の稼ぎが少ないのでアルバイトをさせたい」という妻の悩みを編集長のおすすめに掲載したところ、ユーザーが殺到し回線がパンクしそうになるほどPVが跳ね上がった。ユーザーだけでなく社内でもこの質問に関しての議論がおこったという。 発言の編集は専用のツールで差別的発言などはチェックした上で、特定の人物や団体への意見は避ける。チェックするスタッフは女性がほとんどで、その理由は以前、若い男性がスタッフとして参加していたが、内容に入り込みすぎて、ある日突然「女性が信じられなくなった」といって会社を飛びだしていってしまったことがあるからだという。習熟したスタッフは「絵のように見るのがコツなんです」と語ったという。掲載は現場スタッフの判断がほとんどで、神崎氏は責任者として監督している。難しい場合のみ神崎氏が直接判断する。現在は2割程度の投稿が“ボツ”になる。ツールと体制、そしてスタッフの熟練により、最短で2時間で発言が掲載できるようになってから、人気が跳ね上がった。 人気を集めている「発言小町」だが、読売新聞社社内からは圧倒的なPVが広告での収益に繋がっていない点が課題になっている、と神崎氏は語る。読売新聞そしてYOMIURI ONLINEのメインコンテンツはニュースであるが、ランニングコストも段違いの「発言小町」がPVを稼げるというところも内心複雑である。そしてなにより、収益に繋げるための施策が急務だ。 収益モデルへの模索に関しては書籍化も一度行なわれているが、「発言小町」をテーマとした講演やトークショウ、また議論がきっかけで生まれたアイデアをグッズとして販売したらどうか、など様々な案が考えられているとのこと。一方で、「発言小町」での話題を読売新聞で紹介し、専門家に相談するなどクロスメディアは進みつつある。
「発言小町」の面白さは、新聞社がチェックして成立している掲示板というモデルが受け入れられ、大きな人気を博していることだ。一方で収益という点に関して、ネットビジネスの難しさも感じさせられる。今後の掲示板ビジネスという点も含めて、どのような展開を見せていくのだろうか。
■ 「はてなブックマーク2」、ブックマークで繋がるコミュニティの魅力と課題
「はてなブックマーク」は2008年11月にリニューアルし、「はてなブックマーク2」としてさらなる人気を博している。現在ユーザーは22万人を越え、3,500万のブックマークが登録されている。今回の講演では、はてな執行役員/最高技術責任者(CTO)の伊藤直也氏がこのリニューアルの特に“コミュニティ”での施策を語った。 自分のお気に入りを公開し、カテゴリ別に表示する。システムではブックマークを介した繋がりを生み出すためにいくつかの“きっかけ”を提供している。1つは「共有ブックマーク」のランキングで、ブックマークの人気がわかる。これにより人気のあるブックマークを多くチェックしているユーザーに興味が生まれる。自分が選んだブックマークを他のユーザーがチェックしていたり、そのチェックにコメントをつけていたりするユーザーも気になる要素だ。 はてなブックマークは1人でも使えるが、使っていくことで情報を収集しているユーザーそのものに興味がわくようになっていく。面白いブックマークをするユーザー、専門的なニュースを選択し紹介するユーザー……意識することで、「見せるためのブックマーク」という新しい価値観と楽しさが生まれていく。ここでブックマークではなく、ユーザーをチェックする「お気に入りユーザー」という機能が役に立つのである。このブックマークは、他のユーザーをたどることができ、ユーザー間のコミュニティを広げていく。 ブックマークをするセンスや、記事を探した事への賞賛として「はてなスター」をユーザーに贈ることができる。はてなスターは実質的な利益をユーザーにはもたらさないが、多くの星を得ることで、ブックマークのモチベーションを上げてくれる。この他、ユーザーに向けてメールを送付することも可能だ。 「はてなブックマーク2」のコミュニティは“ゆるく繋がる”というのが特徴だ。ブックマークでの繋がりは、他のサービスに比べユーザー同士を縛らない。それでも問題が起きる場合がある。コメントでネガティブなメッセージが送られてきてしまったり、「無断リンク禁止」と書いてあるページをリンクしてしまった場合などだ。 これに対してはてなの対応は、まず“スタンスを明確にする”ということだという。ネガティブコメントに関しては、第3者では批判かどうかわからない場合がある。この問題へはてなは、サポートへの連絡システムを作ると共に、ボタン1つでコメントやリンクを非公開にしたり、特定のユーザーのコメントを自分にとって見えなくさせるようにUIを改善させた。 リンクに関しては、原則としてブックマークの公開は自由というスタンスの上で、無断リンクを禁止しているページの管理人と、はてなユーザーの連絡を運営が仲介し、当事者同士の話し合いの場を作るということで対応している。こういった問題の他にも外部ツールへの連携がうまくいかないなど、まだまだ課題もある。伊藤氏は反省点として考えたことと、実際の問題のズレや、UIを少し改善しただけで劇的に好転したなど、運営を進めることで想像力の限界と運営の難しさを感じたという。
「はてなにとってコミュニティは財産です」と、伊藤氏は語る。はてなは「はてなブックマーク2」の他にも様々なサービスを行なっている。ユニークなものとしてはニンテンドーDSiウェア「うごメモシアター」、「うごメモはてな」によるDSiでのコミュニティサービスがある。こういったサービスの運営経験が、どんな新しいサービスを生み出していくか楽しみだ。
□ブロードバンド推進協議会のホームページ (2009年2月6日) [Reported by 勝田哲也]
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