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ニワンゴ杉本氏「進化し続けるニコニコ動画、今後の展開について」
圧倒的な存在感の大手コミュニティサービスが打つ、次の一手とは?

2月5日開催

会場:ベルサール神田

 オンラインゲーム事業関係者ならびにコミュニティサービス事業関係者に向けたカンファレンス「オンラインゲーム&コミュニティサービスカンファレンス(OGC) 2009」は、前年にも増して非ゲームのオンラインコミュニティサービスにまつわる話題が主流を占めた。本稿ではその中から「ニコニコ動画」に関連するセッションの内容をご紹介したい。

 「進化し続けるニコニコ動画、今後の展開について」と題する講演において、株式会社ニワンゴの代表取締役社長、杉本誠司氏が登壇。昨年末に多数のアップデートを行ないバージョン名を「(ββ)」と変えた「ニコニコ動画」について現状をまとめるとともに、将来の展望を語った。既に圧倒的な存在感を誇るコミュニティサービスである「ニコニコ動画」が目指す先とは何だろうか。杉本氏の考えに耳を傾けてみたい。


■会員1,000万人超、矢継ぎ早の機能拡張に乗り出した「ニコ動」は「マスメディア化」を目指す

ニワンゴ代表取締役社長 杉本誠司氏
「ニコ動」は動画共有ではなく感動共有の場であり、コミュニケーションそのものがサービスの軸であると、杉本氏が語る
 「ニコニコ動画」は今現在もっとも勢いのある動画の共有サービスと考えられている。ところが、講演の冒頭、株式会社ニワンゴの代表取締役社長である杉本誠司氏は「動画そのもはぶっちゃけどうでもいいと思っています」と切り出した。

 「ニコニコ動画」では、投稿された動画の任意の時間地点に対してコメントをつけることができ、それを再生すると、コメントが動画再生に合わせて表示される。この仕組みにより、過去のコメントが「あたかも今書き込まれたかのように」動画上を流れ、各ユーザーが同時に参加しなくてもリアルタイム感のあるコミュニケーションが可能になっている。

 杉本氏が「非同期コミュニケーション」と呼ぶこの仕組みは「ニコニコ動画」が当初から提供する最大の機能的特徴であって、同サービスの爆発的な成長を支えてきた。杉本氏は現在の「ニコニコ動画」の1,000万人を越えることとなった登録ユーザー数や、圧倒的な長時間を誇るサイト内平均滞在時間など、公開された数値データを紹介し、その上で、「ニコニコ動画」における動画はコミュニケーションのためのきっかけに過ぎず、コミュニケーションそのものがサービスの軸であると論じた。

 「ニコニコ動画」がここまで大きく成長した根本要因は「動画がたくさんあったから」ではなく、ユーザーが「わいわいしゃべれる場所」を動画に見いだし、動画を通じて「感動を共有しているという臨場感」を得て、それがコミュニティに参加するモチベーションにつながったから、というのが杉本氏のスタンスだ。

感動共有の場としての価値を高めるため、「非同期から同期へ」をテーマとする施策を矢継ぎ早に打ち出した
 「ニコニコ動画」のサービスにおいて杉本氏は、感動の共有、コミュニティへの参加感というものを非常に重要視している。さらに杉本氏によれば、「ニコニコ動画」の特徴である「非同期コミュニケーション」はその手段のひとつだが、すべてではないという。実際、「ニコニコ動画」では昨年来、コミュニティサービスとしての価値を高めるため、大規模なサービスアップデートを通じて様々な施策を実施してきている。

 その中で主要なテーマとなっているのが「非同期コミュニケーションから同期コミュニケーションへの展開」だ。すなわち、「ニコニコ生放送」をはじめとする、映像ソースと視聴者が同時間軸でつながるライブ映像配信である。最新のアップデートではユーザー自身が放送できる「ユーザー生放送」や、最大40万人同時接続でチャットできる「ニコニコ広場」といった、リアルタイムコミュニケーション機能の提供を開始し、その考えを具体化している。

 こうした「同期コミュニケーション」サービスについて、杉本氏はなかなかの手応えを感じているようだ。同氏によれば「生放送でいちばん盛り上がる瞬間というのは、映像のソース側が、視聴しているユーザー側のコメントに反応したときです。リアルタイムでは時間のずれがないので、コミュニティの質が高まります。やはり究極的には同期のコミュニケーションが求められていることを、生放送の提供を通じて再認識しています」という。

 さらに「生放送」では、「ニコ動」らしさのあるアニメやゲームだけでなく、政治、技術、スポーツといった、様々なカテゴリに渡るコンテンツを提供している。杉本氏はその先にある狙いをこう説明する。「非同期でここまできたのだから、ニコニコ動画にはまだまだ伸びしろがあると思っています。将来的には、もっと一般化していき、マスメディア化していきたいと考えています」。そのために杉本氏は、ひとつの大きな課題を掲げた。すなわち、さらにサービスの間口を広げるということだ。

「ニコニコ動画」における最新の数値データ。会員登録に関して杉本氏は、携帯電話では性能的にフルスペックのサービスを提供できない機種が多いにもかかわらず、モバイル会員が予想以上の増加を見せていることを指摘。それが全体のパイの拡大、若年層の割合増加に繋がったとしている。またアクセス統計については「平均滞在時間の長さ」が最も特徴的な強みであると評した

「同期コミュニケーション」のメインサービスと目されている「ニコニコ生放送」。同時に視聴できる人数は現状で1万人までとなっているが、30分〜1時間の番組では延べで3万から4万人の視聴があり、20万件を越えるコメントが発生するという。また「ユーザー生放送」では非常に濃度の高いコミュニティが形成され、新しいクリエーターが生まれ得る場として注目しているとのことだ


■ さらに間口を広げるための具体的な取り組み

政治への関心を刺激する「ニコ割アンケート」。昨年の調査結果は既存マスコミや調査会社の統計に極めて近い数字が得られたという。だが、今年に入ってのアンケートでは10%ほどの違いが見られたとのこと。その原因が何なのか気になるところ
 既に1,000万を超えるユーザーを抱えていながらさらに「間口を広げる」というのは難しく聞こえるかもしれない。だが、TV、新聞、ラジオといった既存マスメディアに比肩する存在を目指すというのであれば、現時点で非ユーザーであるすべての人々に訴求しなければならない。そのためには、既に形成された濃密なユーザーコミュニティが生み出す独自文化だけではダメであり、より一般性のあるコンテンツや場を提供する必要がある。

 そこで「ニコニコ動画」では、そのための施策のひとつとして、杉本氏が「社会に対するなにかしらの接点を持ちたいというユーザーの欲求を満たしていく」と表現するサービスを展開しはじめている。その代表は「ニコ割アンケート」だ。

 動画再生中に割り込んでくる「ニコ割」は、当初は運営からの情報配信や広告枠としてのみ使われていたが、最近ではゲームのスコア競争や一斉アンケートといった、リアルタイム性、社会性の高いフィードバックを実施するために使われ始めている。2008年の後半には、これが自民党総裁選挙や政権についての意識調査にも使われ、ネットならではのスピードと膨大なサンプル数によるデータの有意性を示した。

「ニコニコチャンネル」には、コミュニティが高濃度化することで場が特殊化してしまう影響を、別の場を提供することで和らげるという狙いがある
「ニコニコチャンネル」に公式参加を表明した企業及び団体は昨年末時点で120社に及ぶ
 それと同時に「ニコニコ動画」では、一般性の高い番組を提供するための仕組み作りにも取り組んでいる。それが、従来の「公式動画」カテゴリを本格的に拡大した存在である「ニコニコチャンネル」だ。そこでは「ニコニコ動画」のパートナーとなった企業が公式の映像コンテンツ配信チャンネルを提供できる。

 杉本氏は、「ニコニコチャンネル」の狙うところを、「ユーザーだけにまかせるとニッチになってしまう。非ユーザーの方に対し、見覚えのあるコンテンツをちりばめることで違和感をなくしていく」と説明する。その成果は、まだ目に見える形になってはいないものの、チャンネルへのコンテンツ導入自体は順調なようだ。

 それは、チャンネルの提供側にとり、新たなプロモーションのフィールドを獲得できるという実利上のメリットがあるからだ。チャンネル数を増やすためのニワンゴの営業努力は順調に効果を上げており、2008年末時点で「ニコニコチャンネル」に参加を表明した企業や団体は、タレント事務所から公共機関まで120以上にのぼる。そして現時点までに、様々なカテゴリにわたって100チャンネル以上がオープンし、大量の番組が提供されはじめている。

 こうした様々な取り組みを、文字通り矢継ぎ早に打ち出す「ニコニコ動画」。その姿はサービス開始時から大きく変化し、今もまた変化の渦中にある。

 杉本氏は、「ニコニコ動画」の特徴であり基本と考えられてきた「非同期コミュニケーション」の仕組について、最初からそれが理想のものだと思っていたわけではないという経緯を明かした。それは、ゼロからサービスをスタートするにあたり、最小限のユーザー数で最大限の「盛り上がり感」を出すために有効な方法であったに過ぎない。だが、それにより、「ニコニコ動画」は次の段階へ進むことができたのだという。

 「非同期コミュニケーションのエッセンスはこれからも残していきますし、発達していくと思います。ですが、今後はそれだけではなく、ちゃんとしたメディアになることを目指していこうということで、同期コミュニケーションに力を入れていきたいと考えています。そしてコミュニケーションの場を拡大していきたいと思います」。杉本氏は最後にこのように述べ、講演を締めくくった。


■ マスメディア化に伴う責任と危うさをどう乗り越えるか

この講演で杉本氏は、サービスの収益性について触れることはほとんどなかった。だが「マスメディア化」を目指すというのであれば欠かすことのできない問題である
 杉本氏の講演を素直に受け止めるならば、「ニコニコ動画」は、エンターテイメントの場としての存在を越え、より社会生活に不可欠の何かになっていく可能性を持つと考えられる。マスメディアとして数千万人のユーザーが日常的に利用、あるいは依存するという未来像が現実のものになるとすれば、超巨大コミュニティサイトの先駆「2ちゃんねる」がそうであるように、必ずや経済や政治といった分野を巻き込み、実社会にも強く影響を及ぼす存在になるだろう。

 すなわち、いちコミュニティサービスが社会のインフラ、社会の公器になるということである。その運営責任は、ユーザー数と依存度が高まれば高まるほど、重いものとならざるを得ない。だが、ニワンゴが公表しているとおり、「ニコニコ動画」は赤字事業だ。黒字化を達成しなければサービスを永続できない。その上、類似サービスが存在しないため、安易な代替は不可能であろうから、ますます事態は深刻だ。名実共にマスメディア化した先で「赤字だからやめます」ということになれば、社会的な混乱は避けられないだろう。

 つまり、杉本氏がいう「ニコニコ動画」事業の黒字化は、マスメディア化を図るにあたり、乗り越えなければならない壁のひとつだ。それ抜きではメディア化は画餅に過ぎない。「2ちゃんねる」では、増大する回線コストによる閉鎖リスクを「UNIX板」の住人達が技術力を結集して解決したという経緯がある。

 今回の杉本氏の講演では、事業の黒字化に向けた明確なロードマップが披露されることはなく、この点に漠然とした不安を残すこととなった。まずは黒字化の展望を抜きに「マスメディア化」を目指すことを明らかにした「ニコニコ動画」。公共性の高いものに求められるはずの「サービスの永続性」をどう担保していくか。それが今後の展開を見守る中で最大の焦点になっていくことだろう。

【パネルディスカッション】
ミクシィ 原田明典氏 ニワンゴ 杉本誠司氏 カカクコム 安田幹広氏
ビットキャッシュ 片山昌憲氏 駒澤大学GMS学部 山口浩氏 会場の様子
 カンファレンスの最後に、「『楽しさ』×『便利』=『集まる』 コミュニティサービスの今後について」と題するパネルディスカッションが行なわれた。
 パネリストはニワンゴの取締役社長 杉本誠司氏、株式会社ミクシィの事業本部長 原田明典氏、株式会社カカクコムの取締役COO 安田幹広氏といった大手コミュニティサービスの経営者らに加え、デジタルマネーサービス「Bitcash」を展開するビットキャッシュ株式会社のメディア事業部長 片山昌憲氏。「コンテンツの一般化」と「収益モデルの確立」について所見を語り合った。モデレーターは務める駒澤大学GMS学部 準教授の山口浩氏。
 全体的には、各氏とも「ユーザーコミュニティの文脈中でこそ成立する価値」に一定の収益を上げるチャンスを見いだしているようであった。また、「ニコニコ動画」の杉本氏は「コンテンツの価値向上のサイクルを作るため、コンテンツそのものの有料化も視野にいれるべき」という考えを披露している。
 その他の点では、それぞれ現状の確認と把握が精一杯、という感じで、目が覚めるような画期的な議論は見られなかった。既にネットユーザーの大半を会員として獲得した大手コミュニティサービスが置かれた状況は、まさに暗中模索。手探りで進んでいくよりほかにないようだ



□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bba.or.jp/
□「OGC2008」のホームページ
http://www.bba.or.jp/ogc/2008/

(2009年2月6日)

[Reported by 佐藤カフジ]



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