【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

秋田大、「デジタルゲームを教室へ」と題した学術イベントを開催
テーマは「遊び」と「学び」のハーモニー

12月21日 開催

会場:秋田大学教育文化学部 手形キャンパス

18特色GP委員会の井門正美委員長。学校教育学・社会科教育学・システム論が専門だ
 秋田大学教育文化学部・18特色GP推進特別委員会は12月21日、「デジタルゲームを教室へ -『遊び』と『学び』のハーモニー-」と題した学術イベントを開催した。体感セッション、ポスターセッション、シンポジウムの3部構成で実施され、同大学の研究者や学生を中心に、約100名が参加した。シンポジウムではスクウェア・エニックスや、シリアスゲーム専業メーカーのSGラボも参加し、学術関係者とゲームクリエイターの間で、遊びと学びの融合について議論が繰り広げられた。

 文部科学省では現在、大学教育改革の一環として、大学などが実施する教育改革の取り組みから、優れたものを支援している。この「優れた取り組み」は「Good Practice(GP)」と呼ばれており、秋田大学では平成18年度の「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」に「ゲーミング・シミュレーション型授業の構築 -社会的実践力を培う体験的学習プロジェクト-」が採択されている。平成20年度は本プロジェクトの最終年度にあたり、本イベントも、これまでの研究成果もふまえて実施された。

 「ゲーミング・シミュレーション」とは耳慣れない言葉だが、シミュレーションやロールプレイングゲームなどの体験的な活動を通して、対象の理解や問題の解決を図る方法論のことだ。いわゆる「テレビゲーム」よりも幅広く、ボードゲームや、役割演技(ロールプレイ)なども手法の1つとなる。そして「ゲーミング・シミュレーション型授業」とは、これらを用いて、教室で実践可能な体験学習を取り入れ、教員と学生の相互作用のもと、授業改善を図る試みのことだ。秋田大でも特色GPにもとづき、2009年5月より始まる裁判員制度の模擬体験授業を法曹界の協力で開発した。授業は「ネット裁判員模擬裁判」としてオンライン化もされ、WEBでIDを申請すれば無料で体験できる。

 その一方で、WiiやニンテンドーDSの例を挙げるまでもなく、現在市場にはさまざまな健康・知育ゲームが販売されており、中には実際に公立校の授業で用いられるケースもある。秋田大教育文化学部の教授で特色GP委員長の井門正美氏は冒頭、「これらのゲームを教育分野でも活用していったら、より学習や教育面で効果があるのではないか。これを実践しながら研究してきた」と趣旨を説明した。その上でテレビゲームの教育や学習への活用について、紹介したり、議論していきたいと抱負を述べた。



■ 約50種類のゲームがそろえられた体験セッション

 第1部の体験セッションでは、「体感系デジタルゲーム」、「ポータブル系デジタルゲーム」、「ボードゲーム(アナログ)」の3会場にわかれて、約50種類のゲームが実演展示された。これらのタイトルは、これまで研究室を中心に研究者・学生らが分担してゲームをプレイし、レポートにまとめるというスタイルで研究が行なわれてきたものだ(このほか本年度では後期に週1コマの講義も行なわれてきた)。会場では参加者が実際にプレイしながら、担当学生の説明なども受けつつ、さまざまなソフトをプレイする姿が見られた。



■ 体験セッションでプレイできた主なゲーム

【体感系ゲーム(Wii)】
タイトル メーカー
Wii fit 任天堂
Wii Music
シェイプアップボクシングWii
ファミリートレーナー
【体感系ゲーム(プレイステーション 3)】
ギターヒーロー3 アクティビジョン
【体感系ゲーム(PC)】
日本史歴史トラベラーズ がくげい

【ポータブル系デジタルゲーム(ニンテンドーDS)】
タイトル メーカー
旺文社でる順 公民DS アイイーインスティテュート
代ゼミのセンター照準シリーズ英語編 アスク
アルクの10分間英語マスター初級 インターチャネル・ホロン
横山光輝三国志 ~第一巻「桃園の誓い」~ ASNetworks
逆転裁判 カプコン
歴史群像 presents ものしり戦国王 グローバル・A・エンタテインメント
株式売買トレーナーカブトレ! コナミデジタルエンタテインメント
NOVAうさぎのゲームde留学!? DS
てのひら学習 キクタンDS【Advanced】 サクセス
面接の達人 転職編
DSもって旅にでよ京都 JTBWest
地球の歩き方DS スクウェア・エニックス
資格検定DS セガ
毎日新聞1000大ニュース
横軸で学ぶ世界の歴史 ヨコ・ガクDS タカラトミー
親子で遊べるDS絵本 うっかりペネロペ テクモ
SIMPLE DSシリーズ Vol.11 もう一度通える THE 大人の小学校 D3PUBLISHER
街ingメーカーDS
13歳のハローワークDS デジタルワークスエンターテイメント
カッコよくなろう角ちゃん式筋トレナビ ドラス
99のなみだ ナムコ
山川出版社監修 詳説世界史B 総合トレーニング
英語が苦手な大人のDSトレーニング えいご漬け 任天堂
今日からDSカロリーナビ
しゃべる! DSお料理ナビ
DS美文字トレーニング
脳を鍛える大人のDSトレーニング
もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング
日本語文章能力検定協会協力 正しい日本語DS 毎日コミュニケーションズ
江戸文化歴史検定DS マーベラスエンターテイメント
松田忠徳温泉教授監修 全国どこでも温泉手帳
岡田斗司夫のいつまでもデブと思うなよ DSレコーディングダイエット ロケットカンパニー
家庭の医学 DSで鍛える食材健康トレーニング
歴史能力検定協会公認/山川出版社監修 歴検DS
【ポータブル系デジタルゲーム(PSP)】
ホームスターポータブル セガ
Talkman ソニー・コンピュータエンタテインメント

【ボード系ゲーム】
タイトル メーカー
一番売れてる株の雑誌ZAiが作った「株」ゲーム アイデス
Equate Conceptual MATH MEDIA
モノポリー秋田県版 タカラトミー
モノポリー全国版 タカラトミー
学研MBA ビッグフィールド
キャッシュフロー・フォー・キッズ マイクロマガジン

 以上のように、WiiとDSを中心に健康・知育系ゲームが数多く集められたという印象だ。ゲームの選定基準については、大まかに語学系、数学系、社会系、音楽系などのジャンルを分け、外部アドバイザリーボードなどの推薦も得ながら、委員会で決定していったという。会場で展示されたものを含めて、実際には約100種類にも上るそうだ。ただし「信長の野望」や「桃太郎電鉄」などの、いわば「定番」タイトルについては、すでに多くの研究成果もあり、今回はあえて除外したという。

【体感係デジタルゲーム会場】
「Wii fit」(左)、「ギターヒーロー3」(中)、「日本史歴史トラベラーズ」(右)。スポーツ健康教育講座の長澤光雄氏、音楽教育講座の武内恵美子氏によって、「Wii fit」と「Wiiミュージック」、「ギターヒーロー3」の批評レポートも配布された

【ポータブル系デジタルゲーム会場】
ポータブル系の特性上、黙々と1人でプレイする姿が多く見られたが、一部の無線対応タイトルではDSを持ち寄ってプレイする姿もあった

【ボード系ゲーム会場】
「一番売れてる株の雑誌ZAiが作った『株』ゲーム」(左)、「Equate」(中)、「キャッシュフロー・フォー・キッズ」(右)。「ZAi」と「キャッシュフロー」は経済ゲーム、「Equate」は数字札を並べて等式を完成させていく、算数版「もじぴったん」だ



■ ゲームのレビューが発表されたポスターセッション

 第2部のポスターセッションでは、学生・院生・教員によるゲーム研究・実践報告が行なわれた。体験セッションで展示されたタイトルの中から、ゲームの特徴や、実際の学習や授業への応用例などがポスター展示され、あわせて批評レポートも配布された。

 一例を挙げると、村上龍氏のベストセラー「13歳のハローワーク」が原作で、DSで職業体験が楽しめることが謳い文句の「13歳のハローワークDS」では、「『職場体験』として授業に取り入れることはなかなか難しいと思う。(中略)あくまでゲームの部分が強いためにどうしても体験としては薄くなってしまっている。(中略)1つ1つの職業に対しての興味・関心を持ってもらうためなら、取り入れることができるかもしれない」と、全体的に厳しめながらも、建設的なレビューが展開された。

 また「もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング」では、「トレーニングの数は豊富だが、自分の得意分野に集中してしまうことがあるかもしれない。(中略)トレーニングを満遍なく行なえるようにする工夫が必要だと考えた」とある。通常のゲームレビューとは異なり、あくまで「教育利用」という立場から、数十種類もの知育ゲームがまとめてレビューされている点が興味深く感じられた。

ポスターセッションの様子と、会場で配布された批評レポート。一部のタイトルでは体験セッションに引き続き、実演も行なわれた
研究者や学生が開発したゲームや、関連する研究成果も発表された。「都道府県民クイズde制覇(北日本編)スタンドアロン試作版」(左)、「地滑りシミュレーション『ユレオ』」(中)、「『構成・デザイン』領域におけるシミュレーション手法に基づく視覚表現の開発(1)および(2)」(右)



■ 産学で議論されたシンポジウム

シンポジウムは2時間弱と、たっぷり時間を取って行なわれた
 第3部のシンポジウムでは、委員長の井門正美氏をコーディネーターに、スクウェア・エニックスの森隆司氏、SGラボの石川泰志氏、横浜国立大経営学部教授の白井宏明氏、神戸情報大学院大学助教授の川上申之介氏、秋田大教育文化学部准教授の武内恵美子氏が登壇した。

 森氏はPSP「ディシディア・ファイナルファンタジー」のプログラマーとして商用ゲームタイトルにかかわり、石川氏はWindows用地震対策啓発ソフト「D-Moment ~巨大地震編~」のプロデューサーとしてシリアスゲームを開発している。一方で白井氏はビジネスゲーム開発のための簡易言語「YBG(Yokohama Business Game)」を開発し、自らも授業の一環として学生に企業経営の模擬体験ゲームを行なわせながら、国内外での普及に努めている。川上氏は理科教育のためのデジタルゲーム「Science Rooms」を開発した。武内氏は音楽ゲームを利用して、音楽学の授業に役立てている。このように、企業側・学術側のゲーム開発者と、その利用者というユニークな構成で議論が行なわれた。

ゲームプログラマー歴18年のベテランクリエイター、森隆司氏 SGラボでシリアスゲームをプロデュースする石川泰志氏 ビジネスゲーム開発の簡易言語を開発し、自らも実践する白井宏明氏
理科授業のためのゲーム教材を開発している川上申之介氏 音楽学の授業に音楽ゲームを活用している武内恵美子氏

 はじめに森氏は、「ゲーム開発には短くて1年、長ければ3年から4年かかるが、開発過程のゲームは、びっくりするほどつまらない。大勢の人間で試行錯誤しながら、徐々に面白さを煮詰めていくことで、ある段階から飛躍的に面白くなる。決して最初から完成像が見えているわけではなく、生み出していくもの。教育でも教え方などは同じではないか。ゲームと教育もうまく融合していければ面白い」とコメント。これを受けて石川氏は「多くの知育ゲームでは『勉強パート』と『遊びパート』が分かれているが、それでは学ぶこと自体が苦しみになる」と危惧を述べ、一過性のブームに終わらせない取り組みが必要だと述べた。続けて「『脳トレ』は学習パートがまったくないし、1年遊び続けても面白い。ああいった作り方を、もっと取り入れていく必要がある」とも語った。

 これに対して白井氏は教育者としての立場から、「経営学の授業は日常生活と乖離していることが多く、学生が勉強して自分のレベルを高めないと、モチベーションが保ちにくい」と解説した。これがビジネスゲームでは会社経営などを疑似体験しながら学ぶので面白いし、自分で学ぶ動機づけにもなるというわけだ。ただし商用ゲームでは授業内容にあわせた調整がしづらいので、YBGのようなビジネスゲーム開発のための簡易言語を開発したと続けた。また川上氏は「塾や予備校の講師時代、黒板に描いた絵が生徒に伝わりにくく、行き詰まりを感じたのが、ゲームのようなデジタル教材の開発を始めたきっかけ」と明かした。さらに会場の学生に対しても「おそらく教員になって、教材を開発する段になると、アナログの限界を感じるのではないか」と語った。

 また武内氏は「音楽ゲームを遊ぶことで、音楽とは何か、楽器とは何かを考えさせることが目的」と授業内容を紹介し、自分が学生の時は難解な本を読んで考えたことが、楽しみながら考えられる点がゲームのメリットだと述べた。その上でゲーム自体に学習効果を求めるのではなく、学生の思考を触発させるような、触媒としてのシリアスゲームの用い方も考えられる、と使用者の立場から語った。

 このほか知育ゲームのあり方については、森氏から「DSが『先生』となり、決められたルートをユーザーが辿っていくようなものでは、『非ゲーム』になってしまう」と発言された。多くのゲームの共通点として、プレーヤーがゲームプレイを通してゲーム内知識を蓄えていく過程で、ある知識モデルがプレーヤーごとにできあがっていく。それを応用して、新しい知識や方法論を生み出せる段階になって、知的な「おもしろさ」が生じてくる。そのためには現実を抽象化して、プレーヤーをうまくコントロールするのが重要だと、ゲームデザインの立場からシリアスゲームを語った。これに対して白井氏も「ビジネスゲームの場合も、達成感が得られるように、わざと誇張して作っている部分がある」と同調し、「現実の企業では個々の社員の意志決定が現実に反映されにくく、これだと教育効果は全くない。開発にはシンプルイズベターが重要だ」と語った。

 またデジタルならではのメリットとして、井門氏はアナログよりも即応性が高く、複雑な計算も瞬時に行なってくれる点や、観光ソフトなどで疑似体験が可能な点を挙げた。白井氏は学習者の軌跡が記録でき、後から分析できる点を上げたが、その一方で自主開発する上ではビジュアルや演出面の作り込みが大変で、地味になりがちな点をデメリットとして上げた。これについては会場からも質問が上げられたが、森氏は「商用ゲーム開発でも、最も人的リソースを割いている箇所で、魔法はない」として、デジタルカメラで写真を撮影したり、既存の素材集を使うなどして、作業の簡略化を勧めた。このほか武内氏は、音楽は特殊なのでアナログだと難しい面が多々あること、川上氏も理科や物理の実験を実際に行なうのは大変だが、仮想実験なら簡単にできるメリットを上げた。

YBGの簡易言語によるプログラムソース。日本語記述ができ、比較的容易にビジネスゲームを開発できる YBGを用いた体験型授業の様子。4、5名が1グループで仮装ビジネスを行ない、利益を競う 川上氏が開発した「Science Rooms」のメニュー画面。物理エンジンが実装され、簡単な物理実験ができる

 このほか会場から「ゲームではすぐに答えが出てしまうので、原理原則を考えなくなるのでは?」という質問が上げられた。これに対して川上氏は、「ゲームだけでは限界があるので、適切な講義・考察との組み合わせが必要だ」と回答。一方で石川氏は「知識系のゲームと、原理を学ぶゲームでは構造が違うので、それに合ったゲーム開発が重要だ」と答えた。またコンテンツ自体はつまらなくても、そこにゲーム的なノウハウを注入することで、モチベーションを保たせる工夫もできるとして、ゲームを用いた教育・教材の可能性について示唆した。さらに知育ゲームを評価するフレームワークを大学側で作成し、産学で協業することへの期待を寄せた。

 最後に井門氏は法曹三者との連携で開発した「裁判員制度の模擬裁判」を例に、「プロでも実際に実施されてみなければ、どのような問題が発生するかわからない。だからバーチャル世界で実施してみることは重要だ」と説明し、ゲーミング・シミュレーション手法や、それを取り入れた授業作りの必然性を強調した。アナログかデジタルか、リアルかバーチャルか、はたまたテレビゲームか否かといった問題は、対象を効率的に理解するための手段にすぎないというわけだ。当然「面白さ」と「学習」も、対立的な概念ではない。その上で教材や学習材などを開発する際は、「自分たちが面白いと思えるまで追求して、それを生徒や学生にぶつける必要がある」とまとめた。

 今回のイベントのポイントは、ポスターセッションで紹介された知育ゲームのレビュー群だ。確かに「脳トレ」以降、国内で健康・知育ゲームがブレイクしたが、内容は玉石混合で、開発側も教育者ではなく一般ユーザーに販売していることもあって、その学習効果は一部の例をのぞき、ほとんど検証されていない。しかも2008年に入って、その「脳トレバブル」も崩壊した感があり、売り上げも減少傾向にある。

 その一方でニンテンドーDSiのDSiウェアを筆頭に、カジュアルゲームのダウンロード販売が今後増加する可能性もあり、健康・知育ゲーム分野の再活性化も期待されている。ただし残念ながら、レビュー群もまた玉石混合で、印象批評の枠に留まっていた。石川氏がシンポジウムで語ったように、評価のフレームワークを教育者の視点で研究し、構築することを通して、健康・知育ゲームを底上げしていくことが望まれる。そのためには産学官の連携が、より必要になるだろう。

 なお本プロジェクトは今年度で終了するが、ゲーミング・シミュレーション型授業の構築については継続して研究実践していくという。今後の取り組みに期待したい。

□秋田大学のホームページ
http://www.akita-u.ac.jp/
□平成18年度特色GP採択プログラム「ゲーミング・シミュレーション型授業の構築」のページ
http://bonden.is.akita-u.ac.jp/
□スクウェア・エニックスのホームページ
http://www.square-enix.com/jp/
□SGラボのホームページ
http://www.sg-lab.net/

(2008年12月24日)

[Reported by 小野憲史]



Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.