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会場:幕張メッセ
今秋のゲーム業界は、今週発売される新型PSP(PSP-3000)と、年末に新しく発売される新型ニンテンドーDS(DSi)が話題をかっさらってしまったような感が強く、我々のような、PCや据え置き型高機能ゲーム機の最新3Dゲームグラフィックスを期待していた人間からすると少々期待値を下回っていたような手応えを感じる。とはいえ、いくつかは、目を見張るゲームグラフィックスは存在した。 今回は、そのなかから、個人的に興味を持ったものを紹介していくことにする。
前回の本連載では、7月のロサンゼルスE3を取り扱ったため、多くの海外の注目作品を取り上げた。今回はTGSを取り上げるということで、あえて日本産のゲームグラフィックスのみにスポットをあててみることにする。
■ 「ソニック ワールドアドベンチャー」 「HDRレンダリング」、「動的影生成」、「法線マップ」が今世代の3Dゲームグラフィックスの「三種の神器」となっている……ということは本連載でもたびたび述べてきた。実際に、3Dゲームグラフィックスは底上げがなされて、我々の目を楽しませてくれるようになったが、多くの3Dゲームグラフィックスが同程度になったことで、代わり映えがしない……という贅沢な印象を抱くようになってしまった。 では、次のステップは何か。 1つは時間方向の表現を強化するアプローチが生まれた。これが物理シミュレーション活用の強化で、最近ではTHQの「Red Faction Guerrilla」に代表される「ノンリニア破壊」という見せ方のトレンドが生まれている。 2つ目は「三種の神器」を活用した上での、追加の独創的な表現でリアルとアンリアルの狭間に表現をシフトする主張。これは本連載E3編で紹介したUBISOFTの「Prince of Percia(プリンス・オブ・ペルシャ)」などが最近の目立った例だろう。
これはXbox 360やPS3のような今世代機の次、すなわち次世代機で実現されるであろうと言われていた技術だが、開発力のあるスタジオでは、今世代機で擬似的に実装する術を研究している。 そして「ソニック ワールドアドベンチャー」(以下ソニックWA) は、このGI技術を、擬似的にとはいえ、超スピーディなアクションゲームに実装した事で話題を呼んでいるのだ。 一般的なリアルタイム3Dグラフィックスでは、点光源、平行光源からの直接光によるライティング演算を行なって陰影を作り出すが、現実世界は、光が無数に相互反射して複雑な光の分布で満たされている。リアルタイム3Dグラフィックスにおいて、この複雑な充満する光を簡易的に単色で表わすのが環境光(Ambient Light) になるのだが、これだけでは、いまやユーザーに「非リアル」を感じさせてしまうようになったのだ。 相互反射までに配慮したGIは、レイトレーシング法を用いて計算するのが常套手段であり、これを3Dゲームグラフィックスに導入するのは現行ハードウェアでは難度が高い。 そこで「ソニックWA」では、複雑な計算を事前にオフラインで行なっておき、ランタイムではその事前計算の結果を用いて、擬似的なGIを再現している。
「ソニックWA」では、事前計算して生成したGIがシーンに対してどのような陰影をもたらすかを、テクスチャに出力しており、ランタイム時にはこれをライトマップと同じ要領で適用している。
これだけでは疑似GIが静的なものになってしまうので、動き回る動的なキャラクタにも擬似的なGIを適用して、シーンとの親和性を高める工夫を入れている。
その動的キャラクタ向けの疑似GIとは、VALVEの「ハーフライフ2」などでも採用された「放射輝度ボリューム 」(Irradiance Volume) というテクニックだ。これは、事前計算したGIとつじつまが合うように適当な距離単位毎に環境光の分布を生成しておくもので、ランタイムでは、各動的キャラクタが存在する近傍の環境光分布に配慮してライティングを行なう。
ちなみに、こうした疑似GIのテクニックに近いものはKONAMIの「METAL GEAR SOLID 4」にも活用されており、“三種の神器”よりもあとちょっとリアリティが欲しい時の隠し味として、最近の3Dゲームグラフィックスでは、採用例が増えているようだ。なお、この疑似GIテクニックをさらに簡易的に実装したものとしては「半球ライティング」(Hemisphere Lighting) というものがある。これについては本連載の「ヴァルキリープロファイル2編」で解説しているのでそちらを参照して欲しい。
それにしても、ややカートゥーンスタイルよりの「ソニック」シリーズに、しかも超高速に画面が展開するスピードアクションに、微妙なリアリティを追加する疑似GIを組み合わせたビジュアルデザインは独創的で面白い。なお、「ソニックWA」は本連載であらためて取り上げてみたいと思っているので、乞うご期待。
(C) SEGA
■ 「バイオハザード5」
確かに、使用されているグラフィックスのテクニックに大きな変革はないが、キャラクタ達のライティングがシーンとうまく調和しており、まるで、ラジオシティ(相互反射) でも実装しているのではないかと思えるほど、ナチュラルだ。
竹内氏は、「バイオハザード5」を本連載で取り上げることを快諾してくれているので、発売後、あらためて詳しい話を伺いに行こうと思っている。こちらもご期待頂きたい。
(C)CAPCOM CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
■ 「ストリートファイターIV」
本作は、3Dグラフィックスを採用しながらも2D格闘の操作系を継承した独特のプレイ感覚が特徴的だ。衝突判定は完全に2Dベース。物理シミュレーションは3Dベースだが、各キャラクタの局所系で完結しているため、自キャラの服やアクセサリの一部が相手キャラクタにめり込んだりすることも見受けられた。 視点から比較的離れた位置に3Dキャラクタが描かれているのだが、そのジオメトリ量はかなり膨大であり、顔の微妙な表情の変化もちゃんと描き出される。ハイビジョン出力されていると、かなり高精細なアニメーションが画面内の各所で見ることができ、意外にも、ハイビジョン・ゲーミングの恩恵がとてもわかりやすいタイトルになっているといえる。 波動拳などの飛び道具は動的光源となっており、キャラクタや周囲のものを動的にライティングする効果も見て取れて面白い。 いずれにせよ、「バーチャファイター」や「鉄拳」とはひと味違う、リアルとアンリアルの狭間の3Dグラフィックス表現に見どころがある。
なお、ゲームエンジンは「MTフレームワーク」ではない。
(C)CAPCOM U.S.A., INC. 2008 ALL RIGHTS RESERVED.
■ 「サイレントヒル ホームカミング」
今作は、プラットフォームをPS3と移した関係で、キャラクタ達のジオメトリ量は増大し、リアリティはこれまでのPS2作品よりは各段に進化している。 ゲーム内容は、担当者によれば、「最近流行の和製ホラーをハリウッドでリメイクしたような雰囲気を再現している」とのことで、和風ホラーの雰囲気で怖がらせる演出と、ハリウッドホラーのド派手でダイナミックなアクションで怖がらせる演出を織り交ぜている。
グラフィックスのトーンは終始暗めだが、シーン内のライティングは動的に正確に行なわれており、キャラクタとシーンの親和性はカプコンの「バイオハザード5」にも負けていない。暗闇が、ただ暗いのではなく奥に行けば行くほど薄暗くなっているダイナミックレンジの高い暗さが味わえるのだ。
(C)2008 Konami Digital Entertainment
■ 「ザ・キング・オブ・ファイターズ トゥエルブ」 SNKプレイモアのブースでは、アーケードゲームの「ザ・キング・オブ・ファイターズ トゥエルブ (KOFXII)」が展示されており、自由にプレイすることができるようになっていた。 解像度は低いが芸術的な完成度を持っていたこれまでのネオジオ・グラフィックスを捨て去り、新規にハイビジョン・ドット画に描き起こされたことがホットトピックになっている。 なんでも、「KOFXII」のドット画は、3Dグラフィックスで制作したアクションポーズを2Dドット画に落とすというユニークな制作スタイルで制作されたということで、よく観察するとセルフシャドウまで描き込まれている。また、2Dに落とし込まれているものの、一部、「ストリートファイターIV」のような、飛び道具エフェクトなどが動的にライティングを施す効果までも時々見て取れるのが面白い。
「ストリートファイターIV」が狙って2.9Dグラフィックスを表現したとすれば、「KOFXII」は狙って2.1Dグラフィックスを表現したともいえ、20世紀の2D格闘ゲームの名作同士が、異なる表現手法で21世紀にぶつかり合うという図式は興味深い。
(C)SNK PLAYMORE ※「ザ・キング・オブ・ファイターズ」は株式会社SNKプレイモアの登録商標です。
■ 「BAYONETTA」 7月のE3でも出展された「BAYONETTA」(ベヨネッタ) が東京ゲームショウでもお目見えしていた。 「BAYONETTA」は、「デビル メイ クライ」を手がけた神谷英樹氏がディレクターを務める過激なアクションゲーム。ゲームのシステム的な雰囲気は「デビル メイ クライ」そのものなのだが、“悪魔を狩る”「デビル メイ クライ」に対し、本作は「天使を狩る魔女」という設定。この設定の対称性は、なんだか「デビル メイ クライ」に対するアンチテーゼのように映って面白い。
ゲームエンジンは本作のためにオリジナルに開発されたものだとのこと。ハイビジョンクオリティで描き出される圧倒的なジオメトリ量の高品位キャラクタ、妙にセクシーな主人公ベヨネッタのモーションが、本作のグラフィックスの見どころか。
(C)SEGA
■ 「NINJA BLADE」
近代都市を縦横無尽に飛び回れるアクションゲームをワールドワイド展開を視野に入れて企画したら「忍者」というキャラクタに行き着いたのだとか。ゲームタイトルの「ニンジャ」のキーワードから、テクモが関わっている作品かと思いきや、担当者に聞いたところ「全く関係ない」とのお返事。 本作のコンセプトは、「マトリックス」や「ミッションインポッシブル」に代表されるハリウッド映画的なハイスピードアクションを、プレーヤーが没入感を持って体験できること。デモプレイでは、高層ビルを垂直に駆け下りながら戦う様を見せていたが、上下関係が目まぐるしく変わる独特の操作感は確かに新しさを感じる。 危険回避や絶体絶命のピンチでは「ニンジャビジョン」と呼ばれる自分以外の時間がゆっくり流れる特異モードに移行でき、自分に酔える格好いいアクションを決めることができる。
モーションブラー、セルフシャドウ、法線マップによるディテール表現などなど、今世代の3Dゲームグラフィックス表現は一通り網羅して採用しており、表現レベルは非常に高い。
(C)FromSoftware,Inc.
■ 「グランツーリスモ5プロローグ Spec III」 昨年、予告された「グランツーリスモ5」(GT5) の2008年内完成は残念ながら成し遂げられなかった。東京ゲームショウではリリースされた「GT5プロローグ」(GT5P) のアップデートを展示していただけで、特に海外メディアはこの点を残念に思う意見を載せている。 しかし、実力派スタジオのポリフォニー・デジタルは、単純なスケジュール遅延をするわけもなく、これは大幅なエンジン改変が行なわれているため……という憶測が生まれている。 当初、ポリフォニー・デジタルは、「車を美しく走らせるのが『グランツーリスモ』のコンセプト」という主張を続けてきたが、どうも、時代がこれを許さなくなったという背景があり、この対応を行なっているのかもしれない。 これまでタブー視されてきた「実車の破壊表現」を採用した海外タイトルが続々出現してきたことが「GT5」にプレッシャーを与えてきたのだろう。 きっかけとなったのはいわずとしれたマイクロソフトのXbox 360用「Forta Motorsport 2 (フォルツァモータースポーツ2)」だ。この後、実車の破壊表現に凝ったタイトルとしてElectronic Artsから「Need for Speed: PRO STREET (ニード・フォー・スピード プロストリート)」が登場した。 レーシングゲームに最低限必要な自動車物理シミュレーションの基本は、ブレーキ、トルク伝達、サスペンションなどの制御を絡めた四輪挙動シミュレーション、車体の荷重シミュレーションなどだが、これがある程度のレベルに行き着くと、やはり次のテーマとしてさらにシミュレーションのディテールを極めていくか、あるいは「自動車に対する総合的なシミュレーション」を実装したくなる。後者のテーマで、“ゲームとして”最もわかりやすいものが「破壊表現」だったため、こうした技術トレンドが生まれたと推察される。 コンピュータ内の仮想的なレーシングコースで、実際に車がどう走ったら速いのかだけを競うのがこれまでのレーシングゲームだった。そうした破壊表現に注力した作品では、「どう走るとどういう危険な結果に繋がるのか」を見せることを目指したといえる。 確かにポリフォニー・デジタルの「GT5P」の映像は美しいし、特にモデリングの正確性は群を抜いている。自動車百科事典としてはこれでもいいが、エンターテインメントの「ゲーム」としては、画面の中の自動車を操作して得られるトータルな体験が重要になってくる。今や「美しい車の映像を楽しめる」以上の体験をユーザーが求め始めており、その1つの提案として、他社は「実車の破壊表現」を見せてきたということだ。
ポリフォニー・デジタルの「GT5」には、「綺麗な車が美しく走る」以上の、自動車ゲームとしての新しい楽しさが実装されることを期待したい。筆者も「GT5」ファンの1人として完成度の高い「GT5」の完成に期待している。
(C) Sony Computer Entertainment Inc. Manufacturers, cars, names, brands and associated imagery featured in this game in some cases include trademarks and/or copyrighted materials of their respective owners. All rights reserved. Any depiction or recreation of real world locations, entities, businesses, or organizations is not intended to be or imply any sponsorship or endorsement of this game by such party or parties. Produced under license of Ferrari Spa. FERRARI, the PRANCING HORSE device, all associated logos and distinctive designs are trademarks of Ferrari Spa. The body designs of the Ferrari cars are protected as Ferrari property under design, trademark and trade dress regulations. 余談になるが、今年の東京ゲームショウにおいて、もっとも感銘を受けたレーシングゲームは「RACE DRIVER GRID」(以下GRID) だ。 「GRID」は「colin mcrae rally (コリン・マクレー・ラリー)」シリーズを手がけてきた英Codemastersが開発したレーシングゲームで、実車のクラッシュ表現が凄い。 また、限界を超えたときの挙動もリアルで、無茶な運転で縁石等に乗り上げると、「GT5」では、システム上、制限されて起こりえない「車体の横転」が体験できる。さらに、1人プレイでは、ゲーム中にリアルタイムにクラッシュを引き起こした前の時間に巻き戻すことができるので、四輪の限界を超えてしまった誤った“あの時の運転操作”をやり直すこともできるのだ。 収録される実在サーキットはニュルブルクリンクを初めとした欧米コースがメインで、日本の実在コースは未収録なのが残念(公道のコースなどは収録されている)。ただし、収録車種は全40種類で、この中には日本車種の「GT-R」、「ランエボX」、「S2000」が含まれる。
下に、実際のゲームプレイのリプレイ映像を示しておくので、そのリアルなクラッシュシーンと限界時の挙動の凄さに感動して欲しい。
(C) 2007 The Codemasters Software Company Limited ("Codemasters"). All rights reserved. "Codemasters" is a registered trademark owned by Codemasters. "Race Driver GRID" and the Codemasters logo are trademarks of Codemasters. All other copyrights or trademarks are the property of their respective owners and are being used under license. This game is NOT licensed by or associated with the FIA or any related ompany. Developed and published by Codemasters.
■ まとめ~今世代機の最新開発事情 これまでの据え置き型ゲーム機の歴史では、ハード登場から2、3年後というタイミングは「刈り入れ」の時であり、毎回、話題作に満ちあふれていたように思うのだが、今世代機では少々違った様相を見せていたと思う。 Wiiは、まぁ、各社から多様なタイトルが出ているので、大体、これまでの歴史通りといった感じだが、PS3はファーストパーティのソニー・コンピュータエンタテインメントが既に落ち着いた風情を見せてしまっており、あたかもプラットフォーム後期のような風情だ。というよりもPS2のガンバリ、踏ん張りが凄まじく、未だに話題作がPS2にリリースされるほどで、他プラットフォームが完全に移行を完了しているのと比べると対照的だ。 Xbox 360は世界市場ではWiiに次ぐナンバー2プラットフォームだが、日本では相変わらずのじり貧で、発売後3年目にして、まだ100万台に達していないという状況(PS3は既に200万台を突破)。日本では、落ち着いてしまっているPS3のシェアの1/3程度しかなく、世界と日本との温度差が最も激しいプラットフォームだ。ただ、リリースされているタイトルを注意深く見ると、ソフトの充実度はPS3に優るとも劣らずで、見劣りする部分があるわけではない。ただし、今秋の値下げ効果もあって上り調子でシェアを拡大中との見方もある。 最近の各プラットフォームの開発の現場から聞こえてくるのは、Wiiは「ソフトが売れるかどうかはともかく、ソフトは作りやすい」、PS3は「開発が相変わらず難しい」、Xbox 360は「ソフトは作りやすいが、もはやDVDメディア1枚にハイビジョンゲームコンテンツを収めるのがつらい」といったあたりのこと。PS3用ゲーム開発の難しさは、筆者のレポートしたVolitionの「Red Faction Guerrilla」のインタビューでも開発スタッフが漏らしている。
Xbox 360のDVDメディアについては、単純に考えればデータを複数枚のDVDに分割収録すればいいだけの話に思えるが、DVD枚数が増えるとマイクロソフトへ支払わなければならなくなるライセンス料が高くなるので、そう事は単純ではないらしい。当初、「光メディアは飾りです」、「次世代メディアはネットです」とマイクロソフトは主張していたが、未だにゲーム提供メディアの主流は光ディスクだ。ここは1年ライバルに先行した分、見誤ったといえ、次世代光メディアを採択しなかったXbox 360の弱点がここに来てうずき出したといったところか。
(2008年10月14日) [Reported by トライゼット西川善司]
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