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【CEDEC 2008現地レポート】

セガ、名越稔洋氏が語る「タイトルプロデュースの未来」
「龍が如く」の“かっこいい大人”に託したゲーム開発への想い

9月9日~9月11日開催

会場:昭和女子大学



 “「龍が如く」が生み出すタイトルプロデュースの未来”というタイトルでセッションを行なったのは、株式会社セガCS研究開発本部第一CS研究開発部R&Dクリエイティブオフィサーの名越稔洋氏だ。名越氏は「バーチャレーシング」、「デイトナUSA」、「バーチャファイター」シリーズ などのアーケード作品に関わり、「モンキーボール」シリーズ、そして「龍が如く」シリーズのプロデューサーを務める人物だ。

 「龍が如く」はシリーズ第1弾がPS2で2005年12月に発売された。東京の繁華街を舞台に、裏社会の男達をテーマにしたアクションアドベンチャーだ。繁華街を3Dグラフィックスで描き出し、男臭い物語を描き出すという、これまであまりゲームに取り上げられなかった題材を取り上げた作品だ。

 その後続編のPS2「龍が如く2」、舞台を江戸にしたスピンオフ作品PS3「龍が如く 見参!」、そしてさらに映画化もされた。現在は最新作の PS3「龍が如く3」が開発中である。セッションでは名越氏独自のゲーム企画の視点や、倫理へのこだわりが語られた。


■ 2年後の人達の生活、食べ物、社会を考え、ゲームを遊ぶユーザー像を想定するプロデューサーの視点

株式会社セガCS研究開発本部第一CS研究開発部R&Dクリエイティブオフィサーの名越稔洋氏。独特の視点からプロデューサー像を語った
 名越氏は最初に「国内のマーケットの中でのプロデュースの体験を語っていきたいと思います。業界の人達が仕事をする上で参考になるようなことが何か出てくれば、と思っています」と挨拶した。名越氏の声はしゃがれていて、実は前日まで風邪で一言もしゃべれなくなってしまっていた。医者からは入院を勧められたのだが、「そういうわけにもいかないので」と、壇上に上がったという。

 名越氏はまず、現在のゲーム業界を分析する。名越氏は来年の4月で業界で仕事をして20年になる。入社した当時、ゲームを仕事に選ぶというのは珍しい選択肢だった。名越氏が業界に入ったのはゲームが爆発的に普及していく時代だった。名越氏は業務用の開発から、家庭用のゲームを手がけていくことになる。

 名越氏が入社したセガはアーケード業界のトップシェアの会社として名越氏の入社当時から現在まで続いている。しかし業界全体の規模は最盛期から3分の1を切るほどに縮小している。この状況に対応するため、筐体を買い切りからレンタルにしたりと業界は動いているが、中間業者が倒産したりと、“危機的状況”になっている。

 日本ではカードを使った大型筐体が人気だが、海外には不評だ。置いておくだけでユーザーがお金を入れるゲーム機とは違い、カードの管理やメンテナンスなどの手間がかかり、筐体の価格も高い。アーケード業界は今これらの状況を様々な角度から打破しようと模索している。

 一方、コンシューマでは日本のゲームが売れなくなっている。日本のゲームが日本のユーザーにも海外にも売れなくなっている。一方北米ではXbox 360に続き、Wiiも大きくシェアを伸ばし好調だ。特に日本のユーザーにはXbox 360のムーブメントはピンとこない。日本と欧米のゲーム業界の温度差がはっきりし始めている。

 この状況の中、日本にいる日本のゲームプロデューサー、ディレクターはどう取り組んでいくべきか。名越氏は意識するべきこと、意識しなくてはいけないことはこの5年で変わってきたと語る。「“日本のゲームは世界一”というのは幻想なのではないか。エンターテイメント産業の中で、産業的視点から見て日本が一番になったものは何もない。音楽や映画もゲームも最終的に西海岸に吸収されている。気がついたら北米のトップ20の中に、日本のゲームは2~3タイトルしかない。そしてそれが『変だ』と思う人は誰もいない」と名越氏は指摘する。

 この現状をどう打開していくか。プロデューサーやディレクターに必要なのは、2~3年先が見えなくてはいけない、というのが名越氏の持論だ。ゲームは、文化と技術のもみ合いの中から生まれる。そこから企画を考え、ユーザーに買ってもらえる作品を目指していく。ゲームの開発は1本に1年~1年半もしくは2年かかる。今面白いと考えているものでゲームを作る人はいるが、それが2年後になったら評価がどうなるか、競合する作品はないのか。それを予測している日本の開発者は少ないのではないか。

 海外の作品を作っている人は話を聞くとゲームと関係のない、2年後の人達の生活、食べ物、社会などの未来を考え、その上で「その2年後のこの層のユーザーに向けた作品」を作り出している。この手法で北米の開発者は10年以上アプローチしているという。「これが唯一の正解ではないが、未来を読むことは大事だと思う」と名越氏は語る。

 変化する価値観の証明として名越氏は「教育用ゲーム」を例に挙げる。10年前教育ゲームは、「売れないから企画は出してはダメ」と禁止されていたという。しかし現在、教育ゲームの企画を出すように言われている開発者が多い。

 こういった状況の中、名越氏は「あえて絞って企画を出す」方向を目指した。ワールドワイドでの販売が求められているが、それを考えると、北米市場を考え意見を取り入れなくてはいけない。しかしそうなると、名越氏の目線では、「誰も喜ばない作品になってしまうのではないか」と感じているという。名越氏が未来を予測し、共感を持って考えられるのは、「日本人が喜ぶゲーム」だ。名越氏はそこからさらに、ユーザーの対象を絞っていく。「子供」はいらない、「女」もいらない、「男」を目指して企画を作っていった。

 そうして生まれたのがPS2「龍が如く」だ。受け入れたユーザーは20代以上のユーザーが90%を占めた。しかもその90%の中の内訳が、30代65%、40代が40%となっている。名越氏は最高で62歳のファンからファンレターをもらったという。さらに切り捨てたはずの女性ユーザーも多く獲得する結果となった。

 「ユーザーの気分やスタイル、それに合うゲームを作ってなんぼだと僕は思うし、バラエティが増えても良いと思う。今、ゲームはユーザーに飽きられ始めているという状況が明白だと僕は思っています。そしてメーカーは投資に対して躊躇して、売れているタイトルの柱にのみ投資をかけている。柱ってピークが見えているけど、そうでないゲームの中に金の卵は眠っている。シリーズの続編ではなく、ゲームそのものの期待値を上げていくことこそ、日本のゲームは盛り上がるのではないか。日本で売れていってから、海外に、というのが一番良いんじゃないですかね」と名越氏は語った。


■ 「ゲームは責任の重いメディア」名越氏の倫理へのこだわり

独特の雰囲気とファッションセンスを持つ名越氏。セッションでは、先日日焼けサロンの雑誌から取材を受けたというユニークなエピソードも。なお、今回PS3「龍が如く3」に関しては、エンカウントがシームレスになりより快適になった、というくらいでゲームへの細かい言及はなかった
 セッションは、業界全体から、名越氏がPS2「龍が如く」を作ったときにシフトする。PS2「龍が如く」を開発中、社内の評価は決して高くなかった。自社のソフトを社内で評価していくのだが、数万本という評価しか得られなかった。しかし「このゲームが世の中にどう評価されるか見てみたい」という声も強く、発売が決定した。結果、7万本が5日、10万本が1週間で売り切れ、35万本以上のヒットとなった。

 名越氏はPS2「龍が如く」で、“かっこいい大人”を表現したかったという。成果や結果で尊敬が生まれるのではなく、“心を尊敬できる大人”を作るため、「むちゃくちゃかもしれないけど、筋が通ったものを言い切る大人」を目指して、ゲームの企画がスタートした。ゲームのテキストに関しては句読点1つ1つまで名越氏はチェックし、他のスタッフから「ゲームの会話はこうじゃない」という意見も出たが、自分のスタイルを貫いた「嫌われるかもしれないけど、気に入ってくれた人には納得してくれる言葉を目指した」という。

 「絞る」というのは切り捨てるだけでなく、はっきりとしたあえて捨てたことで生まれる濃いものを目指すためだ。メッセージを明確にした上でドラマを語る。名越氏は「そのドラマはゲームというインタラクティブなエンターテイメントにしなくてはいけない」という点を強調した。

 舞台にも独特のメッセージを込めた。名越氏が「現代」を舞台にする上で考えたのは、「繁華街の片隅で光ってるあの光はきっとコンビニだ!」と目指してコンビニに入れるゲームだ。NPCに話しかけてやっとその建物が店であることがわかるようなゲームにはしたくなかった。インターフェィスの進化だけではなく、「気持ちよくなること」を考えているという。

 そして、ゲームを作っていく上で考えなくてはいけないのが「倫理」の問題だ。PS2「龍が如く」は大人向けのゲームを目指したが、伝えるべきものを目指す中で、作品としての倫理、また商品としての倫理を問われ、監査機関と話し合いが必要な状況が生まれる。名越氏は「GTA」シリーズを作品として評価するが、「暴力の全肯定」と、その暴力をセールスポイントとして主張する姿勢に対しては批判している。暴力がゲームの売りとなる場合、エンターテイメントとしては失うものが多いのではないかと語る。

 倫理に関しては、映画の場合は「どんなに残酷なシーンを入れても、最後にギャグを入れるとハードルがグッと下がる」事があるという。現在のゲームの倫理評価基準は細部の表現にとらわれがちで、この映画の例のように、場合によっては判断基準があやふやになってしまう場合がある。名越氏は「作品の主張を考慮した上での倫理評価をして欲しい、公正な評価を求めたい」と主張する。名越氏自身は暴力を全肯定せず、薬や子供の死を描かないというポリシーを持っているという。それが名越氏の「倫理基準」だ。

 名越氏は「ゲームは責任の重いメディアだ」と指摘する。ゲームはインタラクティブな要素が欠かせない。暴力を扱うゲームならば、ユーザー自身の意志で世界に介入するのだ。だからこそ恐ろしい。名越氏は子供がそれをやることに抵抗を感じるという。作品として強調していく表現の中心にゲームのインタラクティブ性があるのは避けられない。だからこそ責任は重い。名越氏は「だからこそ倫理の審査は公正にして欲しい。倫理員会を作るなら俺はやるよ、といつも言うんだけどなかなか同志が集まらない。このままではやばいな、というのは思っています」と語った。

 名越氏は最後に「チャレンジに満ちたゲームが業界から出てくることを望みます。僕は43ですが、50になるまで何本作れるか……。業界の常識はすぐ変わるし、必要とされるものをゲームにすればいいと思います。ゲームから何か、というのは正しくないのではないかと思っています。だからこそ、ゲームをプレイしてもらう時間をユーザーが自分で生み出すハードルは高くなっています。その状況でゲームを作るのは、昔の意識ではダメです。必要とされるもの、みんなが欲しているもの考えて作って欲しいと思います」。と言葉を結んだ。


 ゲームを作ることは、開発者がただ“好きなもの”を生み出すわけでなく、会社から「売れること」を求められる。ゲーム開発者はこの絶対的でありながらはなはだ答えのわからない問題にそれぞれのスタンスで取り組んでいる。名越氏という独創的なタイトルを生み出すプロデューサーの話は、“1つのアプローチ”として興味深かった。

 1つだけ、「GTA」シリーズが暴力を全肯定している、という視点に関しては個人的には疑問に思う部分も感じた。「GTA」では意味のない暴力行為をすれば必ずゲーム内で報復される。開発元のRockstar Gamesは自由度の高いゲーム性を持たせながら、プレーヤー自身の倫理を問うようなメッセージをストーリーやシステムで常に主張し、単純な暴力表現で作品を批判する声にゲームの中で反論をしていると、筆者は感じている。

 「龍が如く」シリーズでは通行人をいきなり殴ることができない。一方「GTA」シリーズはゲームオーバー覚悟なら破滅的な行動が可能だ。ゲーム内でやれるか、できないかと言うところも倫理としては大きな問題だろう。倫理表現と作り手側の提供に関しては改めて考えさせられた。

 未来のユーザーを想定し、作品を作るという名越氏の視点は新鮮に感じた。現在開発中のPS3「龍が如く」はもちろん、今回のセッションで影響を受けた開発者達がどのようなアプローチを行なっていくか注目したい。

□CESAのホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「CEDEC 2008」の公式ページ
http://cedec.cesa.or.jp/index.html
□関連情報
【2007年9月29日】CESAデベロッパーズカンファレンス 2007 (CEDEC2007) 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070928/cedlink.htm

(2008年9月11日)

[Reported by 勝田哲也]



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