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カプコン竹内氏、世界で戦うための開発基盤作りを大いに語る
最新世代機でミリオンヒットを連発する強さの秘密とは?

9月4日、5日開催

会場:ホテル グランパシフィック LE DAIBA


 9月4日より2日間の日程で開催されたマイクロソフトのゲーム開発者向けカンファレンス「Gamfest Japan 2008」の2日目、プロデューサー向けトラックのセッションとしてカプコン竹内潤氏による講演「海外戦略に向けた販売体制の構築」が行なわれた。

 このセッションでは、「デッドライジング」、「ロスト プラネット」、「デビル メイ クライ 4」と最新世代向けタイトルでミリオンヒットを連発するカプコンがこれまでに取り組んできた体制作りの原則論が明らかにされた。その内容は、日本のゲーム業界の将来を憂う竹内氏の、業界全体に対する応援の気持ちが込められたものだった。


■ 「開発者として食っていくためのお金のことは、自分たちで考えよう」。
 カプコンの大躍進をもたらした、開発者本位な現状分析と解決策

カプコンの開発基盤の秘密について語る竹内潤氏
 近年カプコンがリリースされているタイトルのうち、特に最新世代機のXbox 360やプレイステーション 3向けのものには、「海外市場で成功している」というイメージが浸透している。もちろん、イメージではなく事実であり、カプコン初のXbox 360用タイトルとなった「デッドライジング」をはじめ、2007年の「ロストプラネット」、2008年の「デビル メイ クライ 4」と、ことごとくミリオンヒットを記録しているのだ。

 本セッションで講演を行なったカプコン CS開発統括編成部長 竹内潤氏は、それら全てのタイトルの開発に関わった人物である。現在は「バイオハザード 5」の開発を指揮する立場にある竹内氏だが、来年初頭に登場するその作品でも、世界的な成功を収めることはまず間違いない。

 一方、日本全体としては、全世界を相手に戦えるだけの技術力、制作力を持つゲームデベロッパーは、いまだごく少数であるのが現状だ。その理由として、海外市場で勢いのあるXbox 360やプレイステーション 3で、海外の先進タイトルと比べて遜色のないほどのグラフィックスや、全世界的に通用するゲーム性を実現するためのハードルが、特に採算性において高すぎると考えられているためだ。

 カプコンもまた、現在の成功に至るまで険しい道のりを歩む必要があった。竹内氏によると、ゲーム開発好きのスタッフが集まるカプコンは、ゲームづくりに集中しすぎた結果、極端に経営状況が悪化した時期があり、総合的な観点で開発体制を改革する必要に迫られていた。実際にその取り組みをはじめたというのが5年ほど前の話である。

 そこで竹内氏がまず決め込んだスタンスは、「開発者として食っていくためのお金のことは、自分たちでできるかぎり考えよう」。つまり、今まで経営・マーケティング部門に任せっきりだった市場分析、採算性の改善といった仕事を、あくまでも開発者の立場を全うしつつやり遂げるということだ。

 まずゲーム市場について、竹内氏の分析はこうである。現在、国内ゲーム市場ではニンテンドーDS、PSPの2大携帯ゲーム機が6割以上のハードシェアを築いている。据え置き型ではプレイステーション 2、Wiiが2強で、次世代機といわれたプレイステーション 3とXbox 360はまだ1割にも満たない。一方のアメリカ、イギリス市場でも携帯機が半数近くを占めているが、据え置き型にも勢いが出てきている。地域差が大きいのが特徴だ。

   さらに分析は続く。今度は主戦場である国内市場のソフト売り上げに注目してみると、圧倒的なニンテンドーDSに続き、プレイステーション 2がいまだ強く、それに続いて固定機のWiiが並ぶ。ハイエンド機であるプレイステーション 3、Xbox 360はわずかだ。しかし、ソフト1本あたりの平均売り上げ本数を見てみると、意外にもその差は縮まってくる。総タイトル数に大きな違いがあるためだ。さらに、そこからファーストパーティの売り上げを除くと、つまりサードパーティのみの数字になるわけだが、さらにその差が縮まる。特にプレイステーション 3はニンテンドーDSとほぼ並び、トップレベルの数字である。

竹内氏によるゲーム市場の分析グラフ。ニンテンドーDSが非常に強く目をうばわれがちだが、よくよく見てみると、高性能ゲームプラットフォームの市場は、サードパーティの1タイトルあたり売り上げ本数においては悪くない数字である

高性能機用のゲーム開発は、本当に採算性が悪いのか?竹内氏の話はこの点でも明快だった
 ここで浮かび上がってくる思いは、「みんなが思っているより、高性能機向けのゲーム市場は有望なのでは?」ということだ。特に採算性において、高性能機ゲームの開発は一般に思われているほど悪くはない、というのが竹内氏の結論だ。

 そこで気になるのが、高性能機向けタイトルにつきものの開発コスト・採算性の問題だ。竹内氏に言わせると、3Dゲームの初期に比べれば、機材費は格段に安くなっており、海外市場に目を向ければミリオン級のタイトルは枚挙にいとまがないほどだ。国内サードパーティが「売れない、売れない」と嘆くのは、ユーザーの価値基準が上昇し、良いものは売れる、ダメなものは売れないという二極化が進んだ結果である。その負担が過剰に重くのしかかってしまうのは、業界の自業自得的な結果だという。

 問題のひとつは、流行に乗る形で、目標なくタイトルを開発してしまうこと。何かのジャンルが大ヒットしたからといって、それを見て類似品を大量に投入するようでは絶対にうまくいかない。二匹目のどじょうはそんなに旨くなく、竹内氏が相談した事例では、その失敗で再挑戦のための企業体力まで失ってしまう例もあったという。もうひとつは、売り上げや、販売本数という数字ばかりを追いかけ、数字で結果を得ようと開発部門をやたらに拡大してしまうこと。これは人件費の増大をいたずらに招く。

 とくに人件費に関する話題としては、「良い人材を確保するために、高給で引っ張ってくる」という方法に問題があるという。開発規模に合わせて多数の人材を確保するうちに、「人件費が高すぎる。リストラせざるを得ない」という状況になってしまうのだ。すると、高い給与につられてきた人材は、真っ先に転職していく。その結果、開発現場の空洞化が進み、立て直しはますます困難になってしまう。

 竹内氏は、強い開発チームの条件として「一緒にゲームを作って共に戦ってきたと仲間だと思えるメンバーが何人いるかが重要」だとする。少なくとも、開発者がゲームが好きで、ゲーム開発にのめりこんで日々を生きているというカプコンでは、これは当たり前の社風なのだろう。結果的には、その社風と、竹内流の現状分析から、「デッドライジング」から現在にいたる怒涛の快進撃が始まった。

高い、高いと思われているゲーム開発コストの背景には、解決可能な原因がいくつも潜んでいるはずである。竹内氏はいくつかの実例をあげつつ、有能な人材を高い給与でハンティングしてくるような考え方や、流行を追ってあれもこれもと手を出すラインナップ手法を批判した

・カプコン流、開発者本位の世界戦略ラインナップの構築

竹内氏流の、開発としてあるべき姿。この中特に印象的だったのが、「集中と選択」の手法と、開発者に対する「利益を目標にするな」という意識である
カプコンのトップ会議でも基準となっているという10か条の指針。竹内氏はこれに従って現在の開発基盤を構築したという
 竹内氏流の現状分析を踏まえ、カプコンは高性能機市場に打って出るための開発基盤整備に着手した。そこで竹内氏が大事にしたのが、「どんな開発になりたいのか、具体的なイメージを持つ」ということだ。この意識がない開発会社は、意外にもかなり多いという。カプコンでは経営基盤足りうる開発力の充実を目指して「選択と集中」を徹底した。

 それはつまり、粗製濫造に陥る危険性のある「全てのユーザーを満足させる多様なラインナップ」ではなく、「多くのユーザーを満足させる限定されたラインナップ」を目指すということだ。とりもなおさず、これは「デッドライジング」、「ロスト プラネット」という作品が生まれた背景に直結した考え方である。

 「多くのユーザーを満足させる」ためには、タイトルは世界最高水準の品質と、ユニークな内容を兼ね備える必要がある。ユーザーの目が厳しいハイエンド市場では、類似品ではとても勝負できない。したがって、まず始めに、強靭な開発プラットフォームを手に入れる必要があった。そこで生まれたのが「MTフレームワーク」というわけだが、この制作にあたっての目標設定が面白い。「海外の最先端ミドルウェアに追いつくのではなく、飛び越してしまえ!」というのだ。竹内氏に言わせれば、先を行く製品を追いかければ、アキレスと亀のように、相手も前進するから永遠に追いつけない。だから、一気に2手先、3手先へジャンプして勝負しようというのである。

 そうして形になったマルチコア世代機向け開発プラットフォーム「MTフレームワーク」を使い、最初の作品である「デッド ライジング」が登場する。これはゲーム内容のユニーク性において、後にも先にも例をみないほどの作品だ。海外デベロッパーに先駆けて、Xbox 360における初のZ指定タイトル(CERO、18才以上推奨)となり、ドイツと韓国では販売禁止措置まで取られた。日本国内でも、「売れるわけがない」と言われながら、それでも竹内氏は「多くのユーザーを満足させる」と信じて突き進んだわけである。結果は、ご存知の通りのミリオンヒットだ。

 続く「ロスト プラネット」も大変だ。海外製FPSが全盛の時代、日本発の3Dシューティングゲームが売れるわけないと思われていたところに、FPSライクなシューティングゲームであり、ロボットものである。「絶対に売れないだろう、頼むからやめてくれ」的なことまで言われながら、開発メンバーは海外性FPSを徹底的にやり込み、そのエッセンスを吸収した上で、日本発のゲームだからこそ出来るゲーム性を盛り込んだ。ふたを開けてみれば、「ロスト プラネット」は全世界でダブルミリオンの売り上げを達成した。

 いずれの作品にも共通するのは、それが他に例を見ない、類似品でないオリジナルな作品であり、海外の最新作品に勝るとも劣らない3Dグラフィックのクオリティを備え、しかも効率的で強力な開発基盤により、スケジュールに大きな狂いなくリリースされたということである。オンタイムのリリースは、ハイエンドなゲーム分野で戦うためには非常に重要な用件だ。発売が1年遅れれば、先進的な映像も先を越されてしまうからである。

 2008年にリリースされた「デビル・メイ・クライ 4」ではさらに手を広げ、日本、欧米、欧州の12カ国版をリリースした。開発者にとって「12バージョンのゴールド盤を作れ」なんていう指令は、とても辛いものだというが、その苦労は確実に実り、トリプルミリオンに迫る売り上げを達成した。さらに「デビル メイ クライ 4」で見逃せないのは、国内市場でもきちんとヒットを記録したことである。竹内氏は「基盤はあくまでも日本。経営がしんどいから海外にいこうでは国内が足枷になる」という。

 そして来年には、「MTフレームワーク」世代ゲームの集大成といえる「バイオハザード 5」が控えている。こうした強力なラインナップを構築するために竹内氏が守った原則は、やはり先に挙げた「選択と集中」である。あれもこれもと手を伸ばしていては、コストがかさむばかりか、結果がでないタイトルも多数出て、開発者モチベーションは下がり、人材が育たない。強力な開発基盤を維持するためには、得意ジャンルでトップをキープすることが何よりも大事であり、そこでカプコンは「アクションのカプコン」という選択をしたわけだ。

 竹内氏は最後に、「今後の課題」としていくつかの項目を列挙した。まず、開発費の高騰。次に海外ゲームの躍進に対する危機感である。いわゆる「洋ゲー嫌いな日本市場」という状況は、竹内氏は消えてなくなると信じている。「黒船は必ずやってきます。だから、国内市場だけで満足していては危ない」という危機感を募らせている。そして最後に、日本のゲーム産業が縮小傾向に入っているのではないか、という問題を挙げた。

 転職が盛んになりすぎ、人材は分散、経験は蓄積されず、数を重視しすぎる傾向により無益な拡大とコスト増を招き、有益な情報は「門外不出」の論理により共有されない。竹内氏はこういった日本ゲーム業界の現状を憂いており、情報共有の点では、実際に「MTフレームワーク」の技術情報を国内技術者向けのコンベンションで公開するといった行動を起こしている。そのように、日本のゲーム業界がいくつかの点で海外のゲーム業界に学ぶべきではないか、として講演を終えた。

竹内氏は、過剰なノウハウ保護と、転職ありきの考え方、人材を切り捨てるだけのリストラ主義を「おうべいてきごうりしゅぎ」として厳しく批判した。それに代わって竹内氏が勧めるのが、「アメリカ村的開発会社経営」の3原則である。欧米的良さをうまく日本化する、という点で他の業種にも通用しそうな考え方だ

原則を守り、また開発者自身が作品の市場性をきっちり考えてゲームを制作するという考え方により、結果的にカプコンのラインナップは海外で大きな成果をもたらした。いずれは必ずやってくるという海外ゲームの「黒船」に備えるためにも、国内ゲーム業界が強靭な開発基盤をそなえることが、ゲームを愛するクリエーター、竹内潤氏の望みであるようだ



□「Gamefest Japan 2008」のホームページ
http://msdn.microsoft.com/ja-jp/xna/cc723908.aspx

(2008年9月5日)

[Reported by 佐藤カフジ]



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