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会場:NHN Japan
最近はこういった大型のタイトルが目立っているが、当初は無料のカジュアルゲームと、有料のアバターサービスというビジネスモデルで成長してきた。現在も、麻雀やパチンコには常に大勢のユーザーが参加しており、新しいカジュアルゲームタイトルも順次追加されている。 そのカジュアルゲームタイトルの中で、最近ユニークなタイトルが2つ発表された。まず先日オープンテストが行なわれた競馬育成ゲーム「ちょこっとダービー」は、配合などの要素を廃して、競馬ゲームを極めて簡略化している。もう1つはコミュニケーションツール「不思議な図書館 マジカルライブラリー」。こちらはアバターを使ったビジュアルチャットで、時々アンケートを挿入して会話を活性化させるという要素が加えられている。
今回、この2タイトルの開発を担当した、NHN Japanコンテンツ制作室室長の瓜生貴士氏と、コンテンツ制作室副室長コンテンツ制作チームマネージャーの津屋圭吾氏に、「ハンゲーム」におけるこれらのタイトルの狙いについて伺った。
■ “女性向け”と“ハンゲームらしさ”に挑戦する2作品 ――ほぼ同時期に、カジュアルなタイトルを2本出されたわけですが、これには何か共通のコンセプトがあるのでしょうか?
その時の我々の課題というのが、女性向けの物を作ろうということと、「ハンゲーム」らしい遊びを提示するという2つでした。一般的なオンラインゲームは、クライアントを立ち上げて、全てその中で遊べてしまうものですが、「ハンゲーム」は元々、アバターやコミュニティがあり、他の色々なゲームが横軸になってお客様を繋いでいます。そういうお客様に向けて、「ハンゲーム」らしい遊びというのを定義するところから、とても苦労しました。 「ファミスタ オンライン」みたいなものを作ってしまうと、そのゲームにハマったお客様は、そこの中だけでひたすら深く深く遊び続けられます。そうではなく、出たり入ったりしながら、「ハンゲーム」という遊園地みたいなものの中で、1つのアトラクションとして、「これはすごく面白いね」という使われ方をするものを作ろう、というところから入っていきました。 女性向けというのは、コンシューマを含めたゲーム業界でも時折話題になります。最近は、いわゆる「乙女ゲーム」と言われるものも出てきていますが、それは限定された1カテゴリであって、広く一般的な女性向けのコンテンツというのは、おそらく誰も成功していないんだろうと思っていました。これもまた頭を悩ませてまして、一番最初に「ハンゲーム」で過去3年分位のあらゆるデータを確認して、そもそも「ハンゲーム」にいる女性はどんな方々なのだろう、というところから分析を進めました。 そうやって1つ辿り着いた結論は、今僕らがアプローチしなければいけない女性達というのは、今あるゲームが難し過ぎてついてこられなくなってしまっていて、さらにビンゴや大富豪などのカジュアルゲームにも少々飽きが来て、やる事を見失っている方々ではないかということです。「アラド戦記」や「スペシャルフォース」などで「ハンゲーム」を活用してくれるお客様が一斉に入ってきたために、「私達より楽しい人たちがいっぱいいるのね」なんて言って、ちょっと引き始めている方々が意外と大勢いるって事に気がついたのです。
それなら、女性という広く一般的な言い方をするのではなく、「ハンゲーム」での楽しみを奪われた方々に対して、彼女達が楽しかった時代の「ハンゲーム」のようなコンテンツをもう1回作ろうじゃないかと。それがこの2タイトルの入り口になりました。
■ 馬を愛でるカジュアル競馬ゲーム、「ちょこっとダービー」
瓜生氏 : 競馬ゲームが「ハンゲーム」になかったので、まず競馬というジャンルを埋めに行こうという話がありました。アライアンスタイトル(他社運営で「ハンゲーム」が窓口となっているもの)では、「競馬伝説Live!」という本格的な競馬ゲームがありますが、本格的なだけに、競馬に造詣が深い方でないと、システムを理解するのが難しかったりします。ならば競馬をテーマに、もう少しライトで、薄く、緩い感じのものを、女性向けであるとか、「ハンゲーム」らしいものを作りましょうと。
――かなりデフォルメされた、人形みたいなキャラクタですね。私も血統などを考えるのが正直面倒で、競馬ゲームはそんなにやらないですが、これは簡単そうだという印象を持ちました。実際、マウスをクリックするだけで遊べましたし。 瓜生氏 : このオープンテストの2、3週間前に、「ハンゲーム」のBlogに画像が貼り付けられるようになりました。「ちょこっとダービー」で自分の馬が優勝すると、自分のアバターと馬で記念写真が撮れまして、これを自分のBlogに貼り付けられます。みなさん、Blogの新機能を使いたい盛りなので。それが上手くマッチしました。 津屋圭吾氏 : 期間中だと、写真の掲載率は「ハンゲーム」のBlogでナンバーワンでした。 瓜生氏 : そんなBlogを見ていると、特に女性の方が、「私にもできそうだと思ったのでやってみたら、なんと勝てちゃいました」と嬉しそうに貼っていらっしゃるんです。さらに2日目、3日目になると、「今度のパートナーはピンクのリボンが可愛いナントカちゃんです」とか。馬に人格を感じていて、勝った負けたとか強いかどうかよりも、今、自分が育てているこの馬が可愛くてしょうがないとか、みんなに見てほしいとか。そういうBlogがとても多くて、作り方としては間違っていなかったんだなと、不思議な手応えを感じました。 ――まさに狙った通りにいった感じですね。 瓜生氏 : 狙ったとおりでしたね。当然、とてもゲーム好きな方にとっては、なんと浅いゲームなんだと、色々と厳しいご意見もいただきましたが、万人に受けるゲームを作るのはとても難しいものです。そういう意味で今回は、いくつかの重要な部分を切り捨ててでも、絶対にアプローチしなければいけないお客様の層に向かって、ぶれずに最後までやれたことがよかったですね。 ――方向性をお聞きしたところで、次はゲームの中身について教えてください。競馬ゲームは数ありますが、このゲームはどういう形にしようという話になったのでしょうか? 瓜生氏 : 一番特徴的なのが、APと呼ばれる行動ポイントを設定したことです。通常の馬ですと200ポイント持っていて、レースに出たり調教したりするとポイントが減っていき、ゼロになると強制引退になります。通常の育成ゲームでは、ある程度投資して得た赤ちゃんを、長い時間かけて育ててその一生を見守る中で、いろんな感情移入があって、という設計になるのですが、「ちょこっとダービー」の場合は、1頭が2時間くらいで終わってしまいます。引退すると、オープンテストでは、馬のカードを売却して換金する以外に使い道がありません。 結構酷いことになっていますが、これもカジュアルゲームの1つの考え方だと思っています。MMORPGのように、何百時間かけてレベルを上げるというものではなく、1回1回がアーケードゲーム感覚で、1時間、2時間でスパッと終わらせるのです。薄いけれども、何か思い出や記録として残っていて、また次の馬を育てていきます。 これを延々と繰り返していくわけですが、意外とその2時間ほどの間に、育てている馬にちょっと愛情が湧くんですね。自分の好きな名前も付けられるし、馬の色やアバターはランダムで多数あるので、毎回違う個性の馬が出てきます。そういう子達に対して少しずつかけた愛情は、2時間で断ち切られるのですが、薄く残っているんです。これが上手く積み重なって、薄い層が幾重にもなった愛情のミルクレープみたいなものが生まれてこないか、というのが1つのアプローチでした。 今は「せっかく育てた馬と離れるのが辛い」とか、戸惑っているお客様の方が多いようです。ただ我々からすると、辛いと思ってくれている時点でかなり嬉しいですね。既に馬に対して、人格、あるいはペットのような愛情を持って下さっているわけですから。正式サービスまで色々と予定はしていますが、そういうことにもうまく応えられるようなものを入れたいと思っています。 育成ゲームというアプローチからすると、かなり掟破りなことをやったかなとは思っていますが、それが「ハンゲーム」らしいというか、カジュアルゲームっぽくていいのではないでしょうか。逆にあまりに長い時間かけて育てることで、多様性が削がれることの方が、カジュアルゲームとしては致命的だと思っています。ユーザーを縛り付けすぎるものは、カジュアルゲームとしてあまり楽しくないのです。それが吉と出るか凶と出るかは、これからわかることですが、今の所は手応えありという感じですね。 ――入り口がシンプルなのはもちろんだけれども、あまりハマりすぎない方が、カジュアルゲームとしてはいいのではないか、ということですね。 瓜生氏 : 私が競馬などの本格的な育成ゲームをやっていると、だんだんと作業的になってくるのです。そこに人格がなくなってきて、駒のようになって来るんですよ。ひたすらに、いくら稼げるかとか、効率の事ばかり考えてしまいます。それだともう、馬を労わったりする感情はなくて、逆に骨折して予後不良になったりすると、「使えない奴め」と言ってしまったり。まず、そういうゲームにはしたくないというのがありました。 企画や開発には、「ペット」というのは明らかに主従関係なので、実はあまり使いたくない言葉です、とずっと言っていました。馬がレースに出てる時のユーザーの心理は、自分の子供が運動会で今まさにかけっこに出てきた時の心境です。自分の子供が運動会でかけっこに出てきたときに、「とにかく勝て」なんて言う親はおそらくいなくて、「キョロキョロしないで」とか、「転ばないで最後まで頑張れるかな」とか、そういう心境なんですよね。でもその中で、1番だったらやっぱり嬉しい。そういう感情をお客様が抱けるような演出やデザインを心がけましょうと言っていました。 馬がもうすぐ怪我しそうな時に、「怪我したら効率悪くなるから休ませよう」ではなくて、「怪我したら可哀想だから無理させられないな」と思ってもらえるように。行動は一緒なのですが、ユーザーの心理を後者に導けるような作品性にしましょう、ということをずっとやっていました。
――その結果、できたゲームはすごくシンプルですよね。レースもスタートしたら後はじっと見てるだけ。調教にしても、誰に任せるか、何をさせるかは選べますが、それ以上に何かがあるわけでもない。ではこの作品は、プレーヤーに対して、最終目標として何をするゲームだと言えばいいのでしょうか?
だから必ずしも朝から晩まで没頭してやるものではなくて、1日30分とか1時間とか、ちょっと来て自分の馬と接して楽しんでもらって、時々外に出てレースして、同じ親御さん達とお話してと。そんな使い方をしていただけると嬉しいですね。 ――Blogからも検索されて、「この馬は可愛い」なんて話をして、声をかけてというようなコミュニティもありえますね。確かに「ハンゲーム」を生かしたやり方だと思います。 瓜生氏 : そのほかにも現在、「ライバルうま」のデザイン募集キャンペーンをやっています。馬の縁取りだけの絵があって、それを自由に加工したり、プリントアウトして色鉛筆で描いて郵送で送っていただいたりして募集しています。既に結構な数が集まっていまして、好きな柄が描かれていたりと、多くのアイデアをいただきました。 そういうお客様の熱意を見ていると、短い期間のオープンテストだったのに、お客様と馬が、我々が期待していた距離感で上手く付き合っていただけていると感じます。あまり深く入りすぎず、なおかつ馬を道具ではなく人格のある生き物として見た、愛情を感じる絵がいっぱいあります。お子さんとか、難しいツールを使えない方も多くて、プリントアウトしてクレヨンや色鉛筆でお絵描きして郵送してくださる方も多いです。 ――親がやって可愛いから子供に描かせているんでしょうか? ゲーム的には子供でも遊べる内容ですが。 瓜生氏 : パッと見たデータでは、年齢層はかなり若めですね。小・中学生の方も多いです。 津屋氏 : トレーニングを見てもらえればわかると思いますが、「砂浜ダッシュ」なんて、普通の競馬にはないですよね。併走とか、強めいっぱいとか、そういう用語が出てきても、よくわからないでしょうし。また、どうすれば育っているのが見えるか、客観的にわかりやすいかというところも突き詰めています。それも結構受け入れられたのかと思いますね。やり方がわからないというような話はあまり出ませんでした。 瓜生氏 : トレーニングの1つの「修行」とか、競馬としては意味がわからないですよね。崖の上の馬がこっちを向いて、目がキラーンと光るとパラメータが上がるとか。 ――これは何をしているんだろう、と思うんですけれど、ステータスが上がっている(笑)。 瓜生氏 : あれは悟りを開いているんです(笑)。 津屋氏 : 逆に、芝とダートを走らせて何が違うのかという事すら、競馬の知識がない方にはわからない。 瓜生氏 : 私もその違いを競馬ゲームで覚えたくらいですから。競馬用語はとにかく、入れないようにしました。担当は相当、名前で苦労していましたが。「修行」とかもまさにそうで、企画段階では修行僧のように滝に打たれたりしていました。 ――いいですね。そういうものがあるからこそ、馬ではなくて人間っぽく見えたりするのだと思います。 瓜生氏 : 転んだりひっくり返ったりと、ユニークな動きもします。 ――本当だったら、馬がコケたら大変ですよね(笑)。 瓜生氏 : 最初はあそこまで可愛らしい感じではありませんでした。大勢の人間で作りますから、それぞれそこの理解度は違って、やっぱりリアルな競馬っぽいものも出てきました。ただ実際にモデルがああいう動きをし始めてからは、その辺りの言葉にできないような作品性というのが伝わってきて、我々も逆にデザイナー達の仕事振りからインスパイアされて、だんだんと「ちょこっとダービー」ワールドみたいものが固まって来ましたね。 ――なるほど。ではゲームの中身について伺います。オープンテストでは、どんな要望が一番多かったのでしょうか? 津屋氏 : やはり、馬を引退させてしまうのが忍びないという声が一番大きいですね。
――今、何かしら形に残る物としては?
――具体的にはどんなものが入る予定ですか? 津屋氏 : あまり具体的なことはまだ言えませんが、残しておくということは、それを見せたり使ったりする場所が必要になってきます。見た目に関しても披露できるし、育てた馬の力を試せる場所も今後は提供しようと思っています。 ――デザインでの要望も多いのでは? コンテストにすごい数の応募があるくらいですから。 瓜生氏 : デザインは概ね好評ですね。私もいろんなタイトルでユーザー参加のキャンペーンをやったことはありますが、こんなに反応がいいものは珍しいです。素体のデザインが受け入れられたのではないかと感じています。 津屋氏 : 「ハンゲーム」のカジュアルゲームで3Dを使ったものは、「ミラクルボウリング」くらいしかなかったのですが、今回は馬をキャラクタとして立たせるため、3Dで再現する方がいいだろうということで採用しました。カジュアルゲームなのでスペックは上げらませんが、そこはスタッフも頑張って、低スペックのPCでも軽く動くようになっています。そういう部分でも新しい試みでしたね。 ――今後のアップデートに計画についても教えていただけないでしょうか? 津屋氏 : 8月にもう1回テストサービスを行なう予定です。そして8月24日に両国国技館で「HANGAME 2008 夏祭」というイベントを行ないまして、そこでも「ちょこっとダービー」の今後についての説明をします。その前の段階で、もう一度テストサービスを行なうことになる予定です。 ――次のテストサービスの目的は何ですか? 津屋氏 : 新しいシステムを入れる予定です。去年の末くらいに起案して、リリースは7月ということで、半年もかからずに作ったという部分もあるので、少しずつ小出しでテストをしていかなければいけない部分があります。ゲームのシステム的にも特殊なもので、本当にお客様のニーズに合うのかどうかも全然わからないので、やめられてしまうようなゲームシステムにならないよう気を配ってやりたいと思っています。 ――あまり多くの要素を入れるほどカジュアルでなくなり、ユーザーが離れて行く心配がある、というのが難しいところですね。 津屋氏 : 多くの機能を入れて一気に出すと、失敗したとき、どこにウィークポイントがあるのか見づらかったりするので、ちょっとずつシステムを追加して、もう一回テストをさせていただこうかと思っています。秋ごろには、正式オープンという形でリリースする予定です。 ――生々しいお話ですが、お金を取るサービスになるのでしょうか? 津屋氏 : それも視野には入れています。 ――どこでお金を取るんでしょう? カードを売るのも難しそうですし、ちょっと思いつかないですね。
津屋氏 : それは内緒です(笑)。
■ 「ハンゲーム」のハブを目指すチャットツール、「不思議な図書館」 瓜生氏 : 「ハンゲーム」には「リンクリンクタウン」や「おしゃべりアイランド」、あとシンプルなチャットなどがあるのですが、どれもあまり活用されていません。またゲーム中のコミュニケーションというのは、我々が期待しているほど活発には行なわれていません。忙しいゲームをやっている最中にチャットができるのは、本当にエキスパートな方々だけです。 そもそも、ほとんどのコミュニケーションというのは、ミニメールにしても日記にしても掲示板にしても、ディレイ(遅延)コミュニケーションで行なわれています。対して、チャットのようなリアルタイムのコミュニケーションに初心者の方が入れる場所というのは、非常に少ないのです。また初心者の方にそういった遊びを提供するきっかけも少なく、何とかそこを解決できないかという思いがありました。 一方で、「セカンドライフ」のようなメタバースが、社内では上手くいっていないという内情がありました。うまくいかないのはどこかに問題があって、全く別のアプローチが必要なのではないかと思い、その課題から入りました。私自身が10年位前に、セガでドリームキャスト用ソフト「ぐるぐる温泉」をプロデュースさせていただいた時に、コミュニティの成長やお客様が定着する最大の理由として、そこにゲームの財産があるからではなく、お客様同士の繋がりといった情緒的な物に強い動機を感じる、という手応えをがありました。 メタバースと言われているものは、最初に大きな箱を作ってしまって、そこが魅力的なら人がわーっと来て、人が集まったら何か生まれるだろう、という考え方だと思うのです。ところが、ほとんどのメーカーは、基本を魅力的にするためにお金をかけて作りこんでいるのに、お客様に魅力的に映ってるものが少なかったりしています。あと「セカンドライフ」などには技術的障壁があって、そんなに大勢の人が1度に集まれません。それだと本末転倒じゃないですか。
では「ハンゲーム」に合ったメタバースって何だろう、と考えました。「リンクリンクタウン」は大成功とはいきませんでしたので、ちょっと違うアプローチをしましょうということで、まず箱を作るんのではなく、人を集めてしまうことにしました。5人、6人という人が集まったら、それらを囲ってあげて、その人達に適したサイズの大きさの部屋を用意してあげる。それらがパラレルに、同じ平面状に何百部屋と生まれたら、これを1カ所に繋いであげる。これもメタバースじゃないかと思うのです。部屋の間に通路を作ってあげたり、必要なライフラインを引いてあげれば、多分メタバースになるはずです。この方が街としてはよほど機能的だし、必要な人達が集まっていますから、必要最低限のジャストサイズの物が作れるはずだ、というのが「不思議な図書館」の最初のアイデアですね。
これなら自由に色々なクリエイターが参加して、色々なワールドを作って、将来的にはその辺りの技術をAPI化したら、次はユーザーの方も部屋を作って、そこに参加できるようにする。そうしたら本当に、ちょっとしたメタバースになりそうだよね、という話をしながら作って来ました。 ――では、現時点はその第1段階に過ぎないわけですね。 瓜生氏 : 本当に、テスト中のテストといったところです。 ――今持っている機能は、最大6人で集まって、チャットをしながら、時々、大きな木のようなものがアンケートを投げてくるので、それに答える。そしてその集計が出てきたりする、というところでしょうか。 瓜生氏 : そうです。アンケートは今回提供した最初の遊び、ないしはきっかけに過ぎないので、あれがやりたかったわけではありません。あの部分がこれからは色々なことに変わっていくことになると思います。 ――とはいえ、あのアンケートがあることによって、それを話題にして会話を弾ませるという狙いも、十分感じられました。 瓜生氏 : 仰るとおりです。そもそも「ハンゲーム」にあるチャットを起動する方は、チャットの楽しさも危険性も全部知っていて、明確な動機もあって入って来られるのです。何だかんだと人と会話するのは楽しいじゃないですか。メッセンジャーや携帯電話も大好きですし。ちゃんと環境を整えてあげて、そこにそれなりにリテラシーの高い方が集まってきて、何かのきっかけで話し始めたら楽しいはずです。 しかしほとんどの方は、話すのも怖いし、何を話していいかもわからないし、最初にこんにちはと言っていいのかどうかもわかりません。何か書こうかと思っても、どんどん会話が進んでいってしまう。そういう敷居を下げるため、まずは1つのコンテンツを用意して、その世界観を覗いてみたいという形で、まず入ってきていただく。入ってくる過程で、ポンと事務的にチャット画面が立ち上がるのではなく、面倒ですが絵本を選ぶなどのステップを踏んで、今いる日常の自分から、もう少し優しく気持ちを変えていただこうという狙いがあります。
――ゲームをプレイするのと同じく、ちゃんと別の、ファンタジーな世界に行っているんだというところを見せてあげるわけですね。
決して何百万人が集まって、みんなでワーッとやってもらうようなものではありません。最初に言いましたが、やることがなくなってしまっているとか、自分にはできないコンテンツが多すぎるとかいう、ゲームのハードルが高いと思ってるお客様方に入っていただくことが目的だと思っています。本当に緩いコンテンツですね。 ――基本的にはチャットツールであり、そこから輪をつなげてメタバースのように広い世界を作っていくというアイデアはとても面白そうです。目指すところは見えましたが、では今後、そこにたどり着くためにどうしていこうとお考えでしょうか。 瓜生氏 : 現在は「不思議な図書館」に入ってから、2冊の本があります。図書館なので、基本的に本は増えていきます。その本の増やし方や、1冊1冊の持つ役割が、広い世界の繋がりになっていくでしょうか。 ――本の持つ役割と言うと? 瓜生氏 : 1冊1冊が、それぞれ人の集まる場所になっていくわけです。渋谷の街には渋谷っぽい人達が、秋葉原には秋葉原っぽい人達が集まるじゃないですか。そこには当然ニーズがあって、それを提供できる人と、欲しい人が集まる。だから本が1冊1冊増えていくと、それぞれの本が与える楽しみ方であるとか、遊び方であるとか、機能がどんどん変わって来るわけです。 1冊目はアンケートだったわけですが、これから何冊、何十冊と続いてくると、少しずつ変わってくるはずです。それぞれの本が気に入った人達が集まってきたり、今日は渋谷に行く用事がある。明日は秋葉原に行く用事がある、という風に、その時と場合によって使い分けていくような感じに広がってくといいなと思っています。 ――今は1冊の本ではアンケートをやっていますが、他の本ではミニゲームのようなものが入るとか、そういう形で今後検討されていくわけですね。そしてその間で、ユーザーが行き来するような形を作ると。 瓜生氏 : あるいはお客様とお客様を直接繋ぐものだとか、そういったツールを順序よく、複雑にならないように整理していくことが一番重要だと思っています。たとえばバブル型のチャット(吹き出し)なども1つの表現です。チャットは本当にタイピングの速い人がものすごい勢いで熱弁し始めると、すごい勢いでログが流れていって、会話がわからなくなってしまいます。そうなると、初心者の方やタイピングの遅い方は入って来られないので、バブルチャットにしました。1人で大量に書くと、どんどん自分のログを消すことになる仕掛けです。1バブル20文字で、60文字までですね。 そこまで書いたら、相手の人がそれを読んだのかどうかを確認する、合いの手を待つ作業が入ります。これは普通のチャットにはないものです。相手と会話をしているライブ感を味わいながら、相手を気遣って、ちょっと理解度が足りていないと思ったら言い直したりするわけです。さらにそれを助けるために、色々な吹き出しの形を変えられるようになっています。漫画で悪魔の囁きみたいな吹き出しがありますが、わざと逆の内容を吹き出しで書いて、これは冗談だよという事をアピールしながら言うとか、そういう言葉の温度が伝わるものも入れてみました。 仲がいい人同士ですと、暴言も割と笑い話で済んだりしますが、いきなりそんな会話をしているところに自分が投げ込まれたら、この人達は喧嘩してるのかな? とドキドキしますよね。あるいはちょっと口の悪い人から呼び捨てにされたりすると、身構えたりするものですが、そういう時に可愛らしい吹き出しや絵文字が付いていたりすると、そういうものが緩和されます。ベースの部分にあるチャットシステムや、友達と繋がっていくためのツールというのは、とにかく初心者の方と上級者の方の格差を埋めていくもの、という観点で作っています。ちなみに「でか文字チャット」は気づきました? ――「w」を大きな1文字で出されたことがありますね。 瓜生氏 : 1文字だけ打つと、極端に文字が大きくなるんですよ。これを思いのほか上手く使って下さっています。例えば「この後ちょっと遊ばない?」と言われたときに、「嫌」と漢字1文字で打つと、普通のチャットだと角が立ちますよね。ところが「でか文字チャット」だと、これ自体がネタになって、「嫌」と言われたらこっちは「泣」と漢字1文字で出したりと、ちょっと漫才っぽくなります。これは私の中ではかなり重要なポイントでした。
――では今後、実装しようと考えているものについて教えてください。
ある程度、自分が求めている人と話せるようにしたいですね。今のアンケートは、恋愛だとか食べ物だとか、色々あるアンケートを詰め込んでいます。そうすると、自分が答えたくないものもあって、「どうでもいい、こんな事に答えたくない」という人もいるわけです。アンケートは普通、1人でやるので、他の人にはわかりません。しかしアンケートの回答を共有しているということは、自分の意思を伝えなくてはいけない。そういうところで、少しコミュニケーションの軋轢があります。そこはできるだけ改善していきます。 今のシステムはあまり弄りたくない部分です。例えばアバターを移動させたり、チャットをするところをガラッと変えてしまうと、その都度お客様が迷ってしまいます。「ハンゲーム」においては、せっかく短いダウンロードでゲームが起動しても、長い説明を読んで理解しないと遊べないのでは面白くありませんから、そこは突き詰めたいと思います。 具体的にこういう遊びを用意します、とはまだ言えませんが、あくまでもコミュニケーションのハブになるようにしたいと考えています。ゲームの中で友達を作る、というところの価値観が上がるようなものを目指しています。MMORPGみたいに経験値を稼いで能力を上げるとか、点数を稼ぐというようなゲームは、基本的には入れません。競争意識を持たせるコンテンツを作ってしまうと、「話をしている暇があったら敵を倒したい」と本末転倒になってしまいますので。 ――それだと、ただのゲームですね。 津屋氏 : これはゲームではないので、やはりハブになるような存在を目指します。ゴールとしては、「ハンゲーム」には既に多くのコンテンツがあるので、そこにも介在していきたいですね。例えば一緒に遊んだ友達が、偶然「セイムパズル」がとても強くて、「あなたもやってみて」と言われたら、「セイムパズル」をやってもらえばいい。そういった「ハンゲーム」のポータルとしての成長を助けるようなコンテンツを作っていこうと思っています。「不思議な図書館」の中だけでメタバースになって人が集まってしまって、「ハンゲーム」というポータルに人が回流しないと、それも本末転倒ですし。 ――わかりました。では一応聞いておきますが、「不思議な図書館」のビジネスモデルはどうお考えですか? 今までのお話しからすると、必ずしもお金を取る必要はなさそうですが。 瓜生氏 : カジュアルゲームとして出したもので、収益モデルを考えたものは、最近多いですね。ただ「不思議な図書館」に関しては、基本的にビジネスモデルは一切介在させません、という形で立ち上がっています。この先2年、3年経ってどこかで変わるかもしれませんが、少なくとも現時点では必要ないと考えています。これができるのがNHN Japanの強みです。「単体のコンテンツで収益性を考えなくていいよ」なんて言われる事は滅多にありませんから。 津屋氏 : 間接的にはアバターの販売に繋がりますので、そういった副次的なものはあると思います。ただ基本的に緩いモチベーションで入ってくる人も受けいれるものですし、数値競争がない時点であまり課金する意味もありません。人より先に進みたいとか、人より強くなりたいとか、そういったシステム自体を入れるつもりがありませんから。 瓜生氏 : 「ハンゲーム」に留まる1つの理由になってくれれば、「不思議な図書館」としては役目を果たせることになるのではないかと思います。お友達が1人できたとか、やりたいゲームが見つかったとか、そのきっかけが「不思議な図書館」でした、と言ってもらえれば、コンテンツの役割を十分果たせると思っています。 ――10年ほど前の自分を思い出すと、当時はパソコン通信レベルで、黒い背景に白い文字が流れるだけのチャットでも、誰が来るかわからないという面白さがありました。「不思議な図書館」を利用される若いユーザーさんは、当然そういう楽しみもありつつ、自分のアバターもアピールできる、幸せな場所なのかもしれませんね。
瓜生氏 : 使っていただけるとありがたいですね。あとは今までからある通常のチャットもありますし、1歩外に出れば携帯も使っていらっしゃるでしょうし、メールもあるし、メッセンジャーなどもあるし。いろんなコミュニティツールがあるので、上手く使い分けつつ楽しんでもらいたいですね。
――では、最後に一言ずつユーザーへのメッセージをいただけますでしょうか。 津屋氏 : 私は丸8年間オンラインゲームを作ってきて、コアゲームから、どんどんカジュアルな方に来ました。オンラインゲームの時代を歩きつつも、どんどんカジュアルになって、今度は女性向けになりました。 今回出した物に関しては、まだ我々が想定しているうちの、10%から20%というところで出しています。そんなので出しちゃっていいのかという話もありますが、お客様の動向を見つつ、細かく修正していく計画です。1回遊んだらもういいや、というのではなく、できればちょっと気になったら見に来て欲しいですね。半年かけて、どう仕上がっていくのかを見ていただきたいと思います。
――ありがとうございました。
□NHN Japanのホームページ (2008年8月12日) [Reported by 石田賀津男]
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