★Xbox 360ゲームレビュー★
ありそうでなかった“剣と魔法のFPS”
使えるものは何でも使って倒せ!!進め!!
「マイト・アンド・マジック エレメンツ」 |
|
|
「マイト・アンド・マジック」シリーズと言えば、海外を中心に人気のあるRPGシリーズとしてその名を記憶しているゲームファンの方々も多いことだろう。ユービーアイソフトの発表によれば、このシリーズは1989年に第1作目が発表されて以来、19年で実に30作、全世界で累計600万本以上の売り上げを記録しているというのだから、なかなか年期が入っている。
今回ご紹介する「マイト・アンド・マジック エレメンツ」は、この長寿命シリーズの最新作にして、ゲームシステムをRPGから一転してFPSにしてしまったという野心的な作品だ。シリーズを通じて継承されているRPGの雰囲気は保ちながらも、剣と魔法、そしてプレーヤーを取り巻く環境を縦横無尽に駆使して敵と戦うという、ちょっとインテリジェントなアクションで新たなゲーム性を提供してくれる作品である。
■ ありそうでなかった“剣と魔法のFPS”。スキルと環境を駆使する戦闘法をマスターしよう
|
「マイトマ」シリーズ最新作は剣と魔法のアクションFPS! 一風変わったゲーム性が印象的 |
「マイト・アンド・マジック エレメンツ(以下『エレメンツ』)」は、中世ヨーロッパ風のハードコアなファンタジー世界だ。魔術師フェンリグの弟子、本作の主人公である戦士サレスは、自らと融合して守護者となった精霊ザーナと共に、デーモンを封じるという呪具「スカル・オブ・シャドウ」を探索する旅へと出る。フェンリグの友人メネラグを訪ね、この地方最大の都市ストーンヘルムへ向かったサレスを待ち受けるものは……。
という筋書きで始まる本作は、RPG的なストーリーと、レベルベースの成長システムを持ち、そこにFPS的なアクションをゲームの柱に据えた作品だ。主人公サレスは、ゲームの開始時点では未熟な戦士に過ぎない。冒険を続けていく中で彼は成長し、様々な戦闘スキルを獲得してさらなる強敵へ立ち向かうことになる。
本作はアクションベースのゲームであるため、プレーヤー自身のプレイスキル的な成長も重要だ。主人公の武器は、選択可能な4つのクラスに応じて剣、弓、ダガー、魔法が主力となる。右トリガーを引いて剣を振り、的確に命中させればダメージが通るが、敵が盾を掲げてガードすることもあるので、しっかりと敵の動きを見定めなければならない。魔法も、FPS視点でしっかりと敵を照準する必要があり、動きの激しいシーンではなかなか難しい。
|
使えるものは何でも使って戦う、というのが本作の戦闘スタイルだ |
そういった戦闘で重要なのは、敵の裏をかき、いかに優位な状況で戦うかということである。その中で本作のアクションをユニークなものにしているのが、環境とのインタラクションを駆使した戦闘法だ。ゲーム中の至る所で見つかる、戦闘に応用できるギミックを見逃してはいけない。樽を持ち上げて敵に投げつければ、よろけて倒れる。そこに右トリガーを長押しして「パワーストライク」を決めれば、胸に剣を突き立てるという必殺のトドメが決まる。
他にもステージ中の様々なものが武器になる。高台の上に沢山のオブジェクトが置いてある場所に敵を誘い込み、台の脚を剣で破壊する。台もろとも崩れ落ちたオブジェクトが敵を押しつぶし、直接剣を交えることなく勝利。はたまた、左トリガーと右トリガーの同時押しで発動するキック攻撃を使い、焚き火に敵をけり込めば、どんな強敵でも一撃で燃やしてしまえる。
このキック攻撃は万能だ。足場の悪い場所なら、敵を蹴り落として倒してもいい。壁にトゲが露出している場所なら、ねらい澄まして蹴り押してやれば、哀れ敵は串刺しに。沢山の敵に対して、まともに交戦していてはダメージもある、時間もかかるというとき、いかにうまいやりかたで片付けていくか、この工夫がとても楽しい。本作は、そういったインテリジェントなアクションが功を奏するFPSなのだ。
|
|
|
倒れたところにパワーストライク! はたまた、敵を蹴り飛ばして串刺しに! シャンデリアをぶつけてまとめて倒すことも |
|
|
|
荷台の脚を崩して押しつぶしてしまう。敵に触れることなく倒せるシーンはそこかしこにあるので、周囲の環境を注意深く観察することも大切だ |
|
|
|
蹴飛ばして燃やしたり、階下に突き落としたり。本作では「いかにラクに倒してしまうか」という工夫を至るところで考えるのが攻略の要だ |
■ 4つのクラスで変化する戦い。全てをプレイし尽くすには最低でも4回のプレイが必要!
本作のメインゲームモードであるシングルプレーヤーゲームは、主人公サレスとその守護精霊ザーナが「スカル・オブ・シャドウ」を巡って冒険の旅をするという、ストーリー重視のキャンペーンモードだ。サレスがどのような戦士になるかは、ゲームの開始時に行なうクラスの選択次第だ。選択できるクラスは「ウォリアー」、「アーチャー」、「メイジ」、「アサシン」の4種類。それぞれ全く異なった戦闘スタイルになり、ゲームの様相はずいぶんと違ったものになる。
|
強烈な剣の一撃で敵を倒していく「ウォリアー」 |
「ウォリアー」はその名の通り純粋な戦士だ。メインウェポンは剣、サブウェポンは無い。魔法は全く使えないため、他のクラスにはある「マナ」ゲージが画面に存在せず、パワーとスタミナに頼りきりの肉弾攻撃を使ってゲームを進めることになる。剣の使い方は奥が深く、右トリガーを長押しして発動する「パワーストライク」とダッシュ、ジャンプ、しゃがみを組み合わせて様々な戦闘スキルを発動する。盾を装備し、左トリガーで防御を発動すれば敵の攻撃をかなりの割合で受け流せるようになるため、沢山の敵に囲まれてもタフに戦える。
|
|
アーチャーでは、正確に「ヘッドショット」を決めれば大ダメージ |
「アーチャー」は弓をメインウェポンとする戦士だ。矢はステージ内の各所で拾うことができるが数には限りがあるため、撃ち尽くさないためにサブウェポンのダガーを併用して各所の戦闘を乗り越えていく。弓を使った戦闘で面白いのは、敵の頭に命中させることで「ヘッドショット」が発動し、通常の3倍以上のダメージを与えることができる点だ。プレーヤーの腕が上がり、照準の正確さが増すほどに圧倒的な強さを発揮するクラスなのである。また一部の精霊魔法を使ったトラップを張ることもでるので、罠を張り、弓で挑発して、何が起こるかを眺めるのも面白い。
|
|
メイジでは、魔法を環境に合わせて使うことで効果を倍増させられる |
「メイジ」は非力で直接戦闘が苦手なので、得意の魔法を使って賢く戦うことが求められるクラスだ。魔法には、敵に火をつけて燃やしてしまう「フレイムアロー」、凍らせて身動きを取れなくする「フリーズ」、電撃を食らわせる「ライトニング」などがあり、周囲の環境を使ってその効果を倍増させることができる。例えば油壺を投げつけて地面に油をしみこませたところに「フレイムアロー」を命中させれば炎上を始め、巻き込まれた敵は敢えなく火だるまに。タイミング次第では複数の敵を巻き込む事もできる。魔法の使用には「マナ」が必要なので、ゲームの各所で見つかる「マナポーション」を全て手に入れるようにしたい。
|
|
アサシンは闇に潜み、敵の背後から一撃必殺の「バックスタブ」を決める |
「アサシン」が得意とする戦い方は、4種のクラスの中で、最も静と動の切り替えが激しい。メインウェポンのダガーは正面から敵にぶつかっていくには非力だが、ステルススキルを使って敵の背後に回り込んで「バックスタブ」を発動すれば一撃で喉を掻き切って倒せる。闇に紛れて目をくらまし、敵が「どこへ行きやがった?」とウロウロし始めたところに勝機があるため、時には一歩も動かずに敵の様子を見ることも必要だ。わざと物音を立てて敵を誘導し、罠にかけてしまうのも工夫次第である。
|
以上4つのクラスはゲーム中に変更することができず、ゲームスタート時に選択したクラスでゲームの最後まで戦い抜くことになる。このため、本作を完全に遊びつくすためには、最低でも4回、ゲームをクリアする必要があるというわけだ。
そして、それぞれのクラス特徴を活かした戦闘が面白くなってくるのはゲームの中盤以降である。というのも、主人公がゲームスタート時点で身につけているスキルはわずかであり、ゲームを進めてレベルアップを繰り返すことによってはじめて多様なスキルを活用できるようになるからだ。また冒険を続ける中で新たな武器が手に入り、戦闘法に変化が出ることもある。まずは4つのクラスでゲームの中盤までプレイしてみて、最も相性の良いクラスで最後までプレイしてみる、という遊び方もいいだろう。
|
|
|
最初のステージはチュートリアルを兼ね、師匠フェンリグの支援を受けつつダンジョンを探索する。本作における戦闘のコツ、クラス固有の戦い方を無理なく学ぶことができる |
|
|
|
都市ストーンヘルムへ向かったサレス。町民の様子が慌ただしいので不安に思っているところへネクロマンサーの軍勢が襲撃をかけてくる。巨大なオーガをなんとか仕留めるも、冒険の旅は一気に危険なものに変貌 |
|
|
|
敵方のボス的存在、強大な力を持つネクロマンサーのアランティアは、この世に闇をもたらす「ダーク・メシア」かもしれないという。主人公は魔術師メネラグの娘レアナと合流し、「スカル・オブ・シャドウ」を探索するため、神殿の奥へと進んでいく |
■ ユニークなゲーム性が提供する楽しさ。その反面、各所で目立つ荒い作り。
せめてオートセーブ機能があれば……
|
環境を使った戦いは、工夫次第で色々な展開があって楽しい |
4つのクラス、レベルアップによる成長、多様な戦闘スキル。FPSとしては非常にRPG色の強い本作は、他のタイトルにはないユニークなゲーム性を実現し、独特の魅力を備えている。強引な言い方をすれば、直接戦闘の感覚としては「The Elder Scrolls IV: Oblivion」に遠からずといったところだが、環境を駆使したアクションを加味すると、やはり全く違う。本作によって得られるゲーム体験は、間違いなく他の作品では得られないものだ。
ただ、RPG的な要素として気になるストーリーの方は、やや貧弱だ。ゲームシステムとしてFPSを選択している上、全体的に演出面が弱く、プレーヤーがストーリーの進展を正確に掴むことが難しい状態になってしまっている。序盤を過ぎたあたりから冒険を共にする、メネラグの娘レアナは、物語が進むにつれて主人公との関係性が密接になってくるが、NPCキャラクタが会話をする際に「口パク」すらしないという、本作の前世紀レベルの演出では、その感情がうまく伝わってこない。
|