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Xbox 360の顔からEA SPORTSの顔になった
ピーター・ムーア インタビュー

Peter Moore氏(President of EA Sports division of Electronic Arts)


 2003年から米MicrosoftのXboxファミリーの顔を務めてきたピーター・ムーア氏は、2007年のE3の直後に突然、EAへ移籍を発表し、業界を驚かせた。

 そして、今年のE3 2008では、EAプレスカンファレンスの中間あたりで、EA SPORTS事業部長(President of EA Sports division of Electronic Arts)として登壇。のらりくらりと話ながらも随所にジョークと知性をちりばめた説得力のある独特な語り口調は未だ健在で、EAのプレスカンファレンスに登壇した人物では最も場を沸かせたのは彼だった。

 今回は幸運にもそんな彼とのインタビューが実現したのでお届けしたい。


■ Microsoftの顔、EA SPORTSの顔

    ―― ムーアさん、あなたは長らくMicrosoftのXboxの顔として活躍されてきました。あなたの顔は日本のゲームファンの間でも認知度が高く、あのムーア氏がEAで何をしているのかをみんなとても気にしているんですよ。

    ピーター・ムーア氏(以下、ムーア氏)私がEAにきて10カ月になりますね。日本は懐かしいですよ。私はMicrosoftの前にはSega of Americaにいましたから、日本とは縁が深いのです。Xbox 360のPRのために相当日本は行きましたね。Microsoftの丸山さんとはXbox 360のローンチをやりましたし、日本のパブリッシャも相当訪れましたからね。Xbox 360は最近では日本ではちょっとはよくなったと聞いていますよ。日本には強力なXbox 360支援チームがいますからね。今年の東京ゲームショウには行きたいとは思っていますけれども……。いずれにせよ、私はもう“顔”というような人間ではないですよ(笑)。

    ―― ずばり、ムーアさんはEA SPORTSにおいてどんな仕事ぶりなのですか?

    ムーア氏私はイギリス生まれのヨーロッパ人で、アメリカで暮らしているというとてもユニークなバックグラウンドを持っています。さらにいえば、自分はセガの前にはスポーツ用品メーカーのリーボックにいたこともありますから、多様なスポーツを広く愛してきたバックグラウンドもあります。それこそ、サッカー、ラグビー、クリケット、野球、アメリカンフットボール、バスケットボールについての知識もあるわけです。そこにつけて、Microsoftにおいてゲームビジネスに深く携わってきましたから、ゲームビジネスへの造詣も深い。XBox 360はもちろん、Games for Windows (PCゲーム) にも広い知識がありますからね(笑)。

     今のポジションはとても自分に向いていると思いますよ。ええ、もちろん、Microsoftとのビジネス上のやりとりはやりやすいです(笑)。



■ EA SPORTSの市場戦略

    ―― スポーツゲームにおける世界市場、日本市場をどう捉えていますか?

    ムーア氏EA SPORTSのグローバル展開は重要なテーマですよ。たしかにEA SPORTSは今まででは北米に力を入れてきましたが、世界市場に目を向けていきます。

     たとえば、日本です。日本でもFIFAのゲームは売れていると聞きます。「ウイニングイレブン・プロ・エボリューション」などですね。ああいうジャンルのものであれば我々でも日本で成功できる余地があります。インドもそうですね。インドは産業が進んできていますし、国民性として多様なエンターテインメントを受け入れる素養がありますし、この先3~5年はEA SPORTSにとってインドは重要な市場となると思います。

    ―― 日本におけるスポーツゲーム市場は実質的に日本のゲームメーカーに押さえられている状況です。EA SPORTSとしては日本市場を切り開いていきたいとお考えですか?

    ムーア氏たしかにサッカーゲームを例に取れば、日本でコナミの「ウィニングイレブン」に、我々のFIFAゲームは苦戦していますが、北米においてサッカーゲームは75%のシェアを我々が抑えています。世界の各リージョンごとに得意不得意はありますね。でも、我々も日本のスポーツシーンをゲーム化することについては検討はしています。

     サッカーで言えば、JリーグはKONAMIに押さえられていてとても痛いところですが、日本でも人気があるイギリスのプレミアリーグやスペインリーグは我々が押さえていますし、NBAバスケットボールも我々が押さえています。ゴルフに関して言えば、「タイガーウッズPGAツアーゴルフ」は日本でも強力なブランド力があると思います。日本で人気のある野球の、日本プロ野球リーグのゲームはたしかに我々は持っていませんね。日本のスポーツゲームファンが何を求めているのかをこれから理解して徐々に攻めていきたいと思っていますよ。





■ 今世代のゲーム機戦争に対する本音

    ―― 1年前まで、あなたはXbox 360に傾倒した立場にいましたが今は違います。今の立場で、現在のゲーム市場はどう見ているんでしょうか?

    ムーア氏そうです。1年前まではとてつもなく、ある一機種に傾倒していました(笑)。今の一ソフトウェア提供者の立場から見ると今世代のゲーム市場で何をすべきかというのが明確に見えてきました。任天堂・Wii、Microsoft・Xbox 360、SCE・PS3……それぞれのプラットフォームで有利不利があり、それぞれの長所を生かしたソフトウェアの提供を我々は考えていかなければなりませんね。

    ―― その3プラットフォームの動向をどう見ますか?

    ムーア氏今世代のゲーム機戦争はそれぞれが明確な立場を築き上げているといえます。PS3とXbox 360はパワフル・グラフィックスだ、パワフルCPUだ、とハードウェアの高性能ぶりを応用してゲームを実現しようとしていますが、Wiiは、ハイスペックではありませんが、Wiiリモコンによって新しいゲームの遊び方を確立しました。Xbox 360は、なんといってもネットワークインフラが先行していますから、そこが強みですね。PS3は積極的なソフトウェア提供を推進していくようですが、まだ高価ですね。しかし、Blu-rayプレーヤーとして見るととてもリーズナブルだとはおもいますがね。

     私に言わせればWiiもまだ高いと思いますよ。やはりゲーム機の本格普及は199ドルからです。たとえばSCEのPS2の例で行きますと、現在の累積稼働台数の80%が199ドル以下に値下げされてから購入されたものなんですよ。いまやPS2は129ドルですが、まだ売れていますし、いずれ99ドルになってさらに売れることでしょう。


 おそらくMicrosoftを離れる前からムーア氏は、ゲーム業界を冷静に見る能力はあったのだろうが、今の立場になって自由なことを言える立場となり生き生きしている。199ドル以下がゲーム機普及の最大の原動力なのだとすれば、このラインに最も早く到達しそうなのは3機種で最も低価格なWiiということになる。

 とはいえ、今世代は、彼もいう「三者三様のポジショニング」が確立されつつあるので、そう簡単に最終的な決着が付かないかもしれないが。


■ スポーツゲームの存在意義とは?

    ―― スポーツゲームでゲーム市場を開拓していくためにはどのような戦略が考えられますか?

    ムーア氏これまでスポーツゲームは現実のスポーツを正確に再現することに注力してきました。Wiiが登場して、スポーツゲームのあり方を変えました。アメフトゲームの「MADDEN Wii」は使い古されたアメフトゲームという題材でしたが、ヒットしました。これはきっと人々はリアルなアメフト世界をWiiのあのスタイルでプレイしたかったんでしょう。

     ビデオゲームならではのスポーツゲームというのもおもしろい題材です。「FaceBreaker」なんかはいい例ですよ。「FaceBreaker」は人間の顔をゲーム画面に取り込んで、その顔でボクシングができるんです。ダメージを受ければその顔はゆがみます。家族で和気藹々とプレイしたり、あるいは嫌いな上司の顔を取り込んでめった打ちにしてストレスを発散したり……。


 ゲーム機でスポーツゲームをするくらいならば実際にスポーツをすればいい……という議論があるが、そうではなくて、ゲーム機だからこそできるスポーツゲームというのも存在し、それが新たなユーザー層の開拓にもなりうると言うわけだ。逆に、現実世界でなじみのあるスポーツを題材にしたスポーツゲームだからこそ、ゲーム機でゲームとしてプレイしたいという方向性でのユーザーを引きつけることもあるだろう。スポーツゲームというと、冒険アクションものと比べると地味な印象を持つ人も多いと思うが、他ジャンルに優るとも劣らぬほどの、ゲーム市場をになう重要なジャンルである、とムーア氏は自負しているようだ。

【「FaceBreaker」】


    ―― SCE傘下のポリフォニーデジタルはグランツーリスモTVというサービスを開始しました。これはある意味ドライビングゲームと商業映像コンテンツの統合、融合とも言うべきものです。スポーツゲームもこうしたアプローチができると思いますか?

    ムーア氏あれは興味深い試みですね。我々はスポーツTVネットワークのESPNとの提携を行なっていますし、ユーザーが見たがっているコンテンツをゲームを起点に提供していくことには有効だと思っていますよ。



■ Dynamic DNAは他のスポーツにも波及するのか

    ―― 先日のEAプレスカンファレンスでは「NBA09 LIVE」というバスケットボールゲームで、前日の試合結果を元にして選手の性格から健康状態のような情報までが毎日アップデートされる「Dynamic DNA」機能をアナウンスしました。あの要素を他のスポーツゲームへ展開していくことは考えていますか。野球やサッカーなど、Dynamic DNAがおもしろく効いてきそうなプロスポーツはいっぱいあると思うのですが。

    ムーア氏ええ、いろんなスポーツに対してできないかと調査検討していますよ。全てのスポーツで戦略的なゲーム理論が違いますからね。バスケットボールは選手ごとの動きや行動選択に着目していくことでその選手の性格や行動特性をデータ化できます。

     野球ゲームにおける野球選手の行動理論のデータ化はおもしろそうですがなにがどう有効なのかは今研究中です。次はやれるとしたらアイスホッケーですかね。究極的にはサッカーができるといいですね。英国プレミアリーグのサッカーリーグでできたら楽しいでしょうが、その調査分析にはとてつもないくらいのコストがかかりそうですね。

     まぁ、最初はNBAですね。これでユーザーの反応を見て、好評を博し、スポーツゲームにおける随時データ更新が有効であると判断できたときには他のスポーツにも応用していくことを検討するでしょう。

    ―― NBAのDynamic DNAはどのようにデータを生成しているのですか? まさか1人のファンが勝手に決めていませんよね?(笑)

    ムーア氏1人では無理です(笑)。我々はとあるNBA関連調査会社と契約を結んでデータの提供を受けています。スポーツにおける選手の行動特性がゲーム進行に及ぼす影響は大きいんです。スポーツというのは、チーム監督の指示で選手が動くだけで成り立たないからおもしろいんです。


【「NBA09 LIVE」】



■ 3機種全部が好きです

    ―― Microsoftを去りEA SPORTSに来て10カ月。あなたにとってEA SPORTSとはどんなもの……という理解なんでしょうか?

    ムーア氏EA PORTSとは強力なブランド……というイメージですね。

     ビデオゲームにはいろんなブランドがありますね。KONAMI、Activision……これはパブリッシャブランドです。「METAL GEAR SOLID」、「Halo」……これはゲームシリーズブランドです。EA SPORTSはEAが放つスポーツゲームの総ブランド名です。TAKE 2の「2KSPORTS」というブランドがありますが、アメリカ国内にフォーカスしています。EA SPORTSはワールドワイドのブランドです。こうしたブランドはコンピュータゲームの世界ではEA SPORTSだけでしょう。EA SPORTSという名前だけでどんなゲームなのか、どんな品質のゲームなのかが一発でユーザーに認知されますし。

    ―― ありがとうございました。最後に2つ。今あなたの夢中になっているゲームは何ですか。そしてあなたの一番好きなゲーム機は何ですか?(笑)

    ムーア氏息子がバークレー大学に入学したので「NCAA college football」をよく遊んでいます。

     好きなゲーム機ですか……。Wii、PS3、Xbox 360……3機種とも全部好きです(笑)。

    ―― 世界最大規模のゲームパブリッシャEAに移ったのですから、どうですか? EAで新しいゲーム機を作ってみては?(笑)

    ムーア氏そうですね。Sega of America、Microsoftとゲーム機に携わってきて1つ学んだことは……ハードウェアは大変だということですよ。私は本当はソフトウェアが大好きなんです(笑)。


 ムーア氏は、ドリームキャスト、Xbox、Xbox 360と苦しい戦いを強いられたハードウェアに携わってきただけに「ハードウェアはもうこりごり」というのが本音なのかもしれない。

 ゲーム業界におけるハードウェアビジネスの表もと裏も見てきた屈強のムーア氏は、ソフトウェアビジネスでどのような活躍を見せてくれるのだろうか。その手腕に期待したい。

□Electronic Arts(英語)のホームページ
http://www.ea.com/
□Electronic Arts Japan(日本語)のホームページ
http://www.eajapan.co.jp/
□E3 Media and Business Summit(英語)のホームページ
http://www.e3summit08.com/

(2008年7月17日)

[Reported by トライゼット西川善司]



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