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Dolby、ゲーム向けボイスソリューション「Dolby Axon」を正式発表
ボイスコミュニケーションの進化はゲーミングに何をもたらすか?

6月4日開催(東京)
6月13日開催予定(福岡)
6月17日開催予定(大阪)

会場:大手町サンケイプラザ(東京会場)

 「GTMF 2008」では、プログラム、グラフィックス、モーション、ネットワークなど、ゲームを構成する様々な分野のセミナーが開催された。主役はあくまでツールやミドルウェアであるため、当然のことながらエンドユーザーが直接興味をひく話題というのはなかなか出てこないが、その中でもひとつ注目に値するセッションが行なわれた。主催社の1社であるドルビージャパンの「ドルビーが提案する新しいボイスコミュニケーション技術のご紹介」である。本稿では、本邦初公開された「Dolby Axon(ドルビーアクソン)」の概要についてご紹介したい。


■ ボイスチャットコミュニケーションに新たなブレイクスルーを起こす「Dolby Axon」

講師を務めたドルビージャパン プロダクトマーケティング部マーケティングマネージャー近藤広明氏。CEDECの常連講師として知られるドルビーの顔である
北米でのボイスチャットの普及状況。Xbox 360とPCが強いエリアだけに、50%という日本では考えられないほどの普及率となっている
「Dolby Axon」の基本的な概念図。PCの分野では古くから存在するアプローチだが、組み込み型のソリューションとしてコンソールにも導入可能な点が新しい
 ドルビーは、音響技術の分野で世界のトップシェアを誇るオーディオエンターテインメントメーカー。映像と音楽をメインターゲットとしているが、ゲームとの親和性も非常に高く、GDCやCEDECの常連メーカーでもある。他のミドルウェアメーカーと同様、BtoBのみのビジネスを展開しているため、エンドユーザーとの直接的な縁は薄いものの、ゲームへの浸透度は極めて高い。たとえば、「鬼武者 3」、「ファイナルファンタジー XII」、そして6月12日に発売される「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」などなど、日本のメジャータイトルにおいてドルビーの立体音響技術が採用されている。

 そのドルビーが、ゲーム産業に新たに提案するのが、ゲームに特化したボイスコミュニーションソリューション「Dolby Axon」である。映画やゲームのサラウンド再生を可能にするDolby DigitalやDolby Pro Logic IIとあたかも同列に並べられそうなネーミングだが、まったく性質の異なるソリューションとなる。

 ターゲットは、ゲーム、それもハイエンドのPCゲーミングシーンや、Xbox 360において利用されているボイスチャットである。ボイスチャットは、欧米ではすでに利用率が50%を超えるとされ、ハンズフリー、自然なコミュニケーションが可能など、オンラインゲームの分野における有力なコミュニケーションツールとして普及が進んでいる。

 ただし、現行のゲームで採用されているボイスチャットは、単なるトランシーバーであり、相手がどこにいようと常に会話できてしまう。これは一見便利だが、逆に言うとチームメンバーがみんなで集まってディスカッションするといった、リアリティのある表現ができない。また、当然のことながらモノラル音声のみであり、複数人が同時に喋ると聞き取れなくなる。さらに同時に発声するとデータ送受信量が跳ね上がり、ラグや音切れの原因になるなど、技術的な課題も残されている。

 それらの問題を一挙に解決してしまおうというのがDolby Axonの基本的な狙いとなる。原理的にはDolby Virtual SpeakerやDolby Headphoneのように、2ch環境で擬似的にサラウンド環境を実現するというものだ。ジオメトリデータからキャラクタの位置情報を常時拾って、話し相手との距離、方向から、音声データをミキシングし、正しい方向に音声を定位させる。相手が遠ざかれば次第に声が小さくなり、壁を挟むとストンと聞こえなくなる。さすがに残響音や反射まではカバーしていないようだが、“トランシーバー時代”のボイスチャットとは明らかに一線を画す、リアリティのあるボイスチャットコミュニケーションが楽しめる。

 Dolby Axonが画期的なのは、他のDolbyのソリューションと同様にゲームプログラムに組み込めるだけでなく、「サーバークライアント型」のソリューションであるところだ。誰かが音声を発すると、音声の特性に特化した専用のコーデックを通して、音声データが専用のミキシングサーバーにアップストリームされ、上記のような諸条件を加味してサーバーサイドでミキシングされ、相手のクライアントにダウンストリームされる。話し相手に届く声は、しっかり5ch環境で定位されているという具合だ。

 ミキシングは常にサーバーサイドで行なうため、ゲームサーバーやゲームクライアント側の負荷は常に一定に保つことができる。もちろん、ミキシングサーバーは、Dolbyが集中管理するわけではなく、ライセンシーにはサーバー側のソリューションも合わせて提供される。その処理能力は、「5,000人規模のサーバーの20%」、つまり1,000人の同時発声のアップストリーム、ミキシング、ダウンストリームをカバーするという。データ量は、Dolbyの音声データ圧縮技術により、20人の同時発声時において、ピーク時で50KB、平均で26KBまで抑えられるという。

【ドルビーのボイスチャットテクノロジー】
Dolby Axonによって実現される立体音響効果は、オンオフによってパラメータを切り替えられる。サーバークライアントのメリットだけを活かして、既存のトランシーバー型のボイスチャットという使い方も可能だ

【ミキシングサーバー】
ミキシングサーバーは、リナックスを推奨。音声のハッキングを防ぐためか、セキュリティ機能も備えているのがユニーク


■ 「Dolby Axon」でゲームが変わる。しかし、ハードルも高い

「Dolby Axon」のパイプライン。サーバークライアント型のソリューションとなっている
「Dolby Axon」で考えられる、新たなガジェット。パラボナアンテナ式のマイクを使って遠距離から敵陣営の声を盗聴するといった遊びも可能になる
「Dolby Axon」の将来的なビジョン。ミキシングサーバーを通してすべてのゲームプラットフォームがボイスコミュニケーションが楽しめる。そのような時代は来るのだろうか?
 ゲーム側の視点から見て、Dolby Axonが楽しみなのは、ゲームそのものを変えるポテンシャルを持っていることだ。Dolby Axonによるボイスチャットを前提としたマルチプレイシーンにおいて、自分の声をゲーム内のマイクとスピーカーを通して拡声したり、スパイマイクを使って、敵の作戦会議の声を拾ったりといった、リアリティのあるボイスコミュニケーションを逆手にとったゲームプレイが可能になる。

 セッション中に行なわれたデモでは、“Dolby Axon MOD”を入れた「Unreal Tournament 2004」をサンプルに、キャラクタ同士の会話がどう聞こえるかが披露された。相手が喋りながら周囲を回ると、声がぐるぐる回り、離れるとまったく聞こえなくなる。相手の声が聞こえない距離で、スパイマイクを相手のそばに射出すると、相手のしゃべりが丸聞こえになるなど、ユーザーの音声がゲームの一要素として立っていたことに新鮮な驚きがあった。

 ただ、Dolby Axonはヘッドセットでの使用を前提に開発されているということもあり、会場では5.1ch環境だったため、定位感が弱く、デジタル的な減衰、増幅がやや気になった。また、今回はミキシングサーバーがオーストラリアに設置されていたためか、相手に声が届く時間にコンマ数秒ほどのラグがあった。アイデアとしては抜群だが、実際のゲームシーンに落とし込むまでにはまだ時間が掛かるのかなという印象を持った。

 Dolby Axonの対応プラットフォームは、PCおよびXbox 360。現在β版が公開されたばかりで、正式版の公開時期や、新作タイトルへの実装の時期は、「まだ話せる段階ではない(近藤氏)」という。ドルビーとしては、今回の発表を機に、プラットフォーマーやゲームメーカーに対してさまざまな形で働きかけを行ない、採用に繋げていきたいとしている。

 Dolby Axonはゲームに採用されて初めてユーザーに新たな楽しさを提供することができるわけだが、そのハードルはメーカー側の都合よりむしろユーザー側のほうが高いと言える。なぜならDolby Axonのメインターゲットとして想定されているXbox 360のオフィシャルヘッドセットはいずれも片耳であり、この環境ではDolby Axonの実力を発揮することができず、ユーザーに新たに両耳をサポートしたヘッドセットの購入が必要となること。一方、PCにおいては、古くから外部ツールの形で同様のソリューションが提供されており、すでにコミュニティができあがっているコアゲーマーの間から、少なからぬ抵抗が予想される。

 しかしながら、Dolby Axonは、ドルビーとしても、ゲームサウンドの分野としても久方ぶりの大きな技術革新と言える。すべてのゲームがオンラインゲーム化しつつある中で、ボイスコミュニケーションの重要性は年々高まりつつある。Dolby Axonの普及は、ボイスチャットの普及が大前提となるだけに、世界的に見てもまだまだ利用率の低い日本で目が出るのは当分先の話になりそうだが、このドルビーらしからぬドルビーの新提案の今後の展開に注目していきたい。

【Dolby Axon MODデモ】
キャラクタの位置に合わせて動的に音の定位が変わる。離れた2階からマイクを射出すると、1階でおしゃべりしている2人の話し声が全部聞こえてくる。多少ラグや音飛びもあったりしたが、ドルビーがやりたいことは十分に伝わってきた

□「Game Tools & Middleware Forum 2008」のページ
http://www.webtech.co.jp/gtmf2008/
□ドルビージャパンのホームページ
http://www.dolby.co.jp/
□関連情報
【2008年6月4日】東京大手町にて「Game Tools & Middleware Forum 2008」が開催
今年も盛況。プラットフォーマーの開発環境に対する取り組みに注目
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080604/gtmf_01.htm
【2008年4月18日】「Game Tools & Middleware Forum 2008」
ゲーム開発者向けツール・ミドルウェア展示会を開催
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080418/gtmf.htm
【2007年8月3日】ツール・ミドルウェアの総合展示会が福岡で初開催
SCEやマイクロソフトなどによる開発者向けセミナーを実施
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070803/gtmf.htm
【2007年6月1日】「Game Tools & Middleware Forum 2007 TOKYO」開催される
SCEIやマイクロソフトなどゲーム開発メーカーがセミナーを実施
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070601/gtmf.htm
【2007年4月27日】ツール・ミドルウェアメーカー5社が総合展示会を開催
SCEやマイクロソフトなども開発者向けセミナーを実施
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070427/gtamf.htm

(2008年6月5日)

[Reported by 中村聖司]



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