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エマージェントジャパン、「Gamebryo 2.5」発表会を開催
海外で大人気の3Dゲーム開発ミドルウェアが正式に日本上陸

6月5日 開催

会場:秋葉原UDX

 6月5日、東京・秋葉原のUDXビルディングにて、3Dゲーム開発ミドルウェア「Gamebryo 2.5」の発表会が開催された。発表会を主催するのは、「Gamebryo」の国内正式代理店となる、株式会社エマージェントジャパン。海外で多数の採用実績を誇る「Gamebryo」の紹介が行なわれた。

 「Gamebryo」は、高機能を実現しつつ柔軟性の高さを併せ持つことが特徴のゲーム開発ミドルウェアで、海外では「The Elder Scrolls IV: Oblivion」や「SID Meier's Civilization IV」など超有名タイトルでもフルに使われており、300タイトル以上での採用実績を誇る。海外では主流の一角を構成するミドルウェアと言えるだろう。

 ちなみに6月4日に行なわれた開発者向けセミナー「Game Tools & Middleware Forum」でも、この「Gamebryo」関連の技術セッションが行なわれた。本稿では、本日の発表会と、先日の技術セッションの内容を交えつつ、ミドルウェア「Gamebryo」の最新情報をご紹介する。


■ 多数の採用実績を持つ「Gamebryo」が正式に日本上陸

「Gamebryo」の採用実績などについて紹介を行なった、Emergentアジアパシフィック担当副社長のジョン・グッデール氏
 「Gamebryo」は海外では大人気のミドルウェアではあるが、現時点で日本ではあまり知名度が高くなく、今回の発表会を行なったエマージェントジャパンが設立されるまでは公式のリセラーも存在しなかった。今回の発表会は日本国内では初の正式リリースであり、したがって「Gamebryo」の日本デビューを宣言する意味合いも持つ。

 「Gamebryo」は、米Emergentが開発する、3Dゲームエンジン、もしくは開発フレームワークだ。構成としてはC++ベースのプログラムライブラリ群+ツール類という形態をとっており、3Dモデルのレンダリング、アニメーション、カリングなど3Dゲーム開発で必要となる広範な機能クラスをサポートしている。「Unreal Engine 3.0」のようないわゆる典型的なゲームエンジンと比較されることも多いが、基本的に異なるアプローチのミドルウェアである。

 具体的には、フルセットで1個のゲーム機能を構成する「コンテンツパイプライン」的な仕組みを持つゲームエンジンに対して、「Gamebryo」は、単機能を実現する多数のプログラム・ライブラリ群からなり、使用デベロッパーの裁量によってどのようにも組み合わせて使えるという特性を持つ。

「Gamebryo」採用企業。そうそうたる有名デベロッパーが名を連ねている
 つまり、「Gamebryo」は独自ゲームエンジンを構築するための部品セットと言える。このため「Gamebryo」は旧世代ゲーム機水準の従来的なゲーム開発手法にも簡単に適応でき、さまざまな形態のゲーム開発に導入しやすいというメリットがある。ライセンシーにはフルソースコードが提供されるため、改造しての利用も可能だ。ドキュメントも充実しており、現場の開発者からの評価は非常に高いという。

 この特性ゆえに、採用タイトルは大規模なものから小規模なものまで、またFPSからRPG、そしてストラテジーゲームまでと、ジャンルを問わず多岐にわたるというのが実情だ。また「Gamebryo」はマルチプラットフォーム特性にも優れており、現時点ではPC、Xbox 360、プレイステーション 3、Wiiをメインターゲットに据えている。特に最近はPC用途で韓国や中国のオンラインゲームデベロッパーでの採用件数が伸びており、韓国では既に50の採用タイトルがリリースされているという。

採用タイトルは欧米の有名RPGから、韓国のオンラインゲーム各種など多数。最近ではアジア地域での採用例が激増しているようだ

 「Gamebryo」のもう一つの特徴が、その価格帯である。大型のゲームエンジンが1億円を下らない価格であるのに対し、「Gamebryo」は参考価格としてXbox 360、プレイステーション 3向けが210,000ドル(約2,100万円)、PC向けが180,000ドル(約1,800万円)、Wii向けが108,000ドル(約1,080万円)となっており、中小規模のデベロッパーでも採用しやすい値段だ。近年になって韓国・中国をはじめアジア地域での採用件数が激増している背景には、そういった入手性の高さが上げられる。

 発表会にて製品の沿革を紹介した、Emergentアジアパシフィック担当副社長ジョン・グッデール氏によれば、「Gamebryo」のアジア地域における採用件数は毎年倍増に近いペースで増え続けているという。中国では2005年に1件、昨年2007年には15件の採用件数となっており、韓国では毎年50タイトルに近い数字のようだ。またアジア全体でも昨年度売り上げで40%の成長があったとのことで、Emergentが同じアジアに属する日本市場に向ける期待は大きそうである。

 今回、公式の日本代理店としてエマージェントジャパンが設立され、日本語によるサポートが充実することも大きなファクターだ。その最初の取り組みとして、DCC(Digital Contents Creation:ここでは主に3Dグラフィックツール)ツール対応の拡大が上げられる。最新版の「Gamebryo 2.5」では従来の3D Studio Max、Mayaへのサポートに加え、日本国内で利用率の高いSoftImage|XSIにも基本的なエクスポート機能対応を追加し、今後も拡張していくという。

3Dゲームプログラミングの道具箱的な機能性を有する「Gamebryo」。マルチプラットフォームをサポートするだけでなく、開発規模やターゲットに応じた柔軟なゲーム開発を可能にする点が最大の特徴だ。最新の「Gamebryo 2.5」では地形エディタを添付するなど、周辺ツールの充実が進んでいる

4人のプログラマ、2人のアーティスト、1人のアニメータで1ヵ月で作ったというXbox 360動作デモ。リム反射やグローマップ、ソフトパーティクルなどの技術が使用されている 他の様々なミドルウェアとの組み合わせが容易なことも強調されている。特に「SpeedTree」は即座にビルトインできる 価格帯としては、中小のデベロッパーにも扱いやすいレンジといえるだろう。アジア圏における採用増加の主要な理由といえそうだ


■ 基本部分にマルチコア最適化、柔軟性のあるレンダリングシステムを搭載
 技術的には各デベロッパーの個性が大幅に発揮される構成

「GTMF2008」で行なわれた「Gamebryo」セッションは注目度が高く、立ち見が出るほどの盛況
 発表会の前日、6月4日に行なわれた「Game Tools & Middleware Forum 2008」内の「Gamebryo」関連セッションでは、6月6日に正式リリースされる最新版「Gamebryo 2.5」の技術特徴に触れる内容が主となった。

 そこで強調されたのは、プレイステーション 3のSPUをはじめとするマルチコア向けの機能と、レンダリングエンジンの柔軟性、そして開発者から要望の高かったテレーンエディタ(地形エディタ)の登場だ。

 まず、「Gamebryo 2.5」のメインフィーチャーに据えられるマルチコア対応は、「NiFloodgate」と呼ばれるライブラリクラスで実現される。簡単な仕組みとしては、3Dモデルのモーフィング、スキニングといったプロシージャル生成系の処理や、パーティクルシミュレーションなど、膨大なミニタスクを自動的に適切なプロセッサに割り振り、適切な時点で同調するというものだ。プログラマの負担が減るため、高性能機向けのゲーム実装効率が大幅に向上するとされる。

マルチコア対応は現世代ゲーム機へ対応する上での技術的関門である。「Gamebryo」には自動的にタスクを割り振る仕組みがあり、最適化を支援してくれるようだ

 またレンダリングエンジンとしては、基本の3Dモデルを表現する「NiMesh」、レンダリングの質感を表現する「NiStandardMaterial」などが柔軟性の高い機能を備えており、実行時のメッシュ変形や、最新のシェーダーテクノロジーを使ったレンダリング、もしくはターゲット機の性能に合わせたレンダリングを幅広くサポートできる。

地形エディタのスクリーンショット。典型的なハイトマップ方式をとり、ライティングやシャドウは自動で付加されるようだ
 「Gamebryo」には開発支援の各種ツールも付属しており、DCCツールで生成した3Dモデルやアニメーションをゲームへエクスポートするツールや、実機プレビューのためのビューワ、シーンエディタなど基本ツールが完備されている。また今回の「2.5」バージョンでは、新たに地形データの作成を支援する地形エディタとその対応クラス「NiTerrain」が追加された。

 初期バージョンの地形エディタは、ゾーンチェンジがあるタイプのMMORPGや、小規模なオープンフィールドFPSなど向けの小規模な地形を編集できる。今後のバージョンアップでは、これをシームレスタイプの広大な世界を構築できるものに成長させていくとのことで、近年ますます高速開発需要の高まるオンラインRPG分野で重宝されることになりそうだ。

3Dゲーム用グラフィックエンジンとして膨大な数のタイトルが採用してきた「Gamebryo」。全機能がソース付きで提供されるということもあり、各デベロッパーの使い方次第でどのようなゲームにも応用できるという強みがある。今後日本でも主流となるのか、注目していきたい


 全体的に見ると、「Gamebryo」は、各デベロッパーが独自のゲームエンジンを構築する際に便利に使えるクラスライブラリやツール類がソース付きで広範に用意されているという構成だ。したがって、実際のゲーム実装を行なう場合においては、各デベロッパーによる使い方次第で、ゲームの姿は大きく異なるものになっていく。技術力のあるスタジオからは最新のレンダリングテクノロジを縦横に駆使したゲームが生まれるだろうし、オンラインゲーム分野では普及型PCに照準したカジュアルゲームが生まれることになるだろう。

 応用分野が極めて広い3Dゲームミドルウェアとして、「Gamebryo」は「Renderware」や「Alchemy」に近い存在といえるかもしれない。現在、世界各地で多数のタイトルで採用が進められている中、日本で正式にファーストデビューとなる「Gamebryo」は、今後どのような使われ方をしていくだろうか。

 「Gamebryo」は、そのミドルウェアとしての構成から、デベロッパー各自の開発手法に適合させやすい。これは、一般にXbox 360やプレイステーション 3世代への開発スタイル移行が遅れ気味であるとされる、日本の多くのデベロッパーにとっては大きなメリットとなる可能性がある。また国産PCオンラインゲームタイトルが増えている流れも後押しするだろう。知られている限り、日本ではエマージェントジャパン誕生前の2005年頃から米Emergentとの直接契約の形でライセンスを取得したデベロッパもPCオンライン分野で2、3ほど出現しており、日本語サポートが整備された今、さらなる普及が期待できそうだ。

□エマージェントジャパンのホームページ
http://www.emergent.jp/
□「Gamebryo 2.5」の製品情報
http://www.emergent.jp/product_index.html
□Emergent Game Technologiesのホームページ
http://www.emergent.net/

(2008年6月5日)

[Reported by 佐藤カフジ]



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