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会場:秋葉原UDX
「Gamebryo」は、高機能を実現しつつ柔軟性の高さを併せ持つことが特徴のゲーム開発ミドルウェアで、海外では「The Elder Scrolls IV: Oblivion」や「SID Meier's Civilization IV」など超有名タイトルでもフルに使われており、300タイトル以上での採用実績を誇る。海外では主流の一角を構成するミドルウェアと言えるだろう。 ちなみに6月4日に行なわれた開発者向けセミナー「Game Tools & Middleware Forum」でも、この「Gamebryo」関連の技術セッションが行なわれた。本稿では、本日の発表会と、先日の技術セッションの内容を交えつつ、ミドルウェア「Gamebryo」の最新情報をご紹介する。
■ 多数の採用実績を持つ「Gamebryo」が正式に日本上陸
「Gamebryo」は、米Emergentが開発する、3Dゲームエンジン、もしくは開発フレームワークだ。構成としてはC++ベースのプログラムライブラリ群+ツール類という形態をとっており、3Dモデルのレンダリング、アニメーション、カリングなど3Dゲーム開発で必要となる広範な機能クラスをサポートしている。「Unreal Engine 3.0」のようないわゆる典型的なゲームエンジンと比較されることも多いが、基本的に異なるアプローチのミドルウェアである。
具体的には、フルセットで1個のゲーム機能を構成する「コンテンツパイプライン」的な仕組みを持つゲームエンジンに対して、「Gamebryo」は、単機能を実現する多数のプログラム・ライブラリ群からなり、使用デベロッパーの裁量によってどのようにも組み合わせて使えるという特性を持つ。
この特性ゆえに、採用タイトルは大規模なものから小規模なものまで、またFPSからRPG、そしてストラテジーゲームまでと、ジャンルを問わず多岐にわたるというのが実情だ。また「Gamebryo」はマルチプラットフォーム特性にも優れており、現時点ではPC、Xbox 360、プレイステーション 3、Wiiをメインターゲットに据えている。特に最近はPC用途で韓国や中国のオンラインゲームデベロッパーでの採用件数が伸びており、韓国では既に50の採用タイトルがリリースされているという。
「Gamebryo」のもう一つの特徴が、その価格帯である。大型のゲームエンジンが1億円を下らない価格であるのに対し、「Gamebryo」は参考価格としてXbox 360、プレイステーション 3向けが210,000ドル(約2,100万円)、PC向けが180,000ドル(約1,800万円)、Wii向けが108,000ドル(約1,080万円)となっており、中小規模のデベロッパーでも採用しやすい値段だ。近年になって韓国・中国をはじめアジア地域での採用件数が激増している背景には、そういった入手性の高さが上げられる。 発表会にて製品の沿革を紹介した、Emergentアジアパシフィック担当副社長ジョン・グッデール氏によれば、「Gamebryo」のアジア地域における採用件数は毎年倍増に近いペースで増え続けているという。中国では2005年に1件、昨年2007年には15件の採用件数となっており、韓国では毎年50タイトルに近い数字のようだ。またアジア全体でも昨年度売り上げで40%の成長があったとのことで、Emergentが同じアジアに属する日本市場に向ける期待は大きそうである。 今回、公式の日本代理店としてエマージェントジャパンが設立され、日本語によるサポートが充実することも大きなファクターだ。その最初の取り組みとして、DCC(Digital Contents Creation:ここでは主に3Dグラフィックツール)ツール対応の拡大が上げられる。最新版の「Gamebryo 2.5」では従来の3D Studio Max、Mayaへのサポートに加え、日本国内で利用率の高いSoftImage|XSIにも基本的なエクスポート機能対応を追加し、今後も拡張していくという。
■ 基本部分にマルチコア最適化、柔軟性のあるレンダリングシステムを搭載
そこで強調されたのは、プレイステーション 3のSPUをはじめとするマルチコア向けの機能と、レンダリングエンジンの柔軟性、そして開発者から要望の高かったテレーンエディタ(地形エディタ)の登場だ。
まず、「Gamebryo 2.5」のメインフィーチャーに据えられるマルチコア対応は、「NiFloodgate」と呼ばれるライブラリクラスで実現される。簡単な仕組みとしては、3Dモデルのモーフィング、スキニングといったプロシージャル生成系の処理や、パーティクルシミュレーションなど、膨大なミニタスクを自動的に適切なプロセッサに割り振り、適切な時点で同調するというものだ。プログラマの負担が減るため、高性能機向けのゲーム実装効率が大幅に向上するとされる。
またレンダリングエンジンとしては、基本の3Dモデルを表現する「NiMesh」、レンダリングの質感を表現する「NiStandardMaterial」などが柔軟性の高い機能を備えており、実行時のメッシュ変形や、最新のシェーダーテクノロジーを使ったレンダリング、もしくはターゲット機の性能に合わせたレンダリングを幅広くサポートできる。
初期バージョンの地形エディタは、ゾーンチェンジがあるタイプのMMORPGや、小規模なオープンフィールドFPSなど向けの小規模な地形を編集できる。今後のバージョンアップでは、これをシームレスタイプの広大な世界を構築できるものに成長させていくとのことで、近年ますます高速開発需要の高まるオンラインRPG分野で重宝されることになりそうだ。
全体的に見ると、「Gamebryo」は、各デベロッパーが独自のゲームエンジンを構築する際に便利に使えるクラスライブラリやツール類がソース付きで広範に用意されているという構成だ。したがって、実際のゲーム実装を行なう場合においては、各デベロッパーによる使い方次第で、ゲームの姿は大きく異なるものになっていく。技術力のあるスタジオからは最新のレンダリングテクノロジを縦横に駆使したゲームが生まれるだろうし、オンラインゲーム分野では普及型PCに照準したカジュアルゲームが生まれることになるだろう。 応用分野が極めて広い3Dゲームミドルウェアとして、「Gamebryo」は「Renderware」や「Alchemy」に近い存在といえるかもしれない。現在、世界各地で多数のタイトルで採用が進められている中、日本で正式にファーストデビューとなる「Gamebryo」は、今後どのような使われ方をしていくだろうか。 「Gamebryo」は、そのミドルウェアとしての構成から、デベロッパー各自の開発手法に適合させやすい。これは、一般にXbox 360やプレイステーション 3世代への開発スタイル移行が遅れ気味であるとされる、日本の多くのデベロッパーにとっては大きなメリットとなる可能性がある。また国産PCオンラインゲームタイトルが増えている流れも後押しするだろう。知られている限り、日本ではエマージェントジャパン誕生前の2005年頃から米Emergentとの直接契約の形でライセンスを取得したデベロッパもPCオンライン分野で2、3ほど出現しており、日本語サポートが整備された今、さらなる普及が期待できそうだ。
□エマージェントジャパンのホームページ (2008年6月5日) [Reported by 佐藤カフジ]
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