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会場:立命館大学 以学館
講演者は、「ドルアーガの塔」のゲームデザイナーで、現在は株式会社モバイル&ゲームスタジオ代表取締役会長を務める遠藤雅伸氏と、株式会社ゴンゾでテレビアニメーション「ドルアーガの塔 the Aegis of URUK」のプロデューサーを務める橋本太知氏のおふたり。
■ 「ドルアーガの塔: ジ・オリジン」
「ドルアーガの塔」がアーケードに登場したのは'84年で、企画はさらにその1年前から始まっている。聴講していた学生の多くが20歳前後なので、自分達が生まれる前に作られた作品、ということになる。 まず遠藤氏は、「ドルアーガの塔」のルーツについて紹介。テーブルトークをシステム化した「ダンジョンズ&ドラゴンズ」でRPGの概念を知り、次に会社が海外から買ってきたソフトにまぎれていたという、Apple IIの「Wizardry」をプレイ。さらにインテリビジョンの「Advanced D&D」をプレイし、「とても面白かったので、RPGを作ろうと思った」というのが「ドルアーガの塔」の開発に至るきっかけだったという。 最初の企画書は'83年に作られたもので、タイトルは「QUEST」だった。上下左右に通路がある部屋がいくつも繋がったマップを探索するというもので、後に登場した作品になぞらえれば「ゼルダの伝説」のイメージに近い。アイテムを拾って敵と戦いながらダンジョンの奥に潜っていくというものだが、ただ扉を見つけても入れず、王女を見つけて鍵を受け取ると進めるようになる、といったクエスト要素も既に含まれていた。また食べ物で体力を回復するというアイデアも盛り込まれていた。 その次に作られた、プロトタイプ1(第1試作版)の企画書では、「THE RETURN OF ISHTAR」というタイトルになった。これは後に「イシターの復活」としてシリーズ作品に連なることになる。ここではキャラクタのネーミングについて「武器やアイテムは『Wizardry』の名前をそのまま持ってきている。バンドでコピーからはじめるのと同じようなもの。そういう手法もある」と語った。ちなみにモンスターは「ダンジョンズ&ドラゴンズ」から引っ張ってきている。 試作段階に入る際には、以前は「マッピー」に使われ、余っている基板を流用する(ROMを交換する)ことで話が進められた。そこでできた次の企画書が、「the defence of Tower for ANU」というもので、ほぼ完成版の「ドルアーガの塔」と同じデザインになっている。 この企画書には、塔の最後に到達したところで、「できればこれで終わりにしたい」と書いてあった。当時のアーケードゲームでは、プレーヤーが悪いことをしていないのに強制的にゲームが終了するのはタブーとされていた。しかし100円で数時間遊べてしまうのは、ゲームセンターの店側にとっては嬉しくない事態で、遠藤氏もその対策として、ストーリーが完結したところでハッピーエンドにするという方法を考えた。ただこれを書いた当時は「びくびくしていた」のだそうで、手書きの文字もかなり弱気に書かれていた。
一通りの開発の流れを見た後は、開発資料を見ながら実際の制作の一幕が紹介された。技術的なところでは、キャラクタやモンスターのデザインにおいて、パーツに分けて描くという仕組みを初めて使った作品になるという。具体的には、ドラゴンの胴体、体、羽、頭のパーツを別々に描くことでデータ量を減らしている。またキャラクタのカイを描く際には、当時は1つのパーツに対して3色しか使えなかったものを、頭と体を別々に描いて合成することで6色使用している。 色データを使ったテクニックについても語られている。ブルーナイトとブラックナイトは色を変えただけ、という基本的なものもあるが、そのほかにも、ツノのあるキャラクタにはツノの部分に色をつけ、ないキャラクタはツノを透明にするというテクニックが使われている。同様に、マジシャンの指輪やヒゲなども、肌色に合わせたりすることで、1つのモデルで違いを出している。「パレットマジック」と呼ばれる手法で、これも「ドルアーガの塔」で初めて使われたのだという。 グラフィックスではほかに、火の絵について詳しく紹介された。ドット絵を描く際の試行錯誤では、映画「ブレードランナー」の火を参考にしたそうで、最終的には「火が千切れて飛んでいく」という動きを表現したものになっている。またアニメーションは、基本となる2枚の絵を用意し、それぞれを反転させたものを加えた4パターンで動かしている。 このほか、「リザードマンが左手に武器を持っているのは、体が硬いから攻撃を優先するため(主人公のギルは右手に剣、左手に盾を持っているので、左に武器を持つと盾で防がれにくいという判断)」といった細かい設定も披露。また「ブラックナイトは『ガンダム』のドムを見て。ブルーナイトはジオング」、「カイは最初の出来が可愛くないが、連作していくうちにだんだん可愛くなった」といった話題も。
またプロモーションにおいては、ポスターにこだわりがあるという。当時、社長が漫画嫌いだったため、アメコミ調のコマ割りで、ジオラマにキャラクタの絵を立てて撮影し、それにフキダシをつけて作ったという。また後半のコマでドルアーガの影が映っているところがあり、そこではギルが角の生えたヘルメットになっている。これはこのヘルメットを取らないとドルアーガを倒せないということを暗に示しているものだそうで、プレーヤーもこれに気づいて攻略を進めたという。
■ 「『ドルアーガの塔』プロジェクトに見るトランスメディアの現在とこれから」
この作品は、遠藤氏が描いたギルとカイの物語(原作)を作中で伝説として扱い、その80年後の世界を描いている。しかしながら前述のとおり、主な視聴者層となる20歳前後の男性は、原作を知らない。そこでこの作品では、制作とプロモーションにおいて、それを逆手にとった作戦を展開した。 まず第1話において、原作の世界観を知ってもらうため、ダイジェストを見せようとした。ここで単にダイジェスト映像を作るのではなく、本作の主人公ジルが気絶している間に見た夢という形で表現した。1話で原作の大冒険を見せつつ、最後は夢でしたというオチで、再びジルの冒険が始まるという展開である。 ここまでは普通のやり方なのだが、もう1つ仕掛けが用意されている。本作は地上波での放映と同時に、動画配信サービスのGyaoでも同じタイミングで配信しているのだが、実は地上波とGyaoで、第1話の内容が異なるのである。地上波の内容は前述のとおりだが、Gyaoでは「裏1話」と呼ばれるもので、気絶したジルをかばいながら逃げる仲間達の様子が描かれている。しかも、「表1話」でジルが夢の中で喋ったセリフが、「裏1話」では同じセリフを寝言で喋っており、さらに同時に再生すると時間までぴったり合わせてある。 インターネットの掲示板などで、「同時に見ているのに内容が違う」ということが話題になり、さらに動画投稿サイトで2つの映像を並べたものが出てきたことで、この仕掛けがユーザー側から明らかにされた。これで話題作りを狙うという、ユニークなプロモーションを行なっている。「まさかと思うことをやる。これを積み上げることで認知をあげていく」というのが今回の作戦だという。 またプロモーションでは、GyaOでの第1話の視聴者に、いくら丼をプレゼントする企画を展開。これは動画投稿サイトで「ドルアーガの塔」の音楽を初音ミクが「いくら丼が食べたかったなー」と歌う動画が人気を集めたことから、暗にそれに絡めたもの。「賛否両論あったが反響は大きかった」ということで、こちらも作戦としては成功したようだ。 作品作りについては、橋本氏は「これだけ伝えられればいい」と2点を挙げた。1つは、絶対めげないでやること。「GONZOに入ってから、何回こけたかわからない。ケロっとしたふりをしていれば、作りたい作品をお願いできるプロデューサーになれる」とした。もう1点は、自分がやってることが一般論としてどれほどの価値があるかを見極めること。「水戸黄門や必殺仕事人などのカタルシスは基本としてある。これをわからないままやっても伝わらない。そこを意識してるかしてないかで違う」と語った。 講演の後の質疑応答の中で、遠藤氏も「ドルアーガの塔 the Aegis of URUK」について話をしている。世界観など細かい話はしていないようだが、唯一「いまどき60階というのもないから、3,000m以上の塔にしてくれ」と伝えたという。これは作品でも雲を突くような高さの塔になって実現している。
これについて遠藤氏は、「どの作品にも“原理主義者”はいるが、過去のものを否定しないと新しいものは出てこないし、みんなを納得させることはできない。我慢できるレベルに抑えることは大事だけれど、初めて見る人にとって面白いかどうかがとても大切」とし、作品単体としての面白さを重視すべきだという考えを示した。
また、「世間で面白いといわれているものを、理解できなくても知っておくことは大切。視聴率の高いテレビを見たり、大規模なイベントなどを見てほしい」と語った。これは橋本氏も、「視聴者の最大公約数を知ること」、「基本となるカタルシス」という言い方で、同様のことを強調している。奇抜なアイデアも重要だが、今の世間の常識がどこにあるかということを知り、流れをつかんでおくことも大切だということだろう。 聴講した学生の様子を見ていると、「こんな古いゲームの作り方を聞いてどうするのか」といった声も聞かれた。小容量のROMにデータを入れ込むためのテクニックや、ドット絵の試行錯誤などは、確かに現在の主流といえる技術ではない。しかし、モバイルゲームや携帯ゲーム機などでは、ほぼ同様の技術が求められることもあるし、データ量を減らすという作業はどこにでもある。そして何より、今あるものの中でアイデアをどう実現させるかという発想は、今も昔も変わらず必要になる。
もちろん学生によって目指すところも違うようで、興味を引かれた学生も多く、講演の間には遠藤氏が持ち込んだ企画書を友人と一緒になって眺めながら、熱心に話している様子も見られた。新しい古いという話ではなく、あくまで「自分の知らなかった手法の1つ」として、貪欲に情報を取り込んでいって欲しいと思う。
(2008年5月12日) [Reported by 石田賀津男]
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