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会場:サンフランシスコ Moscone Convention Center
ドイツのCRYTEKといえば、ヨーロッパのテクノロジーリーダー的ゲームスタジオとして著名であり、その処女作「Far Cry」は、DirectX 8世代のプログラマブルシェーダーグラフィックスの1つの集大成作品として一世を風靡した。 「Far Cry」は、UBI SOFTから発売されたが、その後、CRYTEKはパブリッシャーをElectronic Arts (EA) へ変更し、最新作「CRYSIS」を発売している。UBI SOFTからEAへの移籍の際に、「Far Cry」ブランドをUBI SOFTへ売却しており、事実上「Far Cry」はUBI SOFTのものとなったのである。 UBI SOFTは強力な「Far Cry」ブランドを活かして、続編「Far Cry 2」の開発を決定。その開発は「アサシンクリード」、「プリンス・オブ・ペルシャ」シリーズ、「スプリンターセル」シリーズなどのビッグヒットタイトルを手がけてきたUBI SOFTモントリオールが担当することになった。 「Far Cry」は、CRYTEKの当時の最新鋭3Dゲームエンジン「CRY ENGINE1」を使用していたが、本家CRYTEKはそのバージョンアップ版の「CRY ENGINE2」を開発し、そのエンジンデビュー作として「CRYSIS」を2007年に発売した。 時代はプログラマブルシェーダー3.0ないしは4.0へとシフトしてきており、「CRY ENGINE2」はこれにいち早く対応。プログラマブルシェーダー1.x~2.0ベースの「CRY ENGINE1」で、「Far Cry 2」を動かしてもテクノロジーインパクトが小さい。UBI SOFTとしては「Far Cry」ブランドにはゲーム内容だけでなく、テクノロジーリーダーぶりも訴求したい。そこで、UBI SOFTモントリオールは、「CRY ENGINE1」をベースにして独自拡張を行なった「DUNIA ENGINE」の開発に乗り出す。
GDC 2008では、この「DUNIA ENGINE」に関してのセッションが行なわれ、またGDC展示会場のインテルブースでは、この「DUNIA ENGINE」のインタラクティブデモが公開された。
担当者によれば「DUNIA ENGINE」内の「CRY ENGINE1」のコードは10%未満とのことで、だからこそ、名前を新しくしているのだという。 グラフィックスエンジンは、ほぼ一新されており、DirectX 10/SM4.0対応のエンジンへと進化させられている。 「Far Cry」がそうであったように「Far Cry 2」もオープンフィールドを舞台しているが、舞台が「Far Cry」の南国から、「Far Cry 2」ではアフリカのサバンナへと変更されている。この変更に伴い、地形レンダリングエンジンを新開発、広大なアフリカの環境をリアルに再現する仕組みを搭載させた。
まず、一度にエンジンが処理できる範囲は50×50kmという広さ。この中をシームレスに移動でき、遙か遠方までを描画することに対応する。
そして特に力を入れているのが自然現象のプロシージャル再現。
空……すなわち天球は、任意の位置に太陽の位置を与えて光散乱シミュレーションによって動的に算出している。つまり空はアーティストが描いた書き割りではなく、シミュレーションによって算術的に合成したものになる。
雲は、パーティクル生成したものをライティングしてテクスチャに書き出すアプローチによるプロシージャル生成であり、リアルタイムに刻々と形を変える。しかも太陽に掛かるとリアルタイムに空の色や雲の色の陰影が変化する。もちろんそれらの雲は天候パラメータを設定することが雨雲に成長させることもでき、この場合太陽が覆われ、情景はみるみるうちに暗くなり、そのうち、雨が実際にぱらついてくる。「DUNIA ENGINE」では動的な天候のシミュレーションの機能も搭載しているのだ。
太陽、空、雲の動的変化は非常に自然で、次世代感を感じる。奥行き方向の空気遠近もシーンの深度値をキーにして光散乱シミュレーションを行なって算出しており、奥行き感のある霧の層を実感できる。 また、なんといっても力が入っているのがプロシージャルな植物生成。
「DUNIA ENGINE」では、植物の種類、密度、枝分かれのパラメータを調整するだけで、リアルな植物モデルをアーティストのモデリングなしで自動生成できるのだ。面白いのが植物の年齢を設定できるところで、任意の種類の植物を苗木から老木にまでシームレスに生成できる。デモンストレーションでは時間を早送りして、シーン内の植物が芽を出して枝分かれして大木になるまでの様子を公開した。
影はデプスシャドウ技法系を実装しており、シーン内の全ての動植物に対してリアルタイムシャドウを生成している。
今回のデモでは見ることができなかったが、多様な車両物理をも実装し、動的に思考する敵AI、NPC AIなども「Far Cry」から各段に進化しているとのこと。
まだまだ、「エンジンの開発を継続中」……というようなエンジンのみのテクノロジーデモであり、ゲームの内容はまったく見えなかったが、「『Far Cry』の本物の続編」ということは強調されており、シリーズファンの人は期待して良さそうだ。ちなみに前作の主人公ジャック・カーヴァーも登場するらしい。発売日は未定。プラットフォームはPC版を前提としている。なお、海外ではこれまでに「Far Cry」シリーズはXbox版、Xbox 360版、Wii版も発売されているので、「Far Cry 2」の家庭用ゲーム機への展開も予想される。
■ Microsoftキーノートで公開された「Unreal Engine3.0」の新フィーチャーとは?
どうやら、2008年、「UE3」はバージョン番号こそ変えないものの、かなりの機能強化を図っていくようなのだ。
具体的にどのようなフィーチャーなのか、1つずつ見ていくことにしよう。なお、基調講演で紹介されたムービーを以下に示す。
・Ambient Occlusion (環境光から遮蔽) ステンシルシャドウボリューム技法やデプスシャドウ技法のようなリアルタイム影生成技法は、自身の影を自身に投射するセルフシャドウ生成にも対応した強力な影生成技法だが、いかんせん影がはっきりと出すぎる。 ソフトシャドウ処理のような影輪郭をぼかすテクニックもあるにはあるが、現実世界では、光源からの直接光による光だけでなく、その光が反射したり散乱したりして2次的な光源となって作り出す柔らかい影も存在する。こうした影をまともに生成するにはレイトレーシング的なアプローチが必要なのだが、これを大胆な近似法で実現する技が開発されたのだ。
それが、この「UE3」でも採用された「Screen Space Ambient Occlusion」(SSAO) と呼ばれる技法だ。
「Screen Space」というのは画面座標系で処理する……という意味が込められているので、つまりレンダリング結果からポストプロセス (画像処理的なアプローチ) で行なうということ。「Ambient Occlusion」は直訳すると「環境遮蔽」だが、これは「環境光から遮蔽された陰影を作り出す」というような意味が込められている。 この技法の基本方針は、「あるピクセルをレンダリングする際、ここがどのくらい周囲に遮蔽されているかを調べていく」……というものになる。これを調べるには、シーンをレンダリングして得られる深度バッファ (Zバッファ) を利用するのが手っ取り早い。 着目しているピクセルを中心に、複数の適当な方向 (4~8方向など、許容負荷に応じて適当に) に適当な範囲の深度値を深度バッファから読み出して、その地点が周囲からどのくらい遮蔽されているかを調べる。 もちろん、局所的な遮蔽しか調べられないがそれで構わない。局所的に調べて遮蔽されている度合いが高いのであればそこは暗くなる確率が高いと判断できるわけで“陰”として暗く陰影を付ける。 柔らかい陰影がしっかりと出るので、直接光だけのリアルタイム影生成だけのときよりもリアリティが増す。もちろん、シーンの中に動くものがあった場合でも、そのシーンに対して逐次処理されて陰影が出力されるのも、事前処理の焼き込み陰影とは違って効果として大きい。
SSAOの効果の大きさは広く伝わってきており、にわかに今世代の3Dゲームグラフィックスで流行となりつつある。「UE3」もいち早くこれに対応したということだ。ちなみにライバルの「CRY ENGINE2」もSSAOを実装している。
具体的にどのようなメソッドが実装されたかは述べられなかったが、このようにやや明るめに、柔らかい陰影が出るようにする工夫は時々行なわれる。例えば、Valveが「Half-Life 2」などで採用してきている彼ら独自の「ハーフ・ランバート・ライティング」などは、まさしくキャラクタを美しく見せるためのカスタムライティングだった。
映画の照明でも、物理的には正しくないが、画面としての印象を良くするために非現実的なカスタムライティングをすることがよくある。新「UE3」ではそうした動的キャラクタのライティングメソッドを実装したということのようだ。
・High Density Crowds (大規模群集) 「『Gears of War』では5~6体だった敵キャラクタも、最新版の『UE3』では100体以上の表示が可能になった」(Sweeney氏) おそらく同一キャラクタの複数体表示については、エンジン側がDirectX 9/SM3.0で実装されたインスタンシング機能を、積極活用した描画処理系を実装したということなのだろう。
このデモの見どころはそれだけではなく、それぞれのモンスターが互いに衝突しつつ移動しているという点。群集の移動経路を指示すれば、群集を構成している各キャラクタは互いの密度が平均化するように歩行速度や歩行経路を調整して移動する。
・Dynamic Fluid Surfaces (動的な水面表現) 「高度な水面の物理シミュレーションを実装し、動的な水面表現がさらに進化した」(Sweeney氏) 技術的な詳細説明はないが、動的法線マップベースの水面表現だけではなく、ジオメトリレベルの実際の高低のある動的な波の表現に対応した……ということのようだ。 流体物理シミュレーションによるものではなく、あらかじめ細かくグリッド化した水面に対し、波動関数を適用して頂点を動かす方式だと推察される。ただし、動的キャラクタと水面のインタラクトは正しく反映されており、例えば動的キャラクタとの水面の激しい衝突時には激しい波動生成とともに、パーティクルシステムを用いて水しぶきを生じさせているなど、芸は非常に細かい。
視線角度に応じて、周囲の映り込みと水面下の情景の見え方のバランスが変わるフレネル反射の仕組みもちゃんと実装されている。
・Matinee Improvement (シネマティック・エディタの進化)
「UE3」のインゲームムービーの編集ソフト「MATINEE」が進化し、そのプレビュー画面が、完全に最終的にエンジン内でレンダリングされるフレームを見ることができるようになった。
・Soft Body Physics (軟体物理) 物理シミュレーションの結果で自身が変形するような軟体 (柔体) の挙動を制御できる物理シミュレーションが実装された。重要なのは自身の変形が、自身の運動、自重、外力から総合的に処理されるところ。 デモンストレーションでは濡れた肉片のようなものと液体金属のようなものを銃撃するさまが紹介されている。
現時点では、分裂や切断には対応しておらず、また、粘性のパラメータも配慮されていない。これらについては将来的に対応したいということであった。
・Destructible Environments (進化した破壊システム) 新「UE3」では、リアルタイム構造解析ツールが実装されたことにより、そのシーンの動的な破壊を事前計算させて、実行時にリアリティ溢れる破壊インタラクションが得られるようになった。
この機能のデモンストレーションとして、コンクリートの壁や床を爆破すると、コンクリート瓦礫へと化し、中の鉄骨が露出するというシーンを公開している。
どう粉々になるのかを構造解析ツールで事前に計算しておき、実行時にはその粉々となった瓦礫を接着するような形でシーンを構成。衝撃を受けた場合は、事前計算しておいた許容ダメージと照らし合わせ、破壊されたと判断できれば、その瓦礫群を物理シミュレーションで跳ね飛ばす……というような実装のようだ。
このような、破壊構造を事前計算しておき擬似的なノンリニア破壊の実装は「Stranglehold」でも、「Massive-D」システムとして実装されており、他のゲームタイトルでも同種のアプローチで実装されてきている。なお、「Stranglehold」が「UE3」ベースであること、MIDWAYとEPIC GAMESのこれまでの関係性の深さ (歴代「Unreal」シリーズはMIDWAYで販売されてきた) を考慮すると、両者のコラボレーションによる新機能……なのかもしれない。
・Nurien Softwareから「UE3」ベースのSNSが登場 「『UE3』はFPSゲームエンジンなのか」と皮肉を言われることもあるが、現在発売中の「ロストオデッセイ」や「ラストレムナント」のようなRPGも実は出ている。とはいえ、どちらかといえば暗いイメージのゲームが多いのも事実。
そんなイメージを打破してくれそうなのが「UE3」をベースに韓国のNurien Softwareが開発中のSNS (ソーシャルネットワーキングサービス) の「NURIEN」だ。
3DのSNSといえば「Second Life」が有名だし、Webベースだと日本では「mixi」が有名だが、ああいったSNSの仕組みを「UE3」のリアル・グラフィックスで、しかもミニゲームを盛りだくさんでやってみようというのが「NURIEN」の基本コンセプトになっている。 世界観としては芸能界をモチーフにしており、プレーヤーは、仮想空間内で活躍する自身の分身となる芸能人キャラクタを作るところから始まる。 アバターはリアル系タッチだが、欧米好みの濃い感じではなく、アジア圏のゲームユーザーが好きそうなスッキリ系の美男、美女が作れる。衣服も材質やデザインを組み合わせることで多様なものが自作でき、もちろんそれらを自分のアバターに着せることが可能。
自分の部屋を持ったり、ロビーで会話できたり……といった様子は、ちょっと「Playstation Home」にも近いイメージがある。
ゲーム内ゲームとしては、テレビ番組を模したクイズ、ファッションショー、ダンスなどが用意されており、これらを好きなオンラインの他ユーザー・アバターと楽しむことができる。 韓国では2008年夏よりサービス開始、中国は2008年内、北米では2009年にサービスの開始を予定しているという。 グラフィックスは基本的には人形チックではあるものの、どことなく「UE3」特有のフォトリアル要素が見え隠れするとてもユニークなビジュアルになっていて面白い。
今まで「UE3」といえば、マッチョなオジサマ主体のイメージが強かったので、EPIC GAMES側としては「UE3」の新しい活用スタイル……として高い期待を寄せているようだ。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ http://www.gdconf.com/ □Game Developers Conference(日本語)のホームページ http://japan.gdconf.com/ □関連情報 【2月28日】西川善司の3Dゲームファンのための「GDC 2008最新ゲームエンジン」講座(前編) 和製CAE対応「オクターブエンジン」、ソニー製なのにXbox 360対応「PHYRE ENGINE」、Valve「Team Fortress 2」 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080228/3de.htm 【2008年2月】Game Developers Conference 2008 記事リンク集 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080221/gdclink.htm 3Dゲームファンのためのグラフィックス講座 バックナンバー http://game.watch.impress.co.jp/docs/backno/rensai/3dg.htm (2008年2月29日) [Reported by トライゼット西川善司]
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