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会場:サンフランシスコ Moscone Convention Center
ゲームの開発に資金がかけられない分、とにかくアイディアで勝負するのがインディペンデントゲームの特徴で、定番安定・シリーズ志向の強い一般のパブリッシャーが手がけるタイトルとは異なり、決して万人受けしない奇抜な内容のゲームや、実験的な意味合いが極めて強いゲーム、一般で流通しているタイトルと遜色ないクォリティを誇るゲームなど、様々な志向のゲームがごった煮状態でひしめいている、ゲームファンであればこれから開拓していきたいジャンルの1つだ。
「Half-Life 2」のMODとして登場した「Rag Doll Kung Fu」を作ったメンバーが、これから発売されるPS3タイトルの中でも期待度の高い「Little Big Planet」を手がけることになるなど、メジャーデビューへのサクセスストーリーも聞かれるようになったインディペンデントゲーム。今回はExpo会場で出展されていたタイトルの中でも「これは面白そうだ」と注目した4タイトルを紹介していこう。
■ 猿蟹合戦をモチーフにしたパズルと音ゲーの合体作!
開発:Work 3 試遊台にはハンドメイドのジョイスティックが用意されており、ゲーム全体的に強く日本のアーケードゲームが意識されているのがわかる。日本の童話「猿蟹合戦」を世界観のモチーフにしたらしく、プレーヤーはサルを操作して敵をかわしつつ、ステージ中にある「バナナ」マークをゲットする実にシンプルなルールで、操作もジョイスティックならレバー1本、キーボードならカーソルキーのみと同様のシンプルさがウリだ。 単なるパズルゲームと思いきや、一筆書きのような要領でバナナマークめがけて飛び移っていく過程でブロックに触れるたびに異なる効果音が出る。この要領でサルを動かすことでBGMにノリの良い効果音を重ねていくことができ、パズルゲームに音ゲーの爽快感・気持ち良さをプラスした意欲的なアイディアが盛り込まれている。 試遊台ではヘッドフォンを装着してゲームをプレイすることができたが、サルを動かしているだけで、不思議な気持ちよさを体験することができた。パズルゲームというよりはサルを操作してBGMを自在にアレンジしているような感覚になってくるのが面白い。 全般的なゲームの流れは実際に動いているものを見た方が早い。公式サイトには現在YouTube版とDivXでエンコードされたダウンロード版2パターンのプロモーションムービーが配布されているのでぜひチェックしてみて欲しい。奥が深く見た目のかわいさ、シンプルさからは伺い知れない面白さをプレイして感じられた。
ゲームは、9つのワールド×10ステージの全90ステージが用意されており、各ワールドの最後にはボスキャラとの対決も用意されている。敵キャラクタは全部で40種類も登場するそうだ。完成版のリリース時期だが、現在鋭意開発を進めているようで開発完了までには少なくとも、あと4カ月程度はかかるそうだ。最新情報は公式サイトでアナウンスされるそうなので続報に注目していきたい。
■ ドロドロのグー・ボールを積み重ねるパズル&コンストラクションゲーム
開発:2D BOY
公式サイト:http://www.2dboy.com
同作が他のタイトルより注目されるのも、実際に動いているゲームを見れば1ランク上のセンスとクオリティを持っていることが一目瞭然で、開発を行なっている「2D BOY」の2人、Kyle Gabler氏はEA Maxisに所属し、Ron Carmel氏はEAのオンラインサービス「Pogo」のゲーム開発者だった経歴を持っている。どちらのスタジオもアイディアとセンスが必要なゲームを多数輩出しており、本作もそれらの下地があればこそ生み出された物なのかもしれない。 ゲーム内容は「グー・ボール」と呼ばれるスライムのような物体を合体させてゴールを目指す物理学に基づいたパズル&コンストラクションゲームだ。プレーヤーはグー・ボールの塊を引き伸ばしたい方向に引っ張り、ゴールにある吸引器を目指し、グー・ボールの塊を長く伸ばしていかなければならない。 物理学に基づいて、というからには単に引き伸ばせば良い訳ではなく、離れたゴール地点にグー・ボールを届けるには地面や天井に足場をしっかりつくり土台を築く必要がある。グー・ボールを長く伸ばせば伸ばした分だけ重みで折れてしまう危険性もあり、高さを増すためにひたすら長くすれば良い訳でもなく、強度に関しても考慮する必要がある。 この辺のパズル性と練られたステージデザインは、レベルが高くどんな層のゲームファンが見ても製品として通じるクオリティを持っており、洗練されたビジュアルとあいまって、プレイした時の満足度はかなりのもの。 実際に試遊台には人が途切れることはなく、プレイ時間も特に制限がないため試遊する番がまわってくるまでかなりの忍耐を必要としたが、待っていた時間が報われたと感じるほど、楽しいゲームプレイを体験することができた。 ゲームの完成版発売は2008年という以外は具体的な案内が出ていないが、現在公式サイトからPayPalというオンライン決済サービスを使ったプレオーダーができるようになっている。19.99ドルを支払うことで「チャプター1」の部分だけ先行して遊ぶことができるほか、完成版発売の1週間前にフルバージョンがゲットできる2大特典がついてくる。 実際にプレオーダーをしてみたが、先行体験としては十分なステージ数を遊ぶことができるため、ちょっとした暇つぶしゲームを求めている人は買ってみて損はないだろう。ステージは進むほどユニークなギミックが登場してくるため、他のパズルゲームには見られないワクワク感も楽しい。
現在はPC版のみだが、Wii版の発売も予定されておりMacとLinux版も順次展開を予定しているようだ。会場に2D BOYのどちらかがいれば、Wii版は話題のWii Wareで提供されるのか? などの質問をぶつけてみたかった所だが、あいにく試遊台の周囲には見あたらなかったため、断念せざるを得なかったが、いずれ改めて本タイトルを紹介したい。
■ 表と裏、世界を切り替える独特のゲームデザインが光るアクションゲーム
開発:Team 3 世界観の設定が際立っており、プレーヤーは病院から脱出した逃走中の患者で、病院の外は太陽の光がまぶしく木々は生い茂り、鳥がさえずるのどかな風景、脱出に成功した幸福感のあまり雲の高さまでジャンプできてしまうほど。プレーヤーが唯一自由を得るにはステージの終わりで待っている船に到達することが、このゲームの目的だ。 病んでいるプレーヤーは表の世界と裏の世界を自由に行き来することができ、道を阻む可愛らしいウサギも裏の世界ではプレーヤーを捕まえるために追いかけてきた醜悪な看護婦であり敵でもある。ゲームはそれぞれ特徴のある表と裏の世界を上手に切り替えることで障害を取り除いて進めていく。 表の世界はプレーヤーが幸福の状態であり、コントロールキーを長押しすれば雲を超えるほどのジャンプ力を発揮することができる。この特性を活かして障害物や敵をジャンプでかわしていくのがゲームの基本的な進め方になる。 対して裏の世界はプレーヤーの精神が荒んだ状態で、周囲のなにもかもが醜悪に見えるという恐ろしい世界。ジャンプ力は低いものの、ヘッドバッドでプレーヤーの行く手を阻む敵を倒すことができ、壁などにもよじのぼることができる。 表・裏の特性を要所で切り替えてステージ中の障害を越えて船までたどりつければゲームクリアとなる。開発者の1人でゲームデザインを担当したThomas Pilgaard氏に話を聞いてみたところ、現在のバージョンは、11名のスタッフがわずか1カ月間で作り上げたもので、ステージも1つしか用意されておらず、まだまだこれからのプロジェクトという印象を受けた。 現時点では具体的にいつ頃完成するのかは見通しが立っていないようで、PC以外のXNAやPLAYSTATION Networkへの進出に関しても、興味はおおいにあるようだが、資金面と環境面双方に課題があるようで、PC以外のプラットフォームはやりたくてもできないという状況のようだ。 しかし本作は今回紹介する中で唯一、デモ版が配布されており「Flipside」の公式サイトよりGDC Expo会場でプレイできたものと同じ内容のバージョンを無料で入手することが可能になっている点はユーザー側にとって朗報と言えるだろう。プレイには「Half-Life 2」本体と「Steam」両方がPCにインストールされている必要がある。
難易度が全般的に高く、ゲーム性も荒削りで完成度としてはデモとしてもまだまだという印象はぬぐえないものの、日本国内もしくは米国のクリエイター達が生み出すセンスとは異なる、コアゲームファンから見ると良い意味での「いかにも欧州産くさい」とんがったゲームデザインを満喫できる1本と言えるだろう。
■ 日本人にも親しみやすいビジュアルアートを持つ360度全方位アクション
開発:Kokoromi マシュマロを積み重ねたようなかわいいキャラクタを操作して、赤いドットの塊のようなものを取りつつ、マップを上へ上へと登って行く。見た目は2Dないしはポリゴンで作られた2Dライクな、非常にオーソドックスなジャンプアクションゲームに見える。 ただ上に向かうだけではどこが面白いんだ? と思うかもしれないが、ここからが「Fez」の大きな特徴で、ゲームをプレイしていると、上に行こうとしてもブロックもハシゴもないという状況に遭遇した時、おもむろにゲームパッドのLRボタンを押すと、ゲームの画面が左右に回転し、視点的に今まで見えなかったもの、行こうと思っても行けなかった所へ行けるようになる。視点移動によるトリックをゲーム性に取り入れている。 ちなみに主人公キャラが視点の影に隠れてしまうと死んでしまうため、やみくもにグリグリ動かせばいいという訳ではなく、視点移動によるパズルゲームとアクションゲームの要素が絶妙なバランスで合体しており、レトロゲームっぽく見えるけど何か新しい優れたビジュアルセンスとあいまって、試作品段階ではあるがプレーヤー側に面白さを十分伝えられる内容になっており、俄然今後の展開に期待が高まる。 気になるゲームの完成状況と、一般のゲームファンがいつ「Fez」を楽しめるのか? という点について、開発を行なっているKokoromiのRenaud Bedard氏に状況を聞いてみると、ステージなどは公開している1ステージのみの完成に留まっており、ストーリーなどの作り込みもこれからで、完成にはまだ1年程度はかかりそうという見通しを語ってくれた。残念ながら当分はデモ版などの登場も薄そうな雰囲気だ。 見た目の雰囲気から日本のアクションゲームに影響を受けたのか氏に聞いてみたところ任天堂の「ペーパーマリオ」のゲームデザインを見た時に「自分以外にも同じようなことを考えている人がいるんだ」という感想を持ったそうだが、日本のアクションゲームに直接影響を受けた部分は無いとのこと。 ゲームのプレイ感覚はPCゲームというよりはコンシューマーゲーム機ライクなので、今年のGDCで大きく取り上げられたXNAあるいはPLAYSTATION Networkといったサービスを使ってコンシューマゲーム機への進出の可能性について聞いてみたが、前述の「Flipside」と同じように「資金面で難しい」と、興味はあるものの現状はPC以外のプラットフォームでは展開することが難しい様子が伺える。
今回のIGF Awardの受賞によりどこかのパブリッシャーが「Fez」に目をつけて、プロジェクト自体が商業ベースになればもっと早い完成とコンシューマ機などへの参入も考えられるかもしれないが、そこはお金を稼ぐ目的ばかりでゲームを作っている訳ではないインディペンデントゲーム業界だけのことはあり、これだけ大々的にゲームの露出がされても先行きに不透明感が漂うのは、実にもったいない話だ。公式サイトには最新情報が随時掲載されていくようなので、ゲームの無事完成を期待したい。
■ 意欲的なゲームが集結するも何かが足りないインディペンデントゲーム事情 今回紹介した4タイトルはいずれもゲームとしては製品レベルに遜色のないもの、あるいは完成すれば必ずそのレベルに匹敵するものばかりを集めてみた。各開発者のデザイン思想やアイディアがゲームのプレイを通しプレーヤー側も感じることができ、GDCならではの有意義な出展ではあるが、反面中途半端さも感じるられる内容だった。特に体験版が配布されていたのは全体の出展タイトルの中でもほんの一握りで、今回紹介したタイトルの中では「Flipside」わずか1本のみだった。 GDCおよびIGF Awardという自分達が作り上げてきたゲーム多数の人達にアピールする絶好のチャンスなのに、プレイできるのが会場だけというのは残念だ。それがインディーゲームの文化なのかもしれないが、同類の人達だけが集まって作品を評価しあうだけでは、せっかく生み出されたゲームをプレイするユーザー側の認知度を得られないままで終わってしまうのではないだろうか? MicrosoftのXNAやソニー・コンピュータエンタテインメントのPLAYSTATION Networkは、インディペンデントゲームの文化をより一般的なものにする可能性を秘めた、開発者・ユーザー双方にとって期待溢れるサービスと言えるだろう。しかし会場で開発者に話を実際に聞いてみると、例えコスト面で有利とされるXNAでも敷居はそれなりに厳しいようで、現状はある程度資金力のある小規模なスタジオなどに対象が限定されている実情が伺え、PCがメインのプラットフォームとして据えられるのは当面変わらないようだ。
GAME Watchでは、年々アツくなってくるインディペンデントゲームの動向に今後も注目をしていく予定だ。今回紹介した4タイトルの進展も楽しみにしていただきたい。
(2008年2月24日) [Reported by Game Dude]
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