【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

Game Developers Conference 2008現地レポート

欧米上陸が間近に迫る「Wii Fit」。バランスWiiボードは相撲がヒントだった!?
「Wii Fit: Creating a Brand New Interface for the Home Console」

2月18~22日開催

会場:Moscone Convention Center

 ついにミリオンヒットを達成した任天堂のフィットネスソフト「Wii Fit」。GDCで明かされた最新データによると2月17日の時点で140万台を突破するメガヒットタイトルとなっている。この「Wii Fit」が、健康大国として知られる米国と欧州でいよいよ発売となる。インストラクターのボイスオーバーを含むフルローカライズバージョンとして、米国では5月19日、欧州では4月25日の発売がそれぞれ予定されている。GDCでも英語版が一足先に参考出展され、開発者に高い注目を集めていた。

 GDC2008では、日本での大ヒットを受けて欧米未発売の「Wii Fit」をテーマにした任天堂のセッション「Wii Fit: Creating a Brand New Interface for the Home Console」が行なわれた。我々メディアとしては、大ヒットコンテンツの開発秘話が、岩田聡社長や宮本茂氏の発言を交えつつ紹介されたのが収穫だった。もうひとつの意義として、任天堂がバランスWiiボードを「Wii」における標準的なインターフェイスの一部として位置づけはじめていたのが印象的だった。その実現のための開発者に対する最初の働きかけと言えるセッションだった。


■ 「Wii Fit」はWiiの初期構想に含まれていた!! 秘蔵の「宮本メモ」が公開

講演を行なう任天堂情報開発本部制作部部長代理の澤野貴夫氏
「板です。」からはじまる「Wii Fit」の日本のTVCMも紹介された
「Wii Fit」の商品構成。Wii Fitのソフトウェアに、バランスWiiボードが同梱されている
宮本氏の自信に満ちた厳しい言葉が澤野氏にプレッシャーをかける
 今回のセッションは、まだ欧米では「Wii Fit」が未発売ということもあって、内容的には「Wii Fit」の開発コンセプトの紹介に留まったが、サービス精神旺盛な任天堂のセッションだけに、開発秘話にたっぷり時間を掛けられ、知られざるエピソードが数多く披露された。講師を務めたのは情報開発本部制作部部長代理の澤野貴夫氏。昨年Game Developers Choice Awardsの生涯功労賞を受賞した任天堂の顔である宮本茂氏直属の部下であり、セッションの至る所に宮本氏の発言が飛び出した。

 澤野氏は冒頭で、「『Wii Fit』はWiiのコンセプトに沿う新しい入力機器であり、最初から必要なものだったと思われるかも知れませんが、実はそのような理想的な過程を経て生まれたものではありません」と切り出した。つまり、決してイージーな仕事ではなかったと言いたいわけだ。

 そもそもの企画は、宮本茂氏が「毎日、体重測定をしているだけで楽しい。このアイデアをゲームに活かせないだろうか?」という任天堂の新規プロジェクトの定番である宮本氏の“お告げ”からスタートした。

 時期的には、Wii本体の発売前であり、その証明として、宮本氏から特に許可をもらって借りてきたという「宮本メモ」が公開された。このメモは残念ながら公開不可ということなので掲載できないが、「Rev PACK ゲームデザイン」というタイトルで、Wii独自のインターフェイスを活かしたパッケージのゲームデザインが簡潔にまとめられている。泡のように無数のフラッシュアイデアが記され、いくつかのブロックに分け、「○○パック」という形でカテゴライズしている。そのほとんどは、ローンチタイトルあるいは2007年のタイトルとして製品化されており、宮本氏のその凄まじい企画力に今更ながらに驚かざるを得ない。

 いくつか具体例を挙げると、ファミリーパックと書かれたブロックには釣リモコン、シューティング、エアホッケー、ダーツなどと記され、「はじめてのWii」として製品化されている。そのほかにもスポーツパック、レースパック、ニンテンドール、脳トレ、やわらか頭塾、指揮/リズムモノなどといった記載がある。

 その「宮本メモ」の中で、中央部分に特に念入りにアイデアが記入されているのが「ヘルスパック」である。健康、体重量り、カロリー管理、体重指導、やわらかからだ塾といったぐあいにフラッシュアイデアが記され、別カラーで大きく「体重計」とある。すでに宮本氏の脳内には、Wiiの発売前、Wiiのブレイク前から、現在の「Wii Fit」に繋がるカッチリした企画ができあがっていたことを伺わせる。ただ、現在の「Wii Fit」は体重計ではなく、その発展系のバランスボードである。体重移動を計測し、それを入力に変換するというアイデアは、ここでは出ていない。

 実際にプロジェクトが決定し、宮本氏から指令を受けた澤野氏は、「すでにバスルームに体重計があるのに、わざわざリビングで毎日体重を量るだろうか、それも服を着たまま」と疑念を抱く。しかし、宮本氏は、「自分が楽しいからおもしろいものができるに決まっている」という凄まじい論拠で、現場の不安を一蹴。澤野氏は、「ボスがやると決めたら止めるものがいない」ので、とりあえずプロジェクトを進めることにしたものの、自分自身整理が付かずヒットにはほど遠いものになるのではないかと思ったという。宮本氏の楽天主義と、澤野氏の悲観主義の対比は漫画的なほどにユニークだ。


■ 試行錯誤の末にたどり着いたバランスWiiボード。ブレイクスルーは相撲の力士

ハードウェアの設計は、まずは体重計の分解からスタートした
体重計からの脱却のヒントは相撲にあった
体重計からバランスボードへの発想の転換を宮本氏は「遊びとして素性の良さを感じる」と褒めた
 次に澤野氏は、自身の担当分野であるハードウェアの設計について話を行なった。ハードウェアは、ソフトウェアに同梱させるものであるため、コストダウンに重点を置き、体重計を分解するところからスタートした。この時点でもあくまで任天堂製の体重計の開発を目指していたことに着目したい。

 澤野氏は、色々な体重計を分解して調べてみたところ、すでに体重計は限界までコストダウンを突き詰められていた。そこで急遽ニンテンドー64の部品を代用することでコストダウンを量るプランを採用。しかし澤野氏は、プロトタイプができあがるまでの間も、「これで仮にコストダウンが量れて製品化できたとしても、リビングで電源を入れて体重を量るだろうか」という疑問が頭から離れず、最悪のケースとしてペンディングになることも予想したという。

 コスト以前に「体重計そのものを何とかしなければならない」と考えた澤野氏は、相撲からひとつの着想を得る。といっても競技そのものではなく力士がヒントだった。力士は体重を量る際、1台の体重計では最大荷重を超えるため2つの体重計を使用する。この際、力士が体を一方に傾けると体重計の重量に差が生まれてくる。

 これはひょっとしておもしろいかも知れないと思った澤野氏は、さっそく体重計を2台並べ、PCに接続してテストしてみた。しかし、一般の体重計ではサンプリングスピードが遅すぎてゲームには耐えない。そこで毎秒60回のサンプリングレートを確保した体重計を開発し、さらに2つの体重計が変化がバーで表示されるソフトウェアを用意した。これがからだ測定モードで行なうバランステストの原形となっている。

 完成したものを宮本氏に体験してもらったところ「この動きは遊びとしての素性の良さを感じる」と、宮本氏らしい台詞でこれを褒め、体重計の企画は捨て、バランスボードとして再企画されることになった。ここで初めてバランスWiiボードの企画が完成したわけだ。

【バランスWiiボードプロトタイプ】
バランスWiiボードのプロトタイプ。木製、紙製も含まれているところがおもしろい。かなり後期までWiiコントローラに接続してボードを認識させていた。この後、2度も“ちゃぶだい返し”があることを、当時の澤野氏はまだ知らない


■ 任天堂伝統の“ちゃぶ台返し”はやはりあった。岩田氏「Wiiリモコンを繋ぐなんてブサイクですね」

ずらりと並んだプロトタイプ。宮本氏に「運動はやはり肩幅ではないか」という一言で正方形から長方形へと姿を変えた
岩田氏の「Wiiリモコンを繋ぐのはブサイク」はまさに開発者にとって戦慄すべき一言だが、結果として現在の洗煉された形に仕上がった
DVDトレーニングソフトとの違いとして、澤野氏はゲームならではのインタラクションを挙げた。画面は、サボるユーザーにトレーナーが突っ込みを入れるところ。DVDトレーニングソフトでは出来ない芸当だ
日本では140万台を突破。ただし、売れ行きは若干下降気味で、今後の新展開が期待されるところだ
 その後も、左右という1軸から左右上下の2軸にする際にソフト開発側から相当の抵抗があったことや、強度の確保の問題、体重移動を感知するセンサーの採用経緯などが紹介された。おもしろかったのは、宮本氏と岩田氏がそれぞれ“ちゃぶ台返し”をやっていることだ。

 2つの体重計がひとつになったバランスWiiボードは、かなり後期の段階まで正方形だったが、これは宮本氏が「運動をするならやはり肩幅ではないか」との一言で現在の長方形に仕様変更され、コスト計算や強度計算を一からやりなおすハメになったという。

 また、バランスWiiボードは、コストを抑えるために、最終段階に至るまでWiiリモコンを繋いでWii本体への接続を行なっていた。結果として足下から声が出るというギミックがあったというが、踏む危険性を考慮に入れて、バランスボードの表面上に収納口まで用意されていた。

 この状態で、任天堂の最終関門である岩田氏に見せたところ「Wiiリモコンを繋ぐなんてブサイクですね」という無慈悲な一言で不可が出て、大慌てで無線機器を加え、単独で認識させる工夫を取り入れたという。この2度のちゃぶ台返しを経て、ようやく現在の形のバランスWiiボードが完成したわけだ。続いて「Wii Fit」の製品の特徴について紹介されたが、すでに日本では発売済みなので割愛したい。

 最終的なバランスWiiボードの仕様は毎秒60回のサンプリングレート、4方4カ所に 体重を感知するストレインゲージを備える。計測可能重量は0kg~150kgで、ハードウェアとしての最大耐重量は300kg。Wiiとの連動機能については、Wii側からのパワーオフ機能、ソフトウェア側からのバッテリ残量計測機能、ブルートゥースによる常時接続状態の維持などをサポートしている。

 澤野氏は、バランスWiiボードを、体全体の動きを高い精度でゲーム世界に反映できる「史上初の足のコントローラ」と定義。さらに日本では140万台を超えるヒットとなっていることをふまえ、すでに日本では「バランスWiiボードの所有を前提にゲームを作ることも可能になった」と自信たっぷりに語った。

 最後に澤野氏は、開発者に向けて「皆さんのインスピレーションに期待したい」とサードパーティーによるバランスWiiボード向けのソフトウェアの開発に期待を寄せて講演を終えた。これらの発言から任天堂が、バランスWiiボードを、Wiiのポテンシャルを底上げする新しいインターフェイスとして定義し、一種のプラットフォームとしてWiiファミリの一派生として、新作が登場するのは間違いなさそうだ。

 肝心のサードパーティーから専用タイトルが生まれるかどうかは、まさに欧米市場での反応次第であり、ミリオンはおろか、ダブル、トリプルという事態になれば、おもしろい事態になってくるかもしれない。「Wii Fit」が欧米市場でどのような反応を受けるのか楽しみだ。

□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□関連情報
【2008年2月19日】Game Developers Conference 2008が米国サンフランシスコにて開催
プラットフォーマーの存在感が薄れ、ゲーム産業の多様化を実感する年に
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080219/gdc_01.htm
【2008年2月】Game Developers Conference 2008 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080221/gdclink.htm

(2008年2月22日)

[Reported by 中村聖司]



Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.