★PS3ゲームレビュー★
サウンドノベル完全新作はドラッグと呪いが主題のホラーゲーム
「忌火起草」 |
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- ジャンル:サウンドノベル
- 発売元:株式会社セガ
- 価格:7,980円
- プラットフォーム:PS3
- 発売日:発売中(10月25日)
- CEROレーティング:C (15才以上対象)
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ホラーゲームにもさまざまなタイプがあるが、不気味な世界観でプレーヤーを追い込み「ここぞ!」というタイミングで効果音や衝撃的なビジュアルを繰り出して驚かすお化け屋敷タイプのホラーゲームは、ショックが強い分だけプレーヤーを深くゲーム内の世界に没入させてくれる。今回紹介するプレイステーション 3用「忌火起草」はそんなお化け屋敷的な要素でプレーヤーを引き込むテキストアドベンチャーゲーム。意外にもCEROレーティングはC(15才以上対象)という評価で、対象年齢を決定した根拠となる表現のコンテンツディスクリプターアイコンは「セクシャル」、「暴力」、「恐怖」、「麻薬」、「言葉・その他」の5つが表示されている。
本作のジャンルである「サウンドノベル」とはテキストアドベンチャーに近く、サウンドや映像表現に注力したマルチストーリー型小説のこと。サウンドノベルの初タイトルは15年前に発売されたスーパーファミコン「弟切草(Wiiのバーチャルコンソールで配信中)」。「弟切草」から比べると、フルボイス化、PS3のグラフィックスによる描写力の向上など大幅な進化を遂げている。だが、「○ボタンで文章を読み進め、選択肢で物語が分岐する」、「何周も遊ぶことで次々と新しいシナリオが登場する」というサウンドノベルのお約束が踏襲されているのがファンにとっては嬉しい。
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主人公は大学生の牧村弘樹。弘樹を含め、登場人物の名前は変更不能 |
プレーヤーは大学生の牧村弘樹となり、合法ドラック「ビジョン」を飲んだことで受けた「黒い女と目を合わせると焼け死ぬ」という呪いを解く方法を探していく。シナリオは数種類用意されており、1周目は固定のシナリオを進むが、2周目以降は選択した内容によってシナリオが変化するという形式。それではゲームの進め方から説明していこう。
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登場人物は実写とCGを組み合わせた映像。テキストは横組みで表示され(表示速度は設定で変更可)、高解像度用フォントを使用。文字がとても読みやすいことは、ノベルゲームで大事な要素の1つといえよう |
■ ○ボタンで文章を読み進めていく伝統の操作方法
ゲームの進め方はシンプルでわかりやすい。画面上に表示されるテキストを○ボタン(またはL1ボタン)を押して文章を表示し、選択肢画面では複数候補から一つを選んで行動を決めて行く。既存のサウンドノベルシリーズ、テキストアドベンチャーゲームを一度でも遊んだプレーヤーなら問題なく楽しむことができる操作方法だ。
登場人物の会話は主人公も含めてフルボイス、会話中はボイスのみが出力され会話テキストが画面に表示されないのが本作の特徴。地の文章での状況の描写にボイスが絶妙のタイミングで入ってくることで、TVドラマや映画以上に臨場感のある情景がユーザーの脳内に形成される。複数人が一斉に喋る(かぶる)ということはほとんどなく、会話はスムーズに聞き取れる。聞き漏らした場合でも、既読画面ではバックログ画面ではボイス部分が「 」に囲まれてテキスト表示されるので安心だ。
ボイスは画面にテキスト表示されないため、会話が終わるまで一切スキップできない。会話部分、およびチャプターをスキップするには方向キーの上下で呼び出す「既読画面」で可能。既読画面で方向キーの上を押すことで物語を遡る「読み戻し」、方向キーの下を押すことで既読部分を読み飛ばす「読み進み」ができる。R1を押しながら上下を押すことで、ページ単位でのスキップも可能。
また、物語のシンクロ度を高める上で役立つ機能が「オートプレイ」。これはプレーヤーが○ボタンを押さなくても自動的に文章を読み進めてくれる機能。入力の必要が無いので楽なだけではなく、例えば「文章の余韻が引くのを待つために、~秒のウェイトをかけてから効果音を出す」といったように最適と思われるタイミングで物語を堪能できるのもオートプレイの長所だ。
そんな便利なオートプレイだが難点もある。まず、オートプレイのオン/オフがスムーズではない。オートプレイのキャンセルは×ボタンを押せばいいだけだが、オートプレイ開始には「スタートボタンを押してメニュー画面を呼び出す→方向キーの下を3回押してオートプレイを選択→ゲーム画面に復帰するまで1秒待つ」という手順となる。たった数秒の手順だが、旧世代機のローディング待ちのようにわずらわしい。1ボタンでオートプレイのオンとオフが切り替えできるような工夫が欲しかった。また、オートプレイ中はキャンセル以外の操作を受け付けないため、□ボタンを押しての「TIP」や「百八怪談集」が表示できないのも残念だ。
【TIP】 |
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物語を進めていると、登場人物名が水色で表示されることがある。これが「TIP」で、□ボタンを押して水色の「TIP」を選択することで対象の人物のプロフィールが表示される。大学での成績や密かな癖など物語では語られない登場人物たちのプロフィールが語られる。同じ登場人物のTIPでも、物語の進行に応じて変化していく |
【百八怪談集】 |
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テキストの中の言葉が大きくなったときは「百八怪談集」が閲覧できるキーワードのサイン。TIPと同じように□ボタンを押して選択することで、その言葉をキーワードとしたショートストーリーを読むことができる。内容はというとひねりも話のオチも「……」と黙り込んでしまうクオリティなのだが、友人のほら話のような奇妙なライブ感はある |
■ 目を描かないという引き算の演出
死の瞬間や幽霊など、際どくグロテスクな映像が多い本作だが、一番多く登場する生きている人物の描き方からしてすでに普通ではない。登場人物は顔の鼻から上を影を落としたかのように黒く描写されている。目という人の顔に必ずあるべきパーツが無いという引き算の演出は、落語「のっぺらぼう」のように平凡な登場人物たちを人外の存在へと変化させる。特に3人組の子供たちが登場するシーンは反則。ジャパニーズホラーといえば無表情の子供を出現させるのが鉄板だが、本作の目を描かないバージョンの子供たちは一度画面を消したくなるほどぞっとさせられた。
また、爪の黒い部分の侵食とともに現われる黒い女も印象的。黒い女はラスト近辺まで全身像を見せないホラー映画の怪物のようなイメージで、プレーヤーの恐怖心をこれでもかと煽り立ててくれる。
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顔の半分は暗く塗りつぶされ、意図的に鼻から上を見切れさせたショットが多い登場人物。口元だけを残したことで、笑顔に狂気がまとわりつくのがポイント。特に女性、子供たちはちょっとした地球外生命体より不気味な印象を受ける |
逆に、主人公・弘樹は目のアップが描写される。主人公の存在感を印象付けるとともに、ほかの人物とのギャップが独特のシュールさを醸し出す。さらに、彼の見ているものを想像させて、これまた怖さを演出するポイントとなっている。
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合成ドラッグ「ビジョン」を飲んだことにより、爪が黒く変色していく呪いにかかる主人公 |
ビジュアルとともに本作の両輪といえるのがサウンド。本作はDolby Digital 5.1chサラウンドに対応し、立体的な音の表現の中で遊ぶことができる。このサウンドの効果は絶大で、突然鳴り出す携帯電話の音といった小さな驚かしも本作では大技となるほどだ。また、立体的な音の出力による「何者かの気配」が絶妙。「背後からの呼気」、「通路の先の闇の衣擦れ」といった音の気配は、ホラー映画以上にプレーヤーに強烈な不安感を与えてくれる。サウンドノベル作品の中で最高峰の臨場感を楽しんでいただきたい。
■ フローチャートで物語の真相を暴く
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現在進行中のルートは白い線で表示される |
本作のフローチャートは物語をチャプターのセルの集合体で表わしたもので、物語を進めていくとフローチャートが形成されていく。選択肢で物語が変わる様子を一目で確認可能で、任意のチャプターセルを選択することで選んだチャプターに進む(または戻る)ことができる。フローチャートを確認するには、△ボタンでメインメニュー画面を表示し、フローチャート画面を選択する。
フローチャート画面は詳細画面があり、チャプターのタイトルとスクリーンショットのサムネイルが表示されるという親切設計。プレーヤーは膨大な物語の中から再開したい場面を簡単に選ぶことができる。ただし、再開できるチャプターは現在選択しているルート上のもので、別のルートから再開したい場合はその都度選択肢を変えてフラグを立てなければならない。
本作はいくつかのシナリオが収録されているわけだが、別シナリオへ移行するフラグを立てる場合はフローチャートの選択肢の色がヒントとなる。A、B、Cといった選択肢の色は、白が未選択、灰色が選択済み、その他の色は複数存在する物語のうちの1つに関連する選択であることを示す。たとえば、選択肢で青色の選択に切り替えていけば、青色のチャプターセルにつながりようになるという訳だ。
筆者も初めは既読画面の読み戻しと読み進みで選択肢を切り替えていたのだが、フローチャート画面から飛んでいったほうがはるかに便利。慣れてくるとフローチャート画面でひたすら選択肢を切り替え、新しいルートだけメイン画面に戻るという「むしろ、フローチャートがメイン画面?」というほど依存していた。それほど新ルートの開拓には重宝する機能なので、攻略の際はしっかり覚えておきたい。
本作はPSPの「リモートプレイ」に対応している。PSPのクロスメディアバーから本体設定→ネットワーク→リモートプレイを選んでアクセスポイント経由でPS3に接続し、「ゲーム」から「忌火起草」アイコンを選択すればPSPの画面で「忌火起草」をプレイできる(セーブ・ロードも当然可能)。ゲーム中の動画シーンなどもしっかり描画され、PS3でのプレイと大きな違和感はない。難点はサウンドが5.1chサラウンドに対応せずステレオのみとなり、臨場感では見劣りしてしまう点だろうか。せっかくのリモートプレイ対応だが、PS3で遊べるのにあえてPSPで遊ぶという価値を見出しにくいのが残念だ。
本作はクリアに推理力を必要とするタイプの作風ではない。選択肢を総当りする根性があれば誰でも真のエンディングまでたどり着くことができる難易度だ。フラグ立て大好き人間の筆者としては、クリアまでに選択肢と分岐が非常に多いこのゲームを楽しむことができた。
テキストアドベンチャーホラーの“怖い、怖くない”はシナリオの出来やユーザーの主観により変動してしまうことが多く、本作でも複数あるシナリオのうちいくつかは人を震撼させるだけの力が乏しい。だが、本作はグラフィックスやサウンド面のショックによる手法を重視している。人間の五感に揺さぶりをかけることは人なら誰しも怯える手法であり、それはシナリオの選り好みを超越できているとさえいえる。本作は「怖い思いがしたい」というユーザーの願いを満足させるだけのコンテンツが詰まったホラーゲームだと断言したい。
なお、本作は11月11日に発売された振動付きコントローラ「DUALSHOCK 3」に対応している。ビジュアルとサウンドでも十分なほどのショックなのに、振動という触覚からの攻撃が追加されると思うと末恐ろしい。「忌火起草」のホラーゲームとしてのパフォーマンスを最大限に引き出したいプレーヤーは「DUALSHOCK 3」を必ず購入すべし。逆に、興味はあるが怖い思いは極力控えたい方は既存の振動無しのPS3コントローラを使って恐怖感の難易度調整をしたほうがいいだろう。
(C)2007 CHUNSOFT
□セガのホームページ
http://sega.jp/
□製品情報
http://chun.sega.jp/imabiki/
□関連情報
【10月25日】セガ、PS3「忌火起草」の「ピンク編」第2回と
最終回をPLAYSTATION Storeにて無料配信
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20071025/ima.htm
【10月12日】セガ、PS3「忌火起草」の無料体験版
「PLAYSTATION Store」で10月15日から配信
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20071012/ima.htm
【9月23日】「東京ゲームショウ 2007」セガブースレポート
「戦場のヴァルキュリア」、「バーチャファイター5 Live Arena」など
初出展タイトルを堪能
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070923/sega.htm
【9月20日】セガ、「コンシューマ新作発表会 2007 AUTUMN」
スクリーンショット集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070920/sss.htm
【7月26日】東京ジョイポリス「忌火起草 胎動編」、PS3ソフトに先駆けオープン
中村光一氏、体験後の第一声は「こえぇーー!!」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070726/joyp.htm
【5月15日】セガ、「コンシューマ新作発表会2007 SUMMER」開催
今半期はPS3用サウンドノベル「忌火起草」、DS「なるほ堂」シリーズを主軸に展開
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070515/sega1.htm
(2007年11月14日)
[Reported by 福田柵太郎]
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