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China Digital Entertainment Expo 2007現地レポート

東星上海総経理千種茂氏インタビュー
オンラインゲームに活路を見いだす上海老舗デベロッパーの新戦略

7月12~15日開催

会場:Shanghai New International Expo Center

入場料:50元(約800円)

 東星上海は、'93年に中国上海で業務を開始してから実に14年もの実績を誇る、中国に拠点を持つ日本のメーカーとしてもっとも古参の開発会社である。組織上は、京都に拠点を置くトーセ(東星)の100%子会社であり、中国での正式名称は東星軟件(上海)という。

 トーセは受注専門のゲームデベロッパーで、表舞台に姿を現さないためか、日本でもあまり知られていないメーカーだが、国内コンシューマ業界の人間なら知らぬ人はいない縁の下の力持ち的な存在として認知されている。

 同社は、2005年のCESA DEVELOPERS CONFERENCEで、上海に拠点を置くゲームデベロッパーとして中国ゲーム市場の実態を報告。現在は、オンラインゲームエンジン「Tsunami」を自社開発し、中国オンランゲームビジネスにも参入を果たしている。今回は、東星上海の総経理を務める千種茂氏に、東星上海の事業内容と、新規参入を果たしたオンラインゲームビジネスの内容について話を伺った。

【東星上海外観】
東星上海が入居するビルは、上海中心地から東西に伸びる南京西路から細い路地を入ったところにある。ビルの向かいには、市民の飲食街があり、5元(80円)から10元(160円)程度で、一食食べられる。この前と後ろの風景のギャップがいかにも中国上海風だ

【東星上海入り口】
東星上海の入り口の風景。東星上海は、904iの体感ゲームにも使われている「GestureTek EyeMobile」テクノロジーを持つメーカーGestureTekの代理店も務めている。入り口では、京都のメーカーらしく靴を脱いでスリッパに履き替える。ビルの1階ロビーには、同社が現在開発しているカジュアルゲーム「蹴蹴球」の映像が投影されていた

【東星上海内部】
パーティションのない見通しの良い空間で開発が行なわれている。不特定多数の取引先とビジネスを行なうため、社内視察に備えて開発に携わったタイトルのポスターなどは張っていない。右の写真は千種氏が日頃業務を行なっている総経理室


■ 老舗の下請け専門メーカートーセ。上海子会社の業務内容とは?

右が東星上海総経理千種茂氏、左が副総経理の于力氏
トーセのビジネスを説明する千種氏。言葉遣いは非常に丁寧ながら、言葉の端々にずしりとした重みを感じさせる経営者だ
副総経理の于氏。インタビューでは主に聞き役に回っていたが、日本語も堪能で、綺麗な日本語で応答してくれた
編集部 トーセさんは、下請け専門のデベロッパーとしてこれまで積極的に表に出てこないように立ち回ってきたため、日本のゲームファンの中でも知っている人は少ないと思います。まずは簡単に日本のトーセを含めて成り立ちと事業内容を教えていただけますか。

千種茂氏: トーセは'79年に京都で設立されました。その頃はコンシューマゲーム市場などもありませんでしたので、喫茶店のテーブルゲームからスタートしました。その後、コンシューマ向けのゲームの受託開発を行なってきました。日本はグループ全体で800名体制です。

 中国では'93年に上海に支社を開設しまして、そのときはプログラマーのグループとして始めました。その後デザイナーなどを入れまして、2001年にここから電車で1時間程のところにある杭州に2つ目のスタジオを開設しました。現在、杭州で約140名、上海で105名おりますので、中国全体では250名体制です。それぞれ日本のトーセの100%子会社の形となっており、上海と杭州は姉妹企業の関係となっています。

編: 上海と杭州ではどのようなビジネスを行なっているのでしょうか。

千種氏: 2004年くらいまではほとんど日本のトーセからくる仕事をやっていました。主に日本のコンシューマゲームのプロジェクトの一部をやっていました。グラフィックスデザインからプログラミング、ローカライズ、移植などさまざまなことをやっておりました。プラットフォーム的にもプレイステーション、ゲームキューブ、ゲームボーアドバンス、携帯電話までかなり幅広くやっています。2004年頃から中国の現地のオンラインゲームパブリッシャー様とのお仕事もいただくことになりまして、中国のオンラインゲーム市場向けのお仕事を始めるようになりました。また、2005年くらいからは、欧米のお仕事を日本を通さず直接請けることもしています。

編: 日本と中国の立ち位置の違いを教えてください。また、日本本社ではなく上海で直接仕事を請けられることのメリットとは何でしょうか。

千種氏: 大雑把に申し上げますと、日本は最初から最後まで全部やる完全開発が多いです。中国で請ける仕事では、欧米からのお客様では3Dグラフィックスだけですとかパート、パートでのお仕事が多いです。

編: 特定の分野に特化したことが強みでしょうか。

千種氏: 主に需要に応える形でやってきたのですが、一昨年終わり頃から欧米のゲーム会社さんがいっせいに中国や東ヨーロッパにアウトソースを開始しました。現行世代のPS3など膨大なグラフィックスを開発しなければならないと。欧米のメーカーさんであっても社内でやるだけの人数も予算も無いと。彼らの言い方でいえば「offshore outsourcing」にトレンドがきて、お仕事が非常に増えました。

編: 中国での仲介事業といいますか、開発会社設立のお手伝いのようなことはされていないのですか。

千種氏: 業務としてはやっていないです。お付き合いの中でいろいろな形で中国どうですかという話はいただきますので、人のご紹介など我々のできる範囲のことはさせていただいていますが、それを日常業務の一環としてやっているわけではないですね。

編: 確かに欧米ではUbisoftさんやEAさんなどの大手が、上海など東アジア圏に開発会社があるのは当たり前という状況になっていますよね。

千種氏: Ubiさんは比較的古くてうちの次ぐらいですかね。中国で本格的にゲーム開発を始めたのはうちが初めてだと思います。13、4年前というのはゲーム市場そのものが中国にはありませんでしたから、当時は日本のためだけにやっていたわけです。おっしゃるようにUbiさんは自社の開発をするために10年位前に展開しました。この数が増えたのはここ3、4年のことです。5、6年くらい前からぼちぼち始まりました。

編: 元大手に勤めていて、退職後に下請けの子会社を上海に作るということもここ数年続いてますよね。なぜ上海なのでしょう?

千種氏: 上海には人材が集まっているということが言えます。実際には数が足りないのですけどね。足りないながらも中国の中で一番集まっています。ゲーム会社が多いですので、そういうところから出る人材もあります。パブリッシャーも多いですし、交通も便利です。

編: ハイテクパークの規模からいうと、北京の方が優れている印象を受けますが、やはりゲームは上海なのでしょうか?

千種氏: 北京はジャンルが異なります。ITといってもMSのコーポレートアプリケーションや通信など、インフラ的なITビジネスは北京のほうが会社の数でも規模でも大きいと思います。上海では主にコンテンツ系が多いです。

編: 東星上海のビジネス規模はどのくらいなのでしょうか。

千種氏: 上海と杭州をあわせて約250名おります。中国では最大規模にあたります。こういう産業は人の数が1つのスケーラビリティになります。大手パブリッシャーの子会社さんを除けば、デベロッパーとしては中国でもトップ3に入るかと思います。

編: 現在はコンシューマゲームに加えてオンラインゲームも請けられているとのことですが、両者のバランスはどのような状況なのでしょうか。

千種氏: タイミングによっても変わってきます。やっているものと案件といった形で割合はいろいろ言えますが、特に売り上げベースでいきますとまだまだオンラインゲームの割合は少ないです。我々の場合難しいのは、3Dグラフィックスだけをやってもオンラインゲーム用だったりするのです。それを果たしてオンラインゲームビジネスと呼んでいいのかどうかですよね(笑)。オンラインゲームのプログラミングまで弊社でやらせていただいて、完全なゲームとして作るかどうかでも変わってくるかと思います。今は韓国からのお客様もいますので、そうしたお客様はオンラインゲームが主体です。ただしやっている仕事は3Dグラフィックだけという場合もあります。

編: なるほど、台湾のXPECさんと似たような位置づけのビジネスを展開されているということでしょうか。

千種氏: そうですね。XPECさんのオンラインゲームとコンシューマの割合は分かりませんが。

編: 東星上海の取引国は、日本と韓国と中国になるのでしょうか。

千種氏: アメリカ、一部ヨーロッパが入ります。オンラインゲームはアジアが多いです。中国、韓国ですね。


■ 東星上海オンラインゲーム戦略。「中国で成功するためにはオンラインゲームができなければいけない」

千種氏の発言は、契約上の守秘義務からなかなかメーカー名がでてこないところがもどかしく感じられたが、実際には大物タイトルも扱っている
編: トーセさんといえばコンシューマゲームの下請け専門というイメージが強いメーカーですが、この度オンラインゲームビジネスを始めるというのを知って驚きました。どのような経緯でスタートしたのでしょうか。

千種氏: トーセ全体の話は、私にはお話しできませんが、東星中国としましては、中国で唯一ビジネスとして成立しているのがオンラインゲームです。携帯電話もありますが、1つ1つが規模的に小さいものですから、今後も発展が期待できる市場はオンラインゲーム市場ということになります。中国で成功するためにはオンラインゲームができなければいけないのです。

編: 生き残るためには当然の帰結だったというわけですね。

千種氏: 東星中国としてはそうなりますね。

編: 現在、どのオンラインゲームパブリッシャーとビジネスをされているのでしょうか。たとえば、中国大手ですと、盛大やThe9や9youなどが有名ですよね。

千種氏: だいたい含まれているかは分かりませんが、入っております。パートナーについては基本的にWebサイトで公開させていただいている範囲内でお答えさせていただいています。

編: 数でいくと中国のメーカーさんは何社くらいですか?

千種氏: まだ片手くらいです。やはり外部にある程度メジャーな形で発注をされるだけの力を持っている会社というのはそれほど多くは無いのです。

編: 大手は自社で開発チームを抱えていますので、むしろ中小メーカーさんのほうがアウトソースするメリットがあるのではないかとも思いますが。

千種氏: 会社それぞれ事情は異なります。大手さんではないお客様ももちろんあります。新興のベンチャーキャピタルのファイナンス的な意図でやられている方も一部にございます。大手さんだけではないのです。

編: 中国のメーカーと直接ビジネスを行なってみて、日本と中国でゲーム開発における哲学や文化の違いは感じられましたか?

于力氏: 中国は人と人との交流が大事だと思います。日本は1人で遊ぶことが多いと思います。

千種氏: しばしば言われることですが、日本のオンラインゲームではPvPは人気が無い。中国ではそれがもっとも人気がある。ゲームの内容の差もありますし、オンラインゲームはコミュニティ要素が強いです。日本はどちらかといえば一人遊びが多いのに比べ、中国は一人では遊びません。

編: オンラインということで作り方の違いも感じられましたか。

千種氏: オンラインゲームというのは成功さえしていれば開発が終わらないゲームです。コンシューマは納品すれば終わりですからスケジュールもそういう形ですし、内容もいっぺんに全部作らなければなりません。オンラインゲームはある程度のところまで作って公開して、どんどん内容を足していく形ですから、スタンスが異なります。

編: なるほど。定期的なアップデートのほうもトーセさんが継続して開発を担当されるわけですか?

千種氏: はい。やらないわけにはいけませんよね。

編: とすると、業務内容もずいぶん様変わりしてきたのでしょうか。

千種氏: 外国人スタッフも増えてきていますし、特に内部だけでいくと今までは中国語と日本語だけだったのですが、英語や韓国語が飛び交うようになりました。雰囲気は変わりましたね。


■ CEDEC2005から2年経過して、中国市場におけるセキュリティと人材不足の問題はどう変化したか

人材不足はさらに深刻な状況になっているという千種氏。有能な人材の獲得は上海ビジネスを継続していく上で常に頭を悩ませる問題のようだ
編: 千種さんは2005年のCEDECの講演で、中国のゲーム市場としてセキュリティや開発者不足について懸念を示されました。こうした課題は2年を経てどのように変わりましたか。

千種氏: 欧米のお客様が増えたことが大きいと思います。欧米の大手さんは決まってセキュリティが第一問題です。クオリティは高くて当たり前という前提です。加えてセキュリティが非常にプライオリティの高い問題ですので、現地に数名のグループを派遣して、現地インテリジェンスを行なうくらいの非常に厳しい基準を持っています。セキュリティだけでなく、オペレーションや従業員がどのように扱われているかといったことまで調べ上げるケースもあります。そして付き合うに値するスタジオかを絞っていくことを去年くらいはかなり皆さんやられました。

編: トーセさんも例外ではないのでしょうか。

千種氏: はい。おかげさまで少ない最終候補に残していただいているのでありがたいなと思いますが、それにはそれなりの投資が必要でした。

編: つまり、中国自身が変わったというより、欧米という意外な圧力から変わっていったということでしょうか。

千種氏: やはりビジネスですので、仕事が来るほうにみんな向きますからね。

編: 一方、開発者不足は、外部から圧力ですぐにどうにかなる問題ではないと思います。現在、不足感は解消されてきているのでしょうか。

千種氏: どんどん深刻になってきていますね。まったく解消されていないばかりかどんどんひどくなっています。中国を開発拠点としてではなく、工場的な考え方で来られるところもありますし、市場として参入をされる会社もありますし、目的は色々だと思います。この1、2年は特に集中しています。

 一方で外から分かりにくい市場だと思うのです。13億人いるですとか、急激に伸びているとかそういう数字ばかりが先行しています。そうした結果、本社で中国に進出することだけが承認されてしまう。何人雇用するなどという部分は後回しにされて、設立計画ばかりが進行してしまうケースが多いようです。しかし、実際それだけの人を雇うのは至難の業なのです。そんな会社がいっぺんに何社もやってきますと人材不足はかなり深刻なものになります。

編: トーセさんでも引き抜きなどの脅威にかなり晒されているのでしょうか。

千種氏: 特にうちは古いメーカーですので狙われやすいほうでしょうかね(笑)。即戦力となる経験者の需要が高いですからね。

編: どのような工夫で防いでいるのでしょうか。

千種氏: それはまあ、色々な工夫で防いでいます(笑)。うちでも長い社員は新卒で入ってからずっとうちで育った社員が多いです。非常に家族的といいますか、10年を超える社員も多いです。やはり信頼関係だと思います。メーカーさんは名前がありますので魅力的ではあります。しかしメーカーさんですと、その仕事オンリーになってしまいます。しかし弊社の場合、トーセの名前自体は知られていないのですが、各国の有名タイトルの一部を担えるのもゲーム好きの人には魅力に感じてもらえると思います。


■ 東星上海独自開発のオンラインゲームエンジン「Tsunami」について

独自開発のオンラインゲームエンジン「Tsunami」の概念図。サンプルゲームが「蹴蹴球」だ。カジュアルゲーム開発に強みを持ち、コンシューマゲームのオンライン化も得意としているという
編: トーセさんが独自開発したオンラインゲームエンジン「Tsunami」についてですが、この狙いと、どのような経緯から生まれたプロジェクトなのか教えてください。

千種氏: まず、ライセンスアウトは目的にしていません。弊社で請けさせていただくプロジェクトに「Tsunami」を使っていくという形です。

編: 今期2タイトルを提供されると伺っております。

千種氏: 1つはトーセには珍しいのですが自社開発でやらせていただいているタイトルがあります。現在クローズドベータテストを迎えており、Joyzoneさんが提供する「蹴蹴球」です。

編: 開発元はトーセということが明示されるのでしょうか。

千種氏: あまり出さないようにはしていますが、今回は出ます。

編: 今後はデベロッパーとして表だって事業を始められるということでしょうか。

千種氏: いえ、今後もそうしたビジネスにシフトするつもりはありません。中国ではオンラインゲームがメインですから、従来のトーセはコンソールの会社というイメージが強いので、オンラインゲームもちゃんとできますよというところを見ていただかないといけません。「蹴蹴球」は、「Tsunami」エンジンのデモ用のソフトとして開発を始めたのですが、各パブリッシャーさんに見ていただいている際に非常にウケが良かったものですから、ひょっとしたらいけるかなということで開発したタイトルです。元々これでオリジナルを作ってビジネスにしようと考えていたわけではないんです(笑)。

編: もう1タイトルについてはいかがですか。

千種氏: それはお客様のもので、未発表のものですので内容については控えさせてください。

編: 「Tsunami」エンジンの強みを教えてください。

千種氏: 2つございます。1つはオリジナルの3Dオンラインゲームを開発できることと、もうひとつは「オンラインゼーション」と呼んでいますが、既存タイトルをオンライン化する際に、開発のしやすさに念頭を考えられた設計を採用していることです。基本的にはどういうゲームのためにと特化したものではなく、なるべく汎用性のあるものになっています。FPS用に設計されているエンジンは結構多いと思うのですが、そういったものとは異なります。

編: 対応プラットフォームはいかがですか。

千種氏: いまのところPCのみです。具体的な時期は未定ですが、将来的にはライブラリを増やして、他のプラットフォームにも互換性を持たせられるようにするつもりです。

編: 欧米はエンジンビジネスが盛んで、ライセンスアウトが基本ですが、「Tsunami」エンジンをライセンスアウトしない理由を教えてください。

千種氏: それは簡単で、サポートが大変だからです(笑)。私自身がもともとミドルウェアの業界にいたのですが、それ単体でライセンスするビジネスを始めた際のテクニカルサポートの大変さは身にしみて理解しているつもりです。単純に言えば人様をサポートする人間が我が社にはいないのです。

編: それでは、トーセさんにオンラインゲームの開発を依頼すると、そこで初めて「Tsunami」エンジンが使われると?

千種氏: いえ、「Tsunami」エンジンもオプションの1つです。お客様でエンジンを持っていらっしゃる方や、これをライセンスすることに決めたとおっしゃる方もいらっしゃいますので、その辺は柔軟に対応させていただきます。

編: 将来的にはオンラインゲームビジネスをどのように発展させていくことを考えていますか。

千種氏: 弊社は、「蹴蹴球」のようなオリジナルタイトルをバンバンやっていくよりは、あくまで受託開発が基本です。その中には日本も含めて弊社が企画からご提案することによって、オンラインゲームはスパンが長いですので、長期的に成功する質の高いゲームを開発させていただくビジネスモデルもあります。開発費プラスリべニューシェアという形も出てきていますし、必ずしもそれだけをやるわけではありませんが、それも含めた幅広い展開ができると思います。

編: 社内にはすでにオンラインゲーム専門の開発部隊が用意されているのでしょうか。

千種氏: いえ、オンラインゲーム専門チームという形では構成していません。ただ、オンラインゲームプロジェクトがどのような形で発生しても対応できるよう社員プログラマーは全員自社エンジンであるTsunamiを使えるよう教育はしています。グラフィックはオンラインゲームだから特別ということも無く他のプラットフォーム同様対応できます。しかし、プロデューサやゲームデザイナという部分では一部の韓国人社員などの経験者を除けばまだオンラインゲーム開発の経験者がまだ足りないと感じています。


■ 「Tsunami」第1号となる東星上海開発のカジュアルゲーム「蹴蹴球」

「蹴蹴球」は、メーカーの反応の良さから誕生したオンラインゲームだという。日本産に勝るとも劣らない丁寧な作りのカジュアルゲームだ
「蹴蹴球」のゲーム画面、中国の街路から公園、砂浜まであらゆるところを舞台にしたストリートサッカーゲームだ
編: 「蹴蹴球」についてですが、これが「Tsunami」エンジン第1号となるのでしょうか。

千種氏: そうです。世の中に出るものとしては最初です。

編: 「蹴蹴球」のゲーム内容を教えてください。

千種氏: サッカーをテーマにしたアクションゲームで、プレーヤー3対3の6人とAIのゴールキーパー1人ずつを加えた1チーム4人にわかれてやるサッカーのような遊びです。ちゃんとしたサッカーではなく、子供の頃に広場でよくやったような、なんでもありの球けり遊びをする世界です。いろいろなアイテムやスペシャルアクションとか、スペシャルトリックとか、笑いを狙ったものとかございます。面白おかしいアイテムを色々使いながら遊んでいくものです。

編: テイストは日本のユーザーよりも中国のユーザーに合わせたものでしょうか。

千種氏: 開発チーム自体が中国人との混合チームですからね。中国で最初にやるということもありますし、中国のお客さんに遊んでいただくことも十分に考えています。グラフィックのスタイルとしてはキュートでかわいい系のスタイルなのですが、日本スタイルとも中国スタイルとも韓国スタイルともいえないようなアジアクール、キュートクールな中間スタイルを狙っています。

編: ちなみに「蹴蹴球」は中国全土に展開するために、ノードはいくつ必要なのでしょうか。

千種氏: ゲームによって変わります。お客さんの数によっても変わりますし、「蹴蹴球」の場合は3対3で遊ぶ際に同期をしなければなりません。その同期の際のやりとりもありますし、サーバー構造もお客さんの地域やパブリッシャさんの方針や好き嫌いによって変えますので、それにもよります。

編: 物理的にサーバーを分割させるわけではなくて、たとえば上海のユーザーは、成都のユーザーともマッチングできるのでしょうか。

千種氏: はい。

編: アクションゲームですとあまり距離が離れすぎるとパフォーマンスが悪化しませんか?

千種氏: そういうことはないですね。むしろ、中国では主なネットワークが2つありまして、チャイナテレコムのネットワークとチャイナネットコムのネットワークがあります。これはどんなゲームでもそうですが、別々のISPで契約されているお客さん同士が対戦しようとしますと非常に速度が落ちます。大体どのゲームもどちらの回線を使うか自分で選べるようになっています。

編: 中国展開のセオリーとしては、上海と北京と2箇所からスタートして、順次対象エリアを広げていくようなイメージですか。

千種氏: 何箇所か用意したとは聞いています。後はトラフィックを見ながらということになると思います。

編: 日本ですと大手町にサーバーがどんとあって、後は質と量の問題ですから、かなりやり方が違いますよね。

千種氏: 日本はインフラがきちっと整備されていますし国も小さいですから。日本や韓国がうらやましいですね。

編: 中国では、携帯電話みたいに田舎の地方では圏外が多いとかそういう感覚だったりするのでしょうか。

千種氏: もちろん繋がることは繋がるのです。あとはパフォーマンスの問題ですよね。

編: 現在、クローズドβテスト中とのことですが、ユーザーの反応はいかがですか。

千種氏: カジュアルゲームとして狙っているのですが、結構ハードコアユーザーにもウケがいいのが意外でした。そういうゲームは1つには数が少ないからだと思います。中国は、サッカーは人気がありまして、ワールドカップもすごく盛り上がりました。一方でサッカーゲームの数はそれほど多くありません。

編: 中国でサッカーが人気なのに、サッカーゲームが少ない理由は何故だと考えていますか?

千種氏: 韓国では昨年20くらいのサッカーゲームが出ましたが、その中で中国に出てきているものはそれほど多くありません。EAさんの「FIFA Online」などいくつかだけですね。その中でも「蹴蹴球」の場合はファンタジックなお笑い向けのものとか、一般的に楽しいものを狙っていますので、その辺のユニークさが受けたのかもしれません。

編: ターゲット層はどのあたりを想定されているのでしょうか。

千種氏: 中国のパブリッシャーさんで言われているのは16歳から19歳くらいのハイティーンの男の子を狙っていますが、最終的には女の子ウケを強く意識して作っています。年齢層も10歳以下でも十分遊べるようにしています。やはりマーケティングとしてはハードコア的なマーケティングで口コミなどを通じて広めていくというのがパブリッシャーさんの考えです。

編: 日本とユーザー数を比較しますと、10倍どころか100倍くらいのイメージがありますが、ユーザー数としてはどれぐらいを期待していますか。

千種氏: たとえば「World of Warcraft」では70万人という同時接続記録もあります。カジュアルゲームは一口に言ってもパズルのような簡単なものからありますので、それを考えれば「蹴蹴球」はかなりシリアスなカジュアルゲームですね。後ろで走っている技術はかなり込み入っていますので、カジュアルといっていいのかわかりませんけどね。

編: 対ユーザーに対するビジネスモデルはどのように考えていますか。

千種氏: 中国の場合はよくあるプリペイドカードや携帯電話を使ってポイントを買っていただきます。基本的には無料で遊べるゲームですので、もっとアイテムを使いたかったり、レベルをあげたい場合はそうしたポイントを使います。もちろん遊んでいく中でポイントは稼げますので、タダで遊び続けようと思えば遊ぶことはできます。

編: 「蹴蹴球」は中国以外の展開は考えているのでしょうか。

千種氏: 中国以外にも展開したいと思います。すでにいくつかのメーカーとお話はさせていただいています。

編: 日本で展開するとすればどういった形をとるのでしょうか。

千種氏: 色々な形はあると思いますが、標準的な形としてはパブリッシングライセンスという形で、東星側からはコンテンツサポートという形でやらせていただきます。あくまで標準的な形ですね。

編: トーセがパブリッシャになることは無いのでしょうか。

千種氏: 株式会社トーセとしては無いです、東星上海、東星杭州としても無いです。

編: もう1つ未発表のタイトルは、どのような形で関わっているのでしょうか。

千種氏: もう一本もゲーム1本すべてを受託開発しています。

編: いつぐらいにお目見えになりそうでしょうか。

千種氏: なんとも申し上げられません。発表の時期などはうちからは言えない情報です。ひょっとしたらChinaJoyで披露されるかもしれませんね(笑)。

編: それが「Tsunami」第2号になるのでしょうか。

千種氏: 世の中に出るタイミングとしては第2号ですね。

編: その他も同時並行して複数のプロジェクトが動いていると?

千種氏: 一部ございます。

編: 東星上海におけるオンラインゲームビジネスのウェイトは今後ますます拡大していくことになりそうですね。

千種氏: 私どもの考えだけだけではなんとも言えない部分はあります。中国市場は年々変わります。パブリッシャーさんがアウトソースをどのように捉えるかもこの2、3年の中で変わっていくでしょうからね。

編: ここ数年ですと、どのように変わりましたか。

千種氏: 中国大手さんが、大きくなられた最大要因は外国のゲームのライセンスです。大手さんは、最初の頃は内部開発チームを作られて始められ、うちでやっているからアウトソースは使わないという時代がありました。やはり上場されている会社もありますし、短期的なビジネスプランとして数字にしていかなければならないと。

 ですが、ある程度大きなタイトルになりますと、開発に1年2年かかりますので、そうなってくると売り上げに反映されるまでの時間も長い。同じ売り上げを狙うならライセンスしてしまったほうが早い。ですからライセンスに偏った頃もありました。もちろん大きいタイトルは争奪戦ですよね。

 一方、自社開発するといってもなかなかうまくいかず、途中でどんどん人が辞めてしまう。そこで安定した外部に頼むほうが管理がしやすいと。後は限定されたレベルの開発会社で、中国クオリティだけではなくて世界的なクオリティを作れる会社に発注をしたい、しかし、外国に発注するまではいかないと。そこで我々の出番となるわけです。お客様の事情の変遷によってニーズはどんどん変わってきています。

編: そういう意味では、果敢に攻めていくより、いかに柔軟に対応できるかがカギになりそうですね。

千種氏: もちろん、常に攻めていて、営業は常にかけています。しかしお客様の状況が色々と変わるものですから。

【蹴蹴球】
中国文化と日本文化を掛け合わせたようなユニークな雰囲気が特徴の「蹴蹴球」。すでにChinaJoyで発表されたように、中国ではJoyzoneがパブリッシャーとなり、7月26日よりβテストがスタートする。画面を見る限りではすでにかなり完成度も高い。日本展開が楽しみなタイトルだ


■ 次世代機時代を迎え、深化する受注開発ビジネス。中国ユーザーは日本より欧米寄りか

中国人の好みは、感覚的にアジアより欧米に近いという千種氏。これは中国展開を考える上で、ちょっとしたヒントになるかもしれない
編: 東星上海で、次世代水準タイトルの受託開発の仕事は増えてきているのでしょうか。

千種氏: 次世代クオリティのPCの仕事は増えています。単なる3Dグラフィックスのデザインだけというものも含めてです。現在は、PC向けオンラインゲームが主体です。今のところPS3やXbox 360はデザイン系の一部受託が多いです。

編: 中国ではXbox 360やPS3は正規流通が存在していませんが。

千種氏: 中国で売るための開発ではなく、中国以外の地域で売るための開発の一部を受注しています。

編: 東星上海のスタッフさんは上海在住で、自分で開発しているハードウェアのプラットフォームを欲しくても買えない状況があります。プレイできない環境のプラットフォームの業務を行なうということになりますが、開発者はどのような感覚で仕事をされているのか興味があります。

千種氏: 欧米のお客様のやり方といいますか、アウトソーシングの使い方はきちっとしたスペック指定、リファレンス、資料、サンプルデータを豊富にいただけますし、クオリティの基準やスタイルやディテールの要求を細かく指定してきますので、その辺の齟齬は発生しませんね。

編: トーセの受託開発ビジネスについて、今後、どのような変貌を遂げると考えていますか。

千種氏: わからないですね。オンラインの話が増えてきているのは事実ですね。アメリカでも盛り上がっていることと、「蹴蹴球」をやらせて頂いていることもあってトーセはこういうこともできるのかということで、「お話を聞こう」ということになります。

編: オンラインゲームビジネスの受注を、今後中国以外に日本や欧米、韓国でも引き受けることはあるかもしれないと。

千種氏: 可能性はありますね。まだわからないですが。

編: ゲームもアーケード、携帯なども含めて実に様々なプラットフォームが存在しますが、東星上海ではどのジャンルに可能性を感じますか。

千種氏: 開発ということで言いますと、たとえば、PS3は正式には開発機材を中国に持ち込んではいけないルールになっており、私どもはSCEさんのルールには従うスタンスですので、中国では開発できないですね。そういういくつかの事情はあるものですから、弊社のビジネスとしては日本のトーセもそうですが、お客様の需要が増えていくところについていくスタンスです。

編: PS3に関しては3Dグラフィックスも開発不可と?

千種氏: グラフィックスだけならPS3の開発機材はいりませんので対応できます。グラフィックスデザインだけですが、すでにPS3のタイトルもいくつか手がけました。

編: そうした開発上の制限もあって、Windows PCのほうに活路を見いだしたという見方もできそうですね。

千種氏: ええ。オンラインゲームなら、中国のスタッフは日常遊べますし、成長市場ということもありますし、自分たちが携わったゲームが自分たちの街で宣伝し販売されていることは社内のモチベーションの向上になります。世界のどんなメジャータイトルでも、「日本で売られているらしい、ヨーロッパやアメリカで売られているらしい」ということではモチベーションは上がりにくいですよね。

編: 参入されたということは当然それなりにリサーチなさっているかと思いますが、中国オンラインゲーム市場のここ数年の流れをどのようにごらんになりますか。

千種氏: 中国はセンス的には日本より欧米に近い気がしています。ジャンルでいえばFPSは大好きです。たとえば競い合うとかコミュニケーションも好きですね。「WoW」もすごく人気ですし、「EverQuest」はそうでもありませんでしたが、韓国のものだけかといえばそうではありません。日本とは違いますよね。

編: 中国で成功を収めるために必要な要素とはなんでしょうか。

千種氏: なかなか一口に言うのは難しいですね(笑)。自分をよく見せる、あるいは自分を表現できるコンテンツに人気があるとよく聞きます。たとえば、中国では「Yeil(怒鳴る)」系の有料アイテムが人気です。MMORPGで何百人何千人いる中でわーっと自分が何か一言話すためのアイテムですが、自分の意見が全員に聞こえるわけです。これを1回1元とかそういった形で提供します。一種の自己表現ですね。自分の意見を言ったり、自分が強いことをなるべく多くの人に知ってもらいたいと。これも日本と反対ですよね。

編: 日本ですと世界観やストーリーの精密さ、ゲームデザインの優秀さが大前提になりますが、こうした部分はあまり重視されないと?

千種氏: どうでしょうね。好き嫌いはもちろんありますし、中国では1つが流行るとバーっと流行ります。中国はゲームのテレビコマーシャルが出来ません。つまりテレビで宣伝する価値のあるものはオンラインゲームしかないのです。アーケードはハードの輸入は禁止されていますし、ちゃんと成り立っている業界はオンラインゲームしかないのです。ゲーム画面をテレビで映してはいけませんという法律もある。マーケティングの方法論もまったく異なるのです。ですからインターネットのバイラルマーケティングが強いですし、ほとんどそれしかないのです。国が広いですので、ChinaJoyをやっても来れる人は限られてしまいますし、東京ゲームショーとかとは位置づけもかなり違うのです。

編: 日本では大手さんは漏れなくテレビCMをやられていますが、こちらの大手さんはどのようにマーケティングを行なっているのでしょうか。

千種氏: インターネットが主体です。それから雑誌とかポスターとかもちろんありますけれども。

編: 中国ではなんといっても海賊版の問題があります。実際に上海に住んでみて、その点はいかがですか。

千種氏: やはりコンソール系は非常に多いですね。

編: 私は中国のユーザーはデジタルエンターテインメントという新しい娯楽に対して正当な対価を支払う文化そのものが中国にはないのではないかと思ったりもするんですが、実際オンラインゲームではお金は支払われているのでしょうか。払わなかったり踏み倒すといったトラブルは起きていないのでしょうか。

千種氏: 色々ですね。支払い方法がいくつもあります。たとえばプリペイドカードは前払い式なので確実です。後は携帯電話でポイントを買う場合ではキャリアを通して買うわけです。これを電話会社に払わない可能性があるのです。電話会社も払ってもらえなければ、パブリッシャーにも払いません。

編: 最後に、トーセという老舗ゲームデベロッパーがオンラインゲームを作っていることは、日本のオンラインゲームファンにとっても興味深い話です。今後、どういった形で日本のユーザーに提供されるかはわかりませんが、日本のオンラインゲームユーザーに対して一言お願いします。

千種氏: 私どもは中国からMade in Chinaのゲームを世界で遊んでいただけることを1つの情熱のルーツとしてゲームを作っています。ぜひトーセのルーツである日本のユーザーにぜひ楽しんでいただきたいと思います。現在はトーセとしてオンラインゲーム事業に取り組んでいるわけではなく、東星中国だけでそういう取り組みをしているという形ですが、日本のトーセとも協力しながらトーセのゲームをぜひ多くの日本の皆様に遊んでいただきたいです。ハードコアゲーマーでなくても手軽に遊んでいただけます。勝つまでの間、負けるまでの間楽しんでいただけるようにしていますので、ぜひお目に触れることがありましたら遊んでみてください。

編: ありがとうございました。

□China Digital Entertainment Expoのホームページ
http://www.chinajoy.net/
□東星軟件(上海)のホームページ
http://www.tose.com.cn/jp/
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【2007年7月15日】SCE Asia、SQUARE ENIX Chinaブースレポート
コンシューマとPCオンライン。それぞれ異なる中国展開戦略
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070715/china_04.htm
【2005年8月29日】CESA、「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2005」を開催
“次世代”を見据えた意欲的なセッションが目白押し
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050829/cedec_01.htm

(2007年7月17日)

[Reported by 中村聖司]



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