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5月24日 発売 価格:7,140円
CEROレーティング:A(全年齢対象)
「Forza」シリーズはMicrosoftの財力をふんだんに使ってのコース計測、多車種実装、MicrosoftのR&Dとの連携による車両物理、AIの開発などなど、その開発は「追いつけ『GT』、追い越せ『GT』」をテーマにして製作されているともいわれており、実際、一作目の初代Xbox用「Forza Motorsport」は日本ではほとんど注目されなかったが、その完成度は驚くほど高かった。今度の「Forza」はXbox 360版。さらに完成度を増して帰ってきたことは間違いないわけで、否応なしに期待は高まるというものだ。
3月に開催されたGDC 2007では、「Forza2」の開発スタッフがいくつかのセッションを担当して講演。それらを拝聴する機会に恵まれただけでなく、「Forza2」のゲームデザインチームのリーダーであるDAN GREENAWALT氏に1対1のインタビューをする機会も得られたので、今回の3D講座は「Forza2」について取りあげてみたいと思う。なお、プレイステーションの「GT」、Xboxの「Forza」というフォーマットができあがってきているのでそのあたりも少々意識しつつまとめている。
■ その車種のオーナーのバーチャル・カーライフとしても楽しめるほどの再現性 「Forza2」はゲームコンセプト部分にユニークな点が多いので、まずはこの部分を見ていくことにする。「Forza2」での登場車種は、5月24日の発売時点で300車種。GT4が700車種ということを考えると大部少ないということになる。もちろん、「Forza2」はオンラインコンテンツとして追加車種をXbox Live経由でリリースしていく予定とのことだが、初期登場車種がライバルの半分以下というのはちょっと残念な気がするかもしれない。しかし、この点についてGREENAWALT氏は弱点とは思っていないという。
「PS3の『GT HD』はとても素晴らしいゲームだと思うし、『GT』というブランディングも相当強力だが(笑)、我々はシミュレーションの精度で彼らに劣っている部分は全くないと思っている。むしろチューニングして得られる結果の正確性や自動車物理の再現性ではもしかすると我々の方が少し先行しているかもしれない」(GREENAWALT氏)
今回の「Forza2」では“もしお金さえあれば”実際に現在入手可能なスポーツカー、スポーティカーに車種を絞り実装している。実装した車種については、その車に関してのリサーチを徹底して行ない、その車のオーナーが実際に納得できるレベルにまで仕上げてあるという。 シミュレーション部分についての実装は、Microsoftのソフト会社としての強みを生かし、どのパーツが自動車の性能や挙動にどういう影響を及ぼすのかを徹底調査し、かなりのディテール部分までのシミュレーションモデル化を実装することに成功している。例えばエンジンパーツでいえば、シリンダーブロックとシリンダーヘッド、カムシャフト、バルブなどが別々にアップグレードできる。グレードの高いブロックへの交換は耐久性を上げることになるだけでなく、慣性モーメントが減ってエンジン出力が多少向上するし、カムやバルブの交換は出力回転数を引き上げることができ、エンジンの性格(出力特性)に変化を与えることになる。 非常にマニアックと思われるかもしれないが、スポーツカー/スポーティカー好きにはお金があればやってみたいチューニングメニューというのがあり、その定番のチューニング事例を車種毎にリサーチして実装したのだという。これは凄い。
「キミはRX-7(FD3S)に乗っているらしいけど、「Forza2」をプレイするにあたって、ずっとRX-7でプレイしてもらっても楽しめるはずだ。それはその車種についてのアップグレードやチューニングの奥深さや幅の広さが、そのオーナーの納得できるレベルで実装されているからだ」(GREENAWALT氏)
用意されているチューニングメニューは、クランク、フライホイール、クラッチ、トランスミッション、ドライブシャフト、ホイール、タイヤ径、タイヤの種類などで、そのパーツ単位で重量や慣性モーメントの計算を行なっている。フライホイールを軽量タイプに交換すればアクセルレスポンスが向上するし、LSDを交換すればちゃんとコーナリング時のトラクションが向上する。驚くべきことに、「Forza2」では車種だけでなくファンクショナル系のアフターパーツメーカーについても大量のライセンス契約を結ぶことに成功しており、「NISMO」や「MUGEN」といったワークス系から「Greddy」のような有名アフター専門系まで、実在のパーツメーカーが「Forza2」ゲーム内でパーツを提供してくれる。GREENAWALT氏によれば、その車種専用にパーツを出している定番有名パーツメーカーのパーツはなるべく実装するようにしたという。 足回りについてもサスペンション、キャリパー、ブレーキパッドの交換も行なえる。ローターも1ピースタイプとフローティングの2ピースタイプなど(多分、一般読者が読んでも何のことかわからないかもしれないが)が、ちゃんとそのパーツの効果が再現されるという。サスペンションのバネレートや減衰力の変更で加速時や減速時の荷重移動の仕方が変わり、パーツ選択によってバネ下重量が変われば、ハンドリングのレスポンスやフィーリングも変わる。 また、「Forza2」ではエンジンの換装も“リアル”にサポートされる。“リアル”というのは換装した後の挙動がリアルということはもちろんだが、その車種毎に用意された定番のエンジン換装メニューが“リアル”に用意されているのだ。スポーツカー/スポーティカーでは、時々コストの制約やあるいはメーカーの考えるその車種への(独りよがりな?)“こだわり”からユーザーの欲しい性能とは違うエンジンが載せられて販売されることがよくある。そこでユーザーはエンジンを載せ替えたいと思うのだが、素人には難しい。そこでその車種専門のチューニングショップが“定番のエンジンスワップメニュー”を用意しているものなのだ。「Forza2」では、徹底したリサーチによりこの定番メニューを車種毎にできる限り再現している。 例えばホンダ車でいえばB16系シビックにインテグラのB18系(1,800cc)を載せたり、日産ならばスカイラインGT-RのRB26エンジンをシルビアに載せたり、トヨタ車ならば、MR-Sの1ZZ-FEを2ZZ-GEに載せ替えるといった定番メニューがサポートされるのだ。なお、「現実にあり得る」ということであれば車メーカーの異なるエンジンに載せ替えることも可能だという。前述のMR-Sは、賛否両論がありながらもホンダのインテグラのK20Aエンジンに載せ替えることも少なからずあり、こういった換装パターンも“あり”になるのだ。
タービンなどの過給器をとりつけてのターボ化などは、実際によくあるのでほとんどの車種でサポートされる。ホンダ車のS2000やNSXのターボ化は比較的定番メニューなのでオーナーは「Forza2」でそのパフォーマンスを体験してみるといいだろう。もちろん、コンプレッサをとりつけてのスーパーチャージャー化も用意されている。心憎いのはちゃんと過給器の種類や大きさによってサウンドが異なるという部分。ちゃんと元のエンジンの音に過給器の音が合成される様にマニアは感動することだろう。
タイヤはメーカーから提供されたデータでコンパウンドの種類やグレードの違いを可能な限り再現しているといい、またエアロについても空気力学的なパラメータに変換してちゃんと挙動に影響が出るようになっているという。 「カナード付きのフロントバンパーを装着すれば、高速走行時にちゃんとフロントグリップが向上する」(GREENAWALT氏) オーナーが満足できる再現度で300車種が再現されているということは、逆に、これからその車のオーナーになろうという購入予定者にとっては最高の動くカタログということになるはずだ。登場車種の多いレーシングゲームでは、どうしても最終的に「車を何車種ゲットしたか」という「ポケモン」的な遊びに陥ってしまいがちだが、「Forza2」ではとことんその車種を極める遊び方ができるというのは面白いし、最大の特長になっていると思う。「Forza2」で、愛車以外の車種に乗るときは、もしかすると実際の車の“買い替え”や“買い足し”に似た、新しい車への出会いに対するワクワク観が得られるかもしれない。
なお、もちろん、マニアックな方向に行かず、カジュアルに楽しみたい人はそうしたチューニングメニューに関しては無視して、ノーマル状態で乗っていればよい。 ■ 「Forza2」はレーシングゲームが苦手でも車が好きならば楽しめる 今回の「Forza2」のテーマは「車好き全員集合!!」なのだとGREENAWALT氏は言う。「Forza2」はレーシングゲームが得意でなくても、「車が好き」ということであれば、楽しめるような、「車の総合テーマパーク」的なものになるよう心がけたとしている。この方向性は「GT」に近いといえるかもしれない。
車についてのユーザー同士の議論や車に関する様々なバーチャルな挑戦を、「Forza2」というプラットフォームを用いて行なってもらいたいというのがメインコンセプトだというのだ。それこそ、レーシングゲームが苦手というユーザーはゲーム中の運転をまったくせずにチューニングにだけ集中する、という遊び方もできる。しかも、それでもちゃんとレースに勝つことができ、ちゃんとゲーム内クレジットを稼ぐことができる。
「Forza2」でもForza1で登場したドライビングAI「Drivatar」(後述)が実装されているが、「Forza2」ではこれがバージョンアップし、架空のドライバー名が与えられ、性格付けや腕前の設定までがなされるようになった。「Forza2」では、このドライバーが敵としてだけでなく、味方として雇うことができるようになっている。優秀なドライバーだと雇う際のコストや賞金のピンハネ率も高くなってしまうが、いずれにせよ、この雇ったドライバーでレースを戦うことができ、ちゃんとゲームの全モードに挑戦でき、そしてクリアもできるし、対人戦も戦える。 サッカーや野球のゲームで、競技を実際にプレイして楽しむゲームと、クラブやチームそのものを育成したり経営したりして楽しむゲームがあるが、この運転しないでレーシングゲームを楽しむ様は後者に近いものだといえる。「GT4」にもB-SPECモードがあったがイメージとしてはアレに近い。「Forza2」では運転しないプレーヤーは主にチューニングやボディメイキングを楽しめばいい。
各車種にはその性能に応じてA、B、C……といったクラス分けがなされており、チューニングを進めていくと性能が上がってクラスアップしてしまうことがある。クラスアップした車は元からそのクラスにいた車種と比較するとつらい戦いを強いられるので、そうならないように、例えばクラスアップしないベースクラスの上限ギリギリのところで、ファイン・チューニングを進め、ベースクラス最速の車作りを楽しむ……といった遊び方はできる。
「名画モナリザをペイントしてアーティスティックな出で立ちにしてもいいし、ピカチュウ・カーにデコレートして人目を惹くこともできるだろう」(GREENAWALT氏)
当然Xbox Live接続時には、その出で立ちで対戦が可能になる。なお、著作権や表現の問題の観点からオリジナル写真の取り込みはできないとしている。 今はメカに詳しくなくても、車を買ったばかりの若い車ファンにとっては「Forza2」はチューニング指南百科にもなる。車の仕組みは複雑で、“車好き”の初心者は耳年増でパーツの名前は知っていても「そのパーツをいじることによって実際に車がどう走るようになるのか実感としてわからない」という人が多い。「Forza2」は、パーツをいじるとちゃんとそのパーツの効果が得られるようにシミュレートされるので、パーツ交換の効果を疑似体験できて勉強になるのだ。
「「Forza2」はXbox 360というハードウェアで自動車という乗り物を再現するために、現時点で可能な限りの技術を用いたので、シミュレータであることは間違いない。ただ、やはり、ゲームなのだ。シミュレータという土台の設計があってその上でゲームとしての楽しみ方を提供している」(GREENAWALT氏)
■ ダメージ表現の真実 Forzaといえば、ライバルの「グランツーリスモ」シリーズにはない要素が1つだけあった。それはダメージ表現だ。GTでは、どんなに派手にぶつかっても、車が歪んだりすることはない。ところが、ForzaではForza1からダメージ表現を率先して実現していた。そういえばよく言われる都市伝説に「実車登場ゲームは、車の傷ついた姿を見せることができない。車メーカーがそれを禁じているから」というものがある。果たしてこれは真実なのだろうか。 「確かに、傷ついた車の姿を臨まない車メーカーは確かにいるのは事実。しかし、大手メーカーの多くは寛容になってきている。彼らの心配は自社製品のブランドが傷つくこと。それに配慮すればダメージ表現は問題なく可能だ」(GREENAWALT氏) 「Forza2」制作では登場車種も多い。当然、ダメージ表現に反対したメーカーもあったようで、その場合にはGREENAWALT氏自らが説得に出向いたのだという。そこで彼が主張したのは、ゲームの中で車が傷ついたところでブランドには何の影響もないということ、ゲーム中に車が人を轢き殺したり、運転手が投げ出されて死亡したりするような危険表現ががないということも強調。これで大体のメーカーは納得してくれたという。
ただ、それでも「車から火災が発生すること」、「フロントガラスが外れてしまうこと」など、その車種の安全性に誤解が生まれるような表現はNGなのだそうだ。規定は結構細かいようで、フロントガラスは外れなければ割れてもOKだし、炎はNGだがもくもくと煙が上がるのはOKなのだとか。禁止事項はあるとはいえ、全体としては、前作よりもダメージ表現はややリアルさと過激さを増しているようだ。
派手なクラッシュも再現されるが、残念ながら、車の横転はサポートされないという。車両物理シミュレーション自体は、横転の挙動まで算出するが、シミュレーション結果として横転しそうになると、目に見えない反力が働き、横転を沈めるのだという。ちなみに、これはGTでも同様だ。
「スーパーGTやルマン耐久とかのレーシングカー主体のゲームだったら、ひっくり返ったり、燃やしたり、いろいろできただろう。レーシングカーはファミリーに売るわけじゃないから誰からもケチが付かない。市販車を取り扱った車のゲームはダメージ表現をどこまで許せるかのせめぎ合いになってはいる」(GREENAWALT氏) 「Forza2」では300車種が収録されているが、その全車に対して、新車のピカピカ状態と、完全破損状態のぼろぼろ状態の2モデルが制作されており、ダメージ状態に応じて、パラメトリックに新車状態からボロボロ状態まで遷移を算出して車モデルを変移させてレンダリングしているのだという。壊れる順番に“ヤラセ”はないし、その壊れ方の遷移ビジュアルは動的にリアルタイム生成されたものになるが、最終的には事前に仕込んだ最悪のおんぼろ状態に収束すると言うこと。 このあたりは、まぁ、現実的な選択だとは思う。GREENAWALT氏によれば、「Forza2」のおんぼろモデルの制作に関して非常に工数が掛かっており、「これさえなければ我々も600車種は収録できた」(GREENAWALT氏)とのこと。「Forza2」をプレイしたときにはそのこだわりのダメージ表現にも目を向けてあげて欲しい。
なお、車両へのダメージは、実際の走行にどの程度の影響が出るかをオプションで設定できるようになっている。一応、車両物理シミュレーションでは、トランミッション、駆動系、クラッチ、ステアリング、サスペンション、ブレーキ、前・後のエアロの空力特性などのダメージパラメータをシミュレーションで配慮しているとのこと。
■ こだわりのサーキット・リアリティ
草木の形や位置、その他の建造物など、コースの景観が正確に見えるように作られているだけでなく、コースの道路の精度も「おいつけGT、おいこせGT」の精神で行なわれた。道路の輪郭部分のジオメトリレイアウトだけでなく、道路面の傾斜角度の測定も行ない、道路の継ぎ目やクラックの1つ1つについてもデータ化したという。継ぎ目やクラックは3Dジオメトリレベルでの再現になっているとのこと。
路面そのものの再現にもこだわっている。アスファルト、コンクリートといった道路の材質の摩擦係数を持ち、それに多少の幅を待たせたアスファルト1、2、3……、コンクリート1、2、3……のようなデータを持っておいて、コース測定の際に、路面のどの位置がどの材質データに近いかをマッピングしていったのだという。コースの路面以外の縁石やダート、グラベル部分なども可能な限り、忠実に再現しており、走行に用いられるコースの再現性は(完璧とまではいかないにしても)かなり高いと自負しているようだ。
「「Forza2」はシミュレータということにこだわった。だから、1カ所でも実装に非物理的なインチキをすると、シミュレーション結果に異常が発生したときに、“どうしてそういうふうになったのか”が解析不能になってしまう。しかし、一度正確なシミュレーションを実装してしまえば、ゲームっぽい特別な“場合分け処理”や面倒な“特例処理”を盛り込まなくても、自ずと自然で正しい結果が得られてしまう」(GREENAWALT氏)
「Forza2」の高いコース再現性は、マニアを唸らせるためだけに行なわれたのではなく、シミュレータとして破綻のない実装を行なっていくためには、どうしてもなくてはならない要素だったということなのだろう。 ■ フォースフィードバックとドライビングリアリティ~物理シミュレーションレートは360fps!
「Forza2」では、この問題に取り組み、ゲームの運転と実車の運転の相違点を低減させることを図った。これが「アライニング・トルク」の概念の導入だ。おそらく、この概念を“人的な味付け”でなく、四輪タイヤ物理シミュレーションの結果として正しく操作系に反映されたくカーレースゲームは「Forza2」が初めてかもしれない。アライニング・トルクとは簡単に言うとフロントタイヤを“ある方向”に整列させようとする力のこと。ショッピングカートを押すと車輪がクルっと進行方向に従うように整列するだろう。あれだ。
アライニングトルクは、車体の進行方向、タイヤの摩擦係数の動的変化、フロントタイヤのその時の向きに応じて全く働き方が違ってくるのだ。
簡単に言うとタイヤがグリップをしなくなるとアライニングトルクは減少する。
オーバーステア時はリアタイヤがグリップを失ってフロントタイヤの向きよりもさらに巻き込んで行く(スピンしようとする)状態だ。この場合はスピンする力を抑制するために運転者はカウンターステアを切ることになるが、アライニングトルクはこの時、フロントタイヤはグリップを取り戻すのでカウンターステアの方向に働く。
四輪タイヤ物理シミュレーションは「Forza2」プロジェクトの最も初期から取り組んだテーマで、その開発には3カ月を要したが、この出来映えに納得がいき、「Forza2」は今の完成度に到達することができたという。
「それと強調しておきたいのは「Forza2」の物理シミュレーションは360fpsだということだ。これはレースゲームとしては初だろう。ただ、これは必然性があってこうしたのだ」(GREENAWALT氏)
「Forza2」のグラフィックスのフレームレートは60fps(後述)だが、四輪タイヤ物理シミュレーションをはじめ、全ての車両物理シミュレーションはその6倍の秒間360回の精度で行なっているという。プレーヤーは映像を見ながらゲームを操作するが、これと同一タイミングでシミュレーションを実行していてはリアリティが十分でないのだという。 例えば、時速290km/h(180mph)で走行すると1秒間に約80mも進んでしまう。1/60秒の間にも約1.3mも進む。つまり、もし物理シミュレーションを毎フレーム単位、すなわち1/60秒単位でやっていたとすると、シミュレーション精度は1.3m単位という非常に大ざっぱなものになってしまうのだ。これは、ハイビジョンクオリティの自動車シミュレーションとしてはバランスが悪い。「Forza2」では、表示レートの6倍の毎秒360回の物理シミュレーションにより、時速290km/hでも、20cm単位の精度で地面とタイヤのコンタクトをシミュレーションできている。 「時速300km/hの世界で、地面のわずかな凹凸の上の走破状態を車両の挙動に反映できている車のゲームはおそらく世界でも「Forza2」だけだろう。」(GREENAWALT氏) アライニングトルクの運転時のフォースフィードバックのリアリティと360fps車両物理シミュレーションのコンビネーションは、実在するレーシングチームにも高い評価を受けており、「Forza2」の車両物理のPC版のライセンスを希望するところが出てきているとのこと。PC版「Forza2」の制作の予定はいまのところないが、時間的な余裕があれば業務用シミュレータの世界への転用も考えているらしい。
「Forza2」の360fps車両物理シミュレーションでは、クラッチのエンゲージ率、サスペンションの挙動、タイヤの温度変化、空気圧変化のような車両パラメータの配慮も同レートで行なわれている。逆に、後述のAI部分については、それよりも大部緩やかなペースで思考が行なわれている。
■ ドライビングAI「Drivatar」が学習型AIへと進化
「Forza2」のDriavatrは自己学習型AIに発展しており、AI理論や機械推論の分野で定番のベイズ理論ベースの学習モデルを実装している。ベイズ学習モデルは大ざっぱに言うと「何が起こってから何が起こる」という連続的な確率事象に対して、事前に持っている確率データと、それまでに蓄積してきた知識モデルとを比較して、次に起こる事象を予測していくというもの。ベイズ学習モデルのAIの品質のポイントは「事前に持っておく確率データの品質」、「知識モデルの構築の品質」、「推論の品質」といった部分にある。 「Forza2」チーム内では今作のDrivatarの学習AIはかなり満足しているらしく、制作者自身も予想しなかった、人間ぽいドライビングをするという。例えば、「Forza2」チーム内の実験では、プレーヤー車がAI車の後ろにぴったりとついて、スリップストリームから抜いていくことを繰り返してやるとと、これを嫌がる学習をして、ややコーナー手前で、フェイクブレーキを踏んだりするようになったという。これは面白い。 AIは1種類だとつまらないので「Forza2」では、事前にライバルとして登場する敵車ごとに「個性」という形で「揺らぎ」のパラメータを与えている。それは「スキル」、「積極性」、「慎重性」といったもの。「スキル」はどのくらい車やコースに慣れているかという運転の正確性に関わるパラメータ、「積極性」は群集状態となったときにライバルを抜いていこうとする意志の強さのパラメータ、「慎重性」は外界の状況変化に対してどのくらい影響されるか(どれくらい自分のペースを守れるか)のパラメータとなっていて、それらの度合いの組み合わせでドライバープロファイルとして実装されているという。 用意されているAIプロファイルは全部で30種類で、アジア圏、アメリカ圏、ヨーロッパ圏ごとに10名がいるとのこと。これとは別に、実在するレーシングドライバーをモチーフにしたプロフェッショナル・レーサーが17名登場する。彼らは、ゲーム中ではマイカードライバーとしては雇えないので、敵車AIとして挑むことしかできない。これは楽しそうだ。なお、Drivatarは、今作でも「顔」などのキャラクタビジュアルは与えられていない。 レースを開始するとローディング画面が出てくるが、その右に伸びる進捗バーのラスト数秒間はAIのための事前計算処理に割り当てているとのこと。この事前計算とは、そのレースの全登場車種に対しコースを何周もさせて、その車の挙動データを求めることに相当する。レースに登場する車はチューニング状態が違うので、実際に走らせてみてデータを取得するわけだ。もちろん、これはグラフィックス処理などを省いたCPUフルスピードによる内部演算で行なってしまうので数秒で完了する。そして実際のレース時には、その得られたデータを元に、各車に割り当てられたDrivatarが自分の車を(個性プロファイルに影響されてつつ)どう運転していくかを算出していく。
「我々の運転AIはスクリプト記述はなく、本当にAIがそのコースで他者の様子をうかがいながら車の運転をする。これは非常にスリリングだ。製品版ではカットする予定だが、各車にAIの出す推論を漫画の吹き出しのようにリアルタイム表示させるモードがあるのだが、これが見ていて面白い。とても人間ぽい行動を起こそうとする。例えばモタモタしているとインからショートカットとしてオーバーテイクしようとしたり(笑)」(GREENAWALT氏)
■ 「Forza2」のグラフィックス開発は現在進行形 グラフィックス面やテクニカル面の話についても触れておこう。レンダリング解像度は1,280×720ドットで表示解像度も1,280×720ドット。基本フレームレートは60fpsでは、これが維持できる負荷範囲でアンチエイリアスを動的にOFF/2xMSAA/4xMSAA切り換えて適用している。
なお、ゲームデザインを担当したGREENAWALT氏が60fpsが維持できていればモーションブラーは不要という持論からモーションブラーも生成しているが、補助的にかける程度であまり目立たせていないという。シーンあたりの平均ポリゴン数は非公開。車両に対するポリゴン数は、8~10万ポリゴンだったPGR3とほぼ同等かそれ以下(内装モデルも含む)。
シェーダはMicrosoftなので当然、HLSL(High Level Shader Language)で書かれている。車のボディについてはスペキュラマップ、フレネル反射などの定番の反射モデルを適用。また、球面調和関数を用いたアンビエントオクルージョンを実装している。これは、大局的な照明(Global Illumination)の実装アプローチの1つで、「Forza2」では、複雑な凹凸形状を持った車モデルに対してリアリティの高いライティングを施すために実装された。ダクトやホイールなど、リアルタイム影生成では高精度には出しにくい複雑な遮蔽に対する陰影を出すために貢献している。
この他では、カーボンファイバーの材質を再現するためのシェーダなどがあり、「Forza2」製品版発売までのこれからの6週間で必要に応じていろいろと実装していく予定になっているという。影生成はUnreal Engine3.0と同じ、デプスシャドウ系の発展形であるバリアント・シャドウマップ技法を採用している。これは異なる解像度の複数のテクスチャに対してシーンの遮蔽構造をレンダリングし、解像度の異なったシャドウマップをサンプルしてソフトシャドウ処理を行なう技法。
ちゃんと車両については取り付けられたGTウィングやドアミラーのセルフシャドウが出ている点に注目したい。背景の影、コースに投射される影などは投射テクスチャマッピングによる簡易影となっている。
もちろん、マルチスレッドへの対応は積極的に行なわれている。3コアの主な使用内訳は、1コア目を物理、AI、ネットワーク、ユーザーインターフェイスなどのゲームプレイ処理に、2コア目をレンダリング補助に、3コア目をオーディオ処理に……という具合。また、各コアのセカンダリスレッドには、データストリームの圧縮展開処理などを担当させているという。 ■ まとめ~百科事典のグランツーリスモ、専門書の「Forza2」?
プロジェクトリーダー格のGREENAWALT氏は初代Xbox用「プロジェクト・ゴッサム・レーシング(PGR)1」にて販売サイドにいたが「Forza2」チーム結成にあたり異動。以降も意見交換などでPGRチームとの交流はあったという。ただ、PGRチームとは根幹部分の技術シェアはなく車モデルの制作、効果音、様々な素材に至るまでがフルスクラッチでゼロから作り直している。Microsoft側はレースのリアルタイム視聴モード、トーナメントモード、フォトモードなどのコードを開発した。 そして当然ともいえるのだが、「Forza2」のチームは、ほぼ全員が車のファンだという。面白いのはチーム内で派閥が出来ているというところで、「アメ車がナンバーワン」だという愛国心溢れる者もいれば、スピードに魅せられたイタリア車ファンもいるし、熱狂的な日本車党もいる。メンバーが一堂に会すと自分達の好きな車の話になってそれが止まらないのだそうだ。GREENAWALT氏も当然車が好きで、近年まで三菱GTOをチューンして乗っていたそうだ。「曲がらない、止まらない、直線スピードだけはやたら出る」と言われたあのマッシブスポーツな三菱GTOを選択していたあたり、さすがアメリカンな風情だが、最近では大人しくAUDI S4に乗り変えたらしい。
収録車種は、どうやらチーム内の日本車党が頑張ってくれたらしく、トヨタ・トレノAE86、ホンダCR-Xといった'80年代名車系はもちろん、トヨタ2000GTのようなクラシックスポーツから5,000万円のホンダNSX-R GTのようなマイナー限定モデルまでが収録されている。日本車はGT系のレーシングカーの収録も積極的に行なわれており、例えばRE雨宮RX-7(FD3S)、TOP SECRETシルビア(S15)、HKS ランエボIX(CT9A)のようなチューニング雑誌などではカリスマ的な存在である実在デモカーなどがラインナップされている。
「日本のカーメディアのビデオはみんな見ている。筑波サーキットや鈴鹿サーキットは我々スタッフにとっては聖地だ。『頭文字D』もみんなが見た(笑)」(GREENAWALT氏) 「Forza2」は「Xbox 360のグランツーリスモ」というたとえは確かに「当たらすとも遠からず」といったところだが、微妙にコンセプトが違っており、どちらにも独特の魅力がある。「グランツーリスモ」はシミュレーションをゲームとして全く不満なく楽しめるレベルにまで引き上げたあとは、「自動車世界の全網羅」に乗り出しているようだ。走行シーンは、当初のオンロードのみからオフロードにまで広げ、最新作ではドリフト走行にまで手を伸ばした。収録車種も主要車種に囚われず、自動車黎明期のオールドカーや市販前の未来カーまでを網羅する。まさに、「インタラクティブ自動車百科事典」を目指そうとしている感じだ。
一方、「Forza2」の方は、シミュレーションの“進化”と“深化”を推し進め、網羅性はほどほどにして、「バーチャルに試せる自動車チューニング専門書」、あるいは「インタラクティブ・ドライビング参考書」というコンセプトの方向に向かい始めている。「Forza2」、GT、両方ともコンピュータを活用した「究極の自動車エンターテインメント」を目指している方向性は同じだ。今後も、互いにライバル視しながら、進化していくことだろう。
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□Xbox 360のホームページ (2007年3月26日) [Reported by トライゼット西川善司]
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