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“Punk's Not Dead”須田剛一氏トークセッション
〜未来へ向けたゲーム作りが我々の職務〜

3月5〜9日開催

会場:Moscone Center

  PS「シルバー事件」、PS2「花と太陽と雨と」、PS2「ミシガン」、PS2とGC「Killer7」、PS2「侍チャンプルー」など、全身これ“個性の塊”といった作品をリリースし続けるグラスホッパー・マニファクチュアの代表取締役である須田剛一氏が、「Game Developers Conference(GDC) 2007」最終日に「Punk's Not Dead」と題したトークセッションを行なった。

 ディレクター、デザイナー、シナリオライターとして、日本よりも海外で高く評価されてきた須田氏の講演だけに、会場となったROOM 135には多数の聴衆が訪れた。はたしてタイトルの「Punk's Not Dead」とは何を意味するのか? 気になる講演は、須田氏が自らの経歴を語るところからスタートした。


■ 須田剛一氏と「グラスホッパー・マニファクチュア」

 まず最初に、ぼくの自己紹介をしたいと思います。冬季オリンピックが開催された長野県長野市で生まれ育ちました。そして東京に出てきて……18歳の頃ですね。色々な仕事をして、最終的に23歳のときにゲーム業界に入りました、今ぼくが39歳なんですけど、だいたいキャリアとしては15年くらいやってます。

 最初に入った会社は「Human」で、今はつぶれてなくなってしまいました。そこで、1、2、3……4作ですね。順番に紹介すると、まずはプロレスゲーム「ファイヤープロレスリング3」を作りました。そして「ファイヤープロレスリングスペシャル」、「トワイライトシンドローム」、「ムーンライトシンドローム」。この4タイトルを作って、「Human」が倒産する1年前に辞めて「グラスホッパー・マニファクチュア」という会社を立ち上げました。だいたい、立ち上げる1年前くらい前から「Human」は倒産する臭いがしていたんですね。みなさんもわかると思うんですけど、倒産する会社は給料が遅れたりします(会場笑)。「これはまずいだろう」ということもあって、すぐ「グラスホッパーマニファクチュア」を立ち上げる準備をしました。

 「グラスホッパー・マニファクチュア」は'98年設立……来年で10周年を迎えます。リリース作品は(時系列で)PS「シルバー事件」とPS2「花と太陽と雨と」、これは日本のみの発売になります。そしてセガから発売された「シャイニング・ソウル」、「シャイニング・ソウル2」は、アメリカとヨーロッパでも発売されていると思います。PS2「ミシガン」は、日本とヨーロッパのみ。アメリカのみなさんは、このゲームのことを知らないと思います。そして「Killer7」というタイトルを作りました。これは全世界で発売されたタイトルです。その後「サムライチャンプルー」、「コンタクト」、「Blood+ ワンナイトキッス」を作りました。「サムライチャンプルー」と「Blood+ ワンナイトキッス」は、バンダイナムコゲームズと組んで作った、自社初のアニメーションを原作としたゲームです。

 うちの会社は新しいゲーム、独自性を主眼に置いて作っています。基本的にはパート〜パートのゲームではなく、企画の立案から脚本、プログラム、グラフィック、サウンド、要はすべての開発……ぼくは総合開発と呼んでいるんですが、総合開発できる会社を作りたい、チームをやっていきたいということで「グラスホッパー・マニファクチュア」を作りました。なので、同じチームで新しいゲームをどんどん作っていくというスタイルを目指しています。そして今Wiiで3タイトルを作っています。もう発表されてますが、マーベラス・インタラクティヴと「Nomore Heroes」というゲームを作っています。


■ Punk's Not Deadの意味

 うちの会社のスローガンなんですけど、物づくりをするための指針なんですが「コール・アンド・レスポンス」、「クラッシュ・アンド・ビルド」、「レッツ・パンク」、この3つのテーマのうちのひとつ「レッツ・パンク」についてお話したいと思います。

 まず「パンク」の定義なんですけど、旧態依然のゲームではなく「既存のゲームの概念をブチ破る新しいゲームを作る姿勢」を、ぼくはパンクと呼んでいます。今、世の中にはたくさんのゲームがありますが、それらはやはり“コピー・キャット(類似品や偽物)”ゲーム、そして戦争を主題としたものがあふれています。そういうゲームも凄く大事なんですけれども、まったく新しいタイプのゲームがなかなか世に出てこないという現状に対して、新しいゲームを作っていく。それが「パンク」です。

 そして、同時に日本のゲームのことを「パンク」とも呼んでいます。それはなぜかというと、昔、日本からはたくさんの新しいゲームが生まれてきた。みなさんも幼い頃遊んだと思いますが、ぼくも幼い頃、日本のゲームをたくさん遊びました。アメリカのゲーム、ヨーロッパのゲームも遊んできました。ですが、最近はアメリカやヨーロッパから、優秀で新しくて面白いものがたくさんでてきます。残念ながら今の日本には、新しいゲームが出る土壌があまりないんですね。

 それはなぜかというと、決してパンクがいなくなったわけではなくて、新しいゲームを作る環境ができないし、そもそも“ない”というのがあります。日本のマーケットがどんどん小さくなっているという現状もあります。新しいゲームを生むには「マーケットがない」ということで、ぼくらはチャレンジできない、というのがあります。したがって、ぼくらは世界に向けてゲームを作ることで、みなさんに新しいゲームを提供できる。それはなぜかというと、マーケットが大きいからですね。これからも新しいゲームを作り続けていきたい。それをパンクと呼んでいます。

―― 日本で“パンク”というと音楽的なニュアンスが先にきてしまうが、当然ながら須田氏は、アティテュード、思想的な意味でパンクという表現を用いている。同社作品の根底からメッセージ性を感じるのは、強烈なまでの独自性の追求に由来しているのだろう


■ 「シルバー事件」と「Killer7」の関係性

 どんな形でパンクなゲームを作っていくかということで、ひとつ例題を出したいと思います。それは「Killer7」と「シルバー事件」。「シルバー事件」は「グラスホッパー・マニファクチュア」のデビュー作になりますが、海外では「Killer7」がデビュー作。その意味で、我々は「シルバー事件」というゲームをもう一度再生させようと思い「Killer7」を作りました。「シルバー事件」は、日本で「Killer7」より人気があります。そういうこともあって、多くの人たちに「Killer7」のテイストを味わって欲しいと考え、同じコンセプトでゲームを作りました。

 何が同じコンセプトかといえば、まず「オムニバス」形式。「Killer7」は全7話の構成で、7つのシナリオが含まれています。「シルバー事件」はもう少し多くて12話、6話+6話、表と裏という二重構造のシナリオを書きました。そして、表のシナリオで裏の構造を知るというような脚本スタイル。「Killer7」でも同じようなスタイルを取り入れました。表の世界=アクションの世界があって、スクリプトで説明する世界がある。「Killer7」では“残留思念”と呼ばれるルートマップの途中にキャラクタが立っているんですけども、彼らがしゃべりかける。それが裏の構造という形で再現をしました。

 カメラと移動、コントロール配置も見直しました。これは、ゲームを一度解体してもう一度再生させるというスタイルへの取り組み。昔のゲームの多くは、Aボタンがパンチ、Bボタンでダッシュなどの決まりごとが無かった。なのに、最近のゲームはコントローラーの仕様とかアクションの定義みたいなものから、ある種“画一化”されているんですね。それに従ってゲームを作るのではなくて、「Killer7」には「Killer7」のスタイルのコントロール操作を作りたい。

 プレイした方はご存知かと思うんですけど、「Killer7」ではAボタンを押すことでルートを走るというスタイルを作りました。これにはもちろん意味があります。多くのアクションゲームの場合、方向キーでキャラクタが動くと思うんですけど、実はこの操作ができない人たちが世の中にたくさんいるんですね。たとえば、今ぼくは39歳なんですけど、まわりにいる同年代の知人たちは、普段ゲームをしません。ぼくの家にきて一緒にゲームをしようといって、遊ぼうと思っても、まずコントローラーの握りかたからわからないし、操作もまったくわからないんですね。十字キーで動く、アナログスティックで動くということすらも、彼らはプレイができないんです。

 ぼくは「そういう人たちにもゲームをやってほしい」ということを常に考えてゲームを作っています。ゆえに、まずそのことからやめようと思いました。それが、Aボタンを押す=走るにすれば、これは誰でも操作ができるんですね。プレーヤーが止まったら、右、左、あるいは真っ直ぐいくのかという方向矢印が出て、それを押すと進める。これは古いアドベンチャースタイルをモチーフにしています。コマンドで「どっちの方向にプレーヤーは進むのか」というのを、別のグラフィックスタイルで表現しました。こういう作業をして、「Killer7」のスタイルができあがっています。

 次に「Film Windows Engine」。これは「シルバー事件」で我々が作ったエンジンです。「シルバー事件」はテキストのアドベンチャーゲームです。テキストアドベンチャーというのは、マップ、キャラクタの顔、テキスト、コマンドの表示、その他もろもろ、すべて概念として「ウィンドウ」という枠に収める。そして、ウィンドウのなかで管理して、それぞれの表示を配置することでデザインを構成させる。そして、その配置の運動と音楽を連動させて、バックグラウンドで流れるグラフィックも音楽と連動するという新しいスタイルのアドベンチャーゲームを日本で作りました。

 なぜこういうスタイルのゲームを作ったかというとですね、「グラスホッパー・マニファクチュア」設立当初、スタッフは3人だった。途中から、一番多い時期でだいたい7〜8人で作りました。必然的に、スタッフがとても少ない。画面を配置でデザインすることによって何ができるかというと、プログラマがグラフィックの代わりができる。つまり、スクリプタが情報の引き出しをすることで、ひとつのグラフィックデザインができあがる。そういうスタイルが「Film Windows Engine」です。利点として何があるかというと、インディーズの人たち、たとえば学生さんとか、まだ若いスタッフたちが実験的にゲームを作ることができます。

 表現の自由化、アニメの導入については、「シルバー事件」、「Killer7」ともにアニメーションを多用しています。これはなぜかというと、ゲーム表現の場合、決してレンダリングムービーだけが必要ではないんですね。なんでも再生できる装置としてもゲーム機は使われます。よって、あらゆる表現方法、手段をゲームのなかに持ち込みたいと思って、まず「シルバー事件」でアニメーションと実写映像を使いました。「Killer7」では同じようにイギリスのアニメーションチーム「ユニットナイン」に映像をお願いしました。シナリオひとつ、まるまるアニメーションを使ってゲームとシナリオを作りました。ゲームを作る人間は、多忙なスケジュールのなかで多大な要素を構築していく。ということは、たとえば我々が映像を作ることもできるし、アニメーションも作ることもできる。行為としては同じなんじゃないかというところで、違う表現メディアと融合して物を作るということにチャレンジしてみました。その経験というのは、ゲームを作るうえで大きな勉強となって跳ね返ってきました。それは工程の違いであったりとか、彼らがどういう物づくりをしているのかを学べたということです。

 次に、発想。どういうふうにゲームデザインをしているかということなんですけど、うちが作るゲーム……「Killer7」などはとてもバイオレンスなゲーム。アメリカのレーティングではM(マチュア)レベルになったと思うんですね。で、プレスの皆さんから色々な質問を受けたなかに「きみはなんでこんな気の狂ったゲームを作ったんだ」というのがある。多くの人たちがぼくに聞くのは「きっとドラッグをやりながらゲームを作ってるんじゃないか」という内容。それは違いますと、いつも答えてます。みなさんにもお伝えしたんですけど、ぼくはドラッグもやりませんし、タバコもすいませんし、お酒は好きですけども、すぐに酔っ払ってしまいます……本当です、信じてください(笑)。

 で、ドラッグを使わずにどうやってゲームを作るか……ということなんですけど、あ、違いますね(会場笑)。オリジナルゲームをどう作るかというマジメな話をします。ぼくは人と同じことをするのが凄く嫌いなんですね。誰もやってないことをやりたい。ぼくはあまり学歴が高くないんですけど、それでも運よくゲームの世界に入れました。なので、ぼくがこの業界にいる限り、なんらかの恩返しをしたいと思っているんですね。そのためには、多くのみなさん、メガパブリッシャーなど、優秀なゲームを作るみなさんが作るのとはまったく違う、誰も考え付かないゲームを作るのが、ぼくの役割なんじゃないかっていうのを、ずっと考えています。

―― 独自の世界観など、ぱっと見“一見さんお断り”と思われがちな同社作品群だが、システム的には、制作側はもちろん「幅広い層に向けたシステム考察」にも筋道が通されている。問題は“一発キメてんじゃないの?”と訝られるという唯一無二のセンスだが、これを取り除いたら須田氏およびグラスホッパー・マニファクチュアの作品である意味がなくなってしまう。無為に進めるのも無責任であり、ここは“決して毒ではないよ。ほら、試しに飲んで(プレイして)ごらん?”程度にコメントしておきたい。


■ プロデューサー 〜三上氏との係わり合い〜

 うちのスタイルで特徴的なのは「仕様書」を作らないということだと思います。ほとんどスタッフとフリーディスカッションをして、会話のなかでゲームを作っていきます。ぼくの日本語……会場のみなさんは英語できいていると思うんですけど、すごくわかりづらいんですね。言葉というよりは擬音で説明するんですよ。

 たとえば「左から右にギュワーッ!」とか「上から下にバーンッ!」とかですね。そういう擬音を使って説明するので、若いスタッフたちはすぐ会社を辞めたがります(会場笑)。それをフォローするのが、うちのベテランスタッフ。「須田さんは、こういうことを言っているんだ、あれには意味があるんだ」ということを代弁してくれます。それでぼくが何を考えているのか伝達していって、まずプロトタイプに近いものを作っていき、それをプロデューサーに見てもらって判断してもらうというのがほとんどですね。

 プロデューサーに見てもらって、色々な意見をもらいます。「Killer7」ではカプコンの三上さんというプロデューサーと一緒に仕事をしました。みなさんもご存知かと思いますが、三上さんは「バイオハザード」シリーズを作った凄く有名なゲームデザイナーです。凄く頭のいい人で、彼との仕事は本当に面白い。さらには、ぼくと同じように、ゲーム業界に入ってずっと企画の世界で生きている“企画畑”の人なんです。そのせいか、ぼくが物を作るときにどんな悩みがあって、どんな発想をしたのかということを凄く知りたがって、それに対して凄く好意的に理解を示してくれる。それが「Killer7」を作っている間、凄く助かりました。色々なことから守ってもらったんです。

 三上さんと仕事をしていて、実は怒られたことはほぼ皆無。ただ、1度だけ怒られたことがある。それは「Killer7」というタイトル。ゲームキューブで発表されるとき“Killer”という言葉が任天堂的にNGじゃないかということでカプコンにチェックしてもらったところ「ひょっとしたらマズイ」という回答があって、タイトルを変えなきゃならないかもという話になった。そのとき、アイデアに関して電話で「三上さん、一緒に考えてください」ということをぼくが伝えたら、受話器のむこうで凄く怒って「ディレクターがタイトルを考えなきゃいけないだろう。なんできみが考えないんだ!」と激怒されて、それが凄く印象的だった。そのときしか、彼は怒りませんでした。ただ、その一言には凄く意味があって、この仕事をするうえで、カプコンおよび三上さんという看板に臆することなく、ぼくがディレクターとしてすべてのことを決めていいんだ、ということを彼に教えてもらいました。

 色々な自由な発想を三上さんにぶつけて「どういう意味で、きみはこのアイデアを考えたんだ」ということを問われてぼくがしゃべると、だいたい電話の向こうで大笑いして「それだったら面白い」ということでOKをもらいました。たとえば「Killer7」には日本の政治家のボスキャラクタが出てくるんですね。背の高いの、低いのがプレーヤーの向こう側で待っているんですけど、彼らは殺されてゾンビ化して、脳みそを投げつけてくるんです。それを「Killer7」たちは撃って阻止するんですが、脳みそを撃つだけじゃ彼らは倒せない。政治家の首にネクタイがあるんですけど、これを撃つとネクタイがぶらぶらになる。で、ネクタイがなくなって政治家が横を向いたときに脳みそを撃つ。そうすると1発ヒットするというアイデアを考えたんです。それを三上さんに伝えたら「なんでそんなことを考えついたんだ?」といわれたんで「こういうことをぼくがやりたいから」と答えました(会場笑)。そうしたら「須田さんがやりたいんだったら、好きにやってください」の一言でやらせてもらいました。そのアイデアが三上さんに、なぜか知らないけど認めてもらえて「Killer7」は最後まで作ることができたんですね。

 三上さんの話は、もうひとつあります。「Killer7」は、先ほども申し上げたとおり移動システムがちょっと変わっている。いわゆるレールタイプのゲームで、フリーランニングができない。ぼくが「Killer7」が発売される前年のE3に行ったとき、三上さんにいわれたのが「アメリカでは今どんなタイプのゲームが主流かなど、色々なゲームを見てきてください」ということ。ぼくが見た限りでは、やはりフリーランニングのゲームが多かったんですね。FPSも凄く多かった。で、今我々が作っている「Killer7」が、アメリカという市場のなかで決してメインストリームではないことは、ハッキリ自覚できたんですね。三上さんも「なるほどそういうことか」と理解していました。

 ぼくが日本に帰ってきて、東京で2人でずっと悩みました。だいたい5時間くらいですかね。「Killer7」を今からフリーランニングにすべきか、もしくはレールのままいくか。当然ながら、フリーランニングにすれば売れる可能性は確実に増えたでしょう。「Killer7」は当時アメリカでインパクトがあるということで評判が高かったものですから「かなりの数字で売れるんじゃないか」というところで2人で迷ったんです。けれども「最終的には須田さんが決めてください」というふうに言われて、ぼくは「たくさん売れるよりも最初に考えたアイデアを貫き通したいし、信念は曲げたくない、それでも新しいゲームを作りたい」ということを伝えました。そうしたら彼は「ぼくもそう思っていた」とOKをもらったんですね。そんなプロセスの中で「Killer7」はできあがった。さまざまなマイナス要素すらも、プロデューサーが支えてくれた。

 ぼくはゲームのディレクターでありデザイナーでもあります。うちの会社は今、色々なパブリッシャーと組んで仕事をしています。だいたい10社以上と仕事をしているんですけど、そのとき凄く大事に考えなきゃいけないのは「パブリッシャー」と仕事をするのではなく……。ぼくは、パブリッシャーの意見をうかがうのではなく、絶対にやらなくちゃいけないのは「プロデューサーの言葉を信じる」、「プロデューサーという人間を信じる」ことでゲームを作らなければいけないんですね。たとえば、プロデューサーの意見が上(会社)からねじまげられたとしても、それでもプロデューサーがそう言ったのであれば、それを信じるべきという理念を持っています。というのも、ぼくらは“人間対人間”で仕事をしている。決して人間対会社、会社対会社ではないんですね。

 プロデューサーを信じることで我々はゲームを作れますし、彼らを信じることで、きっとそれは跳ね返ってくるんです。それはなぜかというと、プロデューサーは数年後には凄く出世をして、場合によってはパブリッシャーの社長になる可能性があるんですね。そうすると、仲良くなっておくと、とてもいいことが後で起こる。こういう腹黒い面も含めてですね(笑)、ゲームを作っていきたいと思っています。

―― “人間対人間”については、自身について色々と考えされられる人も多いのではないだろうか。最後の腹黒い部分について須田氏はジョーク調で話をしたふうだったが、会場からはクスリとも笑い声がこぼれなかったのが印象的(他のジョークについては同時通訳を通してきちんと反応していた)。「そうか、ここは異国の地だったな」と改めて襟を正さねばならぬ思いがした


■ ディレクター 〜バッシングに負けない強い精神力が必要〜

 ディレクターには「職業監督」と「作家監督」の2種類があると思っています。職業監督は、世の中に売れるもの、クライアントやパブリッシャーからのオーダーに対して忠実に物が作れる人たちのことを指します。作家監督は、新しいものを発想して、新しいことを世の中に定義していく。そして新しいことを喜んでもらう。ただぼくは、すべてのゲームディレクターは「職業監督」であるべきだというふうに考えているんですね。

 やはりクライアントからのオーダーが一番大事だっていうのは間違いないことだし、作家監督は、職業監督で経験を積んでいてもいつでも元に戻れる。また新しいことをやりたいときに作家に戻るというのは、凄く簡単なことなんですが、職業タイプの監督が作家になるのは凄く難しい。なので、多くの人たちにはビジネスを理解するうえでプロデューサーとクライアントのオーダーというものをどれだけ忠実に再現できるかということにトライしなければいけない。例えばうちの開発でいうと、プロデューサーさんが毎週定例みたいな形でミーティングするんですけど、あるプロジェクトの場合、毎週来るたびに違うゲーム名が出るんですね。そうすると彼は「こんなタイプのゲームが世の中に出たのであれば、これを作ってもらえないか」とアイデアが変わります。そして、翌週になると「またこういうタイプの凄いゲームがある。だから、このゲームを作ってくれ、トライしてくれ」というふうに言われるんですね。でも、ぼくらはそれを忠実に再現しなければいけない。とても厳しいことなんですが、それが最終的に物づくりとして面白いものになるのであれば、それはするべきでしょうし、彼らのへヴィなオーダーにも応えなければいけない。そうすることで我々ディレクターは凄くタフになりますし、どんな局面でもゲームを作ることができる、というふうに考えています。

 あと、ディレクターにとって物凄く重要なのは、精神的にタフでなければならない、というのが大事だと思います。たとえ話ばかりで恐縮なんですけど、日本には「2ちゃんねる」という巨大掲示板があるんですね。要はフォーラム……って言っていいのかな? 色々な人たちの意見が集まるフォーラムがあります。そこでは特にゲームの話題が盛り上がっていて、あるゲームが出ると、それに対し必ず色々な批判がつきまとう。日本ではちょっと社会問題になっているような巨大フォーラムなんですけど、どちらかといえば、どんな素晴らしいゲームでも批判のほうが凄く多い。ある有名なゲームを作ったディレクターさんが、「2ちゃんねる」の存在をまったく知らなくて、色々な人たち、プレイしたお客さんたちの意見がそこに集まるというのを知り、凄く喜んだんですね。凄く楽しみにして見にいってそこに書かれていたのは、凄く酷いこと。死ね、金返せ、逝ってよし……そんなことがたくさん書かれていて、凄くショックを受けたんですね。で、それから確か3カ月くらい……会社に来られなくなってしまった。それくらいお客さんの生の意見は強烈ですし、反応としては凄く衝撃的。ただ、それも全部受け止めるのがディレクターであり、お金を払って買ったお客さんの意見っていうのは、もう絶対だと思うんですね。ぼくも相当言われるんです。死ね、ゲーム業界からいなくなれとか、アメリカの人からもたまに言われます。でも、そういうものも一応乗り越えて、すべてアイデアのタネとして、ディレクターとして吸収したいと思っているんです。

 映画という文化、産業は“批評”というジャーナリズムを生みました。そして、映画文化を成熟させた。100年の歴史を支えるのは、映画が自己崩壊から生まれたということだと思うんです。これはたぶんパンクの精神と一緒だと思います。

 一方、ゲームは生誕して20〜30年、この歴史は非常に浅いものだと思っています。よって、我々というのは、決して成熟してはいけないと思うんです。産業が大きくなること、職業監督に徹するのは凄くいいこと。ですけど、もっと我々は“傲慢にゲームを作るべき”だと思っているんです。ぼくがいつも考えるのは、初期衝動に忠実にゲームを作るということなんです。初期衝動とは何かというと、最初にゲームに出会ったときのインパクトみたいなもの。ぼくはゲームセンターでゲームに出会ったんですけど、そのときに凄くショックを受けました。テレビでもない、小説でもない、漫画でもなくて、四角い箱が発光しているものを見て、凄く興奮した。そのときのショックみたいなものを、ぼくは今でもゲームに反映させたいと思っているんです。

 これは、みなさんが大好きなバンドと出会ったときの衝撃と一緒だと思うんです。たとえば、年配の人だったらビートルズ。セックス・ピストルズもそうですし、ぼくの大好きなジョーイ・ディビジョン、ニュー・オーダー、ハッピー・マンデーズ、ニルヴァーナ、マリリン・マンソン、ストーン・ローゼスといったショッキングな音楽と同じように、ぼくらはやっぱり新しいゲームを作っていかなければならないし、そういうパンクは映画でも音楽の世界でも必ず数年おきに出てくるんです。ですが、残念ながらゲームの場合は、なかなかそういうショッキングなものがが出てこない。「Killer7」とか頑張って作っているんですけど、数が少ないんですね。1人では戦えないんです。だから、より多くの人たちに、ぼくはパンクなゲームを作って欲しい。そして、メガパブリッシャーのみなさんには、より多くのパンクなゲームを作る機会を与えて欲しい。売る方法というのは、パブリッシャーのみなさんが考えてくれるので、大丈夫だと思うんですよ。そういうゲームをたくさん作りたいと考えています。

―― 初期衝動の大切さは、物づくりを志す人なら誰しもが共感する部分ではないだろうか。忙殺されて思考や立ち居地があやふやになったとき、須田氏のいう“初期衝動”と正対することで、うちに秘めた心の力が再び湧き上がってくるかもしれない


■ 保守で凝り固まった日本のゲームシーンに新たな息吹を

 ぼくらのなかからゲームがなくなったら……「No Game、No Life」、これは、日本のTower Recordsが作ったキャッチコピー「No Music、No Life」のパクりなんですが。ゲームのない生活は、絶対につまらない。アメリカは大丈夫だと思うんですが、日本の場合は、ゲーム文化が無くなるという危機感を持っているんですね。とても保守的になってしまっていて、新しいゲームが生まれる土壌が凄く少ない。それは解体しなければならないし、次のステップに進まなければいけない。そう考えています。

 結論としては、パンクなゲームを作り続けるというのがひとつ、この場で語りたいのは、我々ゲームディレクターは“未来に向けたゲームを作り続けるというのが職務である”ということ。そして、ぼくらは日本ゲーム界の神である宮本さんから、凄くたくさんの影響を受けました。同じような影響というものを、若いプレーヤーたちに伝えなければならないと思っています。そして、ぜひパンクなゲームを作っていきたい。さらには、ゲームの歴史というものを健全にするために、多くの新たなゲームを作るということを、生涯をかけてやっていきたい。それを皆さんに約束したいですし、世界中の人たちに新しいゲームを提供していきたいですね。

―― スピーチの最後に須田氏は、PS「シルバー事件」と携帯コンテンツ「シルバー事件25区」がニンテンドーDSに移植することを明らかにしたほか、開発中のWii「Nomore Heroes」トレーラーを上映。講演は好評のうちに幕を閉じた。前衛的なクリエイター魂を持つ須田氏には、ファンならずとも常に注目しておくべきだろう。





□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□グラスホッパー・マニファクチュアのホームページ
http://www.grasshopper.co.jp/
□関連情報
【3月8日】Game Developers Conference 2007 記事リンク集
http://watch.impress.co.jp/docs/20070308/gdclink.htm

(2006年3月10日)

[Reported by 豊臣和孝]



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