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会場:ベルサール神田
本稿では海外タイトルを積極的にパブリッシングしているハイファイブ・エンターテインメント代表取締役社長澤紫臣氏と、中国や韓国に「ゲットアンプド」をサービスしているサイバーステップ株式会社代表取締役社長佐藤類氏の講演を紹介したい。講演ではパブリッシャー、デベロッパーという側面にとどまらず、どうゲームを作っていくか、ユーザーにサービスしていくかなど、両社の戦略と様々なアプローチが語られた。
■ 日中韓の分業で作られるハイファイブのパブリッシングタイトル。運営時の苦労話も
澤氏は韓国などのコンテンツを「輸入」して発展してきたPCオンラインゲーム市場が急速に変化していると語る。韓国では市場が飽和状態となりその影響は日本にも出始めている。また、コンシューマメーカーが次々とPCオンラインゲーム市場に参入している。こういった状況の中でハイファイブ・エンターテインメントは、日本、中国、韓国の3つの国で分業していくことでユニークなコンテンツ、サービスを行なっていく。 日本は企画力があり、韓国にはPCオンラインゲームの先進性がある。そして中国は国家プロジェクトとしてゲームコンテンツを生み出そうとするエネルギーがある。これらを組み合わせることで新しいコンテンツを生み出していきたいと澤氏は語る。 こういった体制はハイファイブの実際のパブリッシング事業を進めていく上で明確になっていった。まず、「ブライトキングダム オンライン」を運営するに当たって開発元の韓アラゴンにスタッフを派遣し、連絡を密接に取りながら作業を進めていった。ところが、派遣スタッフは開発と運営の板挟みにあい、結果として日本の要望が伝わりにくい状況になった。 韓国では「ブライトキングダム オンライン(韓国名「シャインオンライン」)」は月額課金制のゲームだったが、日本では基本無料のアイテム課金制となった。開発元が正式スタート時に販売するアイテムとして用意したのは5種類だった。少なすぎる、という日本の声に韓国側は「3つでスタートしているタイトルもある」と答えた。日本側は、「100個にしてくれ」という要望を強く出した。色違いでも、回復アイテムを100回復、200回復、といった形でもいい。ユーザーに選べる楽しさを提供して欲しい。 また、アップデートでも日韓の価値観の違いがはっきりしたという。「絶対ゲームが面白くなる」という開発者のアップデートで、1回目では3,000人、2回目では2,000人の日本のユーザーがゲームをやめてしまうと言う状況が発生してしまった。こういった状況から日本側は日本に合わせたサービスを積極的に提案し、さらに北京光宇維思科技有限責任公司で日本の企画によるアイテムのモデリングを行ない、韓国でDBの追加作業をしていくことで大量のアイテムを投入した。 「ブライトキングダム オンライン」では、4~5カ月で、950以上のアイテムが投入され、ユーザー人気も上がっている。現在、韓国では「シャインオンライン」のサービスは中止になっており、開発の方向性は日本を大きく意識したものになっている。また、「シャインオンライン」は中国でのサービスも予定しているという。 一方、北京光宇維思科技有限責任公司が開発し、ハイファイブが日本でパブリッシングを行なう予定の「アリアスストーリー」も大きな変化があった。本作は2006年12月12日にクローズドテストが予定されていた。戦闘システムにモンスター、プレーヤーを助け敵と戦う「守護精霊」といったシステムも入っていた。しかし、サービス直前に「ちゃぶ台をひっくり返す」ことになった。 ハイファイブのスタッフにとって、ユーザーに公開される直前の「アリアスストーリー」はすでにサービスされている多くのMMORPGと同じように見えた、というのが大きな理由だ。ここでハイファイブは思い切った事をする。ゲームのモンスターや戦闘、レベルアップなどすべての要素を削り、ただキャラクタを移動させることができるだけの「チャットソフト」としてユーザーに公開し、ゲーム内でGMに「どのような要素が欲しいか」という質問をユーザーにぶつけたのだ。 この時、中国から開発スタッフを招き、ユーザーがGMに提案する様々なアイデアを直接見させることにした。ゲームシステムが全く入っていないチャットソフトをプレイするユーザー達は、様々なゲームシステムを想像し、そしてどんなゲームをプレイしたいかを語った。結果、開発スタッフは大きく開発を見直す事になった。現在、日中でのサービスを目指して作業が進められている。 他のタイトルもそうだが、実質的にはハイファイブは開発にも大きく関わっているが、“国際分業”で制作されるタイトルは、「中国産」のゲームタイトルとして中国国内でサービスできるという。ハイファイブと、北京光宇維思科技有限責任公司の協力は中国でのサービス戦略という側面も大きい。 現在、日本のオンラインゲームパブリッシャーは様々な工夫をして“次世代”のオンラインゲームをサービスしようとしている。ガンホーのように自社のオリジナルタイトルを作ろうとしているメーカーや、ゲームポットのように日本だけでなく、ハンガリーのメーカーと共同開発でコンテンツを生み出そうとしているメーカーもある。また、日本のガマニアは台湾ガマニアが制作中のオリジナルコンテンツに積極的に意見を届けている。
こういった取り組みはすべて日本のユーザーに向けて優れたコンテンツをどう提供していくかというベクトルによって生み出されている。ハイファイブの日中韓による分業もまた、ユーザーのための新しいゲームを生み出すための取り組みである。それぞれのアプローチでどのような作品が生まれるか、大いに期待したい。
■ 海外で大きくヒットした「ゲットアンプド」、開発会社が明らかにするライセンスと開発のノウハウ
サイバーステップはまだISDNが主流だった2001年に日本で「ゲットアンプド」をサービスしたのだが、最高接続者数が15人、月額の収入が3万円という失敗といえる結果になってしまった。しかしふとした偶然から韓WindySoftの社長と知り合ったことがきっかけになり、韓国でサービスが始まり、多数のユーザーを獲得した。その人気は、中国やタイといった外国にも広がり、日本でもガンホーから再びリリースされることになった。 現在日本での「ゲットアンプド」は自社での運営とパブリッシングが行なわれており、2月26日より基本プレイ無料のアイテム課金による正式サービスがスタートする。この他サイバーステップは、ロボットが活躍するアクション性の強いMMORPG「C21」を、2006年3月からアイテム課金による正式サービスを行なっている。このタイトルもまた海外展開を行なうべく活動しているという。 佐藤氏はオンラインゲームの開発のコツは、「少数精鋭」にあると語る。仮にゲームの開発に2年かかり、1人当たりの人件費が1カ月50万円かかると、100人で作ると12億円、30人で作っても3.6億円かかる。また、オンラインゲームの場合はオープンβテストなど、お金を取れずにコストのみがかかる期間もある。「売り上げ>コスト」にしていくにはどこに損益分岐点を置くかが大事になってくる。 少数精鋭を主張する理由として、日本のゲームの特徴はすぐれた「ゲーム性」にあることを佐藤氏は指摘する。「ゲットアンプド」は韓国で「ポトリス」や「BnB」、「メイプルストーリー」といった瞬間的にはユーザー人気を奪われるタイトルがあったが、現在でもサービスが続いているのは、そのゲーム性をユーザーが高く評価しているから。大作ではなく少人数による「味わいのあるゲーム」を作り、サービスすることがオンラインゲームの自社開発のコツだ。 一方でライセンスビジネスに関しては「まずはチャレンジ」。直接その国に行って売り込むのもいいが、日本に来ている海外メーカーに働きかけることで、「こちらがアクションを起こしたい」という意志をちゃんと見せることも大事だ。そのメーカーとは繋がりが生まれなくても、メーカーを通じて本国で情報が伝わり、向こうから連絡がある場合もある。 ライセンスビジネスでサイバーステップが最も苦労した点がロイヤリティ率だという。単純な売上額で取るか、実際の徴収額で取るか、といった問題が発生する場合がある。台湾やタイという国はコンビニエンスストアでのプリペイドカードで決済を行なうため徴収率は高いが、コンビニエンスチェーン側に何割か取られてしまう。 また、クレジットカード決済は日本ではほぼ100%ユーザーが支払うが、韓国では40%近くのユーザーがクレジットカード会社にお金を支払わず、結果として徴収できない状況もある。見かけ上の売り上げと、実際の徴収額に差があること、現地でのユーザーの支払い環境も気をつける必要がある。 質疑応答では、デベロッパーとして海外のユーザーの要望にどう答えるか、といった質問も上がった。佐藤氏は各国へのサービスは翻訳だけでは絶対にいけない、という。その国の要望にどれだけ応えるかが鍵だ。アイテム課金によるビジネスモデルも韓国の要請に応えたものだ。また、中国では「経験値2倍」のアイテムの要望があったが、日本のゲームの常識として最初は受け付けなかったが、導入したことで大きな売り上げとなり、中国の「ゲーム観」に改めて考えさせられたという。
また、アクションゲームにもかかわらず結婚機能を導入したり、タイの「水かけ祭り」に関連したコンテンツを導入したりと、アイテムやシステム、マップも充実させている。しかし、その中で守っていかなくてはいけないのは、制作会社としての「自主性」だ。ゲームに関する分野は委託を行なわず、自社で作っていく。ゲームはあくまで“手作り”であることにこだわる必要があると、佐藤氏は語った。
□ブロードバンド推進協議会のホームページ (2007年2月24日) [Reported by 勝田哲也]
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