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会場:ベルサール神田
この2つの講演はそれぞれが「Web2.0」新しいウェブのあり方を示す言葉に対し、それぞれが自身の分析によって「Game2.0」という価値観を提示、これをキーワードにどのようなアプローチをしていくかを語った。長沢氏はパブリッシャーとして、栢氏はクリエーターとしての立場から分析を行ないながらも、「ユーザーの創造性」に特に着目している。変化していく状況に対し、長沢氏と栢氏はどのようにユーザー社会、ゲーム業界に働きかけていくのだろうか。
■ ジークレストのアバターサービス「セルフィ」でユーザーが衣装を創り、販売するビジネスを
最初に長沢氏はコンシューマゲームからの流れの「コンテンツ」という側面と共に、コミュニティやユーザー取引などを含む「ネットビジネス」という面も併せ持つと語った。そして現在、ユーザーのネットの知識が底上げされたことによってネットリテラシーが向上し、個人の情報がより発信しやすくなり、情報共有が行ないやすくなった。 これが一番顕著なのが「インターネットマーケット」だ。ユーザーは物を買う前にネットで調べることで商品を使ったユーザーの感想をより幅広く集めることができる。特にネットユーザーは消費の形が変わった。ネットユーザーは商品を買う時にネットで情報を調べ、さらに購入した商品の情報を共有する傾向が強くなってきた。 そこから、長沢氏はOne's Communicationsの資料をもとに現在のオンラインゲームユーザーの傾向を分析する。オンラインゲームユーザーがコンテンツに魅力的を感じるのはグラフィックスの美しさや、システムの充実以上に人の繋がりであること。ユーザーがゲームを知るのもネットニュースの傾向が強く、さらに個人サイトやブログによってコンテンツの楽しさをより確かに感じ、ゲームをプレイし続ける事を決心するユーザーが多い。 こういったユーザーの傾向を受けて長沢氏が提案するのが長沢氏なりの「Game2.0」だ。継続的なバージョンアップによりコンテンツを常に変化させ、ユーザーデータも資産とする。その上でユーザー自身も情報やコンテンツを提供する「共同開発者」として捉えていく。 「Game2.0」という考え方で取り組まれているのが、「セルフィ」というアバターサービスだ。これはジークレストがサービスするオンラインゲームポータルサイト「@games」内のコンテンツで、イラストレーターの原田たけひと氏や葉賀ユイ氏によるかわいらしいキャラクタデザインが特徴だ。8月より衣装などを販売する基本プレイ無料のアイテム課金制により運営している。現在の会員数は発表されていないが、課金ユーザーは全体の10%程度、1ユーザーの平均課金料金は4,000円以上だという。 「セルフィ」はユーザーごとに着せ替えが楽しめるだけではなくMMORPGの様にフィールドを移動し、同じようにフィールドを歩いている他のユーザーとチャットを楽しむことができる。また、手を挙げたり、喜んだりというモーションや、ハートやクエスチョンマークを出す感情アイコンを使うこともできる。 この他にも友人などをチャットスペースに案内し会話を楽しむことができる。様々なテーマを設けたルームも用意されており、そこに行くことでチャットをすることも可能だ。セルフィのアバターは麻雀や大富豪など「@games」内の様々なコンテンツで自分のキャラクタとして使うことができる。TBSのTVドラマ「キラキラ研修医」とのコラボレーションなども行なっている。 この「セルフィ」で4月より行なわれる予定なのが、衣装作成用APIを開放することでユーザー自身がセルフィ用衣装を作成することができるようにする「セルつく」だ。ユーザーが創った服はマーケットプレイスによりユーザー間の売買も可能になる。セルつくはサービス前のため詳細は決まっていないが、著作権はユーザーに帰属し、ジークレストは服を販売する際に手数料を取る、というビジネスを考えている。 ユーザー自身が作り出すコンテンツというのは、「Second Life」でもそうであるが、玉石混合になる。ジークレストではユーザーが創った衣装を集め、ユーザー投票にかけ、上位の服を販売する計画だという。この時、価格は最低価格だけはジークレストが指定し、それ以上いくらにするかはユーザーにゆだねられる。ユーザーが創った衣装はゲーム内のポイントで売買される。「Second Life」と違い、このポイントを現金に両替することはできない。
こうなると、大人気を得た衣装を創ったユーザーがものすごいポイントを手にすることになる。現金化できない以上、そのポイントはユーザーにとってどういった意味を持つことになるのか、という面も気になるところである。今回の講演では概念が紹介されたのみではあるが、今後ユーザー間や、業界でも議論されていく要素ともいえるだろう。今後の展開に注目したい。
■ ユーザーの創造性に着目し、次世代のゲームクリエーターとして教育していく「サンデーゲームスタジオ」
栢氏はゲーム業界の課題としてゲームの著作権がメーカーに買い上げられており、一部のクリエーターをのぞいて作者の名前が出ていないことを上げる。映画は監督の名前がクレジットされている。ユーザーは監督の名前で見る作品を選んでいて、配給会社で選んでいない。 もう1つの課題は、クリエーターが現在直面している問題である。オンラインゲームユーザーの中にはゲームそのものにすでに魅力を感じて無くても、仲間に会うためにログインしているユーザーがいる。そのユーザーはコンテンツよりも、他のユーザーに面白さを感じている。ユーザー自身がオンラインゲームの中で行なうイベントや、「Second Life」といったコンテンツが出てきたところで、「ユーザーが創ったモノが面白い」というクリエーターにとって“恐ろしい結論”が生まれた。 これらの状況から栢氏は「Game2.0」とは、運営会社がインフラを創り、ユーザーがコンテンツを創る世界だと定義する。その概念を書いたスライドにクリエーターの文字はない。クリエーターとはなんなのか、ユーザーが持つ創造性はどのように活かすべきか、栢氏は1つの試みとして「サンデーゲームスタジオ」というアプローチを行なう。 サンデーゲームスタジオは、Vantanやヤフージャパン、ベンチャーフォーラムと協力しスタートさせたゲームスクールのプロジェクトだ。シグナルトークは講師を派遣し生徒を指導し、募集した生徒と共に製品化を目指すゲームを制作する。これは、続編や大作指向が強い現在のゲームメーカーに対して、「本当のアイデアゲーム」と呼べる作品を創り、もう一度ゲーム制作そのものを問いかけると共に、社会人や学生といったメーカーの社員以外の人材に、クリエーターデビューの場を提供しようという試みである。 サンデーゲームスタジオはその名の通り、日曜日にバンタンデザイン研究所内の設備を使ってゲームを制作していく。募集時には多くの希望者が集まったが、書類選考などにより、4人で1チームを構成し2チーム、計8名が第一期生として選抜された。開発中ということのためタイトルの名前はあきらかにできないが、それぞれのチームがカジュアルゲームを制作中である。 ここで栢氏は、「プログラマーの重要性」を思い知ったという。栢氏自身も企画側の人間だったが、企画がすぐれていたタイトルの方は難航し、プログラマー技術に優れているスタッフのタイトルは順調に進んでいる。企画がしっかりしているだけではだめで、企画時にプログラマーとしっかりと連携をとり実現可能な要素を吟味し、かつ企画者が想定していないような細かい部分ではプログラマーの力量が大きく関係していくことをプロジェクトを進めて改めて気がついた。 2つのタイトルは何度か企画部分から練り直すような作業もくり返しつつ制作が進められている。完成時にはヤフージャパンなどからサービスされる予定で、今後の展開に期待したい。 栢氏は日本のクリエーターの育成は急務だと語る。韓国や中国では国家プロジェクトとしてもクリエーター育成に力を傾けており、今後は多くの人材を使った大作ゲームが創られていく可能性もある。その中で日本のゲームクリエーターにとっては「アイデアゲーム」こそが鍵になる。現在以上にクリエーター育成を具体的に、人材発掘を積極的に行なう必要がある。
そのためにも「Game2.0」、ユーザー自身がコンテンツを生みだしていくという世界の動きを認め、新しいゲームクリエーター達を育成、発掘していこうと栢氏は会場にくり返し語りかけた。
□ブロードバンド推進協議会のホームページ (2007年2月23日) [Reported by 勝田哲也]
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