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Taipei Game Show 2007現地レポート

TCA、台湾現地視察会を開催
台湾政府の支援の元、育成される“ゲームエリート達”

2月9日開催

 Taipei Game Show 2007の開催期間中である2月10日、Taipei Computer Association(以下、TCA)海外事業部が主催する現地視察会が行なわれた。この視察会は東京事務所代表吉村章氏の企画によるもので、今回は台湾のゲームクリエイター育成現状を知る、というテーマで行なわれた。

 Taipei Computer Associationは台湾の社団法人で、台湾のソフトウェア、ハード両面の業界にかかわり、Taipei Game Showや大規模なコンピュータ展「COMPUTEX TAIPEI」を主催したり、台湾企業と日本企業の橋渡し、台湾内でのシステムアドミニストレータ検定試験などを行なうなど広範な活動をしている。

 スタッフは250人ほどで、吉村氏は30人ほどの海外事業部に所属しており、東京事務所で日本企業と台湾企業のマッチングを行なっている。2006年の東京ゲームショウでは複数の台湾メーカーが参加した「台湾パビリオン」が出展されたがこれも海外事業部の主催によるものだ。吉村氏自身は台湾のゲーム業界の専門家として、オンラインゲーム専門部会の研究会などにパネリストとして参加するなど、台湾のゲーム市場を資本に紹介する活動なども行なっている。

 今回の視察会は、フロムソフトウェアや、ゲームポット、サイバーステップ、ヴァンガードといったゲームメーカーや、出版社のアスペクトといった企業から参加者が10人以上集まった。今回は吉村氏が定期的に東京で開催している「勉強会」参加者から希望者を募る、という形で行なわれた。


■ 台湾政府のコンテンツ産業計画により、生まれつつある「ゲームエリート」

Taipei Computer Association 東京事務所代表、吉村章氏。台湾、そして中国のゲーム業界に精通する人物だ
視察会では参加者から多くの質問が上がった。「クリエイター育成」に関する強い興味を感じた
 視察会参加者が最初に向かったのが台北市の東、南港区園区街にある「デジタルコンテンツアカデミー」だ。ここはゲームクリエイターを育成することを目的に作られた学校で、財団法人「資訊工業策進会」が台湾政府の経済部工業局から委託を受け設立された。

 ちなみに南港区園区街は「ソフトウェアパーク」と呼ばれており、およそ10年ほど前から再開発が行なわれている。以前は個々には広大な肥料工場があったのだが、今ではソニーなどの多くの企業が研究所を置くニュータウンとなっている。2008年には国際展示場が完成する予定だという。

 デジタルコンテンツアカデミーは政府との連動を計り、各メーカーに働きかけ必要な人材を調査し、それに合わせたカリキュラムを作成、年60人ほどの即戦力となる人物を育て上げている。クラスは「動画」、「ゲーム」、「デジタルテレビ(デジタルコンテンツ)」にわかれており、1クラスは15~20人ほどになっている。カリキュラムは「エリート養成講座」と名付けられ、1年で終了する。

 講師には台湾の現役ゲームクリエイターなども招き、講演を行なっている。収録スタジオやモーションキャプチャーの施設、日本やアメリカの専門書や雑誌も読むことができる図書館や、様々なコンシューマ機でゲームをプレイできる実習室、トレース台など設備は非常に充実しており、機器はクリエイターが使う最新のものになっている。

 学生達が普段講義を置かれる部屋に設置されたPCと机は1年間席が固定になっていて、PCモニターの周りに私物が置かれているのは開発スタジオそのままの光景だ。学生達はクラスの専門的な部分ではなく、共通の基礎知識を学び、そこから専門的な知識を学んでいく。現場と同じか、さらによい機器を使いコンテンツ制作の方法を学んでいくのだ。

 概要を聞いているとコンテンツ開発のためのエリート養成機関という印象を受けた。設備は全て最新のもので、非常に多額の資金が投入されているのがわかるが、どの施設も小規模で、確かに100人以上生徒を抱えるスケールにはなっていない。専門の機器の使い方と、制作のノウハウを得た生徒達は即戦力として期待できる。この学校にはいるためのは非常に難しいのだろうと思ったのだが、実際はこの学校に入るための試験を受ける人数そのものが少ないとのことだ。

 最近でも募集人数が60名のところ、応募は180人だった。応募人数が少ないのは「ゲームクリエイター」という職業自体が台湾では、半導体や機器の設計といったハード部門の職業に比べて認知度も、社会的地位も低い。また、台湾では20才から(大学入学者は卒業後)、1年2カ月の兵役義務がある。

 兵役をすませた若い人たちは「ゲームクリエイター育成機関」といういわば「回り道」をしてまでゲームメーカーを目指したいと思う人が少ないという見方もできる。講師によると、一年間みっちりとカリキュラムがあるため、アルバイトもできない状態で学費の12万台湾ドル(約48万円)を捻出するのは難しい。また、専門学校という制度は台湾でもあるが、ゲームクリエイターになるための学校というのはまだ非常に少ないため、まだ認知されていないという部分もあるという。

【デジタルコンテンツアカデミー】
1年で60人ほどの生徒を育成するデジタルコンテンツアカデミー。生徒は増やしていく予定で、3年後には100人程度の生徒を育てていきたいとのこと 講師のKim Chin氏。クリエイター育成のカリキュラムを説明した モーションキャプチャー施設。生徒はこういった施設を使って作品を作る
生徒は1年間専用のPCを使う。私物を置いている生徒も多い ゲームを“勉強”できる部屋も。この他に講師と一緒に研究できるルームもある 入り口のホールには様々なコンテストに入賞した生徒の作品が展示されている


■ 本格的な収録スタジオなど、過剰にも見える施設への投資は「土台」作りのため

龍華科技術大学は台北市内から車で1時間ほどかかる桃園県にある。一万人以上の生徒が学ぶ総合大学だが、ゲームに関わる生徒は600人ほど
龍華科技術大学の本格的な収録スタジオ。小規模オーケストラも収録することができるという
 次に訪れた龍華科技術大学は1万人ほどの生徒を抱える総合大学で、「マルチメディア及びゲーム発展科学科」を台湾で初めて作った大学だ。ここでは4年間、最新の機器を使ってゲームやデジタルコンテンツを学ぶことができる。こちらも最新の収録スタジオや、合成とモーションキャプチャを行なうことができる施設、さらには独自のインターフェイスの研究なども行なっている。

 学科が設立されたのは5年前で、設備は速いペースで拡充されている。特に音楽の収録スタジオは最近作られたばかりで最新の機器が揃っているばかりでなく、小規模のオーケストラの収録まで可能だという。日本でもこれほどの施設を持っている所は少ないだろうと思わせる非常に豪華なものだ。この施設は台湾のドキュメンタリー番組などの制作や、ゲームなどの収録も行なわれている。龍華科技術大学は各施設を民間に使用させるだけでなく、担当教官がチームを組んで、コンテンツ制作を請け負うことも行なっているという。

 この他にも60人収容できる教室に全てMacintoshが設置されていたり、設備費に多額の資金が使われている。これは政府の協力があってこそで、今年は3千万台湾ドル(約1億2千万円)の援助があった。ちなみに、龍華科技術大学は私立の大学である。これだけの援助を受けられたのも大学が即戦力となる人材を輩出できた実績があってのことだという。

 吉村氏によれば台湾政府は実績を出す所には大きく資金を投入するが、常に実績を出していなければすぐにカットするという傾向があるという。とはいえ、龍華科技術大学のマルチメディア及びゲーム発展科は夜学と、2年制の生徒も合わせて600人ほどしかいない。生徒数に比べ、施設の投資が多すぎるという印象がぬぐえない

 吉村氏や他の参加者とも話し合ってみたのだが、2つの育成機関からは「スタートしたばかり」という印象を強く感じた。生徒に比べ明らかにバランスのとれていない施設への投資はまさにこれからクリエイターを作り上げていく「土台作り」の時期なのではないだろうか。

 台湾は1999年に登場した、MMORPG「ストーンエイジ」によって爆発的にゲームプレーヤーが増加した。台湾ではコンシューマゲームは少数ながら輸入されていたのだが、オンラインゲームの登場によって初めてゲームの楽しさを知ったユーザーも少なくなかった。そして時同じくして中国でもオンラインゲームのプレーヤーが増加していった。

 今まで全くなかった巨大な市場が突然出現した。台湾政府はこの流れを受けた形でゲーム産業の重要性を認識した。そして名乗りを上げたところに大きく資金を投入し、新たな産業として「テコ入れ」を開始したのだ。いささかちぐはぐな、“入れ物”の立派な学校からはまさに台湾のゲーム制作はこれからという雰囲気を感じた。

 今回、視察会に参加してみて、台湾のこれからのゲーム業界の動きだけではなく、そういった動きを受けて日本のゲームメーカーがどう動くか、どのようなプランが考えられるか、というメーカー側の想いも感じることができた。説明を受けながら参加者から、「生徒の中には日本語が使える人がいるか?」、「講師として生徒を派遣し、ヘッドハンティングが可能か」といった質問が出された。

 少数精鋭の、最新設備で訓練されている生徒は、説明を受けただけでも強い魅力を感じる。これは台湾のメーカーも同じであるだろう。ゲームクリエイターを目指し訓練を受けたエリート達がどのような活躍をしていくかは興味のあるところだ。また、視察会では、参加者に様々な想いが生じることが、台湾と日本の交流のきっかけにしたいという吉村氏の強い思いも感じることができた。こういったユニークな交流会も今後もっともっと盛んになって欲しい。それはゲーム業界に新しい流れをもたらすことになるだろう。

【龍華科技術大学】
日本の学校に講師7人と生徒7人で視察へ。講師そのものも勉強している時期だという 60台以上のMacintoshを置いた教室 資料として購入されるたくさんのゲーム
モーションキャプチャと、背景を合成できる施設 指を動かすと自動車が動くインターフェイス 通路に展示されている在校生の作品

□Taipei Game Showのホームページ
http://tgs.tca.org.tw/
□Taipei Computer Association東京事務所のホームページ
http://www.tcatokyo.com/

(2007年2月10日)

[Reported by 勝田哲也]



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