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西川善司の3Dゲームファンのためのグラフィックス講座
開発者セッション“CEDEC”プレミアムレポート

9月22日~24日 開催予定(22日はビジネスデイ)

会場:幕張メッセ

入場料:当日1,200円、前売1,000円
     小学生以下無料


 東京ゲームショウ会期中、「開発者セッション“CEDEC”プレミアム」として「米Epic Games『Unreal Engine3』の正体を明確化する」と題されたセッションが行なわれた。

 '98年5月に発表されたPC用3Dシューティングゲーム(FPS:一人称シューティング)「Unreal」で有名になった米Epic Gamesだが、この時から、いわゆる汎用ゲームエンジンを作成してこの上でゲームを動作させるというゲーム開発スタイルを実践していた。その後、「UnrealII」へとエンジンも進化していき、最新の「Unreal Engine 3.0」では、そのエンジンの汎用性をより拡大し、PCだけでなく、Xbox 360やプレイステーション 3といった次世代ゲーム機までを動作ターゲットとするまで進化を遂げている。

 次世代ゲーム機のゲーム開発では、ユーザーの期待に比例して膨れあがる予算と、長期化する開発期間をどうやってリーズナブルにバランスしていけばいいのか、ということが一つのテーマになっているわけだが、これに対してEpic Gamesが用意した回答が「Unreal Engine 3.0」ということになるようだ。

■ 7人の少人数チームで75万本売り上げのヒット作を開発する方法

Epic Games Vice President Jay Wilbur氏
 最初に登壇したEpic Games Vice President Jay Wilbur氏が示したのは「75万本以上のセールスを記録しなければ会社が傾くので、12カ月以内で、7人チームという少人数体制で1タイトルを完成させてほしい、と命令が下った。これは不可能だと思うか」という疑問の投げかけだった。Wilbur氏は「実はこれは15年前に可能であった」と語る。

 Wilbur氏は'91年からゲームソフトビジネスの世界に入り、最初はそのキャリアをid softwareでスタートさせている。彼のid software時代では、全て7人以下のチーム編成で「Commander Keen」、「Wolfenstein 3D」、「DOOM」、「QUAKE」といったタイトルを完成させており、その全てで大ヒットを実現させている。特に歴史的なタイトルである「DOOM」では、パッケージ版で100万本以上、シェアウェア版ユーザーは全世界で数千万人のユーザーを獲得したモンスター作品となった。この後、Wilbur氏は'97年にEpic Gamesに入社。その後、「Unreal」、「Unreal Tournament」、「Unreal Championship」のプロジェクトに携わり、現在は「Unreal Tournament 2007」、「Geas of War」といったプロジェクトに参加し、今に至っている。

「少人数でヒット作を産む方法」……これがWilbur氏の考えるゲームビジネス必勝術の基本コンセプト Wilbur氏は元id softwareのビジネス・マーケティング担当 Epic Gamesには'97年入社。'98年に初代「Unreal」がリリースされて大ヒットに至るまでの影の立役者となった


最新作で超大作といわれる「Gears of War」は社内のプロジェクト・スタッフは総勢わずか30人
 「『QUAKE』の時代と今は違う」という指摘はごもっともで、とはいえ「Epic Gamesのプロジェクトは平均的な他社のプロジェクトよりも常に少人数で製作されてきた」と主張する。

 初代Unrealはチーム全体で18人、続く「Unreal Tournament」は21人、最新の「Gears of War」でも30人とのことで、「同サイズ規模のゲーム内容をもつ他社プロジェクトの半分以下」(Wilbur氏)であり、確かに少ない。

 「Gears of War」は2006年末発売予定であり、まだセールスの結果は出ていないが、北米では年末商戦で最も期待されるXbox 360タイトルであり、成功は確実視されている。「コストを掛けないで大ヒットを生む」……これがEpic Gamesの信念ということなのだという。

■ ゲームビジネスはハイリスクなビジネスだ

 「ゲームビジネスは、今やリスクの多いビジネスになっている」とWilbur氏はいう。PS2に代表される現行機までの大手ゲームスタジオのゲーム開発の予算は2億~7億円規模程度たっだのに対し、Xbox 360やPS3といった次世代機では9億から20億円規模になるとまで予測されている。一方でゲームソフトの値段は北米では49~59ドルに据え置かれ、2009年には35ドルに落ち込むのではないかとまで予測されている。つまり、予算は拡大していくが、ゲームソフトの値段は据え置きか下降の予測があり、ひいては、よりゲームビジネスのリスクが増加すると言うことだ。

 そこで、仮定的に予算を1,200万ドル(14億円)として、卸売価格が39ドル(4,500円)で計算すると、最低30万本売れないと利益は出ない計算になる。

次世代ゲーム機のゲーム開発はコスト高が予想されているが…… 30万本は売れないと赤字を被る計算になる 昨年発売タイトルでその30万本ボーダーを越せたのは全体のわずか12%


75万本越えを達成できるのは全体の4%
 過去のデータになるが、2005年4月から2006年5月までの1年間で北米では586の新作タイトルが発売されたが、NPDのデータに因れば30万本の売り上げを記録できたものはわずか12%。586タイトル中516タイトルが30万本を下回ったことになり、損失を出した計算になる。

 そして大ヒットといえる75万本以上のセールスを記録できたのは、全体のわずか4%。タイトル数にしてわずか23タイトルだけが大ヒットを記録できたということだ。それだけ、ゲームビジネスはハイリスクな商売なのだ。

 ヒットする確率を上げることは不確定な要素なので、できる現実的な努力は何かといえばコストマネージメントということになる。Epic Gamesはゲームプロジェクトを2つの要素項目に分解してそれぞれに対してのコストマネージメントを実践するやり方が良いのではないかと提案する。

■ ゲームビジネスにおけるリスク低減のために考えなければならないこと(1)~コンテンツ製作コストの削減

ゲームビジネスにおけるリスク低減のために考えなければならないこととは?
 コンテンツ開発とはゲームの内容そのものの開発やテクスチャや3Dモデルなどの素材作成のこと。次世代機ではゲーム機そのものの性能向上、そしてそこから来るユーザーの期待感に見合うコンテンツの必要量は、Epic Gamesとしては少なく見積もっても2倍にはなろうと予測しており、それに伴うチームの拡大化、コンテンツ開発予算の増強が余儀なくされるだろうとしている。すなわちこれはリスクの増加ということである。

小型飛行艇「Cicada」は「Unreal Tournament 2004」と「2007」でこれだけ違う 「Unreal Tournament 2004」(左)と「2007」(右)、それぞれにおける小型飛行艇「Cicada」の比較


Epic Gamesも「アウトソーシング」というソリューションを選択した
 「Unreal」の例で言えば、「Unreal Tournament 2004」と「2007」の双方に登場する小型飛行艇「シケイダ」は2004でポリゴン数2,000、最大テクスチャ解像度1,024×1,024テクセル、2007ではポリゴン数350万のモデルを、ディテール部を法線マップに落とし込んで6,000ポリゴン化したものを使っており、最大テクスチャ解像度2,048×2,048テクセルとしている。表現能力が向上すると素材規模が大きくなり手間が増え、人的負荷が高くなるということだ。そこで、Epic Gamesが取ったソリューションは「アウトソーシング」だ。

 Epic Games社内では小規模精鋭のチームに留め、物量的な作業はローコストでハイクオリティな仕事をこなせるアウトソースに依頼することを採択したという。

 1つ思われているのは外注にするとクオリティが下がるのではないかという誤解。「実際にはそんなことはなく、そのアウトソース先を吟味すれば内製で仕上げたのとほとんど変わらないものを得ることができる」とWilbur氏は語る。「Unreal Tournament 2007」ではビジュアル素材製作にオランダのSTREAMLINE STUDIOSを起用しており、そのクオリティは非常に高く、満足のいくものが上がってきているという事例を示した。

オランダのSTREAMLINE STUDIOSが手がけた「Unreal Tournament 2007」用ビジュアルコンテンツ群


 また、Epic Gamesでは中国にEpic Games Chinaという分社を設立。アウトソース・コンテンツ製作を専門として活動しており、Epic Gamesからの発注はもちろんのこと、UBI Softモントリオールからの依頼実績もあり、実際に「Splinter Cell」シリーズ、「Rainbow Six」シリーズ、「ゴーストリコン」シリーズなどで、実際のそのコンテンツが使われているという。

EPIC GAMESはアウトソーシング専門の中国支社を設立


人件費の安さを考えると中国はアウトソーシングに向いていると指摘
 UBI Softも中国にUBI上海を設立するなど、ゲーム開発のアウトソーシングに俄然、中国の名前が挙げられることが多い。これはなぜか。これは答えは単純でコストが安くて済むからだ。

 具体的なデータとしては、「1カ月当たりの1人あたりの人的コストがアメリカ、ヨーロッパ、日本の半分以下で済む」ことをWilbur氏は告げている。

■ ゲームビジネスにおけるリスク低減のために考えなければならないこと(2)~技術開発コストの削減

技術開発の必要性。その裏に潜むリスク
 新ハードウェアが登場して問題になるのは、そのハードウェアを使って何をするか、なにができるかの研究だ。そのハードウェアの特性を理解して、性能を最大限に引き出してタイトル開発をしなければ、“新ハードウェア向け”のゲーム作品としてのアピールが十分にできなくなってしまう。

 ところが、「技術開発」というテーマは直接製品を製作するわけではないので、別枠で予算が必要になり、これはつまり開発コストがかかってくるわけで、リスクを増長させることにもなる。

次世代機向けゲーム開発はゼロスタートで技術開発をしているとスタートが遅れる
 2005年は大半のゲーム開発スタジオで、PS2やXboxといった現世代機の開発に従事していたために、2006年あるいは2007年に発売予定の新作タイトルをすぐに最高技術レベルで開発できるかといえばそれはかなり厳しいだろう。これは今年11月にリリースされるPS3についても全く同様のことが言える。

 それでは、「その最高レベルの技術をどうやって手に入れるか」という手段が重要視されることになる。

次世代機向け新技術開発を自社で行なうことのメリットとデメリット
 1つの方策として考えられるが自社開発だ。しかし、自社開発はやはりコストがかかる。Epic Gamesが誇る次世代機向けゲームエンジン「Unreal Engine 3.0」も2004年から開発がスタートしており、1年あたり、数百万ドルのコストを掛け、のべ100人のソフトウェアエンジニアが開発に携わってきている。期間にして足かけ3年。

 しかも、新規に技術開発を行なうには、その技術が実動できるまではコンテンツ製作を並行して進めておくことが難しく、これは開発期間を無駄に長くする結果を導く。また、技術開発に成功したとしても、そのエンジンが安定するまで、幾度となくエンジンのバージョンが変更され、それに伴ってコンテンツバージョンとの不適合が生じたりして、これは開発効率低下を下げることに繋がっていく。

次世代機向け新技術開発を他社からライセンスしてもらうことのメリットとデメリット
 最高技術の自社開発にはもちろんメリットもある。それは開発した自社技術なのでいくらでも改変や改良が施せるという点だ。また、エンジン仕様をそのゲームプロジェクトの都合のよいように改変できるというのもメリットになるだろう。そして、自社開発の対極にあるソリューションが「購入」(≒ライセンスを受ける)だ。

 これにも短所と長所はある。短所は、そのプロジェクトの仕様が、その外部技術を開発したところから外部に漏れる可能性があると言うこと。これは信用できるパートナーと組むことが必要不可欠ということの裏返しでもある。

 また、「根幹エンジンが外部によって作られた」という事実を認めることに抵抗を覚え、これはプライドが許さない……といった発想を持つスタジオもあるという。「何でもインハウスでやりたがる日本の伝統的なゲーム開発現場においては特にその傾向が強いように思う」(Wilbur氏)。

Epic Gamesが選択した道は「購入」というソリューションだった
 長所は、なんといっても、実際のコンテンツ開発にすぐに乗り出すことができ、開発期間を短くできる可能性が提供されることだ。その購入する技術が汎用ゲームエンジンの形態で、なおかつ他社のプロジェクトを含め、より多くのゲームプロジェクトで使われている実績があれば、そのエンジンの完成度や信頼性に高さを求めることができる。そして、もちろんトータルで見れば、開発コストが安くできる、というのも直接的な長所といえるだろう。

 さらに開発効率そのものの向上が見込める部分も長所だとWilbur氏は指摘する。汎用ゲームエンジンを提供してもらえれば、ゲーム処理で用いられる様々な基本要素(衝突判定、IK、経路探索、リソース管理、etc)がエンジンによって提供されるので、通常のゲーム要素処理についてはエンジン側のものを利用し、それ以外の、例えばそのゲームプロジェクト特有の専用技術が必要であれば、その技術だけの開発に乗り出すことが可能になる。何から何まで全部自分で作らなくて済む分、効率がよいということだ。

エンジンメーカーのEpic Games自身も自社開発にコストがかかりそうな技術は他社のものを取り込む道を選んだ
 結果、Epic Gamesが選択した道は「購入」というものだった。Epic Gamesが誇るゲームエンジン「Unreal Engine 3.0」(UE3)も、実は全部が全部自社開発というわけではないのだ。

 例えば、UE3の物理シミュレーション部は、AGEIAの「PhysX」をライセンスして活用したし、3Dキャラクタの表情アニメーションはOC3 Entertainmentの「FaceFX」を活用している。また、ゲーム中に挿入されるムービーシーンのコーデックにはRAD Game Toolsの「BINK VIDEO」を利用した。

最先端ゲームエンジンメーカーのEpic Gamesも、その行動基本方針は「外注」、「ライセンスを受ける」というものであった
 まとめると、次世代ゲーム機の開発においては、「コンテンツ制作は外注」、「技術開発は必要なものは優秀な他社のものを積極的にライセンスして貰って活用する」というのが、ゲームビジネスにおけるリスク回避に繋がる……とEpic Gamesは考えているというのだ

■ 機会をみすみす逃してはならない

Xbox 360は日本よりも世界で普及が始まっている。「ビジネスチャンスは世界にもある」(Wilbur氏)
 最後に、Wilbur氏が述べたのは、ゲームビジネスで成功するための、基本戦略についてだ。「Xbox 360は確かに日本では成功していない。だからといって、日本のゲーム開発者はXbox 360におけるビジネスチャンスを逃す手だてはないはずだ」(Wilbur氏)。

 マイクロソフトのXbox 360は年内に世界で1,000万台出荷を予見しており、これは現時点でも達成される見込みが立っているという。また、2007年内では1,600万台、2008年内には2,000万台出荷の目処も立っているとされる。日本のゲーム開発者は日本で成功していないプラットフォームに対して目を向けない傾向があるが、これはもったいないことだ、とWilbur氏は強く訴える。

 「昔と違い、今やゲームビジネスはグローバルビジネスなのだから」(Wilbur氏) よほど強いタイアップを得られているので無ければ、プレイステーション 3用、Xbox 360用という区別をせずに同一タイトルを両方に積極リリースすべきだし、その両方への展開にコストをなるべく掛けない方法を考えるべきだ……というのだ。「その最良の武器となるのがUnreal Engine 3.0なのです」(Wilbur氏)。

「いまそこにあるビジネスチャンスを掴んでください」(Wilbur氏)


 最後の最後に、Wilbur氏はUE3をアピールし、プレゼンテーションを締めくくった。Unreal Engine 3.0そのものの売り込みにメインテーマを当てたのではなく、エンジンビジネスでもっとも成功を収めたEpic Gmaesですらも、コンテンツ作成は外注を利用し、最も先進的な技術開発力をアピールしてきた彼らですらも、現代ゲーム開発で求められるいくつかの根幹技術は外から買ってきたことを事例に出したことには、聴講していた日本の開発者にもメッセージとして強く伝わったのではないかと思う。

□STREAMLINE STUDIOSのホームページ
http://www.streamline-studios.com/
□OC3 ENTERTAINMENTのホームページ
http://www.oc3ent.com/
□AGEIA「PhysX」のホームページ
http://www.ageia.com/

(2006年9月24日)

[Reported by トライゼット西川善司]



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