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CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2006レポート

SCEI、「サルゲッチュ」での男の子へアピールするノウハウ
プロデューサーが語る、市場への取り組みと、マップデザインのテクニック

8月30日~9月1日開催

会場:昭和女子大学



 ソニー・コンピュータエンタテイメントJAPANスタジオ制作2部シニアプロデューサー 太田直仁氏は「低年齢向けゲームとアクションゲーム~『サルゲッチュ』シリーズの事例」というテーマで講演を行なった。

 今回は、「サルゲッチュ」シリーズのメインターゲットである低学年の男の子を対象にしたアピールと、子供を意識したレベルデザインという2つの要素に絞った実践例が説明された。特にレベルデザインは、「快適で達成感が味わえるマップデザイン」として、シリーズ全体を見ている太田氏ならではの経験とテクニックを惜しみなく紹介していて、受講者が熱心にメモを取っていた姿が印象的だった。


■ 低年齢層へアピールするマーチャンダイジングとは?

ソニー・コンピュータエンタテイメントJAPANスタジオ制作2部シニアプロデューサー 太田直仁氏。「サルゲッチュ」シリーズのプロデューサーを務める
 「サルゲッチュ」シリーズは'99年に発売された「サルゲッチュ」からスタートするSCEJの人気アクションゲームシリーズだ。“ピポサル”という回転灯をつけたサルを追いかけ回し、捕まえるというコンセプトで、低年齢層の男子をメインターゲットにしている。全体的にコミカルな作品だが、シュールで少し羽目を外したの派手なノリがスパイスになって独特の世界観を作り出している。

 シリーズが展開する中で、サルを捕まえるというゲーム性の作品だけでなく、外伝的な要素も持つ作品も制作された。最新作は地球征服をたくらむピポサル軍団とバトルを繰り広げる「サルゲッチュ ミリオンモンキーズ」。次回作としてPSPでのレースゲーム「ピポサルレーサー」も発表された。

 講演で最初に太田氏が説明したのは「サルゲッチュ」シリーズの市場へのアピールである。カードゲームやキーチェーン、携帯ストラップにぬいぐるみ……「サルゲッチュ」は様々なグッズが発売された。積極的にグッズを製作したのは「海外でのアピールのため」だという。

 日本ではテレビのチャンネルは限られていて多くの視聴者が同じ番組を見ているためTVコマーシャルの効果は高いが、アメリカのようなケーブルテレビが盛んな国では、コマーシャルを流しても認知されない。ゲーム性を大きくアピールするか、様々なグッズを販売したり、看板や雑誌などの広告戦略を行なうことで認知度を上げることが必要だという。

 日本国内の場合は、子供向け雑誌との積極的なコラボレーションが効果的だ。また、30分枠のアニメ番組は太田氏の「悲願」だったという。現在は「ロックマンエグゼビースト+」と一緒に土曜の朝に1番組が放映されている。以前は「おはスタ」で1分アニメや、「ベイブレード」とともに劇場公開されたこともあるが、その後30分アニメを制作すべく積極的に活動したのだが、資金の面などで折り合いがつかなかった。今回少し変則的ではあるが、太田氏の願いが実現したのだ。

 この他 「サルゲッチュ」は様々な作品とコラボレーションを行なっている。「メタルギアソリッド3」、「みんなのGOLF4」、「モンスターファーム4」……。これらすべては待っていて自然に話が来たのではなく、メーカーと話を重ね、時には食事をしたりするなどして話を進めた。また、携帯コンテンツにも積極的に取り組み、ゲームの認知度を上げるための努力をしている。「商品力」を上げることこそ、ゲームのヒットにつながるという。

 太田氏の講演のユニークなところは、「デザイナーの方はこの会場にどれくらいいますか?」など、受講者にいくつかのアンケートを取り、手を挙げさせ、受講者の分析を行ないながら講演を進めていたところだ。聞き手を分析し、話す内容を選択していくというスタイルは、ユーザーを意識したアピール、ゲームデザインをしている太田氏ならではだ、と感じた。

1999年に誕生したシリーズ。PSPへの展開や、バトルやミニゲームなどゲーム性の異なる作品も生まれた ピポサルは様々なキャラクタ商品として登場した コミック、アニメーションへの展開。コロコロコミックでの連載も好調だという
多彩な携帯コンテンツ。どのタイトルも人気が高い 他作品へ登場するピポサル。ミスマッチだったり、妙になじんでいたり、独特の雰囲気がある 太田氏の質問に答える受講者。聞き手への意識は太田氏ならではだろう


■ 常にゲームに引き込む、ユーザーを意識したマップデザイン

イメージとしてのカメラ。体感的には畳くらいの枠があり、障害物にすぐ引っかかってしまう
ゲームでの視界は現実よりだいぶ狭い。低年齢層のユーザーはさらに1つのものに集中して他が見えなくなってしまう傾向がある
 次に太田氏が取り上げたテーマは「マップ設計における基本留意」。まず太田氏はキャラクタに追随するカメラは“小さくない”ことを強調する。「私も最初はハンディカメラくらいの小さなものが後ろからついてくる、というような感覚を持っていたのですが、いざゲームを作ると、冷蔵庫、いや畳くらい大きなものが後ろにあるという感じです」。

 その畳くらいの大きさというのは、カメラのコリジョンでの実感だ。キャラクタが壁沿いに歩いたり、角を曲がるとカメラが壁に引っかかってしまう。結果としてゲームとは関係ない壁が大写しになることも。ゲーム制作の現場には専門の「カメラスタッフ」を配置しているところもあるが、多くの現場ではそこまで人手が割けない。カメラの特性を意識し、引っかかりにくかったり、キャラクタが後ろに下がったときにカメラが壁にめり込まないような地形を常に考えなくてはならない。

 カメラに「写るもの」も大事な要素だ。ユーザーをどのように誘導するか、迷わせないか。カメラには自然にユーザーを誘導するようなランドマークを写させる。この際、ゲームの目的を忘れさせないような配慮も必要である。カメラはユーザーに興味を持って欲しい方向に向いているように調整する。入ってほしいドアなどは現実と同じような地形にすると見えにくく、ユーザーを迷わせる可能性もある。緩い角度で通路が曲がり、ドアが視界に収まりその存在を強調するような、現実の建物などとは少し異なる、「ゲームならではの地形」はユーザーをスムースにゲーム内で活躍させるために作られている。

 また、「視界の狭さ」も忘れてはいけない。ゲームの画面は体感的には「水中眼鏡をかけた状態」に等しい。視界の幅はあまり広くない。このため、ランドマークやゲームの目的を提示するためには気をつけなくてはならない。子供はさらに興味の対象しか見なくなってしまう。彼らをどうやってゲームのゴールに導くかを考えなくてはならない。

 ゲーム性の方向性もレベルデザインでは常に考えていなくてはいけない要素だ。迷わせることがゲームでのテーマになっていないのならば、似たような風景が続くことは避けなくてはならないし、高低差があって目的地が見えないようなデザインは避ける。左右対称なマップや、ただひたすら長い道を戻らせてはならない。同じ場所を使うならば新しい入口が出現するなど、変化を持たせた方が良い。

 ユーザーが「あきらめない」のも忘れてはいけない。何もない空間はできるだけ避けなくては、ユーザーは納得するまでそこにとどまり続けてしまう。快適なゲームを心がけるならば、ユーザーに気がついてもらうような「仕込み」も必要だ。無駄を省き、作業感をなくし、目的を誘導することでユーザーはゲームにのめり込み、楽しい時間を過ごすのである。ユーザーの学習効果による「上達した感覚」を刺激すること、ボーっとできる空間を意図的に作ることで、緩急のあるゲーム展開を作り出すことも必要だ。

 ゲームのマップデザインは、紙だけではできない。実際には3Dで起こしてみないと、ちゃんとしたマップの感触はつかめない。また、「サルゲッチュ」シリーズの場合は積極的にモニタリングを行なうことでマップに対するユーザーの反応を見ている。このモニタリングはプレアルファ版が完成する前、ゲームとして完成する前に実施しているという。

 その他の注意点としては、媒体へのアピールも考えて、序盤のステージは特に印象深いものにし、後半は盛り上げる。簡単なご褒美でユーザーをごまかさない。特定の固定カメラを安易に使わない。ユーザーの成長度を考えて達成感を刺激する。マップやサルの配置を納得できるものにする。といった点を上げた。大事なことは、こういったポイントを常にチェックしておく必要はないが、時々思い出して、その視点でチェックすることだ。ユーザーのことを考えて、楽しんでもらうためにどうするかを考えてデザインすることが大事なのである。

 太田氏の講演を受けてみて、積極的に留意点、テクニックを開陳していることに感心させられた。太田氏の言葉からは、知識とトライアンドエラーで得た経験の重みがあった。 今回説明した知識は7年以上取り組んだゲーム作品のノウハウである。多くの受講者の実践的な知識になったであろうし、筆者もこれからゲームを見る視点に新しい者が加わっていくと思う。現場の人間が積極的にノウハウを提示し、学ぶ。今年のCEDECは開発者達の血肉になるこういった講演が非常に充実してきていると感じた。このエネルギーは来年以降も継続、増幅してもらいたいと思う。

曲がり角で引っかかってしまうカメラ。カメラの大きさは気をつけなくてはならない カメラに写るものを意識することでスムースにユーザーを誘導できる ドアなどは気がつかせる配慮が必要である。現実の建物とは少し異なる構造になることも
リソースを節約するのにも使うハブ構造。同じ場とょ似プレーヤーを誘導する場合は「変化」が必要だ ユーザーの経験を刺激させることでプレーヤーをより一層ゲームにのめり込ませることも可能だ マップデザインで気をつけなくてはいけない様々な注意点。意識してチェックすることで、より快適で楽しいゲームを作ることができる

□CESAのホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「CEDEC 2006」のページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□ソニー・コンピュータエンタテイメントのホームページ
http://www.scei.co.jp/
□「ピポサルドットコム」のページ
http://www.piposaru.com/>

(2006年9月2日)

[Reported by 勝田哲也]



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