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★PCゲームレビュー★

美女マッドサイエンティストの野望を食い止めろ!!
あの「SiN」が8年の時を経て復活

「SiN Episodes: Emergence」

  • ジャンル:アクションシューティング
  • 開発元:Ritual Entertainment
  • 発売元:Valve Software
  • 価格:19.95ドル(Steamからのダウンロード購入)
  • 対応OS:Windows 98/Me/2000/XP
  • 発売日:5月9日(発売中)



 「SiN」といえば、古くからのPCゲームファン、それもFPSファンには馴染み深いタイトルだろう。Ritual Entertainmentが開発し、Activisionから'98年11月に発売された第一作目は、FPSゲームに「ストーリー性」を持たせ、キャラクタに演出力を持たせるという意欲的な試みを盛り込み、ゲームファンの支持を集めた。

 ゲームの内容としては、特殊警察「ハードコープス」率いるジョン・ブレードが新型麻薬「U4」をフリーポートシティに蔓延させる大企業SiN TEKとU4を生み出したエレクシス・シンクレアと戦う……というお話。日本のアニメを強く意識したビジュアルは、国内のFPSゲームファンからも注目を浴び、日本語マニュアル付のパッケージが株式会社P&Aから発売された。

 開発元のRitual Entertainmentは、「SiN」およびアドオンの「ウェッジ・オブ・シン」を開発したあと、今はTake2 Interactive内に形だけのブランドと化して残るインディペンデントスタジオが集まってつくられたパブリッシャー「ギャザリング・オブ・デベロッパー(GOD Games)」の一員として、「ブレアウィッチ・プロジェクト」や、「ヘビーメタル・ファック2」など、大作と言わぬまでも、一定の評価を得ているゲームを生み出してきた。

 近年は「カウンター・ストライク コンディション・ゼロ」や「ブラックホークダウン・チームセイバー」など有名なフランチャイズの制作やビデオゲーム機への移植も手がけるようになってきたが、根っこの部分は愛すべきニッチ街道まっしぐらのゲームスタジオである。

 そんなRitualが、昨年Sourceエンジンを使用して、新しいSiNを制作することを発表した。パッケージ流通にとらわれずエピソード仕立ての全三部作に仕立て、ValveのオンラインデリバリーシステムSteamにて各エピソード単位で配信することを発表してちょっとした話題となった。

 大手パブリッシャーが敬遠しがちなスタジオの独自性が強いタイトルも、パッケージ流通ではなく、オンラインデリバリーというネットの力を使えば需要のあるゲームファンの手に届けることができる。「SiN Episodes: Emergence」は、好例になりうるタイトルとして注目されている。パッケージ版も北米ではElectronic Artsから発売されており、日本でもサイバーフロントが6月16日に発売を予定している。

 ともあれ、「SiN Episodes: Emergence」(以下Emergenceと略す)は、その第一作目となるタイトルだ。Steam経由で購入した時の価格は19.95ドル。もし三部作を全て揃えるとなると59.85ドルとなる。これは米国の一般的な新作ゲームタイトルの値段よりも10ドル程高くなる。安くプレイできるように見えて実は実質的にパッケージ版より価格がアップしているのがユーザー心理的に微妙なところだ。

 ちなみにSteam版およびパッケージ版の両方ともオマケとして「SiN1」のフルバージョンがついてくる。よりSiNの世界観に浸りたい方には、こちらも併せてプレイしてみることをオススメする。


■ オールドスクールFPSファン待望の続編が遂に登場

物語の冒頭で、主人公はシンクレアとビクターに捕まってしまう
間一髪の所を仲間のジェシカに救出される
ジェシカと共に脱出を図る
 Emergenceの主人公は、前作「SiN」と同じ、ハードコープス隊長の「ジョン・ブレード」だ。フリーポートシティを舞台に特殊警察ハードコープスとシンクレア率いるSiN TEKとの戦いはいまだ続いていたのだ。今作では冒頭からブレードは危機一髪の状況に陥る。

 シンクレアと手下のビクターに捕まったブレードを救出するのが、今回のヒロイン「ジェシカ・キャノン」だ。彼女のイラストがプロモーションで全面に出た時、今度のSiNは主人公交代か? とも思ったが、ゲームの主人公はあくまでブレードであり、JCなど前作で登場した面子はそのままなので前作の世界観が好きだったプレーヤーも納得できるはずである。

 ゲームは基本的に前作「SiN」のテイストをそのまま引き継いでいる。プレーヤーはブレードとなり、襲いかかる敵をガンガン撃ち倒すアクションヒーローばりのガンアクションシーンを基本に、「SiN」の世界観に則ったストーリーがシームレスにゲーム中で展開される。言い換えると、特殊部隊モノやスニーキング系ミリタリー色が強くなったFPSゲームが増えた中で、「DOOM2」や「Blood, Shadow Warrior」のような昔懐かしのシンプル壮快FPSゲームの遺伝子をこのEmergenceは受け継いでいると言っても良いだろう。

 プレーヤーの基本武器は銃で、プライマリとより強力なセカンダリ攻撃がある。さらに、素手による殴り攻撃、そして手榴弾の全4種類だ。武器の切り替えは大部分のFPSゲームと同じく、マウスのホイールなどで行なう。また、Zキーでしっかりと構えることでより精度の高い攻撃を行なうことも可能になる。ジャンプを多用するアクション的な要素も盛り込まれている。

 他のFPSには無い特徴としては、たとえばドラム缶やダンボールなど、マップ中のオブジェクトをつかんで移動したり投げ飛ばすことができる。このオブジェクトをうまく使いこなすことで銃弾を無駄にせず有利な戦闘を展開することも可能だ。

 階段の上から障害物を下に向かって投げれば階段を駆け上ってくる敵を落とすことも可能だし、可燃性のボンベを敵に向かって投げてそれ銃で撃つことで爆発させることもできる。これらオブジェクトをうまく使いこなさないと先のステージに進むのはなかなか難しくできており、ゲームを難解にするよりもむしろ戦い方に奥深さを出している。

 戦闘はヒットポイント制で、アーマーなどの防具がないためシビアな撃ち合いとなる。体力回復は倒した敵から拾えるメディキットと、マップ中の様々な場所にある回復装置で補充することができる。回復装置にはカートリッジが必要でカートリッジ内の容量分しか回復させることができない上に、カートリッジ自体がついていないこともある。

 そのような場合はロッカーの中などに保管されている交換用カートリッジを拾って設置しないと使用することができない。これらの要素は同じSourceエンジンを使用した「Half-Life 2」の持つ特徴をうまくゲームの中に盛り込んでいると言って良いだろう。

 ゲーム全体の難易度としては、比較的高い方に位置するだろう。何度も死ぬ→ローディングとやりなおしを迫られる場面があるかもしれないが、これは大体そのシーンにぴったりの戦い方が設定されており、その点に気づけばクリアは容易になる。もちろん腕に自信があれば力押しで突破することも不可能ではない。

 要所要所にボスキャラクタとの一騎打ちシーンも登場する。圧倒的なパワーと多彩な攻撃に翻弄されるかもしれないが、こちらも攻撃パターンをきちんと見てとればそんなに難しい訳ではないのでご安心を。

SiN TEKの施設から脱出しクルマで移動する クルマで移動中。クルマで移動のシーンは度々登場する 前作からの仲間、JCも登場する
オブジェクトは持ち上げたり持って歩くことが可能 ブレードのフラッシュバック。艶かしいシンクレアの姿が…… 果たしてブレードとシンクレアとの間には何があるのだろう?
体力回復はこの機械で行なう 遠距離にいる敵も狙って撃てば確実に倒せる 謎の日本語落書きは今作でも登場


■ ヒロインジェシカと共にFPS本来のスリリングな銃撃戦を堪能

ジェシカは心強い仲間だ
 ステージ構成としては今作も引き続きU4を社会に蔓延させるSiN TEKの施設をメインに戦闘が展開される。序盤の港湾施設での戦闘はシンクレア配下の私兵や傭兵部隊が襲いかかってくるが、舞台が開発施設にさしかかるとシンクレアによる恐るべき研究成果であるミュータント達との戦いが待っている。

 敵兵士達は、背中にジェットパックを装備して空から攻撃してきたり、ロープを伝って天井から奇襲をかけてくるなど多彩な迎撃パターンを持っており、地の利を活かした攻めにプレーヤーを何度も窮地に追い込むだろう。ミュータントは更に素早くトリッキーな動きでプレーヤーを惑わせ襲ってくるため、プレーヤーはFPS本来のスリリングな銃撃戦を楽しめる。

 ステージ中では、ヒロインのジェシカやJCなどの仲間たちがプレーヤーの作戦遂行に協力してくれる。今となってはこのような演出はFPSでは珍しくなくなってしまったが、前作登場時にはFPSを一歩進化させたセンセーショナルな要素だった。Emergenceのメインビジュアルにもなっているジェシカは様々な形でブレードをバックアップしてくれる。一緒に戦うシーンも用意されており、ゲームの進行に「単調さ」や「中だれ」を持たせないような演出的配慮がされている。

 ゲームのボリュームに関しては三部作の第一作目ということで、ステージ数自体はフルプライスのパッケージゲームよりも少なめだ。難易度によって総プレイ時間も変動すると思うが、大体3~4時間といったところだろう。2,000円ちょっとの価格でこの内容であればそこそこ満足の行く内容に仕上がっている。満足感は次回作もプレイしようとさせるための意思固めにもなるので重要なポイントだと思うが、ボリューム面とゲーム性については、うまくプレーヤーを引き込むことに成功しているのではないかな? と筆者個人は感じた。

ヘッドショットで敵の頭を吹き飛ばすことができる ゲーム内広告もある。これはLogitechのヘッドセットだ SiN TEKの屈強な兵士達。強力な火器で武装している
ミュータント。元はSiN TEKの兵士達が実験台にされたもの シンクレアの策略にはまっていくブレードに危機が迫る 様々な場所に隠し部屋や隠しキャラクタが仕込まれている


■ オールドゲーマーが安心して楽しめるFPS

主要キャラクタのひとりであるジェシカは次章ではどのような活躍をするのだろうか?
 このゲーム最大の特徴は良くも悪くもFPSゲームジャンルにおけるオールドファッションなゲームデザインを堅持している点だ。言い方を悪くすると「古くさい」ということなのだが、DOS時代からFPSゲームに親しんできた年期の入ったプレーヤーにはそこが懐かしくもあり、最近の趣向を凝らしたFPSゲームに比べるとシンプル・壮快な楽しさを味わえるだろう。

 欠点としては、ゲーム自体のアラを探し出すときりがない。たとえば敵兵士のAIはお世辞にも褒めれたものではないし、ゲーム序盤部分の展開が今ひとつ盛り上がりにかけるため、数時間はプレイしないと本作の持つ面白さに到達することができず、面白さが十分プレーヤーに伝わる頃にはこのエピソードの終盤にさしかかっている。エピソードごとの配信になる以上は、盛り上がり部分をプレイ開始直後に出すようなデザインにする必要があるのかもしれない。

 また、Emergenceは三部作に分けて配信することで、それなりの大作感を出そうと努力しているが、これは残念ながら失敗しているように思える。かつてRitualも手がけたPC版アドベンチャーゲームソフト「ブレアウィッチシリーズ」のようにあらかじめ3つのエピソードを公開し、どのような展開がプレーヤーを待っているのか、SiNの世界観がどれだけ綿密でキャラクタに魅力があるのかなど、ゲームをする前にプレーヤー側がある程度期待を膨らませるだけの要素が重要だと思うのだが、3作をうまくつなぐために必要な盛り上げの配慮が少し足りないように思う。

 このゲームにおいて最も賞賛するべき点は、まず存在自体のチャレンジっぷりだ。オンライン配信でエピソードごとの提供というのは今後のゲームソフト流通の指標になるかもしれない重要な要素だ。全てのエピソードを購入すると結局フルプライスのパッケージよりも高くつく可能性や、ゲームが完結するまで買い控えをひきおこしたりと色々な問題も想定されるが、配信形態の好き・嫌いを問わずRitualのようなインディペンデント系のスタジオが地道に努力して生み出した名作・佳作が今後パブリッシャーのセールス方針に影響されずに世に出る可能性があると思うと、PCゲーム市場盛り返しとなるきっかけの1つなるかもしれない。

 「DOOM」や「Duke Nukem 3D」など、空前のヒットを飛ばし今のFPSの礎をつくったタイトルはもともとシェアウェアという形で1エピソードだけ無料で遊べるバージョンをパソコン通信や雑誌の付録などで幅広くバラまいた結果として人気が確立したものだった。SteamやDirect2Driveのようなオンラインデリバリーシステムが整備されると、奇しくも10年前のFPSブームを生み出した環境と似たような状況が作り出される。PCならではのチャレンジ精神と独創性に優れたゲームタイトルが数多く登場することを願いつつ、とりあえずはEmergenceの次回エピソードが早く配信されるのを楽しみに待つようにしたい。

ジェシカの顔はアニメの影響が感じられる 今作でお世話になった車。次章に登場する乗り物に期待 SiN TEKの兵士達もミュータントに襲われる身だ
ミュータントとの戦いはどんどん激しくなる

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【SiN Episodes: Emergence】
  • CPU:Pentium 4 1.2GHz以上(Pentium 4 2.4以上推奨)
  • HDD:不明
  • メモリ:256MB以上(512MB以上推奨)
  • ビデオカード:Direct X 7世代以降の3Dビデオカード


□「SiN Episodes: Emergence」のページ
http://www.sinepisodes.com/

(2006年6月8日)

[Reported by ryuo]



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