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会場:Los Angeles Convention Center
■ AGEIA PhysXカードついに発売へ
カードは最初はASUSTeKとBFGより販売され、価格は当初予定されていたものよりもやや高くなる見込みで4万円から5万円の間となる。また、5月10日付でエルザ・ジャパンもPhysXカードの販売に乗り出すこともAGEIAと共同で発表された。昨年のE3時点では全く見えてこなかったPhysXカードのマーケティング面だが、1年経った今では、完全に現実のものとなった。
AGEIA PhysX PPUはTSMCファブで0.13μmプロセスルールにて製造される。PPUそのものはSIMDベースの浮動小数点ベクトル演算器のアレイからなり、ワークメモリとして128ビットバス経由でデータレート1,466MHz(733MHz DDR)のGDDR3 SDRAMが接続される。PPU-GDDR3の帯域は12GB/secと公表されている。 PhysXカードではシミュレーションは基本的にシーン単位で行なう仕組みを取り、そのシーンにおける物理シミュレーションに必要な全てのデータ…たとえば衝突形状モデルデータや各オブジェクトの位置情報や加速度といったパラメータをGDDR3 SDRAM側に読み込んでおき、フレーム単位でゲームロジック側でシーンの変化があればその変化をPhysXカード側の情報を更新、その更新情報を元にPhysX-PPUがシミュレーションを実行、結果をゲームロジック側に返す……という流れになる。 コアクロックは公表されていないが、閉じた形状の衝突モデル(convex)ベースで最大53万3,000個の相互衝突が可能だという。より衝突判定がシンプルな球体形状の衝突であれば5億3,000万個の相互衝突シミュレーションが可能だとしている。 また、浮動小数点演算性能は58GFLOPSだそうで、また命令実行レートは毎秒220億個の実行が可能と言うことになっている。ちなみにPS3の3.2GHz駆動のCELLプロセッサが1SPEあたり25GFLOPSだから、それを考えるとかなりPhysX PPUは2SPE>PPU>3SPE程度の性能があると(漠然とだが)推察できる。 PhysXカードはレガシーなPCIバス接続を採用しており、その帯域は133MB/secとなり、あまり広いとは言えない。ゲームロジック側(CPU)からのデータ更新やシミュレーション結果をゲームロジック(CPU)へ返すときもこの帯域での伝送となる。大規模な更新や結果の伝送時にはここがボトルネックとなる。 この点について聞いてみると「我々は今日までに65のゲームスタジオと契約を結んできたが、この点について問題があると指摘を受けたことはない」(広報担当者)との返答。このため当面PCI-Express x1(250MB/sec)版のPhysXカードの予定はないという。
当初ASUSTeKはワークメモリ256MBモデルのリリースを告知していたが、シリーズラインナップも128MBの一製品に限定された。「当面256MBモデルの登場の予定はない」とAGEIA広報担当。
■ PhysXカード対応タイトルが続々~Rise Of LegendやGhost Reconが対応に!! もちろん、ハードウェアだけあっても仕方がない。一体どんなタイトルが発売されるのか。気になるのはこのあたりのことだろう。 まず、現在までに対応版がリリース、あるいは対応パッチが提供されることが確定しているのは
・Alpha Prime/FPS (Black Element Software) ・RISE OF NATIONS:Rise of Legends/RTS (Big Huge Games/Microsoft) ・Unreal Tournament 2007/FPS (EPIC GAMES/MIDWAY) ・INFERNAL/Action (Metropolis Software/Playlogic) ・Vanguard:Saga of Heroes/MMORPG (Sigil Games Online/Microsoft) ・Tom Clancy's Ghost Recon Advanced Warfighter/FPS (Ubisoft) ・Abyss Lights:Frozen Systems/3D Space Shooting (Abyss Lights Studio) ・TANK KILLER/Action (Crazy House) ・Rail Simulator/Simulator (Kuju Entertainment/EA) 上記タイトルでは特にマイクロソフトのRTS「Rise of Nations:Rise of Legend」やUbisoftのFPS「Tom Clancy's Ghost Recon Advanced Warfighter」、MIDWAYのFPS「Unreal Tournament 2007」あたりはキラーソフトとなりそうだ。
なお、「2007年までには対応タイトルは100を超える見込みだ」(広報担当)と鼻息も荒い。
■ PhysXはプレイステーション 3でもフルパワー駆動される
図中のVRDはVisual Remote Debuggerの略で物理シミュレーションのパラメータ変化をリアルタイムにGUIベースで観察できるもの。PhysX Rocketは物理シミュレーションの評価プレビューツールになる。PhysX Creteは3DSMaxやMayaといったDCCツールにPhysXを導入するためのプラグインソフトだ。Partner MiddlewareはUnreal Engine3.0に代表されるゲームエンジンだ。 最下層でハードウェアの抽象化が行なわれ、開発側はPhysX APIあるいはゲームエンジンを活用するだけで各プラットフォームにおいてスケーラブルなパフォーマンスが得られるのが特徴となっている。ミドルウェアとしてはごく一般的なソフトウェアブロックダイアグラムだ。 ここまで軌道に乗っているのはAGEIA PhysXが同一の物理シミュレーションミドルウェアをPCだけでなく、早速と次世代ゲーム機のPS3、Xbox 360にまで展開できているところにある。 特にPS3のCellプロセッサへの最適化に力が入っており、3月31日にリリースされたAGEIA PhysX SDK Ver.2.4ではCellプロセッサ内の128ビットFP-SIMD型RISCプロセッサコアであるSPEに最適化したコードを含んでおり、同一シミュレーションにおけるPPEの負荷をなんと50%も低減できているとする。 PhysXはその実行にメモリを多めに消費するので家庭用ゲーム機のタイトル制作にはかなりチューニングが難しいという声も聞こえてきているが、PS3、Xbox 360、PC……とマルチプラットフォーム展開を考えているゲームスタジオにとっては心強いミドルウェアであることには違いない。 また、PCについてはPhysX PPUに対応したハードウェアアクセラレーションのコードをゲームに埋め込めば、ゲームスタジオ側は無料でPhysX SDKが利用できるとし、また、個人ユーザーは商用利用でなければ同様に無料で利用することができる。また、PS3開発環境ではソニーとの提携でソニーがAGEIAとライセンスを交わしているので、PS3 SDKを活用する範囲でPhysX SDKを利用するのであれば別途AGEIAとライセンス契約を結ぶ必要がない。こうした“開発者に優しい(?)”ライセンスプログラムも開発者からの支持を得て、その採用に加速度が付いているようだ。
今回のE3で、欧米系のスタジオでPS3専用タイトルを開発しているとあるゲーム開発者は、「自分でも同程度の物理シミュレーションは確実にコーディングできるのだが、時間をかけて実験してSPEに実装するよりは、タダで(実際にはSCEとライセンスを結んでいるのでそこに含まれていると言えるのだが)、スケーラプルな物理シミュレーションが得られるのはありがたい」といっていた。
■ ムービーで見るPhysXカードの実力 ARTIFICIAL STUDIOS,IMMERSION GAMESが開発中のPhysXの実力が最もわかりやすい形で実装されている一人称シューティングゲーム「CELLFACTOR」のムービーを頂いたので是非とも見て頂きたい。
重力を操ることのできるプレーヤーは、フィールドに無数に散らばる土管や箱や車両を持ち上げたり、ぶつけたりすることができる。非常に複雑な形状をもった3Dオブジェクト達が相互に連鎖反応的にインタラクトして動きまくる様を確認して欲しい。単なる衝突だけでなく、パーティクルベースで簡易的に実装した流体物理による流血表現や、破壊、分解可能な布シミュレーションの様子を見て取れるシーンもあるので注意深く見て欲しい。
□AGEIAのホームページ(英語) http://www.ageia.com/ □関連情報 Electronic Entertainment Expo 2006 記事リンク集 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060510/e3link.htm (2006年5月14日) [Reported by トライゼット西川善司]
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