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Game Developers Conference 2006現地レポート

「Odd vs. God: An Interview with David Jaffe by Lorne Lanning」
“人生でもっとも苦労した作品”「God of War」の誕生秘話

3月20日~24日(現地時間) 開催

会場:San Jose McEnery Convention Center

 「Odd vs. God: An Interview with David Jaffe by Lorne Lanning」は「God of War」を手がけたSony Santa Monica Studios、Creative DirectorのDavid Jaffe氏を、Lorne Lanning氏がインタビューするセッションである。Lanning氏は「インタラクティブなアニメーション」を実現することを目的として設立されたゲームメーカーOddworld Inhabitantsの共同設立者であり、社長と、Creative Directorを兼任する人物だ。

Sony Santa Monica Studios、Creative DirectorのDavid Jaffe氏
Oddworld Inhabitantsの社長と、Creative Directorを兼任するLorne Lanning氏
セッション終了後、2人の周りには多くの来場者が詰めかけ、質問をぶつけていた
 「God of War」は北米ではSCEA、日本ではカプコンから発売されたタイトルで、古代ギリシャを舞台にしたアクションゲームである。謎解き中心のアドベンチャーと、エキサイティングな戦闘を体験できるアクション性を併せ持つ。ユーザーにはズームしたり回転することで、映画のようなアングルで戦闘を楽しめるカメラワークが特に高く評価された。

 Lanning氏は最初に「『God of War』はカメラワークや演出、ストーリーの語り口で映画的手法を多く取り入れているが、どんな映画から影響を受けたのか」と質問した。Jaffe氏は「インディージョーンズ」に強い影響を受けていると語り、マーブルコミックスや「DEUS EX」、「ICO」といった作品にもインスパイアされたという。

 「『God of War』には革新的な点も多いが、アクションやパズルなどを取り入れたゲームの感触そのものにはどことなくレトロなものもある。このゲームの企画を通すのは難しかったのではないか?」というLanning氏の質問に、Jaffe氏は「God of War」は究極のアクションゲームを目指したのだ、と答えた。マーケティングからは古代ギリシャを題材にするしたことなどで難色を示されたし、「何をやりたいのかわからない」とも言われたが、自分たちはとにかく今までにない、違った作品を作り出したかったのだ、と熱っぽく語った。

 氏は“今までにない作品”の例として「ICO」と「ワンダと巨像」を上げたが、突然言葉を切り、「頭に来ますよね、私はとても努力して『God of War』を作ったのに、GDCの6th Annual Game Developers Choice Awardsの賞を取れなかった、ノミネートはされたのに全部『ワンダと巨像』に持っていかれてしまった!」と本気とも冗談ともつかないコメントで会場を笑わせた。

 しかし、とJaffe氏は言葉を続ける。「だからと言って賞を取るためにゲーム性や作りたい物の方向性を変えようとは思わない。これからも自分の思うゲームデザインを提唱し、バランスも取っていく、もちろん世界に通用するような、日本のマーケットにも受け入れられるような作品も作っていきたい」と語り、Lanning氏と来場者を大きく頷かせた。

 Jaffe氏はさらに「God of War」の開発を振り返る。どのくらい予算がかけられるか、期間はどのくらいか、その作品が成功するか。マーケティングが必ずしも正しい判断をできるわけではない。上層部を説得するのが難しいゲームだった。こちらとしても多くのアイデアをテストし、トライし、表現していった。主人公が野蛮すぎる、という指摘も受けたこともある。

   Jaffe氏は「日本人はイエスかノーかがわかりにくくて苦労した」という点も挙げた。異文化を持つ上層部に対して、ねばり強く、情熱的に、時には声高に主張し、開発を続けていった。「その苦労はずっと“生命維持装置”をつけているような苦しさだった」と語る。しかし、Jaffe氏はコンセプトがきちんと実行できるか、プレイをしていて“ハッとする瞬間”を取り入れる、「このゲームは悪くない」とユーザーに思わせるといった点に心を配り、マーケティングの協力を獲得する。

 しかし、開発の苦労は上層部との交渉だけではない。クリエイターを、チームをコントロールして行かなくてはいけない。「私は必ずしもチームで一番愛されている存在ではなかった」とJaffe氏は語る。「君が何を求めているかわからない」というのは、スタッフにも言われたし、Jaffe氏自身がスタッフに言うことも多かった言葉だという。

 開発はスタートして初めてあらゆる問題が表面化してくる。Jaffe氏は「私が得た教訓は、“カオス”が生まれても大丈夫、しかし管理はしていこう、ということだ」と語る。開発は必ずしもロードマップ通りに行かないのである。

 ここでLanning氏は、自身の経験にも当てはめてJaffe氏の言葉を引き継いだ。「デザイナーのアイデアは、常に成功より失敗の方が多い。ロードマップ通りに行くことはほとんどない。運営側から見れば、開発しているゲームそのものがダメに見える場合も多い。何度そのゲームを救うことができるのか、マーケティングの判断は80%は正しいかもしれないが、そのゲームは育ててやればヒットにつながる場合もある」と語った。

 そしてLanning氏はJaffe氏に、「ディレクターの仕事は常に孤独だが、チームから追放されるという恐怖はなかったか」という質問をした。Jaffe氏は「チーフプログラマーの言うことは90%はわからなかった、しかし彼は現場で独裁をしていず、統制をしている。『不合意に同意する』事もしなくてはならなかった。今までの私の人生でここまでがんばった作品はなかった」と語る。

 ここでJaffe氏は話題を転じた。「マスコミの報道も少しわからない部分がある。例えば昔のゲームメディアはゲームが発売され、それが素晴らしい作品だとすべてのメディアが3カ月後ぐらいに一斉に取り上げていたのに、今はそんなことがない。マスコミは今や2次的なPRにすぎなくなっているのではないか」。Jaffe氏は「会場にいるマスコミの皆さんはどう思いますか?」と尋ねた。

 Lanning氏は、「たしかに、広告費のあるゲームが大きく取り上げられる現状がある。映画もそうだ、面白くない映画が、マスコミのレビューで高得点を獲得することもある」というと、Jaffe氏は身を乗り出して、「本当にその通りだ、『キャットウーマン』のゲームはEA自身だってダメだと気がついていたはずなのに、何であんなゲームが市場に出るんだ」とユーモアたっぷりに語り、会場を笑わせた。

 Jaffe氏はさらに、「『グランツーリスモ』はシリーズを重ねて素晴らしいゲームに進化をしている、しかし、革新的なゲームが出たときに、熟成されたシリーズのゲームと比較して荒削りだからダメだと批判する点はおかしいと思う。よく作品につけられる点数も疑問だ。スポアは期待されているから10点、とか、基準が曖昧だ」。Jaffe氏はその例として「『Halo 2』は素晴らしいゲームだったが、前作である『Halo』のレビューが10点だったのに対して、『Halo 2』は7点しかつけられなかった、『Halo 2』が前作より劣っているとはとても思えない」と語った。

 Lanning氏は最後の質問として「シリーズやライセンスに関する物以外のマスコミのゲームに関する評価が低くなりがちだが、ユーザーはもっと変わったもの、変わっていくものを求めているはずだ。それは時には上層部にすら通じないこともあるが、ゲームはどこへ行こうとしていると思うか?」と問いかけた。

 Jaffe氏は、「これからもチームに、自分に、上層部に様々な質問を投げかけ、作品をクリエイティブなものにしていきたい。夢を追いかけて、後悔し、葛藤しながら作品を生み出していく。誰からも愛されたいけれども、努力していきたい」と言葉を結んだ。Lanning氏への具体的な答えではなく、Jaffe氏の多分に観念的な“覚悟”でインタビューが終わったことは強く印象に残った。

 インタビューが終わった時、多くの来場者達が二人の登壇者を囲み、いつまでも会話をしている姿に2人の北米での人気が伺えた。この講演を聴いていた多くのクリエーター、そして筆者を含むマスコミ自身にも疑問を投げかけてくれた講演だったと思う。そして、その明確な答えはなく、Jaffe氏の言うとおり、ずっと問い続けなくてはいけない問題だと改めて考えさせられた。

□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□関連情報
Game Developers Conference 2006 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060324/gdclink.htm

(2006年3月26日)

[Reported by 勝田哲也]



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ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

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