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シークレットガーデン・石山氏、コミュニティ育成のノウハウを提示
“「ドラえもん」の世界からバーチャル社会を俯瞰しよう”

2月9日、10日開催

会場:日本教育会館



 運営側が講演を依頼するのではなく、一般から講演者を募る“公募セッション”では、シークレットガーデンの石山隼行氏による「荒れないコミュニティの作り方」というテーマで講演が行なわれた。シークレットガーデンは現在、女性向けのファンタジーMMORPG「女神幻想ダイナスティア」を運営している。

 「女神幻想ダイナスティア(以下、「ダイナスティア」)」は、女性向けを強く意識し、「戦闘」の要素をなくしている。プレーヤー達はゲームを進めることで自分のキャラクタをきらびやかでかわいらしいアイテムで着飾ることが可能になる。生産要素を強化し、アイテムの交換を推奨、コミュニティを重視した作品となっている。

 この作品は2002年6月に発売されたが、ユーザー数が伸び悩んだことなどから、2003年末に運営元だった山栄有限会社が事業撤退し、開発元のシークレットガーデンの手によって、プレイ料金無料のボランティア運営が行なわれている。現在9,000人ほどのユーザーがプレイしている。

 石山氏は「ダイナスティア」とそれ以前に手がけたオンラインゲーム「Exllusion」の経験を元に、“社会学”の視点からユーザーの行動を分析、よりよい運営とユーザーの関係を提案する。


■ バーチャル社会をよくするため、石山氏の試みる社会学からのアプローチ

 石山氏はまず、MMORPGのプレーヤー達がそれぞれ「集団」を形成することを指摘し、行動学の実験の実例などを引き、プレーヤーの社会が様々な規模の“内集団”と“外集団”に別れることを説明。中には甘く、外には厳しい性格を持ちがちで、競争など目的が発生した場合、民主的な仲良しグループから、専制的なリーダーに追随する集団に変化しやすいことを指摘した。

シークレットガーデンの石山隼行氏
「女神幻想ダイナスティア」。「戦闘」の要素をなくし、コミュニティを重視した女性向けMMORPG
石山氏が提案するコミュニティ成長のマトリクス。アイドルは“しずかちゃん”、コバンザメは“スネ夫”、科学者が“出来杉”、パワフルが“ジャイアン”、そして一般プレーヤーが“のび太”である
 MMORPGの多くは弱肉強食の勝負の世界であり、面倒なコミュニケーションをとって感情を処理するよりも、相手を“殺す”といった直接的な行動になりやすく、それが感情の負の連鎖を呼んでしまいがちである。さらにMMORPGはログイン時間が長い上級者ユーザーが圧倒的な強さを獲得する。上級プレーヤーは初心者に対して何でもできてしまい、初心者ユーザーは反撃が全くできない。

 プレーヤーの人口は初心者ユーザーを底辺に、最上級者を頂点にした三角形の人口ピラミッドを形成するが、実際は上級者の勝手気ままな振る舞いによりゲームの参加人口そのものが減り、初心者はゲームを楽しむ前に離れてしまい、三角形はゆがんでしまう。MMORPGはゲーム性とコミュニティーのバランスが常に命題となっている。競争に勝つために現金で購入したアイテムで、キャラクタの能力をブーストするといったインフレーションになりがちだ。ビジネスとしては有利な側面もあるがバランスを誤ればそれは暴走し、ゲームそのものを崩壊させてしまう。

  石山氏はそこで“戦闘”という競争要素を排除した「ダイナスティア」を制作した。プレーヤー達は生産により保管しあう社会を形成し、アイテムを交換しながら自分のキャラクタを華やかに、かわいく飾り立てていく。上級者プレーヤーになれば、より凝った、より美しいアイテムが制作できるようになる。さらに「恩人システム」を導入した。プレーヤー達に相手にプレゼントを推奨し、もらったプレーヤーはより良い物をお返しするためにゲームを頑張ることを提案したのだ。

 結果、運営側も予想しなかった面白い状況が発生した。「お礼は“葉っぱ”でよろしくてよ」という言葉がプレーヤー達の流行語になったのである。初心者プレーヤーは上級者プレーヤーからのプレゼントに見合ったお返しはとてもできない。そこで上級者である“お姉様”は、このゲームのもっとも安価なアイテムである葉っぱでいいというのである。初心者はベテランの優しさに感動し、いつかは自分もそうなりたいと強く思う。「やさしさの連鎖」が生まれたと、石山氏は語る。

 競争という要素を減らし、よりコミュニティに重点を置いた作品を運営した石山氏は、その経験から「コミュニティの普遍の原理」の抽出を試みる。そこで指標になったのが、「ドラえもん」の作品世界をモデルにした「ドラ分類」すなわち、「ドラえもん分類」である。

 コミュニティをモラルと社交性というベクトルで分析し、社交性、モラルが共に高いプレーヤーを“しずかちゃん”、社交性があるがモラルが低いプレーヤーを“スネ夫”、反対にモラルは高く社交性が低いのは“出来杉”、そして社交性モラル共に低いプレーヤーを“ジャイアン”と定義する。一般プレーヤーは“のび太”であるが、彼は状況によって4人のキャラクタの正確を併せ持つ。

 運営側は、現在形成されているコミュニティーがドラえもんのキャラクタのどの分類に当てはまるかを考え、対応することで不思議とうまくいくという。「答えは、『ドラえもん』の中にあります。原作者の藤子先生は結末まで書いてくれている。運営側は自らをドラえもんとして、コミュニティーの要望に対応する。スネ夫がひみつ道具を持ったとき、どんな失敗をしてしまうかなど、漫画を参考にして考えてみることは非常に有効だ」と石山氏は主張する。

 石山氏はまた、MMORPGが生むバーチャルな社会は、人類が始めて経験するユニークな世界だと語る。その世界では運営側が神に等しい権限を持っている。ユーザーの要求が過剰に感じられるのは、それは人である我々には大きな“無理”を生じさせる。

 ドラえもんであり、神であることを求められる運営側が気をつけるのは、その“無理”に近い仕事をできるだけ理想的に成し遂げるために、近代の社会構造をモデルにして、企画者、運営者、サポートの三権をきちんと確立させることが必要不可欠だ。自ずとそれぞれの求められる能力、求められる性質は変わってくるという。

 講演の最後に、石山氏は「荒れることのないコミュニティ」を目指すためには、社会学のアプローチが必要であり、そのために“バーチャル社会学”を提唱し、「MMOコミュニティ研究所」を設立しようとしていることを告知した。現在、研究員を募集しているという。

MMORPGの人口分布図のピラミッド。実際は点線のような極端なものになりがちである 運営には役割に応じてそれぞれ違った素質が求められる 「MMOコミュニティ研究所」は今後、役割はますます大きくなるだろう

□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bba.or.jp/
□「AOGC 2005」のページ
http://www.bba.or.jp/AOGC2006/
□シークレットガーデンのページ
http://www.s-garden.com/

(2006年2月11日)

[Reported by 勝田哲也]



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