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会場:アビッドテクノロジー デモルーム
■ 北米ゲーム市場におけるModの立ち位置と日本での活用法
主催はアビッドテクノロジーとなっているが、実際に主導しているのは、今回はデジタルエンターテインメントアカデミー(DEA)の非常勤講師として参加したIGDA日本支部代表の新清士氏と、IGDA日本支部のメンバーであり、東京大学大学院学際情報学府の博士課程で東京大学ゲーム研究プロジェクトに携わる星野瑠美子氏の2人。 新氏は、CEDEC等のカンファレンスで欧米市場をテーマにした論客として、すでに著名な存在だが、星野氏もインタラクティブエンターテインメント分野の専門家の卵として、新氏に負けず劣らず、豊富な取材経験と実地体験に裏付けされた圧倒的ともいえる学識を有している。星野氏は、今年、博士課程の一環としてアビッドテクノロジーへのインターンを経験し、その課程でXSI Modをはじめとした豊富なModツールと関わりを持ち、今回その集大成としてセミナーの口火を切った。 星野氏の講演は、「Modとは何か?」から始まり、現在もっとも開発環境が整っている「Half-life 2」のMod環境の紹介、そして「Half-life 2」のMod開発ツールであるSource SDKの教育への応用の提案の3項目で構成されていた。 ModとはModificationの略であり、厳密には特定のゲームを一部でもモディファイすれば、それはModと呼びうる。当然、公認のものもあれば、非公認のものもあり、その歴史を振り返れば、「Half-life: Counter-Strike」のような輝かしい伝説もあれば、裁判ざたにまで発展するようなどうしようもないエログロの世界もある。いずれにしても、北米ではそうした百鬼夜行的な世界も含め、数百万とも言われる特大のModコミュニティが形成されており、ゲームビジネスに多大な影響を及ぼしている。 星野氏は、Modの利点について、商品価値およびコンテンツ寿命の向上、ファンコミュニティの形成への期待、実践的なゲーム教育環境、次世代テクノロジーの先取り等を挙げたが、実際にModツールをリリースしているメーカーが第1位に掲げるのは、Modコミュニティからの人材の獲得であり、Modが一種の撒き餌として機能している現実がある。ただ、日本ではもともとMod文化がほとんど存在しないため、それはまったく期待できず、日本のゲームメーカーからModがリリースされる可能性も限りなくゼロに近い。 新氏は、Modビジネスにおける人材獲得のシステムを、日本の漫画市場における同人ビジネスに置き換えて、このエコシステムが漫画・アニメの広がりを支えていると指摘する。一方、日本のゲーム市場は、Modという緩衝材が存在しないことからユーザーと開発者の断絶が広がっていると分析。メーカーが動かない、というよりもともと文化として存在しない以上、それならば教育現場からのボトムアップを狙っていこう、というのが新氏の基本戦略である。 星野氏は、実際に「Half-life 2」のMod開発ツール「Source SDK」に包含されるマップエディタやモデルビューワー、FacePoser(リップシンク等のエディットを行なうツール)といったツールを起動し、それぞれのサンプルデモを見せながら「Source SDK」のポテンシャルの高さを紹介。続いて、自身翻訳に携わっているSDKドキュメントの日本語化も進んでいることを取り上げ、「Source SDK」の活用環境が日本でも着実に整ってきている事情を紹介した。
最後に星野氏は、Modの教育利用例のサンプルをいくつか見せてくれた。ベースはSourceエンジンだけに、正直に言って、既視感の強いコンテンツだったが、確かに1年、半年の教育課程で、これだけ形になるものが作れるとなれば、導入に興味を持つ学校や、学生も多いだろう。いくつか懸念事項はあるが、教育現場にModを導入するのは、比較的即効性の高いアプローチといえそうである。
■ 教育現場での有効活用にはゲームへの理解が前提
DEAは、「エニックスゲームスクール」を前身とするゲーム業界の人材育成を目的としたゲームスクール。学校法人ではなく、ゲームメーカー22社が協同出資し、株式会社学校として運営されている。そのため文部科学省が指定するカリキュラムの規制を受けない。よって学校法人に導入する際の直接の参考にはならないのだが、なんといっても国内初のモデルケースであるだけに、興味深くメモを取る姿が見られたのが印象的だった。 さて、新氏は、2004年度に初めてModを講義に取り入れた事情から振り返り、単にModを講義してもユーザーの立場から抜け出せないこと、ワークショップ(実技)の必要性、ドキュメント不足、英語の壁といった課題を挙げた。これをふまえ、2005年度には「Half-life 2」のModツール「Source SDK」を使った実技教育を取り入れたという。 新氏の実感によれば、既存教育の一番のネックは、開発からアウトプットにたどり着くまでのプロセスが長すぎて、学生が到達する前に諦めてしまうことだという。「Source SDK」を導入すれば、大前提として「Half-life 2」、「Counter-Strike: Source」といったハイクオリティな完成品にいつでもアクセスできるだけでなく、かつ「Source SDK」を利用してそれら完成品のパーツをサンプルとして利用でき、クリックひとつでモディファイし、瞬時に結果を確認することができる。新氏は「Source SDK」の導入効果は「絶大」だと強調する。 その一方で、新氏はカリキュラム半ばにして新しい問題点を報告した。マシンスペック不足、提出物の受け渡し方法、時間不足といった点はともかくとして、ゲームそのものの理解不足による教育効果の半減が挙げられたのは意外だった。新氏は解決策として、現在、全国展開中のナムコのLEDZONEとの早期連携を挙げたが、これは日米のゲーム文化の違いに宿す問題で、解決はそう簡単にはいかないだろう。 また、今後の懸念事項として、Mod制作に対する企業側の評価と、次世代機のゲーム開発に備え、現在日本企業のいくつかが採用しつつあるという「Unreal Engine 3」によって生まれる環境変化の2点を挙げたが、いずれも結果を急きすぎているという印象が強い。いずれにしても、欧米のModコミュニティからの人材獲得のような形にはなりえないし、教材を「Source SDK」1本に絞るのはデメリットの方が大きい。現状では、学生の型が固まらない程度の活用に留めるのがいいのではないだろうか。
新氏は今後も教育現場でのMod利用を推進していく考えだという。来年のアジアオンラインゲームカンファレンスでは、最新動向をレポートする方針だという。新氏の構想では、欧米のようなModコミュニティの育成も視野に入れているという。今後の進展を注意深く見守りたいところだ。 (2005年10月14日) [Reported by 中村聖司]
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