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「大航海時代Onlineにおける3Dクライアント開発 -PCスペックへの挑戦-」
コーエーと松原氏が“発掘”しようとする、潜在ユーザーとは?

8月29日~31日開催

会場:明治学院大学 白金キャンパス

 「CESA DEVELOPERS CONFERENCE(CEDEC) 2005」2日目には、コーエーの執行役員、松原健二氏によるセッション「大航海時代Onlineにおける3Dクライアント開発 -PCスペックへの挑戦-」が行なわれた。「大航海時代Online」はフル3DのMMORPGでありながら、低スペックのPCでも快適にプレイできることをセールスポイントとしている。このアプローチは、ハイスペックのPCユーザーが体験できるグラフィックスをアピールする「Ever Quest II」とまったく逆である。

 コーエーは伝統的に低スペックユーザーも楽しめるPCゲームを発売する社風がある。しかし、低スペック対応を意識した場合、最新グラフィックスで描写されるゲームに比べて見劣りがする印象をユーザーに与えかねない。「大航海時代Online」はどういった表現でユーザーにアピールするのか、そしてコーエー、そして松原氏の戦略はどういったものなのだろうか?

コーエーの執行役員松原健二氏
ソフトウェア事業部ソフトウェア5部のマネージャー門脇宏氏
「大航海時代Online」の基本的なグラフィックスは、少し古い環境でもほぼすべての要素を表現できるように設計されている
ハイスペックのPCユーザーはさらに美麗なグラフィックスが楽しめる。特に海面の表現は、スタッフがこだわったところだという
信じられないくらい古いグラフィックボードや、ゲームをやることなど考えられないような高価なシステムで、「動かない」と連絡をしてくるユーザーがいるという。門脇氏の「困ってしまった話」に、会場ではちょっとした笑いも漏れたが、相談してくるユーザーは真剣だ。PCゲームはそれだけ様々な環境のユーザーがいるのである
 セッションでは松原氏と共にコーエーソフトウェア事業部ソフトウェア5部のマネージャー門脇宏氏が登壇。松原氏がテーマに関する全体の概要を語り、門脇氏が技術的な説明や、サービスを開始してからの実際に起きた問題などを語った。

 松原氏によると「大航海時代Online」は、2002年より開発が開始されたという。この時、目標として掲げられたのは、フル3Dのクライアントとして制作すること、その際に“高性能のPC環境を必要としない”ということだった。国内でのオンラインゲームの普及、さらにアジアでの展開を開発当初から視野に入れて、ハイエンドのPC環境を要求するようなクライアントではなく、バリュークラスとしてのPCでも動くことを目指したのである。

 制作チームは、発売を予定する2004年のPC動作環境を予測、そしてIntel 855/866といった統合型チップセットを視野に入れ、2004年度のノートPCや、バリューPCまでも対象にしたクライアント制作を目指した。結果として、必須環境はCPUが800MHz、メモリが256MB、VRAM32MB以上まで下げることができた。これは一見「リネージュII」や「ファイナルファンタジーXI」でアナウンスされている必須環境と変わらないように見えるが、「大航海時代Online」の必須環境は、推奨環境を兼ねている。松原氏は「必須環境でのパフォーマンスにはこだわった、この環境で本当に快適に動作するゲームを実現させた」と語る。

 「大航海時代Online」は、必要環境以上の性能を持つPCの場合、クライアントがハードウェアを認識し、マシンスペックによってクライアントごとのデフォルト設定を動的に指定している。さらにユーザーがオプションを選択することで、より美麗な表現ができるように設計されている。バリューPCからハイエンドまでに対応した多様性のあるクライアントを制作できた。

 このクライアントの制作のためには、NVIDIAやIntel、さらに国内のノートPCメーカーの協力が必要不可欠だったという。「信長の野望Online」のベンチマークテストプログラムを公開した際、各メーカーから「出す前に、こちらに相談して欲しかった」という連絡がコーエーに寄せられたという。この経験から各メーカーとの情報交換を積極的に行ない、時には開発中の機材を使っての動作確認もできたことで、幅広いハードウェアを対象にしたクライアントを制作できたのである。

 続いてマイクを取った門脇氏は、「より多様性のあるクライアントの制作を」と掲げられたテーマに、いかに制作チームが取り組んだかを説明。制作チームはターゲットの下限のスペックを855/866やGeforceMXといったハードウェアにして、ミドルクラスをGeforce4Ti、ハイスペックをそれ以上とし、「ターゲットスペック」を3つにわけて設定した。

 この設定のキーワードとなったのが、「頂点シェーダー(頂点に関する演算処理をし、ライティング演算、テクスチャ座標の算出などを行なう)」という技術。まずはこれをサポートしていないシステムを前提にすべての環境で動作するシステムを作成し、そこからハイエンド向けとして最新技術であった頂点シェーダー2.0をサポートした高レベル用表現をつくり、そしてミドルレンジである頂点シェーダー1.1向けに表現を調整、各段階にフィードバックをして最適化を施すという処理を行なった。

 実際の目に見える違いとしては、「海面」の表現が上げられる。ハイスペックマシンならば波頭、波によって再現されるあぶくなどに大きな違いがでる。波形は頂点シェーダーによる計算で再現され、それをサポートしていないハードの場合、ソフトウェアの計算で処理を行なった。また、テクスチャもほぼすべてに圧縮したものと、非圧縮のものが用意され、ハードと解像度にあわせて表現されることとなった。

 制作チームはそういった多彩な表現を実現させると共に、できるだけ低スペックでも美しい表現ができるように様々な試みを行なった。街の表現には、建物の影は計算で表現せずにテクスチャで描画し、シェーダー以外にも描画コードを多数用意したり、地形をフラクタルに表現することでリソースを減らしたり、テクスチャを工夫するなど、ソフトウェア技術でのアプローチも多数取り入れられ、ハードウェアに頼らない表現を実現している。

 また、ソフトウェアでの表現を試みながら、高速化のアプローチにも挑戦している。命令を最適化する場合には、ひとつのやり方ではなく、時間が許せば異なる方向からのプログラムも作り、競わせるといったこともなされた。門脇氏はこのセッションで「奇蹟のようなプログコードは存在しません。とにかくひとつひとつ最適化のために努力することです」という言葉を繰り返していた。

 門脇氏はさらに、実際にサービスを開始してからユーザーの多様な環境に対応するのにかなり苦労したというエピソードを披露した。買ってきたままでソフトウェアのアップデートをしないPCを家電感覚でとらえているライトユーザーや、アップデートをブロックしてしまうメーカー製ハード、ワークステーション用の非常に高価なグラフィック環境でゲームをプレイしようとして、そのテスト用に同じ環境を実現するために、コーエー社内で相談したことなどを語った。コーエーでは現状の多くのユーザーが使っている環境から、相当に古い環境まで非常に多くの動作テストを綿密に繰り返しているが、それ以上にユーザーの環境は多様だという。

 また、開発で得た経験として古い環境のSDK(ソフトウェアを開発する際に必要なツールのセット)もきちんと検証用、さらに若手の教育用に残しておくことや、ダウンロードを前提にデータを小さく心がけること、オンラインゲームでよく言われている「描画システムなどの基幹システムをサービス中に新しくすること」は、実際にはテストを含めてコストやユーザーのハードウェアへの対応といったリスクが高すぎるため、実現は難しいといった、実際の開発者に向けたアドバイスをした。

 続く質疑応答では、「大航海時代Online」に登場する街では現状昼夜による表現ができていないが、描画で影を表現している以上、昼夜でのグラフィックスの変化は難しいのではないか? という質問が出た。これは門脇氏の答えた「描画システムなどの基幹システムをサービス中に新しくすること」につながる問題だ。会場では門脇氏は難しいと答えたが、技術者として、またユーザーからの要望に応えるためにも、方法を検討しているという。

 最後に門脇氏は、「PCの普及率はここ10年で非常にのびたが、PCゲームを使用する人の率は頭打ちになっている。潜在的なターゲットは確実に存在している。今回私達がとった、バリューPCをでも快適に動き、美しい表現が可能にできるようにするというアプローチは、開発でも重要になっていくと思う」と言葉を結んだ。

 「統合型チップセットは動作保証の対象外です」という文面は、PCゲームのパッケージでよく見る。3D描画能力の低いハードを「ゲームがプレイできない環境」として“切り捨てる”とも言うべき姿勢を見せるゲームは特に欧米で顕著である。コーエーは本作で、まったく逆の戦略を取り、多くのユーザーの獲得を狙っている。この挑戦はユニークであり、ハイエンドなゲームを求める傾向がある筆者には、驚かされる意見だった。

 「大航海時代Online」が戦いのみではなく、「冒険」をテーマにより広い層へアピールしたいと松原氏は何度か講演で語っていたが、その思想がこのスペックへのアプローチからも見てとれる。門脇氏が現場の人間として、何年も前のPCのユーザーから「ゲームが動かない」という話を聞いて、検証をしているという話も驚きだった。「PCゲームユーザーがもっと増えるためにはハイエンドPCの普及を」と、少なからず信じ込んでいた筆者より、より現実的で、常識的な判断である。また、個々まで丹念に動作テストを行っているメーカーは例がないのではないか、とも思った。

 この幅広い検証はアジアやヨーロッパなどでの展開を視野に入れたものだ。題材的にも、普遍的なテーマを持った作品だと思う。特にシンガポールや、インドネシアといった世界各国の船が集うような土地では、より受け入れられるのではないだろうか。また、大航海というテーマは、ひょっとしたら現在のMMORPGユーザーより、より広い、中高年の人にも受け入れてもらえるテーマであるだろう。「孫と船に乗ってインドまで行ったよ」というようなおじいちゃんが出てくるかもしれない。

低解像度のテクスチャもサポート。拡大画像でなければ体感的な違いはあまりない 街では影を計算ではなく、テクスチャで表現。 海もまたハードウエアに依存しない方法を模索している。ビデオカードによっては、ソフトウェア処理の方が美しい場合もあるとのこと
必ずしもイコールではないが、ライトユーザーにはPCのトラブルを解決できない場合が多い 上の例ほど極端ではないが、インターネットのみを楽しんでいるユーザーは、ゲームが楽しめない古いスペックの場合もある メーカー製品の場合、ドライバーのトラブルが多い
門脇氏の実際の経験から生まれた鉄則。受講者である開発者達が頷いていたのが印象的だった

□コンピュータエンタテインメント協会(CESA)のホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「CEDEC 2005」のページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□「CEDEC 2005 Developers Night」のページ
http://cedec.cesa.or.jp/headline/0801.html
□関連情報
【8月1日】CESA、「CEDEC 2005」の受講者も参加できる懇親会
「CEDEC 2005 Developers Night」を実施
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050801/cedec.htm
【8月1日】CESA、「CEDEC 2005」の受講者も参加できる懇親会
「CEDEC 2005 Developers Night」を実施
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050801/cedec.htm
【6月30日】CESA、「CEDEC2005」を8月29日より開幕
過去最大の昨年をさらに上回る規模での開催
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050630/cedec.htm

(2005年8月30日)

[Reported by 勝田哲也]



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