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トーナメントが行なわれた種目はCPLワールドツアーの正式種目の「ペインキラー」とこのアメリカストップ独自の種目「カウンターストライク:ソース」、「カウンターストライク1.6」、「ワークラフト3」、「デイオブディフィート」、「HALO2」の合計6種目。 開場日の7月6日、受付カウンターの前に想像以上の人々がPCとCRTモニタを抱えて長蛇の列を成していた。入場チケットを事前に購入したのは60カ国以上から7,300人と公式に発表されていたのである程度予想はしていたが、この人数の熱狂的なゲーマーを目の辺りにすると興奮を抑えられなくなってくる。メキシコから16時間かけて車で運んできたゲーマー、カナダからバスで15時間揺られて運んできたゲーマー、アジアやヨーロッパ各地から飛行機で運んできたゲーマー達。まさに世界中のゲーマーたちが入場を待ちきれない様子でPCを抱えて並んでいた。
受付カウンターで身分証明書を提示し入場パスとPCの登録を済ませるとようやく会場の中に入れる。私のPCにも登録ステッカーが貼られ入場できるようになった。余談だがホテルの部屋のカードキーも「CPLワールドツアー」のロゴがプリントされて宿泊者にはうれしいサービスになっている。
■ 日本からの挑戦するプロゲーマーたち。4dN.psyminとSIGUMA さて、今回のアメリカストップには前回お伝えした日本予選で優勝した「カウンターストライク1.6」に出場するチーム4dN.psyminともう一人今年の頭に株式会社ASKと契約を結んだ日本初のプロゲーマーSIGUMA(寺部鉄平)選手が参戦した。 SIGUMA選手の種目は「ペインキラー」だ。SIGUMA選手はASKからのバックアップを受け、イギリスに移り住んでヨーロッパの選手たちと練習を重ねながら、今年開催されたすべてのワールドツアーに参加している。今年すでにスペイン、ブラジル、スウェーデンを回ってきており今回のアメリカで5回目の参加になる。今回は日本からマネージャーにあたるASKの前田氏も会場に足を運んでおり、SIGUMA選手は初めてスポンサーの目の前で試合をすることになった。
4dN.psyminもスポンサーにあたる株式会社psyminの代表取締役社長buddha氏が同行しており、4dN.psyminのメンバーは心強いバックアップを受けながら試合に挑むことができたようだ。ではまず4dN.psyminの試合からお伝えしていこう。
「カウンターストライク1.6」の競技シーンにおいて、日本と海外では強さに格段の差があり、このCPLの様な場で入賞を目指す4dN.psyminにとっては日本国内に切磋琢磨できる状況がなく、強いチームたちと練習試合するためにはどうしても海外に行かざるをえないのだ。彼らは海外で多くの経験をつんだおかげで自分たちのランクと現状を良く理解しており、過去の大会の時のように闇雲に海外のトーナメントに挑むという時代は過ぎ去っていた。 CPL初戦はアメリカの中堅のチームDinkTanksとの試合に決まった。今までの成績からみて格下の相手だったため選手たちも100パーセントの勝利を確信して試合に挑んだ。 「カウンターストライク1.6」は、5人対5人のチーム戦の種目でチームの結束力が非常に重要になってくる。チームリーダーのKeNNy(南 慶紀)選手は試合中チーム内のコミュニケーションをストップさせないように積極的に声を出す役を担っている。各ラウンドの開始にはKeNNy選手の大きな掛け声に答えチーム全体が声を上げてチームの雰囲気を盛り上げる。 使用されたマップはCPLが競技用に開発した専用マップ「de_cpl_mill」。前半の15ラウンド中13ラウンドを4dN.psyminが取り。大きなリードで折り返し、後半も1ラウンド目こそ取られるが3ランド目から的確に取り返し5ラウンド目で16対4として圧勝で試合を終えた。日本がCPLで勝利したのは、2002年に以来、実に3年ぶりのことだ。 翌日、ダブルイルミネーショントーナメントの勝者側トーナメント2戦目は、アメリカの強豪チームのひとつGreenBerets。マップはde_inferno。4dN.psyminは比較的得意なマップである。だが試合を開始する前にPCトラブルが起き続け、試合が始まるのが2時間遅れた。選手たちもお互いにテンションが落ちないように声を掛け合いケアしていた。しかしトーナメントエリアで待ち続けた選手たちは強すぎるエアコンのおかげで手が震えるほどに冷え切っていた。チームでそろえたTシャツのユニフォームだけでは薄すぎたのかもしれない。試合がようやく開始されるが次々にラウンドを落としていってしまう。途中XrayN(島木皓平)選手の大活躍で持ち返す場面も見られたが終わってみれば7対16で敗北。席を立ってゆったりと歩きながら開始を待っていたGreenBeretsは、ひょっとすると体が冷え切っていなかったかもしれない。応援しているこちらにも様々な悔やみが残るが、選手たちはすでに次の敗者側トーナメントでの試合に気持ちをシフトさせていた。 敗者側のトーナメントに進み、対戦相手はアメリカのチームElite Pimps。ブラジルの強豪チームMade in BrazileがElite Pimpsを破って対戦相手になるだろうと予想していたのだが、なんとElite Pimpsが勝ってしまい。4dN.psyminにとっては都合の良い相手となった。選手たちは負ける相手ではないと言う。その言葉どおり16対10で勝利を収めたが後半1ラウンド目から3ランド目まで立て続けに取られ続けたときはハラハラさせられた。選手たちに余裕があるときにチーム内のコミュニケーションが薄れガタガタと調子を落としていってしまうのが、今までの私が見てきた4dN.psyminなのだ。この勝利はチームの成長を表すものとしてみて間違いないだろう。試合中のコミュニケーションを不足させることは彼らになかった。 引き続き3試合目連戦で敗者側トーナメント3回戦の対戦相手はアメリカのチームNo Such Agency。この組み合わせもとても幸運なものになった。先日のBYOCエリアでの練習試合の時に圧勝した相手なのだ。選手たちは「絶対に負けない」とまたもや強気の発言。試合結果は16対7と圧勝。私が知っているうわついた4dN.psyminはもうそこにはいなかった。とても安心して見ていられるチームに成長していた。 一夜が明けた。敗者側のトーナメント4回戦目だ。ダブルイルミネーショントーナメントは2回負けたらトーナメントから去るシステム。一度負けて敗者側を進む4dN.psyminにもう負けは許されない。選手たちは朝9時30分にはBYOCエリアに集合し、ウォーミングアップを繰り返していた。チームの中に多少退屈な空気が流れたころに、誰からともなく選手たちは「ちょっと早いけどそろそろ行こうか」と立ち上がった。キーボード、マウス等をかばんに詰めてトーナメントエリアに向かう選手たち。 今日の対戦相手はアメリカの強豪クランiDEMISE。私から見れば今の4dN.psyminとは互角かひょっとすると少し上の相手だ。だが彼らの様子をみていると不安はなくなってくる。勝ってくれるに違いないと思えてくるのだ。現地時間の午前11時ごろ試合が始まった。マップはde_cbble。日本ではあまりプレイされておらず、4dN.psyminも決して得意なマップではない。 前半立て続けに5ラウンドを落とし6ラウンド目をとりかえすもすぐに7ラウンド目をとられ、結局前半を13対2という大差で終わってしまった。後半であと3ラウンド取られたら負けだ。チームにあきらめた雰囲気が流れ始めた。後半がはじまるときのKeNNy選手の声にも勢いが消えてきた。大切な1ラウンド目を落としてしまう。こうなると2ラウンド目も取られてしまう。あと1ラウンド落とすと敗北だ。私はマスメディアである自分の立場を忘れ「あと全部とるぞ!」と大きな声を出してしまった。その声に反応し選手全員が「あと全部とるぞ!」と気合を入れ始めた。だがその直後、XrayN選手が「あと全部とるらしいよ?」と皮肉な発言をしたのを私は聞き逃さなかった。彼はもうあきらめていたのだろう。後半3ラウンド目を取り返し、その後も3ラウンド立て続けに取ったものの6ラウンド目、ついに相手にラウンドを許してしまった。敗北だ。 結局4dN.psyminは世界ベスト12位という結果で試合を終えた。この記録は日本「カウンターストライク1.6」史上最高の記録だ。賞金の750ドルも手にした。これは4dN.psyminにとっての大きなステップであるだけでなく日本のeスポーツにとっての大きなステップになるだろう。"Good Game"をありがとう。心から4dN.psyminに感謝をする。これからももっともっと強くなってほしい。
私がBYOCエリアでSIGUMA選手を見つけたとき、彼は一人イギリスの自宅から運んできたスポンサー提供の小型PCで練習をしていた。「ペインキラー」はカウンターストライクと違い1対1の個人競技。SIGUMAはたった1人で世界のストップを回ってきているのだ。彼が目標にしているのは「ベスト8に入ること」だというが、過去の4回のストップではその目標は達成できていない。 今回のアメリカストップには128人の参加者があり、本戦の32人ダブルイルミネーションにいたるまでに2回のシングルイルミネーション予選がある。いままでのストップでの成績から予選1回戦はシードになり予選2回戦からの試合になった。初戦相手はアメリカのr3(Kyle Mims)選手だ。予選一回戦でペインキラー選手の間では強豪と言われるcarnage(Daniel Sturdivant)選手を倒して上がってきた選手なので強い相手であることは間違いない。 現地時間で7月8日金曜日の朝の11時半SIGUMAの試合がはじまった。15分間試合を行なって多く敵を倒したほうが勝ちのシンプルなゲームで、その15分を1本として3本勝負を行ない、どちらかが2本先取した方が勝ちになるルールだ。 試合の方は、開始直後からSIGUMAに落ち着きがなかった。1本目は6対28で大きく負けてしまった。このころにSIGUMAのスポンサーASKの前田氏がトーナメントエリアにやってきた。深呼吸を数回して2本目がはじまる。やはり相手が上をいっているのがわかるのかSIGUMAには落ち着きがない。目が泳いで画面を見つめない瞬間があるのがわかる。マップがある程度得意なマップなのであろうか1本目ほどではないが結局11対16で負けてしまった。今回のストップでのSIGUMA選手の試合は1試合であっけなく終わってしまった。 「自分の弱さを露出してしまっただけです。今は何もいえないです。いまから次のドイツストップに向けてもっと練習します」と試合後私に話してくれたが私には何か引っかかるものが残った。 現在までのすべてのワールドツアーを回っているプレーヤーは22、3人。SIGUMA選手はその中でも最低の成績といっていいだろう。SIGUMA選手は日本にいた時と比べると格段に強くなっている、移動の確実さ、武器やアイテムの管理、特に空中に浮いている相手への命中など日本にいてはとても身につけられないであろうスキルをものにしている。確実に強くなっているのに勝てないのだ。 今年1月、SIGUMA選手はCPLワールドツアーに参加するためにスポンサーを探していた。いくつかの会社に話を持っていく中で前田氏に出会いASKの事業計画と一致したことで、CPLワールドツアー9カ国に参加する旅費と機材を全面バックアップすることが決まった。SIGUMA選手はすぐにイギリスのロンドンに移住することを選んだ、これは先ほどの4dN.psyminと同じように日本では切磋琢磨できる練習相手が見つからず個人技だけではなく戦術面でも内容の濃い練習ができないからだ。
「ペインキラー」はもともとシングルプレイゲームとして人気があったが、対戦ゲームとしてはまったく流行せず、日本国内でも対戦できるサーバーは立たなかった。そんななか、CPLが開発元のピープルキャンフライの開発という協力を得てワールドツアーの正式種目に決定すると発表した。この影響でにわかに「ペインキラー」が注目され対戦サーバーも増えたがそれでもとても少ない数だった。そんな中でヨーロッパにはPKeuroと言う名前のファンサイトを中心にコミュニティが結束し、CPLワールドツアーに参加したいプレーヤー達が集まり始めた。ヨーロッパにトレーニングの拠点を置いたのは悪い選択ではない。 ロンドンにかばんひとつで移住したSIGUMA選手は、部屋をシェアできる人を探して家を借り高速なネットワーク回線を引いた。英語も少ないボキャブラリの中でようやく何とか生活していくすべを身に着けたという。 だが、このような生活のあれこれに貴重な時間と体力を使いすぎた。またCPLワールドツアーは毎月開催なので、ひと月のうち1週間はCPLワールドツアーの参加に費やし、帰国し、次のワールドツアーの飛行機を取ったり、ホテルをとったり、飛行場から会場までの行き方を調べたり、ビザをとったりと細々したことでどんどん時間は費やされていく。 練習をしようと思うがやはり全世界的に練習になる相手が見つかるわけでもない。オンラインでも日本よりか幾らかましな程度で、練習になる相手を探しているだけで3時間、4時間と時間が経過してしまうらしい。ロンドンに移り住めばもっとオフラインで対戦相手がみつかって、オンラインでももっと練習相手が見つかると思っていたという。 まず彼が今まで勝てなかった原因のひとつに事前のリサーチが足りなかったことが挙げられる。短期間で「1つのストップで8位以内に入賞する」というゴールにたどり着くにはロンドンに移り住んでオンラインで少ない練習をしただけでは足りなかったのだ。 もうひとつの原因は彼自身の経験の少なさだと思う。彼が蹴落とさなくてはいけない他のプレーヤー達の名前を少しあげると、Fatal1ty選手、VoO選手、ZYZ選手、Wonbat選手、ForresT選手、Zaccubus選手、Zen選手、daler選手。このワールドツアーが始まる以前から何らかのFPSのトーナメントで何年も世界のトップレベルで活躍してきた選手の名前がずらりと並ぶ。これらの選手はいままでのFPSの経験を十分に「ペインキラー」に生かしている。 ところがSIGUMA選手には彼らほどの経験がない。SIGUMA選手は現在24才と選手の中では年長のほうだが、敗因は年齢のせいではない。住んでいた日本に彼のような才能を十分に伸ばせる環境が身近になかったのだ。彼は現在この経験の壁をひしひしと感じていると思う。この経験の差をつめるのは容易なことではない。FPSとはそういう奥が深い競技なのだ。残念だが私から見てSIGUMA選手は天才ではない。だからこそ、何らかの対策を今打たなくてはならない。
私が「鉄拳」の大会に出場していた頃は、とにかく自分より強いやつと仲良くなってがむしゃらに対戦をしまくっていた。強い選手が持つ経験は結果的にプレイの細かなスキルに出てくる、それを徹底的に盗むのだ。またもしワールドツアーに参戦している上位選手と仲良くなれて様々なことが盗めたら、ちょっと酷な話かもしれないがその選手の弱点をついて蹴落とすこともできる。読者のみんなも大きな声で彼を応援してあげて欲しい。君の最高の経験が日本の経験にもなる。がんばれプロゲーマーSIGUMA。
■ 母国アメリカでFatal1ty選手がワールドツアー初優勝
スポンサーIntelブースのメインステージで、1,000人くらいの観客が見守る中で決勝戦が開始された。アメリカのFatal1ty選手とオランダのVoO選手。やはり地元のFatal1ty選手の応援が圧倒的に多い。Fatal1ty選手がフラグを取るごとに大きな歓声が上がる。一方思ったように試合が進まないことにイライラするのか歯を食いしばり続けるVoO選手。結果は1本目2本目と立て続けにFatal1ty選手が取り優勝を決めた。ワールドツアーでなかなか優勝が取れなかったアメリカのヒーローは母国のファンの前でこのうえない笑顔を披露することができた。 「カウンターストライク1.6」の決勝戦はスウェーデンのプロゲーミングチームSK Gaming対名選手shaGuar選手が加わったカナダ最強のチームEG。敗者側トーナメントから上がってきたチームEGが1勝しプレイオフへ。だがチームEGの粘りもオリジナルメンバーが復帰したチームSKに崩されていってしまう。結果は優勝SK Gaming、準優勝Team EGで終わった。 CPLは来年のワールドツアーの種目から「ペインキラー」を外し、別の1対1のFPSを採用し、もう1つチーム戦の種目を採用すると発表した。さらにストップの数を今年の半分に減らし1つ1つのストップの充実を図ることも発表した。 種目をどんどん変えていくことで選手達が振り回されるのが問題だが、観客がそれについていくことはもっと困難であろう。しかしCPLを運営する側もそんなことは十分承知しているはずだ。表彰式前にCPL社長のエンジェル・ムニョズが壇上でこう言った「我々はゲームの世界の革命を目の辺りにしている」。私も同感だ。このゲームの世界のeスポーツという革命は思ったよりも早く進行している。この革命についていくのは大変だがこれ以上エキサイティングな革命はなかなか体験できるものではない。
日本のそこの貴方、いつまでもテレビの前でアグラかいてコントローラーを握っていないで、机と椅子に座ってキーボードとマウスを持ってこの革命に参加してはどうか。みんなが思ってるゲーム大国日本はもう世の中にはない、ここまで読んでもらえばわかるとおり日本人はゲームが弱いのだ。みんなでやれば沢山の経験を稼げるし、ひょっとすると貴方がFPSの天才なのかもしれない。がんばれ日本ではない。がんばろう日本だ。
□CPLのホームページ (2005年7月19日) [Reported by 犬飼“POLYGON”博士@GoodPlayer.jp]
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